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第II部:支配という報酬
第11章「選ばれない恐怖」
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翌日の午前8時。
俺たち看守は特別な会議室に召集されていた。昨夜から設置されたこの部屋は、囚人たちからは隔離されており、看守だけが使用できる空間だった。
機械音声が告げる。
「看守の皆様へ重要な発表があります。明日の第5回投票より、看守選出方式を変更いたします」
俺たちは身を乗り出した。
「従来の上位5名自動選出から、『看守立候補制』に変更いたします。立候補者の中から視聴者投票により5名を選出します」
会議室内がざわめいた。
斑鳩凌が険しい表情で言った。
「立候補制だと?それは何を意味する?」
「看守に立候補しなかった者は、自動的に囚人となります。また、立候補したが選出されなかった者も囚人となります」
鳴海瑠璃が冷静に分析した。
「つまり、看守でいたければ自ら立候補し、かつ視聴者に選ばれなければならないということね」
「その通りです。なお、立候補の際は『看守としての抱負』を視聴者に向けて発表していただきます」
真鍋天馬が震え声で言った。
「でも…僕たちは今まで看守として活動してきたのに…」
「過去の実績は参考程度です。視聴者は新鮮な刺激を求めています」
雪村颯汰が苦悩の表情を見せた。
「つまり、僕たちの中にも囚人に落ちる可能性がある人が出るということですか?」
「可能性ではありません。確実に発生いたします」
俺は冷静に状況を分析していた。
これは明らかに看守間の分裂を狙ったシステム変更だ。俺たちに競争を強要し、互いを蹴落とし合わせるための仕組み。
配信画面には既に視聴者のコメントが流れていた。
『看守選挙面白そう』
『誰が落選するかな』
『#15は確実に落ちる』
『#07は安泰でしょ』
『投票権あるの嬉しい』
斑鳩凌が立ち上がった。
「分かった。俺は当然立候補する。これまでの実績を見れば、選ばれないはずがない」
鳴海瑠璃も同調した。
「私もよ。視聴者は私の冷徹さを評価している」
真鍋天馬は明らかに動揺していた。
「僕は…僕の命令は視聴者に不評だった…」
雪村颯汰も同様だった。
「僕もです…このままじゃ囚人に落ちる…」
俺は黙って彼らの反応を観察していた。
恐怖。それが今、看守たちを支配している感情だった。
権力を失う恐怖。囚人に落ちる恐怖。死の恐怖。
機械音声が続ける。
「立候補受付は本日午後2時より開始いたします。抱負発表は午後4時からライブ配信にて実施いたします」
会議室を出ると、俺たちは個別に戦略を練り始めた。
午前10時。俺は一人で現在の囚人たちの様子を観察していた。
彼らは看守選出方式の変更をまだ知らない。だが、何らかの変化があることは感じ取っているようだった。
五十嵐龍之介は相変わらず気力を失っていた。相楽翠の死から三日が経っても、彼の罪悪感は深まるばかりだった。
早乙女千景と宝生朱音は互いを避け続けていた。秘密を暴露された傷は、まだ癒えていない。
安堂圭吾は偽善を暴かれたことで、自分の正義感に確信を持てずにいた。
白鷺小夜は恐怖で思考停止状態。
葛城翼は怒りを内に秘めながら、脱出の可能性を模索していた。
宍戸昴だけは、相変わらず状況を楽しんでいるようだった。
午後1時。昼食時間中に、真鍋天馬が俺に近づいてきた。
「#07…僕たち、もう終わりなんでしょうか」
俺は彼を見つめた。
「何がだ?」
「看守選挙…僕と雪村さんは確実に落選する。視聴者からの評価が低すぎる」
俺は冷静に答えた。
「それは抱負発表の内容次第だ」
「でも…僕たちにはもう、過激な命令を出すことはできない…」
