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第5章「真実の代償」
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午後三時。中央ホールに参加者全員が集められた。
昨日と同じ演壇が設置されているが、今日は雰囲気が違っていた。佐藤の処刑を目撃した参加者たちの表情には、明確な恐怖と絶望が刻まれている。もはや、これがゲームではないことを全員が理解していた。
処刑台も昨日とは異なっていた。今回設置されているのは、電気椅子と注射台、そして見たこともない複雑な機械装置だった。処刑方法が毎回変わるという残酷なシステムに、参加者たちは身震いしていた。
「第二回投票フェーズを開始いたします。各候補者による演説を行っていただきます」
機械音声が響く中、蒼太は自分の順番を待っていた。今日は何を話すべきか、まだ完全には決まっていなかった。
「第一番目、神谷様」
神谷が立ち上がった。彼の動作には昨日と変わらない自信があったが、表情にはより深い満足感が浮かんでいた。
演壇に立った神谷は、聴衆を見回してから口を開いた。
「皆さん、昨日は貴重な体験をしていただきました。あれが現実です。あれが、選択の結果です」
参加者たちの間に緊張が走った。神谷は処刑について、まるで教育的イベントだったかのように語っている。
「私が申し上げたいのは、この状況において最も重要なのは『秩序』だということです。感情に流されず、合理的な判断を下すこと。それが生存への道です」
神谷の論理は一貫していたが、その冷酷さに多くの参加者が嫌悪感を示していた。
「前回、私は皆さんの信任を得て当選いたしました。今回も、私に投票していただければ、必要な決断を躊躇なく実行いたします」
最後の言葉には、明確な脅迫の意味が込められていた。神谷に投票しなければ、次の処刑対象になる可能性があるという暗示だった。
「第二番目、蒼太様」
自分の名前が呼ばれ、蒼太は立ち上がった。演壇に向かいながら、彼は心の中で最終的な決断を下していた。
スポットライトの下で、蒼太は深呼吸してから話し始めた。
「僕は今日、皆さんに正直に話したいことがあります。このゲームの本当の意味について」
会場がざわめいた。蒼太の出だしは、前回よりもより直接的だった。
「高橋さんが昨日仮説を述べられました。僕たちは皆、過去に何らかの『罪』を犯している。だから、ここに集められたのではないか、と」
蒼太は神谷の方を見た。神谷は興味深そうに微笑んでいた。
「僕は自分の記憶を探ってみました。確かに、思い出したくない何かがある。でも、それが何なのかは分からない。まるで、意図的に封印されているかのように」
参加者たちの表情が変わった。多くの人が、同じような体験をしているようだった。
「もしこのゲームが『裁判』だとすれば、僕たちには『弁護』の権利があるはずです。自分の行為について説明し、反省し、償いの意思を示す権利が」
蒼太の言葉に、何人かの参加者が頷いた。
「僕に投票してくださる方がいるとすれば、それは真実を知りたいと思っている方だと信じています。一緒に、このゲームの謎を解きましょう」
演説を終えた蒼太は、会場の反応を見回した。神谷は相変わらず微笑んでいたが、その笑みには少し違和感があった。
「第三番目、雨宮香織様」
雨宮が立ち上がった。彼女の表情には、強い決意が込められていた。昨日蒼太に語った通り、すべてを告白するつもりのようだった。
演壇に立った雨宮は、しばらく沈黙していた。そして、震え声で話し始めた。
「私は……私は人を殺しました」
会場に衝撃が走った。直接的すぎる告白に、参加者たちが息を呑んだ。
「直接手を下したわけではありません。でも、私の行為が原因で、一人の人間が死にました」
雨宮の涙が頬を伝った。
「私は同僚を裏切りました。彼女が私を信頼してくれていたのに、自分の保身のために見捨てました。その結果、彼女は職を失い、家族も離散し、最終的に自殺してしまいました」
