1話5分でゾッと出来る話。短編ホラー集。短編怖い話は、そこにある

みにぶた🐽

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第69話:「血を吸う人形」怖さ:☆☆☆☆☆

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 廃屋で見つけた人形は、見た目には普通の女の子の人形だった。

 古いビスクドールで、金色の髪と青い瞳、白いドレスを着ている。汚れてはいるが、保存状態は悪くない。

 アンティーク収集が趣味の私は、その人形を気に入って家に持ち帰った。

 しかし、持ち帰ったその日から、異変が始まった。

 人形から、かすかに血の匂いがするのだ。

 最初は気のせいだと思った。廃屋にあったのだから、ネズミか何かの血が付いているのかもしれない。

 丁寧に清拭したが、匂いは消えなかった。むしろ、日に日に強くなっていく。

 三日後、さらに奇妙なことに気づいた。

 人形の唇が、微かに赤くなっているのだ。まるで口紅を塗ったように。

 しかし、その赤い色は口紅ではなかった。明らかに血の色だった。

 人形の口元を綿棒で拭ってみると、確かに血液が付着した。新鮮な、まだ乾いていない血だった。

 恐ろしくなって、人形を箱にしまった。しかし翌朝見ると、人形は箱から出て、棚の上に戻っていた。

 そして唇の血は、さらに濃くなっていた。

 一週間後、私の体に異変が現れた。

 朝起きると、手首に小さな傷があった。針で刺したような、ごく小さな穴。血は既に止まっているが、確かに新しい傷だった。

 その日の夜、私は人形を見張ることにした。

 電気を消して、ベッドの中から人形の様子を観察する。

 午前二時頃、人形が動いた。

 最初は瞼がゆっくりと開いた。青い瞳が、月明かりの中で光っている。

 次に、首がこちらを向いた。カクカクとぎこちない動きで、私の方を見つめている。

 そして、人形は立ち上がった。

 小さな足で棚から降り、床をペタペタと歩いてくる。私のベッドに向かって。

 私は息を殺して、目を閉じたふりをした。

 人形がベッドに登ってくる気配がする。小さな手で、私の腕を触っている。

 そして、鋭い痛みが走った。

 人形が私の手首に噛み付いたのだ。小さな歯で、皮膚に穴を開けている。

 血が流れ出すと、人形は音を立てて吸い始めた。まるで赤ちゃんがミルクを飲むように。

 私は恐怖で身動きできなかった。人形は数分間、私の血を吸い続けた。

 やがて満足したのか、人形は私から離れて、再び棚に戻っていった。

 翌朝、手首を見ると案の定、小さな傷があった。そして人形の唇は、昨日より鮮やかな赤色になっていた。

 私は人形を処分しようと決めた。しかし、燃やそうとしても火がつかない。捨てようとしても、翌朝には家に戻ってきている。

 人形は、私から離れようとしなかった。

 二週間後、私の体力は明らかに衰えていた。毎晩血を吸われているせいで、貧血気味になっている。

 人形は日に日に美しくなっていく。髪は艶やかになり、肌は透明感を増し、瞳は生き生きと輝いている。

 まるで私の生命力を吸い取って、人形が生き返っているかのようだった。

 三週間目、人形が話すようになった。

「ありがとう、お姉ちゃん」

 かわいらしい少女の声だった。

「美味しい血をくれて、ありがとう」

「なぜ私の血を吸うの?」

「生きるため。私は血がないと、死んでしまうの」

 人形は無邪気に答えた。

「でも、お姉ちゃんの血はとても美味しい。だから毎日飲みたい」

「私が死んでしまうかもしれない」

「大丈夫。少しずつ飲むから。お姉ちゃんが死ぬまでは、私も生きていられる」

 人形の論理は恐ろしかった。私が死ぬまで、血を吸い続けるつもりなのだ。

 その夜、私は人形を銀の箱に入れて、厳重に封印した。

 しかし翌朝、箱は空になっていた。人形は私のベッドの枕元に座って、微笑んでいた。

「お姉ちゃん、隠れんぼは楽しいね」

 どんな方法を使っても、人形から逃れることはできなかった。

 一ヶ月後、私は医師の診察を受けた。

「重度の貧血ですね。原因は何でしょうか」

 医師は首をかしげた。

「特に外傷も見当たりませんし、内臓にも異常はない。なぜこんなに血液が不足しているのか」

 私は人形のことを説明したかったが、信じてもらえるわけがない。

「とりあえず、鉄分の補給と輸血を行いましょう」

 輸血で一時的に回復したが、人形は相変わらず毎晩血を吸いに来る。

 輸血した分の血液も、すぐに人形に奪われてしまう。

 二ヶ月後、私はついに立ち上がることもできなくなった。

 人形は私のベッドの上に座って、心配そうに私を見つめている。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「もう、血がないの」

