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第68話:「見えない観察者」怖さ:☆☆☆☆☆
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防犯カメラに映らない誰かが、私を見ている。
最初にそれに気づいたのは、コンビニで買い物をしている時だった。レジで会計を済ませながら、なんとなく店内の防犯カメラのモニターを見ると、画面に私の姿は映っていない。
店員と商品だけが映っていて、私だけが透明人間のように消えていた。
「すみません、このモニター壊れてませんか?」
店員に聞いてみたが、彼は首をかしげて画面を見た。
「いえ、普通に映ってますよ。お客さん、ここにちゃんと」
店員の指差す画面には、確かに私が映っていた。しかし、私から見ると私は見えない。
奇妙だったが、きっと見る角度の問題だろうと思って、そのまま店を出た。
しかし、帰り道でも同じことが起こった。
街角の防犯カメラ、駅の監視カメラ、エレベーターの中のカメラ。どれを見ても、私の姿だけが映っていない。
他の人たちは普通に映っているのに、私だけが消えている。
家に帰ってインターネットで調べてみたが、同じような現象を報告している人は見つからなかった。
翌日、会社の防犯カメラでも同じことが確認できた。エントランスのモニターを見ると、出入りする社員たちは映っているが、私だけが映らない。
しかし、同僚に聞いてみると、「普通に映ってるじゃないですか」と言われる。
私にだけ、私が見えない。
三日目、さらに奇妙なことが起こった。
防犯カメラの映像を見ていると、私がいるはずの場所で、何かが動いている。私は見えないが、私の影だけが映っている。
そして、その影の動きが、私の動きと完全に一致していない。
私が右手を上げても、影は左手を上げる。私が前に歩いても、影は後ろに歩く。
まるで鏡に映った映像のように、左右が反転している。
一週間後、職場の警備員から連絡があった。
「川島さん、ちょっと来てください」
警備室に呼ばれて、複数のモニターを見せられた。
「これ、見てください」
画面には、昨夜の会社の廊下が映っている。夜間で誰もいないはずの廊下を、人影が歩いている。
「この人影、誰だかわかりますか?」
私は息を呑んだ。その人影は、確かに私の形をしていた。私の服装、私の歩き方。しかし、私は昨夜、会社にはいなかった。
「これは、いつの映像ですか?」
「昨夜の午前二時頃です。川島さん、残業してましたか?」
「いえ、家で寝てました」
警備員は困った顔をした。
「でも、これは確実に川島さんですよね。歩き方とか、癖とか、全部一致してます」
私は否定したかったが、映像の人物は間違いなく私だった。私が知らない間に、私がここを歩いていた。
その夜、私は実験してみることにした。
寝る前に、部屋の隅に置いたウェブカメラで自分を撮影してみる。朝起きて映像を確認すれば、何か分かるかもしれない。
翌朝、録画された映像を見て愕然とした。
画面には、私のベッドが映っている。しかし、私は映っていない。ベッドが誰かの体重で凹んでいるのに、その誰かは見えない。
そして午前二時頃、透明な何かがベッドから起き上がった。
部屋の中を歩き回り、窓の外を見て、やがて部屋を出ていく。ドアが勝手に開いて、見えない誰かが外に出ていく。
一時間後、その見えない誰かが戻ってきて、再びベッドに横になった。
私は震え上がった。私が眠っている間に、私の体が勝手に動き回っているのだ。
その日の昼、同僚から奇妙な話を聞いた。
「川島さん、昨夜うちの近所歩いてませんでした?」
「え?」
「午前二時頃、犬の散歩してたら、川島さんそっくりの人が歩いてて。声をかけようと思ったんですけど、なんか雰囲気が違ったんで」
「雰囲気?」
「なんていうか、生気がないっていうか。ぼーっとした感じで歩いてて」
私の血の気が引いた。私の体は、私が知らない間に夜中の街を徘徊している。
その夜、私は眠らずに様子を見ることにした。ベッドに横になったまま、意識を保ち続ける。
午前二時になると、異変が起こった。
私の体が勝手に動き始めた。私の意識は清醒なのに、手足が私の意思とは関係なく動いている。
体が起き上がり、歩き始める。私は自分の体を操縦できない。まるで、別の誰かが私の体を遠隔操作しているかのように。
玄関に向かい、靴を履いて外に出る。すべて私の意思ではなく、体が勝手に行動している。
街を歩いていると、同じような人たちに出会った。
みんな、ぼんやりとした表情で歩いている。目は開いているが、焦点が合っていない。まるで夢遊病のように。
そして気づいた。彼らも私と同じだ。意識はあるが、体を操縦できない。
私たちは皆、何者かに操られている。
その時、頭の中に声が響いた。
「おはよう、被験者たち」
男性の声だった。どこからともなく聞こえてくる。
