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第4章「陰謀の芽生え」
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佐藤の処刑から一夜が明けた。
蒼太は個室のベッドで目を覚ましたが、昨夜の光景が頭から離れなかった。斧が振り下ろされる瞬間、血飛沫、そして佐藤の最後の言葉。頬に付着した血液の感触は、何度顔を洗っても消えることがなかった。
スピーカーから機械音声が流れる。
「おはようございます。第二回投票フェーズ候補者の皆さん、本日の演説準備を開始してください。投票は午後三時より実施いたします」
蒼太は重い体を起こした。今日もまた、誰かが死ぬ。そして、自分がその候補者の一人だという現実に、改めて戦慄した。
個室から出ると、廊下で雨宮と遭遇した。彼女の顔は青白く、明らかに一睡もしていない様子だった。
「蒼太さん……」
雨宮の声は震えていた。
「昨夜、田中さんの部屋から笑い声が聞こえたんです。あの……あんな光景を見た後なのに」
蒼太も同じことを気にしていた。佐藤の処刑を目撃した直後、田中だけが平然としていた。他の参加者が嘔吐や失神をする中、彼は最後まで笑顔を崩さなかった。
「田中さんの正体について、少し調べてみる必要がありますね」
二人が話していると、背後から声をかけられた。
「おはよう、仲間たち!」
振り返ると、田中が相変わらずの笑顔で立っていた。昨夜の惨劇など、まるでなかったかのような明るさだった。
「今日もいい天気だね! あ、ここは地下だから天気関係ないか。ははは!」
田中の不自然なテンションに、蒼太と雨宮は言葉を失った。この男は明らかに異常だった。
「田中さん」
蒼太は慎重に言葉を選んだ。
「昨夜の……あの光景をどう思いますか?」
「どうって?」
田中は首をかしげた。
「佐藤さんが死んじゃったのは残念だけど、ルールだから仕方ないよね。それより、今日は誰が死ぬのかな? 楽しみだなー」
雨宮が息を呑んだ。人の死を「楽しみ」と表現する田中の感覚は、明らかに常軌を逸していた。
「楽しみ……ですか?」
蒼太の問いかけに、田中は屈託のない笑顔で答えた。
「だって、みんなの本性が見えるじゃない。建前とか偽善とか全部剥がれて、本当の姿が露わになる。そういうのって、すごく興味深くない?」
田中の言葉に、蒼太は背筋が寒くなった。この男は人の苦痛や恐怖を観察することに快感を覚えているのかもしれない。
その時、神谷が現れた。彼は三人の会話を聞いていたようで、興味深そうな表情を浮かべていた。
「なるほど、田中さんは心理学にご興味がおありのようですね」
「あ、神谷さん! おはようございます!」
田中は神谷に向かって手を振った。まるで友人に会ったかのような気軽さだった。
「昨夜はお疲れさまでした。処刑、上手でしたね」
田中の言葉に、神谷は微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。必要な作業でしたから」
二人の会話を聞いていて、蒼太は重要なことに気づいた。神谷と田中の間には、何らかの共通認識があるようだった。まるで、このゲームについて他の参加者よりも詳しく知っているかのような。
「神谷さん」
蒼太は割って入った。
「あなたは、このゲームの本当の目的を知っているんですか?」
神谷は少し考えてから答えた。
「本当の目的……面白い質問ですね。では、逆に聞きましょう。蒼太さんは、なぜ自分がここにいると思いますか?」
「それは……分からないから聞いているんです」
「分からない? 本当にそうでしょうか?」
神谷の視線が鋭くなった。
「もしかすると、あなたは思い出したくないことがあるのかもしれませんね。記憶というものは、都合の悪いことを忘れようとする性質がありますから」
蒼太は困惑した。神谷の言葉には、何らかの含みがあるようだった。まるで、蒼太の過去について何か知っているかのような。
雨宮が口を開いた。
「私たちは、どうして選ばれたんでしょうか? 本当にランダムなんでしょうか?」
「良い質問ですね、雨宮さん」
神谷は満足そうに頷いた。
「あなたも薄々気づいているのでしょう。自分が『選ばれた理由』があることを」
雨宮の顔が青ざめた。
「まさか……私の過去と関係があるの?」
「過去は人を縛ります。特に、隠したい過去は」