告白の重さに、会場が静まり返った。
「私はその罪を背負って生きてきました。でも、ここに来て分かったんです。私は罰を受けるためにここにいるんだと」
雨宮は顔を上げた。
「もし皆さんが私を選ぶなら、それは正当な裁きです。私は受け入れます。でも、もし私が生き残るなら、その人の分まで生きて、償い続けます」
雨宮の演説は、会場に深い感動を与えていた。多くの参加者が涙を流していた。
「第四番目、田中様」
田中が立ち上がった。相変わらずの笑顔だったが、今日は少し様子が違っていた。
演壇に立った田中は、いつものテンションを抑えて話し始めた。
「みんな、重い話をしてるね。僕も少し真面目に話してみようかな」
田中の口調が変わったことに、蒼太は注意を向けた。
「昔、クラスにいじめられてる子がいたって話をしたよね。実は、その続きがあるんだ」
田中の表情から笑顔が消えた。
「僕は助けなかっただけじゃない。僕も一緒に……いじめてたんだ」
会場がざわめいた。
「最初は見てるだけだった。でも、だんだんエスカレートして、最後は僕が一番ひどいことをしてた」
田中の告白に、参加者たちは戦慄した。
「その子は転校していったけど、その後どうなったかは知らない。でも、きっと傷ついてると思う」
田中は再び笑顔に戻った。しかし、その笑顔には狂気が混じっていた。
「でも、今思うと楽しかったなあ。人をいじめるのって、すごく気持ちいいんだよね。相手が泣いたり苦しんだりするのを見てると、なんか興奮しちゃって」
田中の言葉に、会場が凍りついた。この男は明らかに異常だった。
「だから、このゲームも楽しいんだ。みんなが苦しんでる顔を見れるから」
田中の本性が露わになった瞬間だった。彼は単なる狂人ではなく、他人の苦痛を楽しむサディストだった。
「第五番目、高橋様」
高橋が立ち上がった。田中の告白の後で、彼の表情には深い嫌悪感が浮かんでいた。
演壇に立った高橋は、冷静に話し始めた。
「田中さんの告白を聞いて、確信しました。僕たちは確実に、過去の罪によって選ばれています」
高橋の分析的な口調に、参加者たちは注意を向けた。
「僕の『罪』は、見て見ぬふりをしたことです。大学時代、研究室で不正が行われているのを知っていましたが、告発しませんでした」
高橋の告白は、雨宮ほど深刻ではないが、確実に「罪」と呼べるものだった。
「その結果、多くの学生が不正な評価を受けました。僕は保身を選んだんです」
高橋は会場を見回した。
「でも、僕はここから生きて帰って、真実を明らかにしたいと思います。このゲームの目的と、僕たちを選んだ基準を」
高橋の演説には、研究者らしい探究心が込められていた。
「第六番目、鈴木様」
最後に鈴木が立ち上がった。彼女の顔は涙で濡れており、明らかに動揺していた。
演壇に立った鈴木は、しばらく言葉が出なかった。そして、ついに口を開いた。
「私には……私には確かに罪があります」
鈴木の声は震えていた。
「十年前、マンションの隣に住んでいた老人が助けを求めていました。病気で動けなくて、何度も壁を叩いて助けを呼んでいました」
鈴木の告白に、会場が静まった。
「でも、私は無視しました。関わりたくなかったんです。面倒だったんです」
鈴木は嗚咽を漏らした。
「その老人は、三日後に亡くなりました。もし私が助けていれば、救えたかもしれないのに」
鈴木の罪は、「何もしなかった罪」だった。神谷が示唆していた通りだった。
「私は家族のために生きたいです。でも、その老人のことは一生忘れません」
全ての演説が終わると、会場に重い沈黙が流れた。六人全員が、何らかの「罪」を抱えていることが明らかになった。
スピーカーから機械音声が流れた。
「演説、終了いたします。これより投票を開始いたします」
参加者たちは投票ブースに向かった。今回の投票は、前回以上に重い意味を持っていた。単なる生存競争ではなく、「罪の重さ」を判断する投票だった。