「君たちは選ばれた人間だ。我々の実験に協力してもらっている」
「実験って何のことだ」
私は心の中で叫んだ。すると、声が答えた。
「人間の行動制御実験だ。君たちの脳に極小のチップが埋め込まれている」
「チップ?」
「睡眠中の人間の行動を、遠隔操作で制御する技術の開発だ」
「そんな、いつの間に」
「数ヶ月前、君たちが受けた予防接種の中に、チップが含まれていた」
思い返してみると、確かに三ヶ月前にインフルエンザの予防接種を受けた。あの時にチップを埋め込まれたのか。
「なぜ防犯カメラに映らないんだ」
「君たちの姿は映っている。しかし、君たちの脳にはそれが見えないようにプログラムされている。実験の存在を隠すためだ」
つまり、私の視覚が操作されていたのだ。実際には防犯カメラに映っているのに、私の脳がそれを認識しないようにされていた。
「君たちは毎晩、我々の指示通りに行動している。データ収集のために」
「やめろ、体を返せ」
「残念だが、それはできない。君たちは貴重な実験材料だ」
私たちは操られたまま、街中を歩き続けた。他の実験対象者たちと合流し、何かの行動パターンを実行している。
一時間後、再び家に戻された。ベッドに横になり、意識を失った。
翌朝、私は正常に目を覚ました。しかし、昨夜の記憶は曖昧だった。夢だったのかもしれない。
しかし、靴の裏に付いた泥が、昨夜の出来事が現実だったことを証明していた。
私は警察に相談しようと思ったが、証拠がない。誰にも信じてもらえないだろう。
それに、もし本当にチップが埋め込まれているなら、私の行動も監視されているはずだ。
私は諦めるしかなかった。
毎晩、私の体は勝手に外出し、誰かの指示で行動している。
意識はあるが、体を操縦できない。
私は自分自身のロボットになった。
そして最も恐ろしいのは、昼間の私は、夜中の記憶を忘れていくということだ。
チップが記憶も操作している。
いつか、夜中の私が何をしているのか、完全に忘れてしまうだろう。
そうなった時、私は完全に彼らの道具になる。
意識もない、ただの実験用ロボットとして。
でも今はまだ、わずかに記憶が残っている。
だから、この記録を残しておく。
もし誰かがこれを読んでいるなら、注意してほしい。
予防接種には気をつけろ。
防犯カメラに自分が映らない時は、すでに手遅れかもしれない。
そして、夜中に記憶のない外出をしているなら、あなたも私たちの仲間だ。
今のところ、逃げる方法は見つかっていない。
私たちは、見えない糸で操られる人形だ。
永遠に。
最初にそれに気づいたのは、コンビニで買い物をしている時だった。レジで会計を済ませながら、なんとなく店内の防犯カメラのモニターを見ると、画面に私の姿は映っていない。
店員と商品だけが映っていて、私だけが透明人間のように消えていた。
「すみません、このモニター壊れてませんか?」
店員に聞いてみたが、彼は首をかしげて画面を見た。
「いえ、普通に映ってますよ。お客さん、ここにちゃんと」
店員の指差す画面には、確かに私が映っていた。しかし、私から見ると私は見えない。
奇妙だったが、きっと見る角度の問題だろうと思って、そのまま店を出た。
しかし、帰り道でも同じことが起こった。
街角の防犯カメラ、駅の監視カメラ、エレベーターの中のカメラ。どれを見ても、私の姿だけが映っていない。
他の人たちは普通に映っているのに、私だけが消えている。
家に帰ってインターネットで調べてみたが、同じような現象を報告している人は見つからなかった。
翌日、会社の防犯カメラでも同じことが確認できた。エントランスのモニターを見ると、出入りする社員たちは映っているが、私だけが映らない。
しかし、同僚に聞いてみると、「普通に映ってるじゃないですか」と言われる。
私にだけ、私が見えない。
三日目、さらに奇妙なことが起こった。
防犯カメラの映像を見ていると、私がいるはずの場所で、何かが動いている。私は見えないが、私の影だけが映っている。
そして、その影の動きが、私の動きと完全に一致していない。
私が右手を上げても、影は左手を上げる。私が前に歩いても、影は後ろに歩く。
まるで鏡に映った映像のように、左右が反転している。
一週間後、職場の警備員から連絡があった。
「川島さん、ちょっと来てください」
警備室に呼ばれて、複数のモニターを見せられた。
「これ、見てください」
画面には、昨夜の会社の廊下が映っている。夜間で誰もいないはずの廊下を、人影が歩いている。
「この人影、誰だかわかりますか?」
私は息を呑んだ。その人影は、確かに私の形をしていた。私の服装、私の歩き方。しかし、私は昨夜、会社にはいなかった。
「これは、いつの映像ですか?」
「昨夜の午前二時頃です。川島さん、残業してましたか?」
「いえ、家で寝てました」
警備員は困った顔をした。
「でも、これは確実に川島さんですよね。歩き方とか、癖とか、全部一致してます」