「そっか。じゃあ、お姉ちゃんは死んじゃうのね」

 人形は悲しそうに言った。

「でも、大丈夫。お姉ちゃんが死んでも、私は他の人を見つけるから」

「他の人?」

「うん。お姉ちゃんみたいに、優しくて血の美味しい人を」

 人形は無邪気に笑った。

「きっと、すぐに見つかるよ」

 私は絶望した。私が死んだ後、この人形は別の被害者を探すのだ。

 その時、突然部屋の扉が開いた。

 妹の美咲が入ってきた。

「お姉ちゃん、大丈夫?最近連絡がないから心配で」

 美咲は私の顔を見て驚いた。

「すごく顔色が悪いよ。病院行った?」

 人形が美咲を見つめている。その瞳が、輝いて見えた。

「あら、可愛い人形ね」

 美咲が人形に手を伸ばす。

「だめ」

 私は必死に止めようとしたが、声が出ない。

 美咲が人形を抱き上げた瞬間、人形の瞳がぎらりと光った。

「新しいお姉ちゃんね」

 人形が美咲に話しかけた。

 美咲は驚いて人形を見つめている。

「今、この人形が」

「美味しそうな血の匂い」

 人形が美咲の首筋に鼻を近づけた。

「とても新鮮で、甘い匂い」

 美咲は恐怖で固まっている。

「お姉ちゃん、この人形は」

「逃げて」

 私はやっとの思いで声を絞り出した。

「その人形から、逃げて」

 しかし、もう手遅れだった。

 人形が美咲の手首に噛み付いた。美咲が悲鳴を上げる。

「痛い、離して」

 しかし人形は離さない。美咲の血を夢中で吸っている。

 美咲は人形を振り払おうとするが、人形の力は予想以上に強い。小さな手で美咲の腕をしっかりと掴んでいる。

 やがて美咲の抵抗が弱くなった。血を吸われて、力が抜けていく。

「お姉ちゃん、助けて」

 美咲が私に手を伸ばす。しかし私は起き上がることもできない。

 ただ、妹が人形の餌食になるのを見ているしかなかった。

 十分後、人形は満足そうに美咲から離れた。

 美咲は気を失って床に倒れている。まだ息はあるが、顔色が真っ青だ。

「美味しかった」

 人形は血で赤くなった唇を舐めた。

「この子の血は、お姉ちゃんより甘いね」

 人形は私を見て言った。

「もう、お姉ちゃんはいらない。この子がいるから」

 そして人形は美咲の元に歩いていき、その胸の上に座った。

 まるで新しい飼い主を見つけた猫のように。

 私は安堵と絶望を同時に感じた。

 私は解放される。しかし、今度は妹が犠牲になる。

 翌日、美咲は意識を取り戻したが、私の時と同じように、人形のことを「可愛い」と言って大切にし始めた。

 人形の魔力にかかっているのだ。

 私は病院に運ばれ、美咲は人形と一緒に私の家で暮らし始めた。

 一週間後、美咲の顔色が悪くなってきた。私と同じように、毎晩血を吸われているのだろう。

 しかし美咲は、まだ人形を愛している。

 一ヶ月後、美咲から電話があった。

「お姉ちゃん、とても疲れてるの。でも、この人形がいてくれるから寂しくない」

 美咲の声は弱々しかった。

「でも最近、変な夢を見るの。血の海で泳ぐ夢」

 それは人形の記憶だ。過去の被害者たちの血で満たされた記憶。

「美咲、その人形を」

 しかし電話は切れてしまった。

 二ヶ月後、美咲が病院に運ばれてきた。私と同じ、重度の貧血で。

 そして三ヶ月後、美咲は死んだ。

 人形は、次の獲物を探しているだろう。

 今日も、どこかで可愛い人形を見つけて喜んでいる人がいるかもしれない。

 その人形が、血を吸う魔物だとも知らずに。
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