扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽

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第2章9話「平和の代償」

EP.72

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 セオドアたちが撤退した後、俺たちは急いで村に向かった。足音が地面を激しく叩く。

 薬草小屋の前で、フローラが倒れていた。

 彼女の周りには散乱した薬草と破れた研究ノートが散らばっている。薬草小屋の扉は破壊され、棚から落ちた瓶の破片がキラキラと夕日に光っていた。甘い薬草の香りが、血の匂いと混じり合っている。

 フローラは薬草小屋の入り口で、俺たちの研究資料を胸に抱きかかえるようにして倒れていた。彼女の顔は苦痛に歪んでいたが、最期まで村人を守ろうとした意志の強さが表情に残っていた。

 村人たちが泣きながら彼女の周りに集まっている。子供たちは怖がって母親の後ろに隠れ、年配の男性たちは拳を握り締めて怒りを必死に抑えていた。すすり泣く声だけが、静寂を破っている。

「フローラさん!」

 俺が駆け寄るが、もう遅かった。彼女の肌は既に冷たくなっている。

 ガイウス村長が涙を流しながら説明する。

「彼女は最後まで、皆さんの研究資料を守ろうとしていました……敵が薬草小屋に押し入った時、資料を隠そうとして……」

 村長の声が震えている。年老いた手で涙を拭いながら、必死に言葉を紡いでいた。

 村の青年が震え声で証言を続ける。

「フローラさんは、敵に向かって立ち塞がりました。『村人の健康を守る大切な知識だから』って言って、絶対に渡さないって……」

 老婆が泣きながら付け加える。

「最後の最後まで、研究ノートを胸に抱えて守り続けたんです。あの子は本当に勇敢でした……」

 フローラの手には、血で汚れた古代薬草術の記録が握られていた。村人の健康を守るために必要な技術を、命がけで守ろうとしてくれたのだ。

「俺のせいだ……」

 俺の声が震える。胸の奥から込み上げてくる無力感が、全身を支配していく。

「俺が戦闘魔法を習得していれば……」

 もし《幻想書庫》から戦闘用の書籍を召喚していたら。もし護身術や攻撃魔法を準備していたら。フローラを守ることができたはずだ。

 俺の膝がガクガクと震え始める。手のひらに爪が食い込むほど拳を握り締めても、この悔しさは収まらない。

「なぜだ……なぜ俺は……」

 後悔の念が胸を締め付ける。平和利用にこだわっていた自分の判断が、フローラの命を奪った。村人を守ると言いながら、実際には何もできなかった。

 その時、風に乗ってフローラの声が蘇る。『村の皆さんのためなら喜んで協力します』。彼女の優しい笑顔が脳裏に浮かび、俺の心は怒りで燃え上がった。

「許さない……」

 俺の声が低く、怒りで震える。

「絶対に許さない」

「陽翔さん……」

 サラフィナが俺の肩に手を置くが、俺の心の痛みは癒えなかった。彼女の温かい手のひらが、かえって俺の無力さを際立たせる。

 アルバートが悔しそうに拳を握る。

「我々は甘かった。平和的な研究だけでは、大切なものを守ることはできない」

 ミレイア博士が涙を流しながら言う。

「学術の理想だけでは、現実の暴力に対抗できません」

 俺は《幻想書庫》のシステムに意識を向けた。

【システム通知:使用者の精神状態に重大な変化を検知】
【推奨:戦闘対応能力の習得を強く推奨】
【新方針:平和利用と防衛能力の両立が必要】

 システムも俺の変化を感じ取っている。

「もう二度と……」

 俺の声が怒りで震える。

「二度と、大切な人を失わせない」

 エレナが泣きながら頷く。

「そのためには、力が必要です」

 ジョアンナが竜族の記憶を呼び覚ましながら言う。

「古代の竜族も、平和を守るために戦う力を持っていました」

 俺は立ち上がった。涙で頬が濡れていたが、決意は固まっていた。夕日が俺の影を長く地面に伸ばしている。

「《幻想書庫》の真の力を解放する」

 俺の言葉に、仲間たちの目に希望の光が宿る。

「平和のために戦う。大切な人を守るために、強くなる」

 フローラの葬儀を終えた夜、俺は《幻想書庫》に向かって誓った。月光が俺の決意を照らし出している。

 もう二度と、無力な自分のせいで誰かを失うことはない。

 守るべきものがあるなら、それを守り抜く力を身につける。

 それが、フローラに対する俺の責任だった。

 その時、《幻想書庫》のシステムに変化が生じた。

【システム通知:使用者の精神的成長を検知】
【新機能解放準備中:戦闘系書架へのアクセス許可申請中】
【予告:英雄伝説・戦記物語・神話体系の書籍召喚が可能になります】

 俺の意識の奥で、これまで閉ざされていた巨大な書架が、微かに光を放ち始めているのを感じた。扉が少しずつ開かれようとしている。星明りが、その扉の隙間から漏れ出す光と混じり合っていた。

 星空の下、俺の新たな決意が静かに燃え上がっていた。
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