蒼太は投票ブースで悩んでいた。田中の異常性は明らかだった。しかし、他の候補者たちも皆、何らかの罪を背負っている。
誰が最も重い罪を犯したのか。誰が最も死に値するのか。そんな判断を下すことの重さに、蒼太は押し潰されそうになった。
投票を終えた参加者たちは、再び中央ホールに集まった。開票結果の発表を待つ間、誰もが緊張していた。
スクリーンが点灯し、結果が表示された。
【第二回投票結果】
【1位:雨宮香織(12) - 7票】
【2位:高橋(04) - 5票】
【3位:蒼太(07) - 3票】
【4位:鈴木(18) - 2票】
【5位:神谷(01) - 2票】
【6位:田中(15) - 0票】
結果に、会場が騒然となった。
最も票を集めたのは雨宮だった。彼女の真摯な告白が、多くの参加者の心を動かしたのだ。
そして、最下位は田中だった。異常性を露わにした彼に、誰も票を入れなかったのだ。
雨宮は当選の知らせに、複雑な表情を浮かべた。生き残ったことへの安堵と、処刑を実行しなければならない重責の両方を感じているようだった。
田中は処刑対象になったにも関わらず、相変わらず笑っていた。
「やったね! 僕が選ばれた! みんな、僕のことをちゃんと理解してくれたんだ!」
田中の反応に、参加者たちは困惑した。処刑されることを喜んでいるのか、それとも本当に状況を理解していないのか。
機械音声が響いた。
「田中様が処刑対象に決定いたします。雨宮香織様が処刑執行者となります」
雨宮の顔が青ざめた。
「私が……処刑を?」
「はい。当選者の義務です」
雨宮は震えながら立ち上がった。昨日の神谷とは対照的に、彼女には処刑を行う覚悟がなかった。
田中が雨宮に近づいた。
「雨宮さん、頑張って! 僕を上手に殺してね!」
田中の言葉に、雨宮は涙を流した。
「なぜ……なぜあなたはそんなに平気なの?」
「だって、楽しいからだよ。みんなが苦しんでる顔を見れるし、雨宮さんが僕を殺すところも見れる。最高じゃない?」
田中の狂気に、参加者たちは言葉を失った。
処刑台に案内される田中は、最後まで笑顔を崩さなかった。まるで、これから楽しいイベントが始まるかのような様子だった。
雨宮は職員から処刑器具を渡された。今回は、致死性の注射だった。比較的人道的な方法だったが、それでも人の命を奪うことに変わりはない。
「雨宮さん、急いで! 早く僕を殺して!」
田中の催促に、雨宮の手が震えた。注射器を持つ手に力が入らない。
「できません……私には……」
雨宮が躊躇していると、機械音声が警告した。
「処刑の遅延は認められません。一分以内に実行してください」
制限時間が迫る中、雨宮は必死に自分を奮い立たせようとした。しかし、どうしても手が動かない。
その時、田中が言った。
「雨宮さん、君が殺した同僚のことを思い出してよ。君は既に人殺しなんだから、今更一人増えても同じでしょ?」
田中の言葉が、雨宮の心を深く傷つけた。彼は最後まで、他人を苦しめることを楽しんでいた。
雨宮は涙を流しながら、注射器を田中の腕に刺した。
「ありがとう、雨宮さん。君も立派な殺人者になったね」
田中の最後の言葉と共に、薬液が注入された。彼は最期まで笑顔を保ったまま、ゆっくりと意識を失っていった。
処刑が完了すると、雨宮はその場に崩れ落ちた。彼女の精神は、完全に破綻寸前だった。
参加者たちは、また一つの命が失われた現実を受け入れなければならなかった。田中という異常者は排除されたが、その代償として雨宮の心が壊れてしまった。
機械音声が響いた。
「処刑、完了いたします。現在の参加者数は十八名です」
蒼太は雨宮を支えながら、このゲームの残酷さを改めて実感していた。勝者にも敗者にも、等しく苦痛が与えられる。それが、このシステムの本質だった。
そして、まだ十八人も残っている。この地獄は、まだまだ続くのだ。
田中の死体が運ばれていく中、蒼太は自分の封印された記憶について考えていた。他の参加者たちが自分の罪を告白したのに、自分だけが思い出せない。