「過激さだけが評価基準じゃない」
真鍋天馬は希望を込めて俺を見た。
「本当ですか?」
「視聴者が求めているのはエンタメだ。過激さはその一つの要素でしかない。創造性、意外性、心理的な駆け引き。方法はいくらでもある」
真鍋天馬は少し表情を明るくした。
「#07…ありがとうございます」
だが俺は内心で思っていた。
真鍋天馬の優しさは、このゲームでは致命的な弱点だ。彼が看守に残る可能性は低い。
雪村颯汰も同様。彼らの人道主義は、視聴者には退屈に映る。
午後2時。立候補受付が開始された。
最初に斑鳩凌が立候補した。
「俺は引き続き看守として、厳格な規律維持に努める」
続いて鳴海瑠璃。
「冷静な判断で、効果的な命令を実行いたします」
俺も当然立候補した。
「戦略的かつ創造的な手法で、視聴者の期待に応えます」
真鍋天馬は迷いながらも立候補した。
「人間らしさを保ちながら、建設的な活動を目指します」
雪村颯汰も震え声で立候補した。
「協調性を重視し、全員の幸福を追求します」
5名全員が立候補。つまり、この5人の中から選ばれなかった者が囚人に落ちる。
午後4時。抱負発表の時間が来た。
中央ホールに全参加者が集められ、ライブ配信が開始された。視聴者数は既に8万人を超えていた。
機械音声が告げる。
「看守立候補者による抱負発表を開始いたします。発表順は現在の人気順位によります」
つまり、俺が最初だった。
俺は看守席から立ち上がり、カメラに向かって話し始めた。
「視聴者の皆様、私は#07緋村陸翔として、引き続き看守を務めさせていただきたいと思います」
配信のコメント欄が反応した。
『#07きたああ』
『安定感抜群』
『期待してる』
「私の方針は一貫しています。冷静な分析に基づく戦略的な命令実行。そして、視聴者の皆様に最高のエンタメを提供すること」
俺は少し間を置いた。
「これまでの私の命令を振り返ってください。五十嵐龍之介の優しさを封じた心理戦。安堂圭吾に建設的思考を促した知的なアプローチ。そして昨日の、追悼という美名の下での精神的追い詰め」
コメント欄が盛り上がった。
『#07の命令分析神』
『心理戦の教科書』
『だから面白い』
「私は約束します。看守に選ばれれば、これまで以上に創造的で効果的な命令を実行いたします。表面的な過激さではなく、深層心理に働きかける真の心理戦を」
俺は深く頭を下げた。
「視聴者の皆様の一票を、どうかお願いいたします」
配信のコメント欄は俺への支持で溢れた。
『#07確定』
『他の候補者可哀想』
『圧倒的すぎる』
『課金決定』
続いて斑鳩凌が発表した。
「俺は#01斑鳩凌だ。これまで看守として、厳格な規律維持に努めてきた」
彼は力強く語った。
「俺の方針は明確だ。甘えを許さず、違反者には容赦なく処罰を科す。それが真の秩序維持だ」
『#01も安定』
『厳格路線支持』
『でも#07より格下』
「俺は約束する。看守に選ばれれば、さらに厳しい規律で臨む。囚人どもの甘えを完全に排除してやる」
鳴海瑠璃の発表。
「私は#10鳴海瑠璃です。冷静な判断力が私の武器です」
彼女は淡々と語った。
「感情に流されることなく、最も効果的な命令を選択してきました。この冷徹さこそが、このゲームで求められる資質です」
『#10も確実』
『冷血女王』
『トップ3安泰』
真鍋天馬の番になった。彼は明らかに緊張していた。
「僕は#15真鍋天馬です…その…」
彼は震え声で話した。
「僕の方針は…人間らしさを保つことです。残酷な命令ではなく、建設的な活動を通じて…」
コメント欄の反応は冷たかった。
『つまらん』
『甘すぎ』
『退場確定』
『時間の無駄』
「でも…でも僕は信じています。人間らしさを失わずにも、このゲームで意味のある活動ができると…」
真鍋天馬の発表は、明らかに失敗だった。
