1話5分でゾッと出来る話。短編ホラー集。短編怖い話は、そこにある

みにぶた🐽

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第66話:「白い指の収集」怖さ:☆☆☆☆☆

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 ペットの骨を川に流したのは、三ヶ月前のことだった。

 愛犬のポチが十二歳で亡くなった時、私は深く悲しんだ。火葬した後の骨を骨壷に入れることができず、せめて自然に帰してあげたいと思い、近所の川に流した。

 違法行為だったが、ポチが生前よく散歩していた川だった。きっとここで安らかに眠ってくれるだろうと信じていた。

 しかし、その夜から奇妙なことが起こり始めた。

 夜中に川辺を散歩していると、水面に白いものが浮かんでいる。最初は流木かと思ったが、よく見ると指のような形をしていた。

 人間の指だった。

 慌てて警察に通報しようとしたが、もう一度確認しようと思って川を見ると、もう何もなかった。見間違いだったのかもしれない。

 翌夜も同じ場所を通りかかると、また白い指が浮かんでいた。今度は二本。

 三日目は三本。四日目は四本。

 毎晩、指の数が一本ずつ増えていく。

 一週間後、とうとう十本の指が川面に浮かんでいた。まるで誰かの両手が水中から突き出ているかのように。

 しかし近づいてみると、それらはバラバラの指だった。大きさも太さも違う。子供のものから大人のものまで、様々な指が集まっている。

 恐る恐る川岸に降りてみると、指の一本が私の方を向いた。まるで意思を持っているかのように。

「お帰りなさい」

 声が聞こえた。指から発せられた声だった。

「やっと、あなたが来てくれた」

「誰なの?」

「私たちは、この川で死んだ者たち」

 別の指が話し始めた。

「事故で死んだ者、自殺した者、殺された者。みんな、この川に沈んだ」

「でも、なぜ指だけが」

「あなたが流したペットの骨が、私たちを呼び覚ましたの」

 一番小さな指、子供のものらしい指が答えた。

「その骨は、死者と生者を繋ぐ鍵となった。だから私たちは、少しずつ浮上することができるようになった」

 私は後ずさりした。

「ポチの骨がそんなことを」

「そのペットは、とても純粋な魂を持っていた」

 太い指、男性のものと思われる指が言った。

「だから、その骨は強力な霊的エネルギーを持っている。私たちは、そのエネルギーを借りて、少しずつ復活している」

「復活って」

「最初は指だけ。でも毎日少しずつ、他の部分も現れる」

 女性のものらしい細い指が続けた。

「明日は手首が現れる。その次は腕。そして最後には、私たちの全身が蘇る」

 恐怖で足がすくんだ。

「そして、あなたには感謝しなければならない」

 指たちが一斉に私の方を向いた。

「あなたのおかげで、私たちは生き返ることができる」

「でも、ただでは済まない」

 突然、指の一本が水面から飛び出して、私の足首に絡みついた。

 冷たくて湿った感触。まるで生きているかのように、指が私の足を掴んでいる。

「何をするの」

「あなたも、私たちの仲間になるのよ」

 別の指も水から飛び出して、私の手首に絡みつく。

「私たちを蘇らせた責任を取ってもらう」

「そんな、私はただポチを弔っただけ」

「でも結果として、私たちを呼び起こした」

 次々と指が私の体に絡みついてくる。腕、足、首。まるで生きた手錠のように。

「あなたの生命力を分けてもらう。そうすれば、私たちは完全に蘇ることができる」

 私は必死に抵抗したが、指の力は予想以上に強かった。まるで十人分の人間に掴まれているようで、身動きが取れない。

「助けて」

 叫んだ瞬間、どこからか犬の鳴き声が聞こえた。

「ワン、ワン」

 ポチの声だった。

 川の向こう岸に、白い犬の影が見えた。ポチが立っている。

「ポチ」

 ポチは私を見つめて、悲しそうに鳴いた。そして川に向かって吠えた。

 すると、指たちの動きが止まった。

「この犬は」

「そう、その骨の持ち主」

 指たちがざわめき始めた。

「犬が怒っている。自分の骨を悪用されることに」

 ポチは再び吠えた。今度はもっと大きな声で。

 その瞬間、指たちが次々と川に落ちていく。まるでポチの声に驚いたかのように。

「待って、まだ復活していないのに」

「犬の霊力の方が強い。純粋な愛情で結ばれた絆は、私たちの怨念より強力だ」

 最後の指も私から離れて、川に沈んでいく。

「でも、諦めない。いつか必ず」

 指たちの声は水中に消えた。

 私は川岸に座り込んだ。ポチが私の元に走ってきて、昔のように私の膝に顔を乗せた。

「ポチ、ありがとう」

 ポチは舌で私の手を舐めた。温かい感触だった。

「でも、あなたも成仏しなきゃいけないのよね」

 ポチは首を振った。まるで「まだ大丈夫」と言っているかのように。

 その時、川面を見ると、また白いものが浮かんでいた。

 今度は指ではなく、骨だった。ポチの骨が、一つずつ浮上してきている。

「あなたの骨、回収しなきゃ」

 私は川に入って、ポチの骨を一つずつ拾い集めた。冷たい川の水に足を取られそうになりながら、十二年間一緒に過ごした愛犬の骨を取り戻した。

 全ての骨を回収した時、ポチの姿が薄くなっていた。

「さよなら、ポチ」

 ポチは最後に一度だけ尻尾を振って、光の中に消えていった。

 家に帰って、ポチの骨を正式に骨壷に納めた。今度こそ、ちゃんとお墓を作ってあげよう。

 その夜から、川に白い指が現れることはなくなった。

 しかし、私は知っている。

 あの指たちは、まだ川の底に沈んでいる。別の機会を狙って、復活の時を待っている。

 そしていつか、また誰かがペットの骨を川に流した時、彼らは再び現れるだろう。

 今度は、私のような守ってくれる存在がない状態で。

 私は毎晩、その川を見回りに行くことにした。もし再び白い指が現れたら、すぐに対処するために。

 ポチはもういないが、ポチが残してくれた使命がある。

 死者たちの復活を阻止すること。

 それが、愛犬への最後の恩返しだから。

 でも時々、恐ろしいことを考える。

 もし私が死んだら、誰がこの川を見守るのだろう。

 そして、私自身が川に沈む死者になったら、私もあの指たちの仲間になってしまうのだろうか。

 その答えは、まだわからない。

 ただ、今は生きている限り、この川を見守り続けるだけ。

 愛犬ポチの魂と一緒に。
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