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第2章 ルールという名の檻
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宿泊施設は想像以上に立派だった。
白い壁と青い屋根の二階建て建物で、まるでリゾートホテルのような外観だった。内部も清潔で機能的に設計されており、ロビーには革張りのソファと大型のテレビが置かれていた。しかし、テレビの画面は真っ暗で、どのチャンネルも映らなかった。
「皆さん、ロビーにお集まりください」
再び機械音声がスピーカーから流れ、十三人の参加者がロビーに集まった。蓮は奈々の隣に座り、周囲の参加者たちを観察した。みんな緊張しているのか、誰も口を開こうとしない。
「改めまして、皆さんをお迎えいたします」
正面の大型スクリーンが点灯し、音声に合わせて文字が表示された。映像はなく、ただ黒い背景に白い文字が浮かんでいるだけだった。
「私たちは『デジタル倫理研究機関』と申します。皆さんには、これから特別なプログラムに参加していただきます」
蓮の胸がざわついた。心理ケア合宿プログラムという話だったのに、何が「デジタル倫理研究」なのか。
「このプログラムの目的は、精神的適応力・社会的判断力・対人認知力を測定し、被験者の中から最も適応度の高い個体を選別することです」
「個体って何だよ」拓海が低い声で呟いた。
スクリーンの文字は無情に続いた。
「皆さんは選ばれた被験者です。それぞれが過去に犯した『デジタル犯罪』について、真摯に向き合い、償いの機会を得ることができます」
蓮の血の気が引いた。デジタル犯罪——まさか、あの匿名掲示板の件を知っているのか。だが、あれは犯罪なんかじゃない。正義のための行動だったのだ。
「しかし、全員が償いを得られるわけではありません。このプログラムは競争です。最終的に『適応度の高い者』のみが選ばれ、真の贖罪の機会を得ることができます」
莉子が立ち上がった。
「ちょっと待って。話が違うじゃない。私たちは心理ケア合宿に参加しただけよ」
「座りなさい」
突然、莉子の首に小さな電流が走った。彼女は悲鳴を上げて椅子に崩れ落ちる。
「参加者には首輪型の行動制御装置が装着されています。プログラムの進行を妨げる行為は禁止されています」
蓮は慌てて自分の首に手をやった。確かに、薄いゴム状の何かが首の後ろに巻かれている。いつの間に装着されたのか、全く記憶にない。船で眠っている間だろうか。
「基本ルールを説明します」
スクリーンに箇条書きのリストが表示された。
1. 皆さんには最大30日間、この島で共同生活をしていただきます
2. 食事・寝具・水など最低限の物資は支給されます
3. 毎日午後9時に『告発時間』が始まります
4. 告発時間では、任意で1人を指名してデジタル犯罪を告発できます
5. 告発の結果、3票以上が集まった人物には審判が下されます
6. 告発は匿名です。ただし、虚偽の告発が続いた場合、告発者にも罰が科されます
7. 審判により適性なしと判断された場合、即時脱落となります
8. 脱落者の詳細は公開されません
9. 脱落者は戻りません
健太が震え声で言った。
「脱落って、まさか……」
「最後のルールです」スクリーンの文字が赤く変わった。「最終的に適応度の高い者数名が選ばれ、プログラムから解放されます。終了時刻は運営側が決定します」
「それでは、皆さんの『正しさ』を証明してください。Good Luck」
スクリーンが消え、ロビーが静寂に包まれた。
しばらくして、千尋が震え声で言った。
「これって、殺し合いゲームってこと?」
「違う」美咲がきっぱりと言った。「告発システムよ。つまり、誰かのデジタル犯罪を暴けば、その人が脱落する。物理的な暴力じゃなく、心理戦」
「でも結果は同じじゃないか」翔太が青ざめた顔で言った。「脱落者は戻らないって……」
蓮の頭の中で、記憶の断片がよみがえった。匿名掲示板。告発。そして、行方不明になった少女。自分があのとき投稿した内容が、今度は自分に向けられるかもしれない。
「みんな、落ち着いて」雪菜が小さな声で言った。「まだ何も始まってない。最初の告発時間まで、まだ時間がある」
「お前、随分冷静だな」亮介が雪菜を見つめた。
「冷静じゃないと死ぬから」雪菜の声には、諦めにも似た平静さがあった。
大輔が眼鏡を直しながら言った。
「ルールを整理しよう。告発は匿名で、3票以上集まれば審判が下される。つまり、13人の中で最低3人が同じ人物を告発すれば、その人は脱落する」
「でも、虚偽の告発には罰があるって言ってた」沙織が震え声で付け加えた。
「つまり、本当のデジタル犯罪を暴かなければならない」莉子が立ち上がりながら言った。「みんな、何かしらの過去があるから、ここに連れてこられたのよ」
蓮の心臓が激しく鼓動した。自分の過去が暴かれたら、どうなるのか。あの少女の失踪事件のことを知られたら。
いや、待て。あれは正義の行動だった。自分は何も悪いことはしていない。暴かれても恐れることはない。
しかし、胸の奥の不安は消えなかった。もし、他の参加者たちが自分の行動を「犯罪」だと判断したら。もし、自分が間違っていたとしたら。
「とりあえず、今夜9時まで時間がある」圭が初めて口を開いた。「部屋割りを確認して、それぞれの荷物を整理しよう」
受付カウンターに各自の名前と部屋番号が書かれたカードが置かれていた。蓮の部屋は203号室。二階の奥の方らしい。
階段を上がりながら、蓮は他の参加者たちの表情を観察した。みんな、それぞれに隠したい過去を抱えている。そして、今夜から始まる告発時間で、その過去が次々と暴かれていく。
