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第98話『下への道』怖さ:☆☆☆☆☆
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放課後の学校で、俺は一人階段を降りていた。一階から地下へ向かう階段は、普段は立ち入り禁止になっている。
しかし今日は何故かバリケードが外されていた。好奇心で地下に降りてみることにした。
階段を降りるたび、段数を数えていた。十段、二十段、三十段。普通の地下なら、もう着いているはずだった。
五十段を過ぎても、まだ下に続いている。おかしい。学校の地下がこんなに深いはずはない。
百段目で一度立ち止まった。振り返ると、上り階段も異様に長く見える。降りてきた分以上に遠くまで続いているようだった。
引き返そうとして上に向かった。十段、二十段と上がっていく。しかし数えてみると、下りで数えた段数と合わない。
百五十段上がっても、まだ一階に着かない。
再び下に向かった。今度は段数を覚えやすくするため、十段ごとに壁に印をつけながら降りた。
二百段、三百段。階段は無限に続いているように思えた。
四百段目で、奇妙なことに気づいた。壁につけた印が、一つ減っている。確かに四十個つけたはずなのに、三十九個しかない。
五百段目では、印が三十五個に減っていた。階段を降りるたび、過去の記録が消えている。
俺は急いで上に向かった。印を頼りに元の場所に戻ろうとしたが、印はどんどん減っていく。
そして気がつくと、印が一つもなくなっていた。俺がここまで来た証拠が、全て消されている。
階段は上にも下にも無限に続いている。もう何段降りたのか、何段上ったのかもわからない。
その時、下から足音が聞こえた。誰かが階段を上がってくる音。
しばらくすると、俺と同じ制服を着た生徒が現れた。顔も俺にそっくりだった。
「君も降りてきたのか」もう一人の俺が言った。「僕はもう三時間歩いている」
俺は混乱した。もう一人の俺がいるということは、俺は分裂したのか。
「君は何段目から来た?」俺が聞いた。
「わからない。段数を数えていたけど、途中で記憶が曖昧になった」
もう一人の俺と一緒に歩き続けた。上にも下にも向かわず、ただ同じ階段を歩き続ける。
しばらくすると、また足音が聞こえた。今度は上から。
現れたのは、また俺だった。三人目の俺。
「君たちも迷っているのか」三人目の俺が言った。「僕は六時間前からここにいる」
三人の俺が集まった。みんな同じ顔、同じ制服、同じ困惑した表情。
俺たちは一緒に歩くことにした。しかし歩いているうち、お互いの記憶が混ざり始めた。どれが本当の記憶なのかわからなくなった。
四人目、五人目の俺が現れた。みんな階段で迷っている。みんな何時間も、何日も歩き続けている。
俺たちは群れを成して階段を歩いた。上に向かう俺、下に向かう俺、立ち止まっている俺。
やがて俺たちは気づいた。階段から出ようとするたび、新しい俺が生まれる。脱出を試みる度に、俺が増殖する。
そして元の俺は、永遠に階段を歩き続ける。
今、階段には何百人もの俺がいる。みんな同じ顔で、みんな出口を探している。
俺は今日も階段を歩いている。上に向かって。下に向かって。
新しい俺が生まれるのを待ちながら。
階段の音は、俺たちの足音だけが響いている。
しかし今日は何故かバリケードが外されていた。好奇心で地下に降りてみることにした。
階段を降りるたび、段数を数えていた。十段、二十段、三十段。普通の地下なら、もう着いているはずだった。
五十段を過ぎても、まだ下に続いている。おかしい。学校の地下がこんなに深いはずはない。
百段目で一度立ち止まった。振り返ると、上り階段も異様に長く見える。降りてきた分以上に遠くまで続いているようだった。
引き返そうとして上に向かった。十段、二十段と上がっていく。しかし数えてみると、下りで数えた段数と合わない。
百五十段上がっても、まだ一階に着かない。
再び下に向かった。今度は段数を覚えやすくするため、十段ごとに壁に印をつけながら降りた。
二百段、三百段。階段は無限に続いているように思えた。
四百段目で、奇妙なことに気づいた。壁につけた印が、一つ減っている。確かに四十個つけたはずなのに、三十九個しかない。
五百段目では、印が三十五個に減っていた。階段を降りるたび、過去の記録が消えている。
俺は急いで上に向かった。印を頼りに元の場所に戻ろうとしたが、印はどんどん減っていく。
そして気がつくと、印が一つもなくなっていた。俺がここまで来た証拠が、全て消されている。
階段は上にも下にも無限に続いている。もう何段降りたのか、何段上ったのかもわからない。
その時、下から足音が聞こえた。誰かが階段を上がってくる音。
しばらくすると、俺と同じ制服を着た生徒が現れた。顔も俺にそっくりだった。
「君も降りてきたのか」もう一人の俺が言った。「僕はもう三時間歩いている」
俺は混乱した。もう一人の俺がいるということは、俺は分裂したのか。
「君は何段目から来た?」俺が聞いた。
「わからない。段数を数えていたけど、途中で記憶が曖昧になった」
もう一人の俺と一緒に歩き続けた。上にも下にも向かわず、ただ同じ階段を歩き続ける。
しばらくすると、また足音が聞こえた。今度は上から。
現れたのは、また俺だった。三人目の俺。
「君たちも迷っているのか」三人目の俺が言った。「僕は六時間前からここにいる」
三人の俺が集まった。みんな同じ顔、同じ制服、同じ困惑した表情。
俺たちは一緒に歩くことにした。しかし歩いているうち、お互いの記憶が混ざり始めた。どれが本当の記憶なのかわからなくなった。
四人目、五人目の俺が現れた。みんな階段で迷っている。みんな何時間も、何日も歩き続けている。
俺たちは群れを成して階段を歩いた。上に向かう俺、下に向かう俺、立ち止まっている俺。
やがて俺たちは気づいた。階段から出ようとするたび、新しい俺が生まれる。脱出を試みる度に、俺が増殖する。
そして元の俺は、永遠に階段を歩き続ける。
今、階段には何百人もの俺がいる。みんな同じ顔で、みんな出口を探している。
俺は今日も階段を歩いている。上に向かって。下に向かって。
新しい俺が生まれるのを待ちながら。
階段の音は、俺たちの足音だけが響いている。
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