下僕で護衛で時々獣

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4. トイレのお作法

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 久野知之は押しの弱い善良な童貞である。中学から男子校に通っているため、異性にはほとんど免疫がない。彼にとって異性とは遠きにありて思うものであり、そして悲しくうたうものなのである。
 そのため、部屋の中で女の子と二人きりというシチュエーションは、たとえそれが本質的には男同士であったとしても、非常に落ち着かないものであった。だから「様子を見る」という向坂の言葉に従って自分もベッド(もちろん自分のベッドだ)に座ってみても、膝の上に適当な雑誌(もちろん健全な少年漫画誌だ)を広げてみても、憂鬱そうな顔でベッドに腰を下ろしたきり動かない向坂の方へ、ついつい視線が向かってしまう。だがそれも仕方ないことではあった。たとえ久野が押しの強い邪悪な非童貞であったとしても、こんなに可愛い女の子と同じ部屋にいたら、相手を意識せずにはいられないだろう。もし彼が実際に押しの強い邪悪な非童貞だったとしたら、向坂だってのんびり座ってなどいられなかっただろうが。
「――じろじろ見るな」
 久野の執拗な視線にうんざりしたのか、それまで黙って床を見つめていた向坂が顔を上げた。
「それとも、何か言いたいことでもあるのか?」
 もしまた愚かな発言をしたら遠慮なく罵倒させてもらうが、という無言のフレーズが相手の言葉の先につけ加えられているのを感じながら、久野は慌てて無難な台詞を探した。
「ええと、昼飯はどうするんだ? この状態でお前が部屋の外に出たら、大騒ぎになるぞ」
 向坂は小さく首を横に振った。緩く波打った髪が、愛らしい顔の周りで気ままに揺れる。本人は全く意識していないのだろうが、仕種がいちいち可憐だ。いや、いちいち可憐に見えてしまうという方が正確か。中身は元のままなのだから、どんなに身体が変わっても仕種まですっかり変わってしまうはずはないのであって、つまりこれは恐らく見る側の問題なのだろう。
「食べないのか?」
「そんな気分じゃない」
「でもなあ、お前朝飯もほとんど食ってなかったし、おまけに吐いたし、何か食べておいた方がいいんじゃないか」
 ただでさえほっそりした手足がこれ以上細くなったら大変だし、何より神の恩寵が詰まっているようなこのたっぷりしたおっぱいが萎んでしまったら、それはもう大惨事である。たとえ仮初のものであったとしても、このような奇跡的な身体が粗末にされるようなことがあってはならない、と久野は切実に思った。それで彼は昼食の時間になると、のしのし食堂へ出かけていった。
「ほら、少しでいいから食べろ」
 部屋に戻ってきた久野を、向坂はぽかんとして見上げた。何かの間違いみたいに綺麗なグレーの瞳に見つめられ、久野はやや動揺しながら手にしたトレーを向坂に差し出した。
「食堂のおっちゃんとおばちゃんに頼んで、お粥を作ってもらった」
「……」
「一口でいいから、な?」
 向坂は暫く瞬きを繰り返していたが、やがてこくんと肯いた。思いがけない素直さに、久野は自分が勧めたにも拘らずひどく戸惑った。もしかしたらこの男は――そうだこれは男なのだ、なんという悲劇だろう、神も仏もあったもんじゃない――具合が悪いと可愛らしくなってしまうのかもしれない。
 相手が異様に可愛らしくなってしまったため、久野はうっかり向坂の隣に腰かけて、更にうっかり自分の膝の上にトレーを載せて、うっかりついでにスプーンで粥をすくって相手の唇にそれを近づけた。それは一種の賭けだった。向坂の大きな瞳がまるで生まれて初めて目にしたといった感じでじっとスプーンを見つめ、やがて花びらのような唇が蕾の綻ぶように薄く開き――
「あーん、とか言うつもりか」
 ――そして吐き捨てた。
「えっいやっ別に? その、なんつーの、ちょっと気分悪そうだったから、手伝ってやろうかなって、うん」
 感動的な餌付け失敗の瞬間だった。言葉よりも雄弁な視線が久野を無情に貫き、彼の股間は条件反射で冷たくなった。慌てて取り繕ってみたものの、手遅れ感が凄まじい。
「本当にお前は……」
「はははおっしゃるとおりですははは」
