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Take3:謎の組織の手に堕ちて…
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信州の山中の悪路を疾走するピックアップトラック。
そのステアリングを握るのは伊集院雅子だ。
自動車会社重役を父に持つ彼女は根っからの車好きで、数時間のドライブはまるで苦にしない。
肩までかかる黒髪をホップし、芸能人らしく黒いサングラスをかけ、簡単な変装を試みた彼女。
だが、その通った鼻筋や品のある顔立ちは一般人でないことを隠しきれない。
が、雅子がいかにその美貌を輝かそうと、この人家どころか対向車すら姿を見せない、山中。
しかも、国道と名ばかりの酷道では、ソレが世の男性を惑わす美女と気づく者すら皆無である。
「それにしても、こんな山奥に例の社長が、潜伏しているって本当なの?」
「ああ、確かな情報だよ」
恭平が仕入れた情報、それは信州の秘境めいた洋館に、件の人物が身を隠している、という特ダネだ。
狡猾そうで抜け目のない小男ではあるが、反骨精神が旺盛で恭平は何度となく彼を頼り、与党幹部と陣川会系ヤクザの密会現場をスクープしたこともあった。
馴染みの情報屋の宗さんから、ドリー社長の潜伏先を知らされた時は心躍ると同時に、報道に携わるものとしての義務感に駆られたのだ。
「ドライブは大好きですから、どこまでもお供しますけど」
雅子は柔和に微笑む。サングラスの下で切れ長の瞳が優しく形を変える様が愛おしかった。
「これ、君の車かい?」
米国輸出仕様のオフロードカーは、砂利や倒木をものともせず前進する。
「うふふ、実はお爺さまの車よ。大事な人とのデートで山に行くと言ったら貸してくれたわ」
雅子は運転が心底楽しそうだ。
「大事な孫娘がオフロード・レースに出るって話を、よく承知してくれたな」
「どんなレースより、スリルがある展開になりそうだけど」
雅子は前を向いたままサングラスを外すと表情を引き締め、サイドミラーにちらと映る奇怪な追跡者の存在を、視線で恭平に促した。
「あれは?」
背後に迫る不気味な影。それは自衛隊が所有する装甲車だった。
迷彩色のいわば戦闘車はずんずんとオフロードカーとの距離を縮めてくる。
「追われているわッ…私たち!!」
雅子はぐんとアクセルを踏む。スピードだけならば、オフロードカーの馬力が勝るだろう。
だが、装甲車の天窓から現れた人影は、50口径のライフルの照準を前方に向けている。
タシュッ、タシュン!
恭平と雅子が空気を切り裂く音を聞いた次の瞬間、オフロードカーはその右側のタイヤが大きくバーストした。
「きゃあッ」
雅子は悲鳴を上げつつ、ステアリングを何とか操作しようと試みる。
が、再び空気を切り裂く鋭い音とともに、左の後輪も弾丸の餌食となる。
バランスを失ったオフロードカーは、道路右側の寂びたガードレールに接触し、その衝撃で反対側の雑木林に突っ込んだ。
崖からの転落は免れたものの、恭平と雅子の危機はここからが本番だった。
「うぅ、だ、大丈夫、恭平クン?」
「君の方は…」
「ええ、…。ああ、恭平クン…」
サングラスが吹っ飛び、美しい素顔を恐怖に強張らせた雅子が、切れ長の瞳を大きく見開く。
車の両脇を取り囲む屈強の男たちが4人。
いずれも異様なまでの威圧感と殺気を放っている。
どうやら堅気ではなさそうだ。
と、いうよりも反社会勢力、いやその手のプロにも見える。
「どうやら、俺たちの追跡取材がバレていたようだな」
ドリーム問題に首を突っ込んだジャーナリストは、これまでも多数存在した。
が、いずれも、不審死や行方をくらます等、その追及の芽を絶たれている。
そこには触れてはならぬ闇の権力者の放った裏社会の者たちによる介入があったのではないか。
今、まさに恭平はその真相の局面に立たされ、身を凍らせるしかなかった。
(虎の尾を踏んだ…。そういう事か…)
