1話5分でゾッと出来る話。短編ホラー集。短編怖い話は、そこにある

第97話『扉の中身』怖さ:☆☆☆☆☆

　地下室にある鉄の扉は、俺が子供の頃から厳重に鍵がかけられていた。父は決まって言った。「あの扉だけは絶対に開けるな」

　鍵は父が肌身離さず持っていたが、父の死後、遺品の中から見つけた。古い真鍮製の重い鍵。

　俺は長年の疑問を解決するため、ついに地下室に向かった。

　鍵を差し込むと、まるで生き物のように鍵穴が脈打った。扉の向こうから、かすかな呼吸音が聞こえる。

　扉を開けた瞬間、強烈な腐臭が鼻を突いた。小さな部屋の中央に、椅子に縛り付けられた人影があった。

　それは俺だった。

　もう一人の俺が、口を塞がれて椅子に拘束されている。服装も髪型も、今の俺と全く同じ。ただし、皮膚は腐敗が進んでおり、所々骨が見えている。

　腐った俺は必死に目で訴えていた。助けてくれ、と。

　俺が近づくと、腐った俺の口を塞いでいたテープが自然に剥がれた。

「やっと来てくれた」腐った俺が喘ぐように言った。「長い間、ここで待っていた」

「お前は誰だ」

「俺はお前だ。本物の俺だ」腐った俺は涙を流した。「お前は偽物だ。俺の代わりに外で生活している偽物だ」

　腐った俺の説明によると、十年前、俺は父に騙されてこの部屋に閉じ込められた。そして父は俺に似せて作った偽物を外に送り出した。

「父さんは俺を嫌っていた。でも世間体があるから殺せない。だから偽物を作って、本物の俺を隠したんだ」

　俺は混乱した。自分が偽物だというのか。十年間の記憶は全て作り物なのか。

「証拠を見せてやる」腐った俺が言った。「お前の背中を見ろ」

　俺が服をまくると、背中に小さな傷跡があった。子供の頃に怪我した記憶がある。

「それは俺の傷だ」腐った俺が言った。「お前は俺をコピーするとき、傷も一緒にコピーされた。でも本物の傷は俺にある」

　腐った俺も同じ場所に傷跡があった。確かに古い傷で、俺のものよりも深く、リアルだった。

「俺を解放してくれ」腐った俺が懇願した。「そして代わりにお前がここに入れ」

　俺は拒否した。十年間外で生きてきた記憶は確かに存在する。友人も恋人もいる。

「それは全部偽物の記憶だ」腐った俺が叫んだ。「お前は俺から盗んだ人生を生きている」

　その時、地下室の電気が消えた。暗闇の中で、腐った俺の笑い声が響いた。

「もう遅い。鍵を開けた瞬間に、入れ替わりが始まった」

　俺の身体が動かなくなった。足が地面に根を張ったように固まっている。一方、腐った俺の拘束が解けて立ち上がった。

「十年間ありがとう」腐った俺が俺の顔を撫でた。「お前のおかげで俺は外の世界を体験できた。お前の記憶を通して」

　腐った俺は扉に向かって歩いていく。俺は椅子に縛り付けられていた。いつの間にか、立場が完全に入れ替わっている。

「待ってくれ」俺は叫んだ。「俺には人生がある。仕事も友人も」

「それは今から俺のものだ」腐った俺が振り返った。その顔は既に腐敗が止まり、新鮮な肌に戻り始めていた。

　扉が閉まる音。鍵がかかる音。

　俺は暗闇の中に取り残された。

　十年後、新しい住人が地下室の鍵を見つけるだろう。そして俺は同じことを繰り返す。

　本物と偽物を入れ替えて、また十年間外の世界を楽しむ。

　腐った俺として、次の犠牲者を待ちながら。