その記憶には、どんな恐ろしい真実が隠されているのだろうか。
第三回選挙まで、また新たな一日が始まろうとしていた。
昨日と同じ演壇が設置されているが、今日は雰囲気が違っていた。佐藤の処刑を目撃した参加者たちの表情には、明確な恐怖と絶望が刻まれている。もはや、これがゲームではないことを全員が理解していた。
処刑台も昨日とは異なっていた。今回設置されているのは、電気椅子と注射台、そして見たこともない複雑な機械装置だった。処刑方法が毎回変わるという残酷なシステムに、参加者たちは身震いしていた。
「第二回投票フェーズを開始いたします。各候補者による演説を行っていただきます」
機械音声が響く中、蒼太は自分の順番を待っていた。今日は何を話すべきか、まだ完全には決まっていなかった。
「第一番目、神谷様」
神谷が立ち上がった。彼の動作には昨日と変わらない自信があったが、表情にはより深い満足感が浮かんでいた。
演壇に立った神谷は、聴衆を見回してから口を開いた。
「皆さん、昨日は貴重な体験をしていただきました。あれが現実です。あれが、選択の結果です」
参加者たちの間に緊張が走った。神谷は処刑について、まるで教育的イベントだったかのように語っている。
「私が申し上げたいのは、この状況において最も重要なのは『秩序』だということです。感情に流されず、合理的な判断を下すこと。それが生存への道です」
神谷の論理は一貫していたが、その冷酷さに多くの参加者が嫌悪感を示していた。
「前回、私は皆さんの信任を得て当選いたしました。今回も、私に投票していただければ、必要な決断を躊躇なく実行いたします」
最後の言葉には、明確な脅迫の意味が込められていた。神谷に投票しなければ、次の処刑対象になる可能性があるという暗示だった。
「第二番目、蒼太様」
自分の名前が呼ばれ、蒼太は立ち上がった。演壇に向かいながら、彼は心の中で最終的な決断を下していた。
スポットライトの下で、蒼太は深呼吸してから話し始めた。
「僕は今日、皆さんに正直に話したいことがあります。このゲームの本当の意味について」
会場がざわめいた。蒼太の出だしは、前回よりもより直接的だった。
「高橋さんが昨日仮説を述べられました。僕たちは皆、過去に何らかの『罪』を犯している。だから、ここに集められたのではないか、と」
蒼太は神谷の方を見た。神谷は興味深そうに微笑んでいた。
「僕は自分の記憶を探ってみました。確かに、思い出したくない何かがある。でも、それが何なのかは分からない。まるで、意図的に封印されているかのように」
参加者たちの表情が変わった。多くの人が、同じような体験をしているようだった。
「もしこのゲームが『裁判』だとすれば、僕たちには『弁護』の権利があるはずです。自分の行為について説明し、反省し、償いの意思を示す権利が」
蒼太の言葉に、何人かの参加者が頷いた。
「僕に投票してくださる方がいるとすれば、それは真実を知りたいと思っている方だと信じています。一緒に、このゲームの謎を解きましょう」
演説を終えた蒼太は、会場の反応を見回した。神谷は相変わらず微笑んでいたが、その笑みには少し違和感があった。
「第三番目、雨宮香織様」
雨宮が立ち上がった。彼女の表情には、強い決意が込められていた。昨日蒼太に語った通り、すべてを告白するつもりのようだった。
演壇に立った雨宮は、しばらく沈黙していた。そして、震え声で話し始めた。
「私は……私は人を殺しました」
会場に衝撃が走った。直接的すぎる告白に、参加者たちが息を呑んだ。
「直接手を下したわけではありません。でも、私の行為が原因で、一人の人間が死にました」
雨宮の涙が頬を伝った。
「私は同僚を裏切りました。彼女が私を信頼してくれていたのに、自分の保身のために見捨てました。その結果、彼女は職を失い、家族も離散し、最終的に自殺してしまいました」
告白の重さに、会場が静まり返った。