恭平は恐怖に慄き、すがりつくように身を寄せてくる雅子の美しい横顔を見つめながら、心の中で呟いた――――。
そのステアリングを握るのは伊集院雅子だ。
自動車会社重役を父に持つ彼女は根っからの車好きで、数時間のドライブはまるで苦にしない。
肩までかかる黒髪をホップし、芸能人らしく黒いサングラスをかけ、簡単な変装を試みた彼女。
だが、その通った鼻筋や品のある顔立ちは一般人でないことを隠しきれない。
が、雅子がいかにその美貌を輝かそうと、この人家どころか対向車すら姿を見せない、山中。
しかも、国道と名ばかりの酷道では、ソレが世の男性を惑わす美女と気づく者すら皆無である。
「それにしても、こんな山奥に例の社長が、潜伏しているって本当なの?」
「ああ、確かな情報だよ」
恭平が仕入れた情報、それは信州の秘境めいた洋館に、件の人物が身を隠している、という特ダネだ。
狡猾そうで抜け目のない小男ではあるが、反骨精神が旺盛で恭平は何度となく彼を頼り、与党幹部と陣川会系ヤクザの密会現場をスクープしたこともあった。
馴染みの情報屋の宗さんから、ドリー社長の潜伏先を知らされた時は心躍ると同時に、報道に携わるものとしての義務感に駆られたのだ。
「ドライブは大好きですから、どこまでもお供しますけど」
雅子は柔和に微笑む。サングラスの下で切れ長の瞳が優しく形を変える様が愛おしかった。
「これ、君の車かい?」
米国輸出仕様のオフロードカーは、砂利や倒木をものともせず前進する。
「うふふ、実はお爺さまの車よ。大事な人とのデートで山に行くと言ったら貸してくれたわ」
雅子は運転が心底楽しそうだ。
「大事な孫娘がオフロード・レースに出るって話を、よく承知してくれたな」
「どんなレースより、スリルがある展開になりそうだけど」
雅子は前を向いたままサングラスを外すと表情を引き締め、サイドミラーにちらと映る奇怪な追跡者の存在を、視線で恭平に促した。
「あれは?」
背後に迫る不気味な影。それは自衛隊が所有する装甲車だった。
迷彩色のいわば戦闘車はずんずんとオフロードカーとの距離を縮めてくる。
「追われているわッ…私たち!!」
雅子はぐんとアクセルを踏む。スピードだけならば、オフロードカーの馬力が勝るだろう。
だが、装甲車の天窓から現れた人影は、50口径のライフルの照準を前方に向けている。
タシュッ、タシュン!
恭平と雅子が空気を切り裂く音を聞いた次の瞬間、オフロードカーはその右側のタイヤが大きくバーストした。
「きゃあッ」
雅子は悲鳴を上げつつ、ステアリングを何とか操作しようと試みる。
が、再び空気を切り裂く鋭い音とともに、左の後輪も弾丸の餌食となる。
バランスを失ったオフロードカーは、道路右側の寂びたガードレールに接触し、その衝撃で反対側の雑木林に突っ込んだ。
崖からの転落は免れたものの、恭平と雅子の危機はここからが本番だった。
「うぅ、だ、大丈夫、恭平クン?」
「君の方は…」
「ええ、…。ああ、恭平クン…」
サングラスが吹っ飛び、美しい素顔を恐怖に強張らせた雅子が、切れ長の瞳を大きく見開く。
車の両脇を取り囲む屈強の男たちが4人。
いずれも異様なまでの威圧感と殺気を放っている。
どうやら堅気ではなさそうだ。
と、いうよりも反社会勢力、いやその手のプロにも見える。
「どうやら、俺たちの追跡取材がバレていたようだな」
ドリーム問題に首を突っ込んだジャーナリストは、これまでも多数存在した。
が、いずれも、不審死や行方をくらます等、その追及の芽を絶たれている。
そこには触れてはならぬ闇の権力者の放った裏社会の者たちによる介入があったのではないか。
今、まさに恭平はその真相の局面に立たされ、身を凍らせるしかなかった。
(虎の尾を踏んだ…。そういう事か…)
恭平は恐怖に慄き、すがりつくように身を寄せてくる雅子の美しい横顔を見つめながら、心の中で呟いた――――。
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