扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

第2章10話「新たなる力への覚醒」

EP.73

　フローラの葬儀が終わった翌朝、俺は一人で薬草小屋の前に立っていた。扉は修理されていたが、壁に残った焦げ跡が昨日の悲劇を物語っている。夜露に濡れた草むらに、まだ血痕が残っているのが見えた。

　胸の奥で、様々な感情が渦巻いている。最初は深い悲しみだった。フローラの優しい笑顔が脳裏に浮かび、もう二度と会えないという現実が心を締め付ける。

　しかし、その悲しみの底から、別の感情が湧き上がってきた。

　無力感。

　俺は何もできなかった。《生命の調和》も《調和の結界》も《希望の光》も、あの瞬間には何の役にも立たなかった。平和利用の魔法では、現実の暴力に対抗できない。

　その事実が、胸の奥で赤く燃え始める。

　悔しさが怒りに変わっていく。セオドアの冷酷な笑み、黒フード集団の組織的な攻撃、そして何より、自分の判断の甘さに対する激しい憤り。

　気づけば拳は血が出るほど強く握り締められ、歯を食いしばる音が聞こえていた。視界の端が赤く染まり、呼吸が荒くなる。

　その瞬間、頭の奥で重い扉が開く音が響いた。

「陽翔さん」

　後ろからサラフィナの声が聞こえた。振り返ると、彼女の目は泣き腫らしており、聖女の衣装も昨日のまま皺になっている。

「眠れませんでした？」

「ああ……」

　俺は重く頷いた。声がかすれていることに気づく。

「私も同じです」

　サラフィナが薬草小屋の壁に手を触れる。魔力の気配が微かに漂った。

「この場所に、フローラさんの想いが残っているのを感じます。彼女は最後まで、村のことを考えていました」

　その言葉が引き金になった。

　俺の意識の奥で《幻想書庫》のシステムが激しく反応する。まるで俺の感情の高まりに呼応するように、封印されていた何かが解放されていく。

【システム通知：使用者の精神的変化を確認】
【感情的閾値を突破しました】
【戦闘系書架アクセス許可】
【英雄伝説・戦記物語・神話体系書籍の召喚が可能になりました】

　俺の体に電流のような熱が走る。血管を通って力が流れ込み、骨の髄まで震えるような感覚があった。鼻の奥に金属的な匂いが漂い、舌に苦味を感じる。

「サラフィナ」

　俺は振り返って彼女を見つめた。自分の声に、これまでにない重みがあることに驚く。

「俺は変わる。もう誰も失わせない」

「陽翔さん……」

　彼女の瞳に涙が浮かんだ。しかし、その中には恐れではなく、理解の光があった。

「私たちも同じ気持ちです。フローラさんのためにも、これ以上の犠牲は許しません」

　俺は《幻想書庫》に意識を向けた。視界の奥で巨大な書架が現れる。これまで霞んで見えなかった戦闘系の領域が、今ははっきりと輪郭を持っていた。英雄伝説、戦記物語、神話体系の書籍が無数に並んでいる。

　最初に手を伸ばしたのは、『アーサー王物語』だった。

【書籍召喚：アーサー王物語】
【習得可能魔法：《聖剣の誓い》《円卓の結束》《王の威光》】

　本のページが金色の光となって俺の体に流れ込む。知識と力が血管を駆け巡り、新たな魔法の理解が脳に刻み込まれていく。肌が熱くなり、心臓の鼓動が激しくなった。

「これは……」

　俺の体から立ち上る光が周囲の空気を震わせ、薬草小屋の窓が微かに鳴った。サラフィナが息を呑む。

「信念を力に変える魔法です」

　俺の声に、これまでにない強さが宿っていた。