はみ出し記者 鷹見恭平 オールドメディアは世の不条理、タブーを暴けるか VOI.1 不法滞在者が運ぶ甘い媚薬

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Take14:雅子に危機迫る!!

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土曜の朝――――。
報道番組担当者のオフは、意外にも朝が遅い。
とはいっても、こんなに寝坊したのは2カ月半ぶりだ。もうじき年末番組が入り、それを過ぎれば改編の準備である。
(ああ、俺は今度こそ、俺もソーム行きだな)
ソームというのは大江戸TVの隠語、略語で、総務クリエイティブルーム部の意味で、すなわち、左遷である。
報道人である以上、そんな窓際部署へなど行きたくないというのが本音で、それははみ出し者の恭平とて一緒だ。
というより熱血報道マンの彼ゆえ、社内の備品管理や、照明器具やコピー機の修理依頼などで時間を費やすなど、考えられぬことだ。
移動になった時点で、即退職を願い出るつもりでいた。
寝ぼけ眼の彼のベッドの真横で、スマホが振動した。

「ああ、宗さんかい?」
しゃがれた初老の男の声に、恭平は少しだけ声を張り詰めて応じた。
『今夜らしいよ、“例の物の運搬”…』
「そうか、ありがとう」
恭平の決意は固まった。
(“夜討ち、夜駆けといくか)
そんな恭平に気がかりな情報を、宗さんはもたらす。
『それとな、恭ちゃん…あんたの彼女…弁天さん。なかなかのクソ度胸やな』
彼は雅子と恭平の関係を知っているし、彼女を“弁天さん”と呼んでいた。
「俺の門下生、だからね、あの娘は。彼女何か?」
嫌な予感を覚えつつ、恭平は尋ねる。

『ああ、かなり深追いしとる』
「例のセンセイのトコロへ?」
恭平は胡散臭げな魔室という政治家の顔を思い浮かべる。
『あの男は小物だろう、パシリにすぎん。あのお嬢さん、もう一人の妖しげな男に気が付いておる』
(そういえば、雅子はそんなことを言っていたっけ?)
意外にも小娘の戯言と思っていた件が、情報屋の言葉で現実味を帯びてくる。
『とにかく、今宵などと言っておらんで、早々に動け。あの娘の身が危険かもしれぬ』
宗さんはそれだけ告げると、通話を終了した―――。

ちょうどそのころ、当の雅子はまだ余裕綽々の状況だった。
雅子が今いるのは、魔室真司、ではなく旭日誉の活動事務所だった。
「あなたが黒幕ね、旭日さん」
雅子はあくまでも理論で彼をねじ伏せ、スクープを得るつもりの様子だ。
「さあ、何のことだか」
シラを切る活動家は、雅子の肉体を舐め回すように見つめ、既に獲物が網にかかったことを確信したかの様子だ。
が、雅子は真摯なジャーナリストの表情で追い詰めにかかる。
「あなたが、陣川会の反社勢力と親しいことは前にも指摘したわよね? それとね、わたくし、ツテを使って、“ちゃんねるユー”のスレッドに“白光の天使”のハンドルネームで書き込んだ人物を特定してもらいましたの。その結果、先日、貴方の携帯番号と一致したわ」
雅子はジャーナリストらしく真摯な表情で、瞳を輝かせて追及する。
それでも、旭日はニマニマと嗤い続ける。
「それで?」
「ズバリ、あなたは帝国親民党の手先ではなくて? あなたは以前陣川会系ヤクザの舎弟をしていたわね。そして陣川会から密かに資金援助を受けていると噂される帝国親民党の議員と、緊密な関係を今なお続けている。その議員は政調会長の…まだ名前は出さない方がいいかしら?」
雅子は冷静な口調で続ける。
「議席数が欲しい与党は、過激な思想を持ちつつも一部、シンパシーを感じて自分たちの支配下に置くことが出来る議員を探していた。そこであなたがその仲介役を買って出たのね」
雅子の心中では、今もって政界で絶大な力を誇る帝国親民党幹事長、鳳 喜三郎の存在が浮かぶ。
「白羽の矢が立ったと言って欲しかったねえ」
旭日は余裕の表情でかわす。
が、雅子は構わず続けた。
「そしてあなたはネットに情報を書き込むことで、懐柔できる可能性のある政治家を政調会長に報告していたのね。そして彼らを、“棄教”させた成果も、同時に掲示板で公表した…」
「ふむ、なかなか鋭いね、流石は大江戸TVの美人キャスター。そして、その懐柔工作はどのような方法で行われたと思う?」
雅子に少々の狼狽の色が浮かぶ。
薬物を使った洗脳の危機が自分にも迫っている、直感が働いた。
昼日中の住宅街の事務所で、そこまでの危険があるとは予想だにしなかった雅子。
そのことにようやく気が付いたのだ。
「ふひひ、媚薬の魅力には誰も抗えないよ。身も心も蕩かす魔力があるからねえ、あの薬には。魔室クンだって内心帝国親民党に入党したいと思ってはいたが、私はあえて仲介をしなかったんだ。なぜだと思う? この北関東市の薬物運搬システムを自在に操り掌握し、運用できる人間だからだ。要求通り与党に入ってしまえば、こちらの要求を飲まなくなる可能性があるからね。日本憂国党の議員を寝返らせたら、与党入りを仲介してやる、という契約をしていたんだよ」
狡猾そうにほくそ笑む旭日だ。

「私もね、陸王運送に鷹見という男が疑惑の目をむけたと知った時からどうにか処理せねばと思っていたが、飛んで火に滅る夏の虫だったね、お嬢ちゃん」
「やはり、あの運送業者とも…」
この時点で雅子は、魔室も彼の支配下にいることをいまさら痛感する。
その魔室が扉を開けて入ってきた。
(逃げるなら今しかないわ――――)
雅子は瞬時に腰を上げた。
「えいッ」
雅子は思い切り気合を入れると、体ごと魔室にぶつかり彼を横転させた。
背後から、魔室の秘書兼ボディガードらしき男が追ってくる。
(通りまで出れば、逃げられるわ!)
雅子は、どうにか細い路地まで飛び出した。

「お、襲われています、誰か助けてッ!」
有名人である彼女が、暴漢に襲われたとなればそれなりにスキャンダルにもなろうが、今はそれを気にしている場合ではない。
命の危険が迫っているのだ。
幸運なことに、ばったりと鉢合わせた男には見覚えがあった。
ジャンパーを着こんだ活動家のリーダー、土屋五郎太だ。
「つ、土屋さんッ、助けてくださいッ!」
魔室や旭日と対立する存在の土屋達ならば、助けを求められることは間違いないはずだ。
「おや、これは美人キャスター殿。“正義の追究”もなかなか楽ではなさそうだねえ」
皮肉めいた口調に、雅子は背筋が凍る。
土屋の手に握られているのは、バチバチと発光するスティック状のスタンガンだ。
「敵の敵は味方、とは限らんもんだよ、お嬢さん」
土屋は言うが早いか、雅子の首筋にその凶器を押し当てた。
「あうぅ―――ッ…」
雅子は数秒と持たず意識を失った――――。
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