9 / 19
Take9:街の暗部
しおりを挟む
「ねえ、恭平クンはどこをどう取材するつもりなの?」
二人きりということもあって、妙に親密な口調だ。
「ああ、俺は解体業者を当たってみるつもりだ」
「運送業者?」
雅子は端麗な美貌を傾げる。
「うん、在留資格を持たないハラム人は皆、ブラックな仕事を請け負っている。解体業やごみ収集、産廃処理業者なんかだ」
そう言いつつ、恭平は日本の負の部分を背負い込んで労働に従事している異国人に思いを馳せる。
(彼らとの共存を図る道を探らねばならないのだが…)
そう思いつつも、根っからの報道記者は、この日は我が国と異国に横たわる私怨や情念を超えた部分にスポットを当てていた。
「彼らを疎ましく思う日本人がいる一方、それを報道できない事実…。そこにはある不都合な事実があるのではないかと思う」
恭平は言葉を濁しつつも、ここ数日の間“情報源”から取得した極秘のスクープの裏取りを考えている。
「いわゆる上級国民の、かしら?」
雅子は可愛らしげに、かつ悪戯っぽい表情で突っ込んできた。
「お、いい勘をしているねえ」
上級国民とは、すなわち社会的地位が高く、国民に知られぬ特権をもつ者たちという、いわば都市伝説的な隠語を指している。
が、恭平と雅子たち、いわば鷹見門下生の間では、政府の要人のみを指していた。
為政者が己の都合で、世を操る、それが常と考えている恭平の発想だ。
「運送業者を辞めたハラム人から聞き出した情報なんだが…ある物を運んだというんだ」
「あるモノって?」
雅子は澄んだ声で、瞳を向ける。
その美しさに気圧されつつも、恭平は続ける。
「薬物さ」
「もしかして麻薬…覚醒剤ってこと?」
そういった世界と無縁と思われる雅子らしい、幼い尋ね方だ。
「いや違う。実際その薬物を運んでいる現場にマトリの立入調査が入ったんだ。結果、明らかな合法だと…」
「え、じゃあ、何が問題なの?」
「運ばれているものは、ファンタジーと呼ばれる鎮痛剤だ。医療現場でも頒布されている」
「…ふぅん?」
雅子は要領を得ない表情だ。
「が、実態は、その鎮痛剤の成分の一部、エシックスなる粉薬だけを大量に輸入しているという話だ。その原産国がハラム人の母国の一つ、ハマリア国だ」
恭平も、実のところ、情報屋の“宗さん”なる関東界隈の裏社会事情通の男の受け売りで語っており、確証めいたものはまだ何もつかんでいない。
それでも、センセーショナルだが、耳を塞ぎたくなるような情報を続けて雅子に話す。
「が、その薬は非経口的に摂取されると、覚醒剤をはるかに超える快感を人間に与えるという…」
「非経口的って…」
育ちの良い雅子も少々バツが悪そうに言葉を濁す。
「人格破壊の要素もあり、洗脳にも用いられるという…」
「そんなことって、できるのかしら…」
「わからんがね、その薬物の運搬日なのかは定かではないが、情報屋の話だと秘密裏の運搬日は決まっているらしくて、一週間後…次の金曜だという噂だ」
無鉄砲な恭平が、場合によっては突撃を仕掛けるつもりらしいことは雅子にも察しがつく。
「さぁ、ここからは育ちの良いお嬢さんの出る幕じゃあないぞ。さて…君はどうする?別行動をとるって言っていたよな」
「ええ、わたくし、こう見えても大江戸TVのナンバーワンキャスターでしてよ」
雅子は、わざとらしい高飛車な物言いで、ツンと澄まし貌を作ってみせる。
「いつまでもお嬢さんじゃないの。独自の取材ルートもパイプも、ちゃあんと持っていてよ、うふふふ」
愛くるしい微笑に見つめられ、このまま別れるのが少々心残りになった恭平だ。
「とにかく気をつけろよ、雅子。君は相当なお転婆さんだが、所詮は女の子だって言う事を忘れるな」
「あらあら随分封建的だこと、今は女性活躍の時代よ、恭平クン。あなたこそ、気を付けてね。いろいろとこの街は危険だと思うわ」
恋人を想う甘い口調の後、シリアスな表情を浮かべた雅子は、その蠱惑的な唇を半ば強引に恭平に重ねるのだった――――。
二人きりということもあって、妙に親密な口調だ。
「ああ、俺は解体業者を当たってみるつもりだ」
「運送業者?」
雅子は端麗な美貌を傾げる。
「うん、在留資格を持たないハラム人は皆、ブラックな仕事を請け負っている。解体業やごみ収集、産廃処理業者なんかだ」
そう言いつつ、恭平は日本の負の部分を背負い込んで労働に従事している異国人に思いを馳せる。
(彼らとの共存を図る道を探らねばならないのだが…)
そう思いつつも、根っからの報道記者は、この日は我が国と異国に横たわる私怨や情念を超えた部分にスポットを当てていた。
「彼らを疎ましく思う日本人がいる一方、それを報道できない事実…。そこにはある不都合な事実があるのではないかと思う」