果たして、自分は最後まで生き残れるのだろうか。
そして、本当に生き残りたいのだろうか。
白い壁と青い屋根の二階建て建物で、まるでリゾートホテルのような外観だった。内部も清潔で機能的に設計されており、ロビーには革張りのソファと大型のテレビが置かれていた。しかし、テレビの画面は真っ暗で、どのチャンネルも映らなかった。
「皆さん、ロビーにお集まりください」
再び機械音声がスピーカーから流れ、十三人の参加者がロビーに集まった。蓮は奈々の隣に座り、周囲の参加者たちを観察した。みんな緊張しているのか、誰も口を開こうとしない。
「改めまして、皆さんをお迎えいたします」
正面の大型スクリーンが点灯し、音声に合わせて文字が表示された。映像はなく、ただ黒い背景に白い文字が浮かんでいるだけだった。
「私たちは『デジタル倫理研究機関』と申します。皆さんには、これから特別なプログラムに参加していただきます」
蓮の胸がざわついた。心理ケア合宿プログラムという話だったのに、何が「デジタル倫理研究」なのか。
「このプログラムの目的は、精神的適応力・社会的判断力・対人認知力を測定し、被験者の中から最も適応度の高い個体を選別することです」
「個体って何だよ」拓海が低い声で呟いた。
スクリーンの文字は無情に続いた。
「皆さんは選ばれた被験者です。それぞれが過去に犯した『デジタル犯罪』について、真摯に向き合い、償いの機会を得ることができます」
蓮の血の気が引いた。デジタル犯罪——まさか、あの匿名掲示板の件を知っているのか。だが、あれは犯罪なんかじゃない。正義のための行動だったのだ。
「しかし、全員が償いを得られるわけではありません。このプログラムは競争です。最終的に『適応度の高い者』のみが選ばれ、真の贖罪の機会を得ることができます」
莉子が立ち上がった。
「ちょっと待って。話が違うじゃない。私たちは心理ケア合宿に参加しただけよ」
「座りなさい」
突然、莉子の首に小さな電流が走った。彼女は悲鳴を上げて椅子に崩れ落ちる。
「参加者には首輪型の行動制御装置が装着されています。プログラムの進行を妨げる行為は禁止されています」
蓮は慌てて自分の首に手をやった。確かに、薄いゴム状の何かが首の後ろに巻かれている。いつの間に装着されたのか、全く記憶にない。船で眠っている間だろうか。
「基本ルールを説明します」
スクリーンに箇条書きのリストが表示された。
1. 皆さんには最大30日間、この島で共同生活をしていただきます
2. 食事・寝具・水など最低限の物資は支給されます
3. 毎日午後9時に『告発時間』が始まります
4. 告発時間では、任意で1人を指名してデジタル犯罪を告発できます
5. 告発の結果、3票以上が集まった人物には審判が下されます
6. 告発は匿名です。ただし、虚偽の告発が続いた場合、告発者にも罰が科されます
7. 審判により適性なしと判断された場合、即時脱落となります
8. 脱落者の詳細は公開されません
9. 脱落者は戻りません
健太が震え声で言った。
「脱落って、まさか……」
「最後のルールです」スクリーンの文字が赤く変わった。「最終的に適応度の高い者数名が選ばれ、プログラムから解放されます。終了時刻は運営側が決定します」
「それでは、皆さんの『正しさ』を証明してください。Good Luck」
スクリーンが消え、ロビーが静寂に包まれた。
しばらくして、千尋が震え声で言った。
「これって、殺し合いゲームってこと?」
「違う」美咲がきっぱりと言った。「告発システムよ。つまり、誰かのデジタル犯罪を暴けば、その人が脱落する。物理的な暴力じゃなく、心理戦」
「でも結果は同じじゃないか」翔太が青ざめた顔で言った。「脱落者は戻らないって……」
蓮の頭の中で、記憶の断片がよみがえった。匿名掲示板。告発。そして、行方不明になった少女。自分があのとき投稿した内容が、今度は自分に向けられるかもしれない。
「みんな、落ち着いて」雪菜が小さな声で言った。「まだ何も始まってない。最初の告発時間まで、まだ時間がある」
「お前、随分冷静だな」亮介が雪菜を見つめた。
「冷静じゃないと死ぬから」雪菜の声には、諦めにも似た平静さがあった。
大輔が眼鏡を直しながら言った。
「ルールを整理しよう。告発は匿名で、3票以上集まれば審判が下される。つまり、13人の中で最低3人が同じ人物を告発すれば、その人は脱落する」
「でも、虚偽の告発には罰があるって言ってた」沙織が震え声で付け加えた。
「つまり、本当のデジタル犯罪を暴かなければならない」莉子が立ち上がりながら言った。「みんな、何かしらの過去があるから、ここに連れてこられたのよ」
蓮の心臓が激しく鼓動した。自分の過去が暴かれたら、どうなるのか。あの少女の失踪事件のことを知られたら。
いや、待て。あれは正義の行動だった。自分は何も悪いことはしていない。暴かれても恐れることはない。
しかし、胸の奥の不安は消えなかった。もし、他の参加者たちが自分の行動を「犯罪」だと判断したら。もし、自分が間違っていたとしたら。
「とりあえず、今夜9時まで時間がある」圭が初めて口を開いた。「部屋割りを確認して、それぞれの荷物を整理しよう」
受付カウンターに各自の名前と部屋番号が書かれたカードが置かれていた。蓮の部屋は203号室。二階の奥の方らしい。
階段を上がりながら、蓮は他の参加者たちの表情を観察した。みんな、それぞれに隠したい過去を抱えている。そして、今夜から始まる告発時間で、その過去が次々と暴かれていく。
果たして、自分は最後まで生き残れるのだろうか。
そして、本当に生き残りたいのだろうか。
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