 冷や汗をかきながらスプーンを引っ込めようとすると、しかし小さな掌が久野の無骨な手を上からきゅっと握り、そのまま彼の握ったスプーンを自分の口に運んだ。
「むぐ」
 食べた。
 向坂は口に入れたものを、もぐもぐしてからこくっと飲み込んだ。少し考えるような顔をしてから、ちょいちょいと久野の服を引っ張る。
「もっと」
 既にいろいろと限界を迎えていた久野は、とりあえず脳内で床を転げ回った。
 可愛い。絶望的に可愛い。終末的に可愛い。
 しかも上半身をよじって隣に座る久野の方を向いているため、ただでさえ大きなおっぱいが両腕で圧迫されて更に盛り上がった状態でつんと浮いた乳首を彼に差し出す形になっており、上目遣いでスプーンを咥えられるとそれはもう思春期的に形而下的に海綿体的に完全にアウトだった。
 あまりのことに無言無表情強面三割増しの完全極道フェイスになった久野は、それでも黙々と向坂の口に粥を運んだ。向坂が、むぐ、もぐもぐ、こくっ、ちょいちょい、を繰り返すうちに、やがて粥の器は綺麗に空になり、おかずの卵焼きもなくなった。
 全部食べ終えてしまうと、向坂は久野が気をきかせて持ってきていたグラスの水を飲み干して、ぱしぱしと目を瞬いてから、生理的な反応のせいで膝の上のトレーが不自然に傾きつつあるのを必死で押さえている哀れな少年を真っ直ぐに見据えた。久野は激しく緊張した。相手の頬が僅かに赤みを帯びているのは食事をしたせいだとわかっていても、何かはにかんでいるかのように見えてしまうから非常に性質が悪い。お前いい加減にしろよと言って押し倒してしまいたくなる風情だが、しかし善良な久野はひたすら我慢した。するとやがて、小さな唇がぽつんとぽつんと言葉を落とした。
「わざわざありがとう、おいしかった、ご馳走様」
 感動的な謝意提示の瞬間だった。ように、思われた。が。
「――と、伝えておいてくれ」
 向坂が口にしたのは食堂のおっちゃんとおばちゃんへの感謝だけで、久野に対する労いの言葉はゼロだった。しかしもうそんな細かいことはどうでもよくなりつつあった久野は、虚ろな目で肯いた。
「ああ……飯が美味いのはいいことだ……伝えとくな……」
 食器を返却する前にトイレに寄って本日二度目の愚息の処理を行い、その後閑散とした食堂で自身の食事も片づけた久野は、重い足を引きずって再び自室に戻ると、目を閉じてドアを開け、目を閉じたまま室内に入って、目を閉じたまま後ろ手にドアを閉め、目を閉じたまま自分のベッドに戻ろうとして見事に躓いた。
「何をやってるんだ、お前は」
 目を開けたら何もかもが元どおり、なんてことはなく、彼の視界にはさっきまでと同じように完全無欠美少女がちょこんと向かいのベッドの上に座っており、夏場ならぴったりであろうほどよく冷えた視線を彼に注いでいた。
「その、なんだ、早く元に戻るといいな」
「当然だ。こんな状況、耐えられるか」
「そうだな、うん、そりゃそうなんだが……」
 急に女の子になってしまったのだから、急に元に戻る可能性だって大いにある。それはそれでかなりもったいないような気もしたが、自分の心の中に住みついていた理想の少女が実は向坂女体化バージョンだったなんてトラジディは、すっぱりさっぱり春の夢にしなければならない。
「……しかしなあ……」
 もし突然身体が女の子になってしまったら、自分だったらどうするだろうか、と久野は考えた。まずは鏡で確認するだろう。たぶん服も脱いでみる。触ってもみるだろう。しかし他人事だからそう思うのかもしれないが、女の子になったという状況を少しは楽しんでしまいそうな気もする。それなりに性欲をもった男子高生なら、自身の女性器に触れて嘔吐したり、あるいは子供みたいに号泣したりするよりも、初めての女体を楽しむ方向へ行きそうなものだ。見ている限り、向坂は確認の意味で自分の身体を見たり触れたりはしたようだが、確認以上のことをする気配がない。むしろなるべく自分の身体を意識しないように心がけてでもいるかのようだ。同じ童貞として、それは信じられないというか許しがたい反応だった。
「なんだ?」
「いや、何でもない」
 お前少しは楽しめよ、なんて言った日には間違いなく股間を蹴り上げられるので――いやこんな美少女に股間を虐めてもらえるならそれはどのような宗派においてもご褒美になるはずだが――久野は静かに首を横に振った。