恭平は言葉を濁しつつも、ここ数日の間“情報源”から取得した極秘のスクープの裏取りを考えている。
「いわゆる上級国民の、かしら?」
雅子は可愛らしげに、かつ悪戯っぽい表情で突っ込んできた。
「お、いい勘をしているねえ」
上級国民とは、すなわち社会的地位が高く、国民に知られぬ特権をもつ者たちという、いわば都市伝説的な隠語を指している。
が、恭平と雅子たち、いわば鷹見門下生の間では、政府の要人のみを指していた。
為政者が己の都合で、世を操る、それが常と考えている恭平の発想だ。
「運送業者を辞めたハラム人から聞き出した情報なんだが…ある物を運んだというんだ」
「あるモノって?」
雅子は澄んだ声で、瞳を向ける。
その美しさに気圧されつつも、恭平は続ける。
「薬物さ」
「もしかして麻薬…覚醒剤ってこと?」
そういった世界と無縁と思われる雅子らしい、幼い尋ね方だ。
「いや違う。実際その薬物を運んでいる現場にマトリの立入調査が入ったんだ。結果、明らかな合法だと…」
「え、じゃあ、何が問題なの?」
「運ばれているものは、ファンタジーと呼ばれる鎮痛剤だ。医療現場でも頒布されている」
「…ふぅん?」
雅子は要領を得ない表情だ。
「が、実態は、その鎮痛剤の成分の一部、エシックスなる粉薬だけを大量に輸入しているという話だ。その原産国がハラム人の母国の一つ、ハマリア国だ」
恭平も、実のところ、情報屋の“宗さん”なる関東界隈の裏社会事情通の男の受け売りで語っており、確証めいたものはまだ何もつかんでいない。
それでも、センセーショナルだが、耳を塞ぎたくなるような情報を続けて雅子に話す。
「が、その薬は非経口的に摂取されると、覚醒剤をはるかに超える快感を人間に与えるという…」
「非経口的って…」
育ちの良い雅子も少々バツが悪そうに言葉を濁す。
「人格破壊の要素もあり、洗脳にも用いられるという…」
「そんなことって、できるのかしら…」
「わからんがね、その薬物の運搬日なのかは定かではないが、情報屋の話だと秘密裏の運搬日は決まっているらしくて、一週間後…次の金曜だという噂だ」
無鉄砲な恭平が、場合によっては突撃を仕掛けるつもりらしいことは雅子にも察しがつく。
「さぁ、ここからは育ちの良いお嬢さんの出る幕じゃあないぞ。さて…君はどうする?別行動をとるって言っていたよな」
「ええ、わたくし、こう見えても大江戸TVのナンバーワンキャスターでしてよ」
雅子は、わざとらしい高飛車な物言いで、ツンと澄まし貌を作ってみせる。
「いつまでもお嬢さんじゃないの。独自の取材ルートもパイプも、ちゃあんと持っていてよ、うふふふ」
愛くるしい微笑に見つめられ、このまま別れるのが少々心残りになった恭平だ。
「とにかく気をつけろよ、雅子。君は相当なお転婆さんだが、所詮は女の子だって言う事を忘れるな」
「あらあら随分封建的だこと、今は女性活躍の時代よ、恭平クン。あなたこそ、気を付けてね。いろいろとこの街は危険だと思うわ」
恋人を想う甘い口調の後、シリアスな表情を浮かべた雅子は、その蠱惑的な唇を半ば強引に恭平に重ねるのだった――――。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
東京の人
くるみあるく
青春
BLなのかもしれませんし、そうでないかもしれません。
沖縄からたまたま東京に来ていた警官・矢上明信(やがみ・あきのぶ)は、悲鳴を聞きつけある女性を助けました、が、彼女は言いました。「私、男です」
あっけにとられる矢上に彼女いや彼は自分も沖縄の人間だと告げ、勤め先であるミックスバーの名刺を渡して立ち去りました。彼女いや彼は金城明生(きんじょう・あきお)という名前なのですが読み方を変えて‘あけみ’と名乗っています。同じ明の字を持つ同郷の矢上を、‘あけみさん’は「ノブさん」と親しく呼びました。
矢上はやがて上京の度に、彼女いや彼こと‘あけみさん’やミックスバーの面々と親しく交流するようになります。矢上自身はやくに妻と死に別れ、孤独を紛らわせる場を探していたのでした。
ところが矢上の中学生の息子が母親の遺品で化粧を始めるようになります。息子は小さな頃から女の子のものを欲しがることが多かったのです。今はなんとか保健室登校をしていますが、「高校へ行きたくない、制服を着たくない」と泣き叫びます。悩んだ矢上は‘あけみさん’に相談すると、彼女いや彼は自分の高校の女子服を譲ってもいいと申し出ます。
そして二人は制服の受け渡しのためデートをすることに。‘あけみさん’が男であることをわかっているのに胸の高鳴りをおぼえる自分に矢上は戸惑いを隠せなくて……。
2026.2.20〜 AI校正を導入しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる