告発ゲーム

みにぶた🐽

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第5章 疑念の種

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翌朝、食堂に現れたのは十二人だった。

健太がいた席は空席のままで、誰もそこに座ろうとしなかった。まるでタブーのように、その席だけが取り残されている。

朝食は昨夜と同様に豪華だったが、みんなの食欲は明らかに落ちていた。スプーンを口に運ぶ手も重く、会話もほとんどない。

蓮は昨夜から一睡もできていなかった。健太の最後の表情が頭から離れない。あの恐怖に歪んだ顔、助けを求める声。そして、それを無視して座り続けた自分。

「おはよう、蓮くん」

奈々が隣に座った。彼女は昨夜のことなどなかったかのように、いつもの笑顔を浮かべている。

「おはようございます。よく眠れましたか?」

「ええ、ぐっすりと」奈々は嘘をついているようには見えなかった。「健太さんのことは気の毒だったけど、仕方ないわよね」

蓮は奈々の言葉に違和感を覚えた。一人の人間が消えたというのに、あまりにも淡々としている。

食堂の向こうでは、美咲が大輔と何かを話し合っていた。二人とも深刻な表情で、時折他の参加者たちに視線を向けている。

拓海は一人で黙々と食事をしていたが、その目つきは昨日よりも鋭くなっているようだった。まるで獲物を狙う肉食動物のような、危険な雰囲気を漂わせている。

莉子は相変わらず美しい笑顔を浮かべていたが、その笑顔の裏に何かを隠しているような印象があった。彼女が他の参加者を見る目は、まるで値踏みをしているようだった。

「昨夜のことを話し合いましょう」美咲が立ち上がって言った。「健太さんの告発について、検証が必要です」

雪菜が小さな声で言った。

「何を検証するの?もう終わったことじゃない」

「終わったことじゃない」大輔が眼鏡を直しながら答えた。「今夜もまた告発時間がある。昨夜の告発パターンを分析すれば、今後の対策が立てられる」

千尋がスマートフォンから顔を上げた。

「でも、誰が健太さんを告発したかは分からないよね。匿名だから」

「それでも、推測はできる」亮介が威圧的な口調で言った。「健太を告発する理由があった人間を洗い出せばいい」

沙織が震え声で言った。

「そんなことしたら、疑心暗鬼になるだけよ。みんなで潰し合うことになる」

「もう潰し合いは始まってる」莉子が冷やかに言った。「昨夜の時点で、私たちは殺し合いを始めたのよ」

蓮の胸が締め付けられた。確かに、健太の告発に参加した人間がいる。そして、自分もその一人になる可能性があった。

「僕は告発しませんでした」蓮が口を開いた。「根拠もないのに人を告発するなんて、間違ってます」

「根拠がないって?」拓海が蓮を見つめた。「健太の犯罪は明確に示されてたじゃないか。高齢者詐欺で人を死に追いやったんだ」

「でも、それを僕たちが判断していいんでしょうか」蓮が反論した。「裁判官でもないのに」

美咲が鋭い口調で言った。

「ここでは私たちが裁判官よ。そういうルールなの。現実を受け入れなさい」

「現実って言うけど」圭が初めて口を開いた。「健太さんの犯罪は本当だったのかな。システムが表示した情報が正しいという保証はない」

その言葉に、みんなが息を呑んだ。

翔太が震え声で言った。

「まさか、嘘の情報で人を殺したってことか?」

「可能性はある」大輔が冷静に分析した。「このシステムの目的は私たちの心理測定だ。虚偽の情報で反応を見ている可能性もある」

沙織が青ざめて言った。

「だとしたら、私たちは無実の人を……」

「考えても仕方ない」莉子が話を遮った。「真実かどうかなんて確かめようがないでしょ。私たちにできるのは、与えられた情報で判断することだけ」

奈々が蓮の手を軽く叩いて言った。

「蓮くんは優しすぎるのよ。でも、この状況では優しさは弱さになる。生き残りたいなら、もっと現実的に考えなきゃ」