「もし具合が悪くなったり、これ以上変な事態になったりしたら、起こしてくれ」
 そう言い置いて、久野はベッドに寝転ぶと頭から毛布をかぶった。
「……うん」
 いやにか細い相手の返事に微かな後ろめたさを覚えつつ、それでも久野は全てを夢にするためにあえて目を瞑り、羊を数えた。
 しかし羊が二百頭にいくかいかないかというところで、柔らかくて温かい何かがするりと毛布の中に滑り込んできて、いささかぞんざいに久野の手首をつついた。
「な、何?」
 彼が毛布をはねのけて起き上がると、ベッドの脇に儚げな美少女もとい向坂が屈んでいた。
「トイレに行きたい」
 久野は比喩でも誇張でもなく気が遠くなった。世にも可憐で愛らしい少女が、今、まさに催しており、おまけにそれを久野に対し切なげに訴えている。これはどう考えても童貞向けのシチュエーションではない。
「そんなの勝手に行……くのは、無理、か」
 トイレはもちろん共同だ。トイレやトイレへの道のりで誰かに出くわしたら、確実に向坂は寮長に引き渡されるだろう。そうなってしまえば、どんな方向に転んだとしても、想像するのも恐ろしいくらいややこしくて悲惨な展開しか待ち受けていないはずだ。向坂としては誰かに知られる前に自然に身体が元に戻ることに賭けているらしいし、久野としてもこの濡れたような灰色の瞳に見つめられてしまうと抗えない。
「わ、わかった、なんとかしよう」
 作戦はシンプルだった。向坂に久野のパーカーを着せ、髪を服の中にたくしこみ、更にフードをかぶらせる。そして向坂の前を久野が歩く。それだけだ。
「本当に上手くいくのか?」
 不安そうな向坂に対し、久野は複雑な表情で肯いた。
「まあ、ついてくればわかる」
 作戦は残念ながら大成功を収めた。部屋を出た久野が向坂の前をずかずか歩いていると、正面から他の生徒が数人、だらだらした足取りでやってきたが、久野の姿を認めるやいなや姿勢を正し、軽く一礼をすると足早に彼の脇を通りすぎていった。当然、久野の背後を俯いてちょこちょこ歩いているおちびさんになど目もくれない。
「お前のその顔も、役に立つことがあるんだな」
 感心したような向坂の呟きが、久野の心を僅かに、しかし確実に抉った。
「ほら、着いたぞ」
 トイレの中は、幸い誰もいなかった。個室も全て空いている。向坂は小便器の方に行きかけて、ぴた、と足を止めた。
「……あ」
「……あ」
 彼らは気づいた。男性用の便器では、恐らく、というか絶対に駄目だ、ということに。
 くるりと振り向いた向坂の目が、縋るように久野を見つめる。
「どうすればいいんだ?」
「そんなの俺に訊くなよ!」
 思わず突っぱねると、向坂は困ったように目を伏せた。長い睫が悲しげな影を落とす。そんな様子を見せつけられたら、とっとと降参するしかない。
「……こ、個室で、座って、やるんじゃ、ねえ、の?」
 しかし向坂は何も言わない。動かない。小さな掌で、ぎゅっと自分の着ているパーカーの裾を握っている。これはいけない、と久野は思った。それで仕方なく、いちばん奥の個室のドアを開けてやった。
「ほら、こっち来い。終わるまで待っててやるから、だから泣くな」
「……泣いてない」
 強がりながらも、それでもおとなしく向坂が個室に入るのを見届けて、久野はやれやれと溜め息をついた。トイレに行くだけでこの騒ぎだ。早く元に戻ってもらわないとこちらの気も休まらない。
 だが、トイレに行くだけで生理現象の問題が片付くと思ったらそんなわけがなく、一分ほどした頃に突然個室のドアが開いた。
「お、終わったか?」
 流水音は聞こえなかった気がする、と思いながら久野が開いたドアの中を覗くと、とんでもない景色が広がっていた。
「――っ」
 向坂は久野が着せてやったパーカーを身に着けたまま、こちらを向いて立っていた。フードは邪魔だったのか、今はよけられている。問題なのは、だぶだぶのパーカーの下に本来続いているべきズボンの姿がなく、代わりにいかにもか弱そうな細く滑らかな二本の太腿が伸びているということだった。視線を落とすと、ズボンは下着と一緒にふくらはぎあたりまで下ろされている。
「なんつー格好をしてるんだお前は!」
「……だって」
