1話5分でゾッと出来る話。短編ホラー集。短編怖い話は、そこにある

みにぶた🐽

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第68話:「見えない観察者」怖さ:☆☆☆☆☆

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 防犯カメラに映らない誰かが、私を見ている。

 最初にそれに気づいたのは、コンビニで買い物をしている時だった。レジで会計を済ませながら、なんとなく店内の防犯カメラのモニターを見ると、画面に私の姿は映っていない。

 店員と商品だけが映っていて、私だけが透明人間のように消えていた。

「すみません、このモニター壊れてませんか?」

 店員に聞いてみたが、彼は首をかしげて画面を見た。

「いえ、普通に映ってますよ。お客さん、ここにちゃんと」

 店員の指差す画面には、確かに私が映っていた。しかし、私から見ると私は見えない。

 奇妙だったが、きっと見る角度の問題だろうと思って、そのまま店を出た。

 しかし、帰り道でも同じことが起こった。

 街角の防犯カメラ、駅の監視カメラ、エレベーターの中のカメラ。どれを見ても、私の姿だけが映っていない。

 他の人たちは普通に映っているのに、私だけが消えている。

 家に帰ってインターネットで調べてみたが、同じような現象を報告している人は見つからなかった。

 翌日、会社の防犯カメラでも同じことが確認できた。エントランスのモニターを見ると、出入りする社員たちは映っているが、私だけが映らない。

 しかし、同僚に聞いてみると、「普通に映ってるじゃないですか」と言われる。

 私にだけ、私が見えない。

 三日目、さらに奇妙なことが起こった。

 防犯カメラの映像を見ていると、私がいるはずの場所で、何かが動いている。私は見えないが、私の影だけが映っている。

 そして、その影の動きが、私の動きと完全に一致していない。

 私が右手を上げても、影は左手を上げる。私が前に歩いても、影は後ろに歩く。

 まるで鏡に映った映像のように、左右が反転している。

 一週間後、職場の警備員から連絡があった。

「川島さん、ちょっと来てください」

 警備室に呼ばれて、複数のモニターを見せられた。

「これ、見てください」

 画面には、昨夜の会社の廊下が映っている。夜間で誰もいないはずの廊下を、人影が歩いている。

「この人影、誰だかわかりますか?」

 私は息を呑んだ。その人影は、確かに私の形をしていた。私の服装、私の歩き方。しかし、私は昨夜、会社にはいなかった。

「これは、いつの映像ですか?」

「昨夜の午前二時頃です。川島さん、残業してましたか?」

「いえ、家で寝てました」

 警備員は困った顔をした。

「でも、これは確実に川島さんですよね。歩き方とか、癖とか、全部一致してます」

 私は否定したかったが、映像の人物は間違いなく私だった。私が知らない間に、私がここを歩いていた。

 その夜、私は実験してみることにした。

 寝る前に、部屋の隅に置いたウェブカメラで自分を撮影してみる。朝起きて映像を確認すれば、何か分かるかもしれない。

 翌朝、録画された映像を見て愕然とした。

 画面には、私のベッドが映っている。しかし、私は映っていない。ベッドが誰かの体重で凹んでいるのに、その誰かは見えない。

 そして午前二時頃、透明な何かがベッドから起き上がった。

 部屋の中を歩き回り、窓の外を見て、やがて部屋を出ていく。ドアが勝手に開いて、見えない誰かが外に出ていく。

 一時間後、その見えない誰かが戻ってきて、再びベッドに横になった。

 私は震え上がった。私が眠っている間に、私の体が勝手に動き回っているのだ。

 その日の昼、同僚から奇妙な話を聞いた。

「川島さん、昨夜うちの近所歩いてませんでした?」

「え?」

「午前二時頃、犬の散歩してたら、川島さんそっくりの人が歩いてて。声をかけようと思ったんですけど、なんか雰囲気が違ったんで」

「雰囲気?」

「なんていうか、生気がないっていうか。ぼーっとした感じで歩いてて」

 私の血の気が引いた。私の体は、私が知らない間に夜中の街を徘徊している。

 その夜、私は眠らずに様子を見ることにした。ベッドに横になったまま、意識を保ち続ける。

 午前二時になると、異変が起こった。

 私の体が勝手に動き始めた。私の意識は清醒なのに、手足が私の意思とは関係なく動いている。

 体が起き上がり、歩き始める。私は自分の体を操縦できない。まるで、別の誰かが私の体を遠隔操作しているかのように。

 玄関に向かい、靴を履いて外に出る。すべて私の意思ではなく、体が勝手に行動している。

 街を歩いていると、同じような人たちに出会った。

 みんな、ぼんやりとした表情で歩いている。目は開いているが、焦点が合っていない。まるで夢遊病のように。

 そして気づいた。彼らも私と同じだ。意識はあるが、体を操縦できない。

 私たちは皆、何者かに操られている。

 その時、頭の中に声が響いた。

「おはよう、被験者たち」

 男性の声だった。どこからともなく聞こえてくる。

「君たちは選ばれた人間だ。我々の実験に協力してもらっている」

「実験って何のことだ」

 私は心の中で叫んだ。すると、声が答えた。

「人間の行動制御実験だ。君たちの脳に極小のチップが埋め込まれている」

「チップ?」

「睡眠中の人間の行動を、遠隔操作で制御する技術の開発だ」

「そんな、いつの間に」

「数ヶ月前、君たちが受けた予防接種の中に、チップが含まれていた」

 思い返してみると、確かに三ヶ月前にインフルエンザの予防接種を受けた。あの時にチップを埋め込まれたのか。

「なぜ防犯カメラに映らないんだ」

「君たちの姿は映っている。しかし、君たちの脳にはそれが見えないようにプログラムされている。実験の存在を隠すためだ」

 つまり、私の視覚が操作されていたのだ。実際には防犯カメラに映っているのに、私の脳がそれを認識しないようにされていた。

「君たちは毎晩、我々の指示通りに行動している。データ収集のために」

「やめろ、体を返せ」

「残念だが、それはできない。君たちは貴重な実験材料だ」

 私たちは操られたまま、街中を歩き続けた。他の実験対象者たちと合流し、何かの行動パターンを実行している。

 一時間後、再び家に戻された。ベッドに横になり、意識を失った。

 翌朝、私は正常に目を覚ました。しかし、昨夜の記憶は曖昧だった。夢だったのかもしれない。

 しかし、靴の裏に付いた泥が、昨夜の出来事が現実だったことを証明していた。

 私は警察に相談しようと思ったが、証拠がない。誰にも信じてもらえないだろう。

 それに、もし本当にチップが埋め込まれているなら、私の行動も監視されているはずだ。

 私は諦めるしかなかった。

 毎晩、私の体は勝手に外出し、誰かの指示で行動している。

 意識はあるが、体を操縦できない。

 私は自分自身のロボットになった。

 そして最も恐ろしいのは、昼間の私は、夜中の記憶を忘れていくということだ。

 チップが記憶も操作している。

 いつか、夜中の私が何をしているのか、完全に忘れてしまうだろう。

 そうなった時、私は完全に彼らの道具になる。

 意識もない、ただの実験用ロボットとして。

 でも今はまだ、わずかに記憶が残っている。

 だから、この記録を残しておく。

 もし誰かがこれを読んでいるなら、注意してほしい。

 予防接種には気をつけろ。

 防犯カメラに自分が映らない時は、すでに手遅れかもしれない。

 そして、夜中に記憶のない外出をしているなら、あなたも私たちの仲間だ。

 今のところ、逃げる方法は見つかっていない。

 私たちは、見えない糸で操られる人形だ。

 永遠に。
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