蓮は奈々の言葉に混乱した。確かに生き残りたいが、そのために他人を犠牲にするのは正しいのか。

朝食後、参加者たちは自然とグループに分かれ始めた。

美咲、大輔、亮介は情報分析グループを形成し、昨夜の告発パターンを詳しく検討していた。

拓海、莉子、千尋は実利主義グループとして、生き残るための具体的戦略を話し合っていた。

雪菜、沙織、翔太、圭は消極的グループとして、できるだけ告発を避ける方法を模索していた。

そして、蓮と奈々は中間的な立場で、どのグループにも完全には属していなかった。

昼食時、蓮は一人で食事をしていると、雪菜が近づいてきた。

「蓮くん、少し話せる?」

「もちろんです」

雪菜は蓮の向かいに座り、小さな声で言った。

「昨夜のこと、本当はどう思ってる?建前じゃなく、本音で」

蓮は少し考えてから答えた。

「恐ろしいです。人が一人消えたのに、僕たちはまだここで食事をしてる。まるで何もなかったかのように」

「私も同じ」雪菜が小さく頷いた。「でも、みんな平気そうに見える。特に奈々ちゃんとか莉子さんとか」

「奈々さんは強い人なんだと思います。この状況に適応してるだけで」

「本当にそうかな?」雪菜が蓮を見つめた。「もしかして、最初から慣れてるんじゃない?」

「慣れてるって、何に?」

「人を陥れることに」

蓮の背筋が寒くなった。確かに、奈々の反応は少し不自然だった。健太の死に対して、あまりにも冷静すぎる。

「でも、それは推測でしかありません」蓮が言った。

「推測でも、警戒はしておくべきよ」雪菜が立ち上がりながら言った。「この島では、疑うことも生存戦略の一つなの」

午後、蓮は一人で散歩をしていた。島の中央部には美しい公園があり、色とりどりの花が咲いている。しかし、その美しさも今では皮肉に感じられた。

ベンチに座って空を見上げていると、奈々が現れた。

「一人で何を考えてるの?」

「色々です。この状況とか、自分のこととか」

奈々はベンチに座り、蓮の手を取った。

「ねえ、蓮くん。今夜の告発時間のこと、考えてる?」

「考えたくないです。でも、避けて通れませんよね」

「そうね。でも、誰を告発するか決めた?」

蓮は奈々を見つめた。その質問があまりにも直接的で、驚いた。

「まだ決めてません。というか、決めたくありません」

「でも、決めないと自分が告発される可能性があるわよ」奈々の声に、微かに脅しのような響きがあった。

「奈々さんは決めたんですか?」

奈々は少し考えてから答えた。

「候補はいるわ。でも、まだ確定じゃない」

「誰ですか?」

「秘密よ」奈々がいたずらっぽく笑った。しかし、その笑顔に蓮は寒気を感じた。

夕食時、参加者たちの間に明らかな緊張感が漂っていた。みんな、今夜の告発時間のことで頭がいっぱいだった。

美咲が立ち上がって言った。

「今夜の告発について、提案があります」

みんなが美咲を見つめた。

「昨夜の反省を踏まえて、告発にはより明確な根拠を要求すべきです。推測や憶測だけで人を告発するのは危険です」

拓海が反論した。

「綺麗事を言ってる場合か。生き残るためには、危険な奴から排除していくしかない」

「危険って何?」千尋が尋ねた。

「この状況に適応しすぎてる奴だ」拓海が参加者たちを見回した。「平然としてる奴ほど、実は一番危険かもしれない」

その視線が奈々に向けられたとき、蓮の心臓が跳ね上がった。

午後9時が近づき、参加者たちは再びロビーに集まった。

健太がいないため、椅子の配置が変更されており、空席が目立たないようになっていた。しかし、十二人という数字が、昨夜の出来事を否応なく思い出させた。

「告発時間開始5分前です」

機械音声が響き、再び端末がせり上がってきた。

蓮は画面を見つめながら、雪菜の言葉を思い出していた。「疑うことも生存戦略の一つ」

果たして、今夜は誰が告発されるのか。

そして、自分は正しい選択ができるのか。
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