血みどろ兎と黒兎

脱兎だう

文字の大きさ
51 / 87
①第六章 誰が誰を悪いと決めるのか

4人間として扱ってください ※残酷描写あり

しおりを挟む
 翌日、飽きてきたのだろう生徒達は新しい『遊び』を提案し始めていた。

「最近普通の遊びにも飽きちゃったしさー新しいことしたいよね!」

「分かる分かるっ何かこー思い切った感じの?」
「普通のボールは飽きてきたなー」

 ……まだ続いてたのかボール人気。
 むしろそっちに驚いてしまった。

 不覚にも少しにやけてしまっていたらしい、それを見て苛ついたであろう仁夏が「じゃあこいつで遊んでやろうぜ、最近寂しがってみてーだし?」と提案した。
 悪ノリをするように賛成、と満場一致の挙手。嫌な予感がして思わず嫌だと反抗する。

「えっ、いや、僕は遠慮しておく……!」
「じゃあどうせならしようよ。それなら良いでしょ、赤君?」

 掃除……? まあ、掃除だけならいいよ……と了承したのがいけなかった。
 かなんて一言も言ってなかったんだから。

「い、っだ、」

 あっはははは!
 と笑い声の飛び交う教室、外からはきっと「楽しそうに遊んでいる」と考えられていることだろう。

 でも実際は。

 僕がモップ扱いにして床に押し付けられることで教室の掃除している、立派ないじめだった。
 ひんやりとした床に叩きつけられてどうしたことかと顔を上げようとすれば上から押し付けられ「そーれ!」って楽しそうに押して床を滑らせていく。
 何度立ち上がろうとしても複数人に押さえられて上手くいかない。

 木の床の隙間が、僕の顔を何度も摩擦する。
 前へ押し潰されると思ったら今度は逆方向に思い切り引かれる。

 雑巾にでもなった気分だった。

 髪を無理矢理引っ張られた状態なのもあり、頭からも痛みが走った。
 目を開けていられなくて必然的に床より上の片目だけを開ける形になる。
 開けた視界の端にうっすら見えたのは

「どうしてそんなことするの」

 と悲しそうに呟く彼女。

 彼等の目的は変わらず勿論、ブラビットだ。
 だから、心配をかける訳にはいかないのに、その日以降昼休みは必ずといっていい程掃除……人間モップにされた。

 いいよ、と言ったのがいけなかった。

 あの時点でになってしまったんだ。
 仁夏だけならまだしも、狼がサポート役に徹している今の状態は、正直言ってキツい。
 僕の自滅を誘って、学校内での立場がどんどん不利に、下になっていくばかり。

 怪我を治して貰って会う度に「化け物!」と呼ばれるのはもう慣れた。

 暴力を振るわれて「早く降参しろよ」って言われるのももう慣れた。

 惨めな姿にされる度に指されて罵倒されるのも、もう

 慣れた。

 でも、その度にブラビットが「酷い」ってえらく高い声で心配してくれるのにはまだ慣れない。
 心配される度に思ってしまうんだ。

 ──ブラビットが悲しんでくれてる!

 、噓偽りない顔で悲しんで!

 それが酷く愛おしく思えて、嬉しくて。
 こんなに彼女が心配してくれるなら一生居てくれるかな、なんて、変な気分になる。
 僕の悲しみが君への鎖になるのなら、って。
 なんだか駄目な思考なんじゃないかと思えて何度も否定するのだけど、何度も同じ考えに至ってしまう。
 確かに傷が入りつつある僕の心は彼女がいる限り保たれるのだろう。
 歪んだ形であっても心が無事なら生きていける。

 ……まだ、夢は終わっていないし。

 彼女の好きな物探しだって満足に出来ていない、ヴィオラの練習だって教わりながら頑張ってはいる、人外のことだってもっと知りたい、まだ……

 両想いに、なれていない。

「大人しく差し出せば良いのによーお前ってほんと馬鹿だな」
「……ッ、物扱い……しないで」

 奪われてたまるか、彼女だけは、彼女だけは、彼女だけは!
 彼女だけは絶対にっ。
 絶対に僕と結ばれるんだ。僕は彼女と、がってる。

 信じなきゃ、やってられないだろ?

 こんなの。

 その態度に腹が立ったのかもしれない。気に障ることでも言ったのかもしれない。
 更に悪化した。いや、悪化していくしかもう道が残されていなかった、という方が正しいのか。
 給食の時間、僕はもっと惨めにされた。

 給食の食べ残しを片付ける丁度良いゴミ箱として、僕が使われたのだ。

 穴という穴に詰められ押し込まれ、服を脱がされて。
 先生も一緒に加害者として加わって日頃の鬱憤を晴らすべく僕にあてつけている。
 第一印象なんて当てにならないな、一番最初の頃は良い先生に見えたのに。

 痛い、痛いと何度言っても伝わらないのだ。

 ここまでくると諦めるよりも虚しさが勝る。

「ちょっと美味しそう」とか言うブラビットには再三びっくりしたがこれ以降、彼女はゴミ箱扱いされた時一緒にゴミを取ってくれるようになった。
 何度も吐いて、吐いて零してそれでも止めて貰えなかった。
 それでも君は僕のこと支えてくれる。天使みたいな死神様。

 僕にとっての最愛の子。

 冷えて熱くなって冷えて火照って大変だ。
 家でぼんやりとした意識の中、ベッドで添い寝してくれているブラビットに覆い被さって、あろうことか僕はしてしまった。
 彼女はただ純粋にを心配してくれているだけなのに。
 これはいけない、と正気を取り戻し熱のこもった身体を落ち着かせて

「添い寝はもう卒業する!」

 と顔を真っ赤にして不貞寝し、そのまま眠りについていった……。

 その結果、僕は今あの真っ暗闇な夢の中にいる。
 またもや自分は悪夢を見る魂であることをすっかり忘れていたのだ。

「あー……やらかしたー……」

 でも、ああ。
 少し触れた彼女の頬はとてもいい触り心地だった。
 触ってもきょとんとした顔でを真っ直ぐ見つめて、目に映っていなかった。

 あの至近距離ならば僕の顔もよく映ったことだろう。

 それが溜まらなく嬉しかった。

「ふふ、っへへへへ」

 欲しいなあ欲しいなあ、あの子が欲しいなあ。
 目もお揃いなんだから、今度は中のものをお揃いにしたっていい。

 内臓?

 それとも腕や足?

 なんだっていい、もっともっとお互いにになればいい──……!
 交換こをまたしたいってお願いしたらきっと彼女ならやってくれるよね。
 優しい優しいあの子ならやってくれる。

 うん、そうに違いない。

 ならもっと、彼女に『』しなきゃだ。
 僕が弱ってて君がいなきゃ駄目なんだって教えてあげたら、君は傍に居てくれるでしょう?
 そしたら君の全部全部頂戴な。

 僕に全部。

 不気味に乾いた笑い声を響かせながら自分の欲に酔いきっていると、いつの間にか好きなあの子の身体がそこにあって、吸い寄せられるように何度も何度も這いずって求めて、指して切り取ってくっつけて裂いていって。次第にこの夢がどんな夢なのかが分かった。

 ……僕の『願望』、『欲望』を全てそっくりそのまま詰め込んだ

 それが、今の僕が見れる夢だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...