神谷の言葉に、雨宮は震え始めた。昨日の演説で告白した「裏切り」以外にも、何か隠していることがあるのかもしれない。
田中が手を叩いた。
「わあ、なんだか推理小説みたい! みんな秘密を抱えてるんだ!」
田中の反応だけが、場の緊張感とかけ離れていた。彼は本当に状況を理解しているのだろうか。
その時、スピーカーから機械音声が流れた。
「候補者の皆さん、準備時間です。各自、作戦会議を行ってください。なお、候補者同士の連携は禁止されておりません」
連携が許可されているということは、同盟を組むことも可能だということだった。しかし、最終的には一人を除いて全員が敵になる。
神谷が提案した。
「せっかくですから、候補者で情報交換をしませんか? お互いの立場を明確にしておいた方が、後々のためになるでしょう」
蒼太は警戒した。神谷の提案には必ず裏がある。しかし、断れば不審に思われる可能性もあった。
「分かりました。ただし、公平に話し合いましょう」
六人の候補者が中央ホールの一角に集まった。神谷、蒼太、雨宮香織、田中、高橋、鈴木。昨日まで二十人いた参加者のうち、生き残りをかけて戦う六人だった。
神谷が口火を切った。
「まず、現状を整理しましょう。私は前回の当選により、ある程度の影響力を持っています。しかし、今回の投票では公平に戦うつもりです」
嘘だった。神谷が公平に戦うはずがない。彼は明らかに何らかの戦略を持っている。
高橋が発言した。
「僕は前回、参加者の共通点について仮説を述べました。もしかすると、僕たちは全員、過去に何らかの『罪』を犯しているのかもしれません」
高橋の推理に、会場がざわめいた。
「どういう意味ですか?」
鈴木が質問した。
「例えば、誰かを傷つけたとか、見殺しにしたとか、隠蔽に加担したとか。そういう『負い目』を持つ人間だけが、このゲームに参加させられているのかもしれません」
高橋の仮説は的を射ているように思えた。雨宮の過去の裏切り、そして神谷が暗示した蒼太の「思い出したくないこと」。
田中が手を上げた。
「じゃあ、僕の『罪』は何だろう? 思い当たることがないなあ」
田中の言葉に、蒼太は違和感を覚えた。本当に思い当たらないのか、それとも隠しているのか。
鈴木が泣きそうな声で言った。
「私は……私は本当に何もしていません。ただの主婦です。家族のために生きているだけです」
しかし、神谷は冷ややかに微笑んだ。
「鈴木さん、『何もしていない』ということと、『罪がない』ということは、必ずしも同じではありませんよ」
「どういう意味ですか?」
「時には、『何もしなかった』ことが罪になることもあります。見て見ぬふりをしたこと、助けなかったこと、声を上げなかったこと」
神谷の指摘に、鈴木は言葉を失った。
雨宮が震え声で言った。
「もしそうだとしたら……私たちは『裁判』にかけられているということですか?」
「裁判……面白い表現ですね」
神谷は満足そうに頷いた。
「確かに、このゲームは一種の『裁き』なのかもしれません。過去の罪を清算するための」
蒼太は頭の中で必死に記憶を辿っていた。自分が犯した「罪」とは何なのか。思い出したくないこととは何なのか。
しかし、具体的な記憶は浮かんでこなかった。まるで、意図的に封印されているかのように。
田中が突然立ち上がった。
「あ、そうそう! 一つ思い出したことがあるよ」
全員の視線が田中に向かった。
「昔、クラスメイトがいじめられてたんだ。すごくひどいいじめで、その子は毎日泣いてた」
田中の表情が、一瞬だけ変わった。笑顔の奥に、何か冷たいものが見えた気がした。
「でも、僕は助けなかった。それどころか……」
田中は言葉を止めた。そして、再び笑顔に戻る。
「でも、それくらいで『罪』って言われても困るよね。みんなそういうことの一つや二つはあるでしょ?」
田中の告白は中途半端だった。肝心な部分を隠している印象を受けた。
神谷が時計を確認した。
「そろそろ演説の準備をしなければなりませんね。今日の投票で、また一人……いえ、処刑対象が決まります」
候補者たちは解散したが、蒼太は複雑な心境だった。高橋の「罪の清算」仮説、神谷の暗示、田中の不完全な告白。すべてが絡み合って、真実の輪郭が見えそうで見えない。
演説の準備をしながら、蒼太は自分の記憶の奥深くを探っていた。封印された記憶、思い出したくない過去、そして自分がここにいる本当の理由。