「私はその罪を背負って生きてきました。でも、ここに来て分かったんです。私は罰を受けるためにここにいるんだと」
雨宮は顔を上げた。
「もし皆さんが私を選ぶなら、それは正当な裁きです。私は受け入れます。でも、もし私が生き残るなら、その人の分まで生きて、償い続けます」
雨宮の演説は、会場に深い感動を与えていた。多くの参加者が涙を流していた。
「第四番目、田中様」
田中が立ち上がった。相変わらずの笑顔だったが、今日は少し様子が違っていた。
演壇に立った田中は、いつものテンションを抑えて話し始めた。
「みんな、重い話をしてるね。僕も少し真面目に話してみようかな」
田中の口調が変わったことに、蒼太は注意を向けた。
「昔、クラスにいじめられてる子がいたって話をしたよね。実は、その続きがあるんだ」
田中の表情から笑顔が消えた。
「僕は助けなかっただけじゃない。僕も一緒に……いじめてたんだ」
会場がざわめいた。
「最初は見てるだけだった。でも、だんだんエスカレートして、最後は僕が一番ひどいことをしてた」
田中の告白に、参加者たちは戦慄した。
「その子は転校していったけど、その後どうなったかは知らない。でも、きっと傷ついてると思う」
田中は再び笑顔に戻った。しかし、その笑顔には狂気が混じっていた。
「でも、今思うと楽しかったなあ。人をいじめるのって、すごく気持ちいいんだよね。相手が泣いたり苦しんだりするのを見てると、なんか興奮しちゃって」
田中の言葉に、会場が凍りついた。この男は明らかに異常だった。
「だから、このゲームも楽しいんだ。みんなが苦しんでる顔を見れるから」
田中の本性が露わになった瞬間だった。彼は単なる狂人ではなく、他人の苦痛を楽しむサディストだった。
「第五番目、高橋様」
高橋が立ち上がった。田中の告白の後で、彼の表情には深い嫌悪感が浮かんでいた。
演壇に立った高橋は、冷静に話し始めた。
「田中さんの告白を聞いて、確信しました。僕たちは確実に、過去の罪によって選ばれています」
高橋の分析的な口調に、参加者たちは注意を向けた。
「僕の『罪』は、見て見ぬふりをしたことです。大学時代、研究室で不正が行われているのを知っていましたが、告発しませんでした」
高橋の告白は、雨宮ほど深刻ではないが、確実に「罪」と呼べるものだった。
「その結果、多くの学生が不正な評価を受けました。僕は保身を選んだんです」
高橋は会場を見回した。
「でも、僕はここから生きて帰って、真実を明らかにしたいと思います。このゲームの目的と、僕たちを選んだ基準を」
高橋の演説には、研究者らしい探究心が込められていた。
「第六番目、鈴木様」
最後に鈴木が立ち上がった。彼女の顔は涙で濡れており、明らかに動揺していた。
演壇に立った鈴木は、しばらく言葉が出なかった。そして、ついに口を開いた。
「私には……私には確かに罪があります」
鈴木の声は震えていた。
「十年前、マンションの隣に住んでいた老人が助けを求めていました。病気で動けなくて、何度も壁を叩いて助けを呼んでいました」
鈴木の告白に、会場が静まった。
「でも、私は無視しました。関わりたくなかったんです。面倒だったんです」
鈴木は嗚咽を漏らした。
「その老人は、三日後に亡くなりました。もし私が助けていれば、救えたかもしれないのに」
鈴木の罪は、「何もしなかった罪」だった。神谷が示唆していた通りだった。
「私は家族のために生きたいです。でも、その老人のことは一生忘れません」
全ての演説が終わると、会場に重い沈黙が流れた。六人全員が、何らかの「罪」を抱えていることが明らかになった。
スピーカーから機械音声が流れた。
「演説、終了いたします。これより投票を開始いたします」
参加者たちは投票ブースに向かった。今回の投票は、前回以上に重い意味を持っていた。単なる生存競争ではなく、「罪の重さ」を判断する投票だった。
蒼太は投票ブースで悩んでいた。田中の異常性は明らかだった。しかし、他の候補者たちも皆、何らかの罪を背負っている。