 親に叱られた子供のように、向坂はごしごしパーカーの袖で目許を擦った。
「だって、わからない」
 震える声だった。目には涙がいっぱい溜まっている。久野は本日三度目の愚息の処理を覚悟しながら、果敢にも個室の中に入り鍵をかけた。
「とにかく、座ってみろよ」
 促すと、向坂はちょんと便器に腰かけた。そして引き続き、訴えかけるような涙目で久野を凝視する。泣きたいのはこっちだと思いながら、久野は必死で考えた。
「ええと、そう、冷静になるんだ。膀胱があって尿道があるのは男も女も同じだ。だから、普段どおりにやれば出るはずだ。ただちょっといつもよりなんていうかその放物線が緩やかというかそう飛距離が! 飛距離が出ないだけだ!」
「……っ」
 ああ、これはいけない、本格的に泣いてしまう。
「よしよしよしよしよしっ、考えるな、何も考えるな、考えなくたっていずれそのうち出てくるんだから気長に待とう、な、な、な?」
 もしかしなくても向坂は自らのキャパを超える現実に出くわすと涙脆くなるようだ。だがそれは仕方のないことかもしれない。ここまで何でもできて何でも持っている人間だったら、たとえ本人のキャパがお猪口くらいの極小サイズであろうとちゃちな現実がそれを超えてくるはずがない。だから多少スポイルされていたとしても不思議ではない。むしろ当然だ。
「……ど……から……出てくるか、わからないのに……怖くて出せない……っ」
 ぽろぽろ涙を零しながら抗議されて、久野は暗澹たる気持ちになった。何処からってそりゃあ尿道の終点からだろうと言いたいが、野郎の排尿のための穴はまさにここだぜといった感じなのに対し、女性の方は神秘のベールに包まれている。ぶっちゃけ久野にも全くわからない。わからないが、しかしこれはもうお互いに現実がキャパを超えた者同士、手を取り合って何とかやっていかなくてはならない。ような、気がする。
「わわわわわわかれば、出せるのか?」
 涙に濡れた可愛らしい顔を覗き込んで確認すると、向坂は曖昧に首を振ってしゃくり上げた。もう完全にお手上げ、といったところか。
「よし、ちょっと、その、うん、アレするぞ」
 全く無意味な言葉を積み重ねつつ、久野はしゃがみこんで向坂のつるつるの小さな膝小僧に手をかけ、それを左右に慎重に押し開いた。向坂はおとなしく足を開いた。呼吸困難に陥りかけながら、彼はそのほそっこい太腿の奥へ目を向けた。恥毛が深刻な勢いで薄いため、大事な部分が余すところなくばっちりがっつり見えている。三次元無修正女性器は、清く正しく美しく生きてきた品行方正な童貞であるところの久野の股間にクリティカルヒットした。もしかしてひょっとしてこれがこの可愛らしいちんまりした突起があの伝説の性感帯、クリというやつなのか、そしてその下にある小さな裂け目がもしやファンタスティックでアルティメットでフェータルな――
「……くの……」
 心細そうな声で名を呼ばれ、久野は我に返った。気づけば向坂の女の子の部分を食い入るように見ていた。
「あ、ああ、ええと、こ、こ、こ、このへん、じゃ、ない、か?」
 久野の指は、下衆な設定のAVでお薬的なものを盛られた演技をしている大根女優のごとく震えた。どのへんかなんて本当はわからない。わからないが、このへんだと言ってみるしかない。仮に出してみてこのへんじゃなかったとしても、出ればよいのだ。
 と、いうわけで、久野の指はぶるぶる震えながら向坂の太腿の間に潜り込んだ。といってもチキンっぷりを全力で発揮し目を瞑って手を伸ばしたので、何処に触れたかはわからない。それでもとにかく彼の指は温かくて柔らくて湿っていて非常に複雑な何ものかに触れた。この世に生まれ落ちたとき通過して以来、十七年近く見ることも触れることもなかった聖域に、今まさに彼の指は出会ったのである。
「こ、のへん、とか……?」
 指をそっと動かすと、肉がめくれる感触があった。すると向坂の太腿が震えた。
「ん……や、ぁ」
 久野の脳内は既にキャパという単語では表現しきれない異次元に突入していた。美少女、それも恐らく処女の性器をガン見した挙句、そこを指で弄って彼女を喘がせているのである。中身が男だということはもう完全に記憶から吹っ飛んでいた。
「あぅ……ん」