午後三時の投票まで、残り時間は少なかった。
個室に戻った蒼太は、窓のない部屋で演説の内容を考えていた。今回は何を話すべきか。真実の追求を続けるのか、それとも生存を最優先に考えるのか。
その時、ドアがノックされた。
「蒼太さん、私です」
雨宮の声だった。ドアを開けると、彼女は涙を浮かべて立っていた。
「お話があります。とても重要な……」
雨宮の表情には、深刻な決意が込められていた。
「実は、私……昨夜、思い出したことがあるんです。なぜ私がここにいるのか、その理由を」
蒼太は雨宮を部屋に招き入れた。彼女の告白が、このゲームの謎を解く鍵になるかもしれない。
「昨日の演説で話した『裏切り』は、本当のことです。でも、それだけじゃないんです」
雨宮は震え声で続けた。
「その時、私が見捨てた同僚は……自殺したんです。私が助けていれば、死なずに済んだのに」
重い告白だった。雨宮の「罪」は、想像以上に深刻なものだった。
「でも、なぜ今それを?」
「神谷さんが言った通りです。私たちは『裁かれて』いるんです。過去の罪のために」
雨宮は蒼太の目を見つめた。
「蒼太さんも、きっと何か隠していることがあるはずです。思い出してください。なぜあなたがここにいるのかを」
蒼太は頭を抱えた。確かに、記憶の奥に何かがある。しかし、それが何なのかは分からない。
雨宮が立ち上がった。
「私は今日の演説で、すべてを告白するつもりです。隠し事はもうやめます」
雨宮が去った後、蒼太は一人で考え込んだ。このゲームは単なるデスゲームではない。参加者の過去に関係している。そして、自分にも隠された記憶がある。
午後二時。演説開始まで残り一時間。
蒼太は決意した。今日の演説では、記憶の探求について話そう。そして、このゲームの真相に迫ってみせる。
しかし、彼はまだ知らなかった。今日の投票結果が、更なる悲劇を生み出すことを。そして、自分の封印された記憶が、想像を絶する真実を含んでいることを。
中央ホールでは、すでに処刑台の準備が始まっていた。今回はどんな方法が選ばれるのか。昨日の斧とは違う、新たな恐怖が待ち受けている。
第二回投票まで、残り一時間。
候補者六人の運命が、間もなく決定される。
そして、その結果は、このゲームの本質をより深く露わにすることになるだろう。
蒼太は個室のベッドで目を覚ましたが、昨夜の光景が頭から離れなかった。斧が振り下ろされる瞬間、血飛沫、そして佐藤の最後の言葉。頬に付着した血液の感触は、何度顔を洗っても消えることがなかった。
スピーカーから機械音声が流れる。
「おはようございます。第二回投票フェーズ候補者の皆さん、本日の演説準備を開始してください。投票は午後三時より実施いたします」
蒼太は重い体を起こした。今日もまた、誰かが死ぬ。そして、自分がその候補者の一人だという現実に、改めて戦慄した。
個室から出ると、廊下で雨宮と遭遇した。彼女の顔は青白く、明らかに一睡もしていない様子だった。
「蒼太さん……」
雨宮の声は震えていた。
「昨夜、田中さんの部屋から笑い声が聞こえたんです。あの……あんな光景を見た後なのに」
蒼太も同じことを気にしていた。佐藤の処刑を目撃した直後、田中だけが平然としていた。他の参加者が嘔吐や失神をする中、彼は最後まで笑顔を崩さなかった。
「田中さんの正体について、少し調べてみる必要がありますね」
二人が話していると、背後から声をかけられた。
「おはよう、仲間たち!」
振り返ると、田中が相変わらずの笑顔で立っていた。昨夜の惨劇など、まるでなかったかのような明るさだった。
「今日もいい天気だね! あ、ここは地下だから天気関係ないか。ははは!」
田中の不自然なテンションに、蒼太と雨宮は言葉を失った。この男は明らかに異常だった。
「田中さん」
蒼太は慎重に言葉を選んだ。
「昨夜の……あの光景をどう思いますか?」
「どうって?」
田中は首をかしげた。
「佐藤さんが死んじゃったのは残念だけど、ルールだから仕方ないよね。それより、今日は誰が死ぬのかな? 楽しみだなー」
雨宮が息を呑んだ。人の死を「楽しみ」と表現する田中の感覚は、明らかに常軌を逸していた。
「楽しみ……ですか?」
蒼太の問いかけに、田中は屈託のない笑顔で答えた。
「だって、みんなの本性が見えるじゃない。建前とか偽善とか全部剥がれて、本当の姿が露わになる。そういうのって、すごく興味深くない?」