私は否定したかったが、映像の人物は間違いなく私だった。私が知らない間に、私がここを歩いていた。
その夜、私は実験してみることにした。
寝る前に、部屋の隅に置いたウェブカメラで自分を撮影してみる。朝起きて映像を確認すれば、何か分かるかもしれない。
翌朝、録画された映像を見て愕然とした。
画面には、私のベッドが映っている。しかし、私は映っていない。ベッドが誰かの体重で凹んでいるのに、その誰かは見えない。
そして午前二時頃、透明な何かがベッドから起き上がった。
部屋の中を歩き回り、窓の外を見て、やがて部屋を出ていく。ドアが勝手に開いて、見えない誰かが外に出ていく。
一時間後、その見えない誰かが戻ってきて、再びベッドに横になった。
私は震え上がった。私が眠っている間に、私の体が勝手に動き回っているのだ。
その日の昼、同僚から奇妙な話を聞いた。
「川島さん、昨夜うちの近所歩いてませんでした?」
「え?」
「午前二時頃、犬の散歩してたら、川島さんそっくりの人が歩いてて。声をかけようと思ったんですけど、なんか雰囲気が違ったんで」
「雰囲気?」
「なんていうか、生気がないっていうか。ぼーっとした感じで歩いてて」
私の血の気が引いた。私の体は、私が知らない間に夜中の街を徘徊している。
その夜、私は眠らずに様子を見ることにした。ベッドに横になったまま、意識を保ち続ける。
午前二時になると、異変が起こった。
私の体が勝手に動き始めた。私の意識は清醒なのに、手足が私の意思とは関係なく動いている。
体が起き上がり、歩き始める。私は自分の体を操縦できない。まるで、別の誰かが私の体を遠隔操作しているかのように。
玄関に向かい、靴を履いて外に出る。すべて私の意思ではなく、体が勝手に行動している。
街を歩いていると、同じような人たちに出会った。
みんな、ぼんやりとした表情で歩いている。目は開いているが、焦点が合っていない。まるで夢遊病のように。
そして気づいた。彼らも私と同じだ。意識はあるが、体を操縦できない。
私たちは皆、何者かに操られている。
その時、頭の中に声が響いた。
「おはよう、被験者たち」
男性の声だった。どこからともなく聞こえてくる。
「君たちは選ばれた人間だ。我々の実験に協力してもらっている」
「実験って何のことだ」
私は心の中で叫んだ。すると、声が答えた。
「人間の行動制御実験だ。君たちの脳に極小のチップが埋め込まれている」
「チップ?」
「睡眠中の人間の行動を、遠隔操作で制御する技術の開発だ」
「そんな、いつの間に」
「数ヶ月前、君たちが受けた予防接種の中に、チップが含まれていた」
思い返してみると、確かに三ヶ月前にインフルエンザの予防接種を受けた。あの時にチップを埋め込まれたのか。
「なぜ防犯カメラに映らないんだ」
「君たちの姿は映っている。しかし、君たちの脳にはそれが見えないようにプログラムされている。実験の存在を隠すためだ」
つまり、私の視覚が操作されていたのだ。実際には防犯カメラに映っているのに、私の脳がそれを認識しないようにされていた。
「君たちは毎晩、我々の指示通りに行動している。データ収集のために」
「やめろ、体を返せ」
「残念だが、それはできない。君たちは貴重な実験材料だ」
私たちは操られたまま、街中を歩き続けた。他の実験対象者たちと合流し、何かの行動パターンを実行している。
一時間後、再び家に戻された。ベッドに横になり、意識を失った。
翌朝、私は正常に目を覚ました。しかし、昨夜の記憶は曖昧だった。夢だったのかもしれない。
しかし、靴の裏に付いた泥が、昨夜の出来事が現実だったことを証明していた。
私は警察に相談しようと思ったが、証拠がない。誰にも信じてもらえないだろう。
それに、もし本当にチップが埋め込まれているなら、私の行動も監視されているはずだ。
私は諦めるしかなかった。
毎晩、私の体は勝手に外出し、誰かの指示で行動している。
意識はあるが、体を操縦できない。
私は自分自身のロボットになった。
そして最も恐ろしいのは、昼間の私は、夜中の記憶を忘れていくということだ。
チップが記憶も操作している。
いつか、夜中の私が何をしているのか、完全に忘れてしまうだろう。
そうなった時、私は完全に彼らの道具になる。
意識もない、ただの実験用ロボットとして。
でも今はまだ、わずかに記憶が残っている。
だから、この記録を残しておく。
もし誰かがこれを読んでいるなら、注意してほしい。
予防接種には気をつけろ。
防犯カメラに自分が映らない時は、すでに手遅れかもしれない。
そして、夜中に記憶のない外出をしているなら、あなたも私たちの仲間だ。
今のところ、逃げる方法は見つかっていない。
私たちは、見えない糸で操られる人形だ。
永遠に。
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