誰が最も重い罪を犯したのか。誰が最も死に値するのか。そんな判断を下すことの重さに、蒼太は押し潰されそうになった。
投票を終えた参加者たちは、再び中央ホールに集まった。開票結果の発表を待つ間、誰もが緊張していた。
スクリーンが点灯し、結果が表示された。
【第二回投票結果】
【1位:雨宮香織(12) - 7票】
【2位:高橋(04) - 5票】
【3位:蒼太(07) - 3票】
【4位:鈴木(18) - 2票】
【5位:神谷(01) - 2票】
【6位:田中(15) - 0票】
結果に、会場が騒然となった。
最も票を集めたのは雨宮だった。彼女の真摯な告白が、多くの参加者の心を動かしたのだ。
そして、最下位は田中だった。異常性を露わにした彼に、誰も票を入れなかったのだ。
雨宮は当選の知らせに、複雑な表情を浮かべた。生き残ったことへの安堵と、処刑を実行しなければならない重責の両方を感じているようだった。
田中は処刑対象になったにも関わらず、相変わらず笑っていた。
「やったね! 僕が選ばれた! みんな、僕のことをちゃんと理解してくれたんだ!」
田中の反応に、参加者たちは困惑した。処刑されることを喜んでいるのか、それとも本当に状況を理解していないのか。
機械音声が響いた。
「田中様が処刑対象に決定いたします。雨宮香織様が処刑執行者となります」
雨宮の顔が青ざめた。
「私が……処刑を?」
「はい。当選者の義務です」
雨宮は震えながら立ち上がった。昨日の神谷とは対照的に、彼女には処刑を行う覚悟がなかった。
田中が雨宮に近づいた。
「雨宮さん、頑張って! 僕を上手に殺してね!」
田中の言葉に、雨宮は涙を流した。
「なぜ……なぜあなたはそんなに平気なの?」
「だって、楽しいからだよ。みんなが苦しんでる顔を見れるし、雨宮さんが僕を殺すところも見れる。最高じゃない?」
田中の狂気に、参加者たちは言葉を失った。
処刑台に案内される田中は、最後まで笑顔を崩さなかった。まるで、これから楽しいイベントが始まるかのような様子だった。
雨宮は職員から処刑器具を渡された。今回は、致死性の注射だった。比較的人道的な方法だったが、それでも人の命を奪うことに変わりはない。
「雨宮さん、急いで! 早く僕を殺して!」
田中の催促に、雨宮の手が震えた。注射器を持つ手に力が入らない。
「できません……私には……」
雨宮が躊躇していると、機械音声が警告した。
「処刑の遅延は認められません。一分以内に実行してください」
制限時間が迫る中、雨宮は必死に自分を奮い立たせようとした。しかし、どうしても手が動かない。
その時、田中が言った。
「雨宮さん、君が殺した同僚のことを思い出してよ。君は既に人殺しなんだから、今更一人増えても同じでしょ?」
田中の言葉が、雨宮の心を深く傷つけた。彼は最後まで、他人を苦しめることを楽しんでいた。
雨宮は涙を流しながら、注射器を田中の腕に刺した。
「ありがとう、雨宮さん。君も立派な殺人者になったね」
田中の最後の言葉と共に、薬液が注入された。彼は最期まで笑顔を保ったまま、ゆっくりと意識を失っていった。
処刑が完了すると、雨宮はその場に崩れ落ちた。彼女の精神は、完全に破綻寸前だった。
参加者たちは、また一つの命が失われた現実を受け入れなければならなかった。田中という異常者は排除されたが、その代償として雨宮の心が壊れてしまった。
機械音声が響いた。
「処刑、完了いたします。現在の参加者数は十八名です」
蒼太は雨宮を支えながら、このゲームの残酷さを改めて実感していた。勝者にも敗者にも、等しく苦痛が与えられる。それが、このシステムの本質だった。
そして、まだ十八人も残っている。この地獄は、まだまだ続くのだ。
田中の死体が運ばれていく中、蒼太は自分の封印された記憶について考えていた。他の参加者たちが自分の罪を告白したのに、自分だけが思い出せない。
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