田中の言葉に、蒼太は背筋が寒くなった。この男は人の苦痛や恐怖を観察することに快感を覚えているのかもしれない。
その時、神谷が現れた。彼は三人の会話を聞いていたようで、興味深そうな表情を浮かべていた。
「なるほど、田中さんは心理学にご興味がおありのようですね」
「あ、神谷さん! おはようございます!」
田中は神谷に向かって手を振った。まるで友人に会ったかのような気軽さだった。
「昨夜はお疲れさまでした。処刑、上手でしたね」
田中の言葉に、神谷は微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。必要な作業でしたから」
二人の会話を聞いていて、蒼太は重要なことに気づいた。神谷と田中の間には、何らかの共通認識があるようだった。まるで、このゲームについて他の参加者よりも詳しく知っているかのような。
「神谷さん」
蒼太は割って入った。
「あなたは、このゲームの本当の目的を知っているんですか?」
神谷は少し考えてから答えた。
「本当の目的……面白い質問ですね。では、逆に聞きましょう。蒼太さんは、なぜ自分がここにいると思いますか?」
「それは……分からないから聞いているんです」
「分からない? 本当にそうでしょうか?」
神谷の視線が鋭くなった。
「もしかすると、あなたは思い出したくないことがあるのかもしれませんね。記憶というものは、都合の悪いことを忘れようとする性質がありますから」
蒼太は困惑した。神谷の言葉には、何らかの含みがあるようだった。まるで、蒼太の過去について何か知っているかのような。
雨宮が口を開いた。
「私たちは、どうして選ばれたんでしょうか? 本当にランダムなんでしょうか?」
「良い質問ですね、雨宮さん」
神谷は満足そうに頷いた。
「あなたも薄々気づいているのでしょう。自分が『選ばれた理由』があることを」
雨宮の顔が青ざめた。
「まさか……私の過去と関係があるの?」
「過去は人を縛ります。特に、隠したい過去は」
神谷の言葉に、雨宮は震え始めた。昨日の演説で告白した「裏切り」以外にも、何か隠していることがあるのかもしれない。
田中が手を叩いた。
「わあ、なんだか推理小説みたい! みんな秘密を抱えてるんだ!」
田中の反応だけが、場の緊張感とかけ離れていた。彼は本当に状況を理解しているのだろうか。
その時、スピーカーから機械音声が流れた。
「候補者の皆さん、準備時間です。各自、作戦会議を行ってください。なお、候補者同士の連携は禁止されておりません」
連携が許可されているということは、同盟を組むことも可能だということだった。しかし、最終的には一人を除いて全員が敵になる。
神谷が提案した。
「せっかくですから、候補者で情報交換をしませんか? お互いの立場を明確にしておいた方が、後々のためになるでしょう」
蒼太は警戒した。神谷の提案には必ず裏がある。しかし、断れば不審に思われる可能性もあった。
「分かりました。ただし、公平に話し合いましょう」
六人の候補者が中央ホールの一角に集まった。神谷、蒼太、雨宮香織、田中、高橋、鈴木。昨日まで二十人いた参加者のうち、生き残りをかけて戦う六人だった。
神谷が口火を切った。
「まず、現状を整理しましょう。私は前回の当選により、ある程度の影響力を持っています。しかし、今回の投票では公平に戦うつもりです」
嘘だった。神谷が公平に戦うはずがない。彼は明らかに何らかの戦略を持っている。
高橋が発言した。
「僕は前回、参加者の共通点について仮説を述べました。もしかすると、僕たちは全員、過去に何らかの『罪』を犯しているのかもしれません」
高橋の推理に、会場がざわめいた。
「どういう意味ですか?」
鈴木が質問した。
「例えば、誰かを傷つけたとか、見殺しにしたとか、隠蔽に加担したとか。そういう『負い目』を持つ人間だけが、このゲームに参加させられているのかもしれません」
高橋の仮説は的を射ているように思えた。雨宮の過去の裏切り、そして神谷が暗示した蒼太の「思い出したくないこと」。
田中が手を上げた。
「じゃあ、僕の『罪』は何だろう? 思い当たることがないなあ」
田中の言葉に、蒼太は違和感を覚えた。本当に思い当たらないのか、それとも隠しているのか。
鈴木が泣きそうな声で言った。
「私は……私は本当に何もしていません。ただの主婦です。家族のために生きているだけです」
しかし、神谷は冷ややかに微笑んだ。