 ほとんど無我の境地で、久野は向坂の股の間を弄り倒した。震える小さな肉の粒を撫で回し、綻びかけた割れ目を擦り立てる。堪えきれずに向坂の膝が擦り合わされたが、しかし太腿があまりにもほっそりしすぎているため、膝を閉じた程度では性器を隠すことなど到底できない。ほとんど無意味な攻防の結果、最終的に久野は中腰になって向坂の斜め後ろから屈み込みその股間に手を突っ込む形となり、向坂は向坂で久野の腕を太腿と両手とむちむちのおっぱいの谷間で抱え込む体勢となった。久野はおまんこを弄っていない方の手で向坂の腰を撫でさすり、形容しがたいほどいい匂いのするふわふわの髪に鼻先を埋めて犬のように忙しなく呼吸しながら、相手の微かなよがり声を聴いた。
「ぁん、ん、ぅー……」
 やがて割れ目を弄っている指が濡れてくるのがわかった。ぐちぐちという小さな音が鼓膜をくすぐる。それは刺激的などという言葉では何千周しても追いつかないほど滾る音と感触だった。未知の快感にひくんひくんと怯える幼い肉の隙間に、指かあるいは自分の股の間でこちこちになっているブツを無理やり突き立ててぐちゃぐちゃに掻き回したい衝動が全くなかったといえば嘘になる。しかし彼がその衝動に負ける前に、向坂の身体がぶるっと震えた。
「はぁっ……ん、ん……、あ――」
 次の瞬間、温かな液体が勢いよく久野の掌を濡らした。
 美少女の股間から放たれたお汁が、久野の手と便器と便器に湛えられた水にぶつかり、淫靡な音を奏でる。あまりのことに久野は自分の頭がぼんやりしてくるのを感じた。
 もしかしてもしかするとこれがいわゆる潮吹きというやつでは――
 しかし、次に久野の耳が拾い上げたのは、時間が巻き戻ったのかと錯覚するほど恐ろしく落ち着いた一言だった。
「わかった」
「………………は?」
 向坂はくるっと首を回して久野を見上げた。さっきまでできたての処女まんこを無骨な男の手で弄り回されて泣き喘いでいたとは思えないクールな表情がそこにはあった。
「何処から出るのかだいたい把握した。これで次から一人でできそうだ」
 久野は思考した。深く、激しく、狂おしく、しかし静かに思考した。そして口を開いた。
「えーと、あの、その、それ、おしっこでした?」
 向坂は怪訝そうな顔をした。
「当然だろう。ほかに何がある。ああ、手は洗っておけよ」
 久野は再び思考した。深く激しく狂おしく静かにそして厳かに思考して、最終的にお互い女体の構造についての正しい知識がない以上いくら思考を重ねても結論を出すことはできないという結論を出した。ちなみにもし彼が童貞でなければ、あの程度の刺激で潮が吹ける女性はそうそういないし、そもそも最初から尿意を訴えていたのだから間違いなく排尿だと判断できたのだが、それはまあ仕方ないことである。それに問題はまだ終わっていなかった。つまり。
「と……とりあえず終わったな……部屋に戻るぞ……手を洗ってから」
 トイレットペーパーで応急処置的に手を拭いながら個室を出ようとした久野を、しかし向坂は止めた。
「待て。濡れてる」
「ぬれ……」
 弄られたあそこが濡れて切ないから硬くて大きいのを嵌めてくれ、とでも言うのかと思った久野はごくりと唾を飲み込んだが、もちろんそんな素敵展開は訪れなかった。向坂は微塵の動揺も見せずにじっと久野の目を見つめ、自らの置かれた状況を淡々と説明した。
「女の排尿はどうもキレが悪いようだ。このまま服をつけると下着が汚れる。何とかしないといけない」
 久野は頭痛を覚えた。自分の頭を切り裂いて脳味噌をぶん投げて壁に叩きつけたくなるような頭痛だった。
「……拭けばいいんじゃないか?」
 すると向坂は可愛らしく小首を傾げた。
「なにで?」
 久野は生まれて初めて世界を恨んだ。いや、世界では足りなかった。それは世界の成立、地球の誕生、宇宙の起源にまで遡らなければならないほど深い深い恨みだった。というわけで久野はビッグバンを呪いながら死にかけの黒魔術師のような声で答えた。
「…………紙で」
 この返答に対し、向坂は世にも愛らしい仕種でもう一度首を傾げると、薄桃色の細い指先でちょいちょいと久野の袖を摘んで引っ張った。
「やってくれ」
「嫌だよ!!!!!!」
 問題は、まだまだ尽きる気配がなかった。
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