「鈴木さん、『何もしていない』ということと、『罪がない』ということは、必ずしも同じではありませんよ」
「どういう意味ですか?」
「時には、『何もしなかった』ことが罪になることもあります。見て見ぬふりをしたこと、助けなかったこと、声を上げなかったこと」
神谷の指摘に、鈴木は言葉を失った。
雨宮が震え声で言った。
「もしそうだとしたら……私たちは『裁判』にかけられているということですか?」
「裁判……面白い表現ですね」
神谷は満足そうに頷いた。
「確かに、このゲームは一種の『裁き』なのかもしれません。過去の罪を清算するための」
蒼太は頭の中で必死に記憶を辿っていた。自分が犯した「罪」とは何なのか。思い出したくないこととは何なのか。
しかし、具体的な記憶は浮かんでこなかった。まるで、意図的に封印されているかのように。
田中が突然立ち上がった。
「あ、そうそう! 一つ思い出したことがあるよ」
全員の視線が田中に向かった。
「昔、クラスメイトがいじめられてたんだ。すごくひどいいじめで、その子は毎日泣いてた」
田中の表情が、一瞬だけ変わった。笑顔の奥に、何か冷たいものが見えた気がした。
「でも、僕は助けなかった。それどころか……」
田中は言葉を止めた。そして、再び笑顔に戻る。
「でも、それくらいで『罪』って言われても困るよね。みんなそういうことの一つや二つはあるでしょ?」
田中の告白は中途半端だった。肝心な部分を隠している印象を受けた。
神谷が時計を確認した。
「そろそろ演説の準備をしなければなりませんね。今日の投票で、また一人……いえ、処刑対象が決まります」
候補者たちは解散したが、蒼太は複雑な心境だった。高橋の「罪の清算」仮説、神谷の暗示、田中の不完全な告白。すべてが絡み合って、真実の輪郭が見えそうで見えない。
演説の準備をしながら、蒼太は自分の記憶の奥深くを探っていた。封印された記憶、思い出したくない過去、そして自分がここにいる本当の理由。
午後三時の投票まで、残り時間は少なかった。
個室に戻った蒼太は、窓のない部屋で演説の内容を考えていた。今回は何を話すべきか。真実の追求を続けるのか、それとも生存を最優先に考えるのか。
その時、ドアがノックされた。
「蒼太さん、私です」
雨宮の声だった。ドアを開けると、彼女は涙を浮かべて立っていた。
「お話があります。とても重要な……」
雨宮の表情には、深刻な決意が込められていた。
「実は、私……昨夜、思い出したことがあるんです。なぜ私がここにいるのか、その理由を」
蒼太は雨宮を部屋に招き入れた。彼女の告白が、このゲームの謎を解く鍵になるかもしれない。
「昨日の演説で話した『裏切り』は、本当のことです。でも、それだけじゃないんです」
雨宮は震え声で続けた。
「その時、私が見捨てた同僚は……自殺したんです。私が助けていれば、死なずに済んだのに」
重い告白だった。雨宮の「罪」は、想像以上に深刻なものだった。
「でも、なぜ今それを?」
「神谷さんが言った通りです。私たちは『裁かれて』いるんです。過去の罪のために」
雨宮は蒼太の目を見つめた。
「蒼太さんも、きっと何か隠していることがあるはずです。思い出してください。なぜあなたがここにいるのかを」
蒼太は頭を抱えた。確かに、記憶の奥に何かがある。しかし、それが何なのかは分からない。
雨宮が立ち上がった。
「私は今日の演説で、すべてを告白するつもりです。隠し事はもうやめます」
雨宮が去った後、蒼太は一人で考え込んだ。このゲームは単なるデスゲームではない。参加者の過去に関係している。そして、自分にも隠された記憶がある。
午後二時。演説開始まで残り一時間。
蒼太は決意した。今日の演説では、記憶の探求について話そう。そして、このゲームの真相に迫ってみせる。
しかし、彼はまだ知らなかった。今日の投票結果が、更なる悲劇を生み出すことを。そして、自分の封印された記憶が、想像を絶する真実を含んでいることを。
中央ホールでは、すでに処刑台の準備が始まっていた。今回はどんな方法が選ばれるのか。昨日の斧とは違う、新たな恐怖が待ち受けている。
第二回投票まで、残り一時間。
候補者六人の運命が、間もなく決定される。
そして、その結果は、このゲームの本質をより深く露わにすることになるだろう。
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