最後に雪村颯汰。
「僕は#04雪村颯汰です。協調性を重視した活動を目指します」
彼も緊張していた。
「みんなが協力し合えば、きっと全員で生き残る方法が…」
コメント欄は容赦なかった。
『現実見ろよ』
『全員生存とか無理』
『こいつも退場』
『下位2名確定』
「僕は…僕は最後まで希望を捨てません…」
雪村颯汰の発表も、予想通り不評だった。
抱負発表が終わると、即座に視聴者投票が開始された。
結果は30分後に発表される。
その間、俺たちは看守会議室で結果を待った。
斑鳩凌が俺に言った。
「#07、お前の発表は完璧だった。さすがだ」
鳴海瑠璃も同調した。
「私たち3人は確実に選ばれるわね」
真鍋天馬と雪村颯汰は、絶望的な表情で座っていた。
真鍋天馬が震え声で言った。
「僕たち…もう終わりですね…」
雪村颯汰も諦めの表情だった。
「囚人になったら…きっと最初の投票で…」
俺は彼らを見つめた。
確かに、彼らの落選は確実だ。そして囚人に落ちれば、死の確率は大幅に上がる。
だが、それがこのゲームのルールだった。
午後4時30分。結果発表の時間が来た。
全参加者が中央ホールに集められ、モニターに結果が表示された。
『看守選挙結果発表』
『1位:#07 緋村陸翔 4,234票』
『2位:#01 斑鳩凌 3,567票』
『3位:#10 鳴海瑠璃 3,123票』
『4位:#15 真鍋天馬 1,234票』
『5位:#04 雪村颯汰 892票』
結果は意外だった。
真鍋天馬が4位で滑り込み、雪村颯汰が落選したのだ。
雪村颯汰の顔が蒼白になった。
「僕が…僕が最下位…」
機械音声が告げる。
「新看守として、1位から4位までの4名を任命いたします。#04雪村颯汰は囚人となります」
看守が4名に減った。そして雪村颯汰は囚人に落ちた。
真鍋天馬が驚いた表情で言った。
「僕が…選ばれた?」
配信のコメント欄を見ると、その理由が分かった。
『#15の人間性に同情票』
『あまりに可哀想だった』
『最後の良心として残そう』
『でも#04は無理』
視聴者の一部が、真鍋天馬の人間性に同情票を入れたのだ。一方で雪村颯汰は、単純に魅力に欠けると判断された。
雪村颯汰は看守席から立ち上がり、囚人エリアに移動した。
彼の目には、深い絶望が宿っていた。
そして俺は理解した。
これが権力争いの現実だ。昨日まで仲間だった者が、今日は競争相手になる。そして敗者は容赦なく排除される。
斑鳩凌が満足そうに言った。
「これで甘い看守は排除された。より効率的な運営ができる」
鳴海瑠璃も同調した。
「感情的な判断をする者がいなくなって良かったわ」
真鍋天馬は複雑な表情を見せていた。
「でも…雪村さんは良い人だったのに…」
俺は冷静に状況を分析していた。
看守が4名に減ったことで、1人当たりの権力が増した。一方で囚人は8名に増え、競争はさらに激化する。
そして雪村颯汰という温厚な人間が囚人に落ちたことで、囚人たちにとっては数少ない理解者を失ったことになる。
機械音声が告げた。
「明日より新体制での活動を開始いたします。看守4名は、より創造的で効果的な命令実行を期待いたします」
配信のコメント欄は新体制への期待で溢れていた。
『4名体制面白そう』
『#04が囚人とか胸熱』
『明日の命令楽しみ』
『看守減って一人当たりの権力増加』
夜になると、俺は一人で今日の出来事を振り返っていた。
看守選挙。それは看守間の分裂を決定的にした。
俺、斑鳩凌、鳴海瑠璃は勝ち組として残り、真鍋天馬は同情票で辛うじて生き残り、雪村颯汰は敗者として囚人に落ちた。
この結果、看守の中で最も冷徹な3名が残り、人道主義者は大幅に力を失った。
そして俺自身も、この権力争いに勝利したことで、奇妙な満足感を覚えていた。
競争に勝つ快感。他者を蹴落とす優越感。権力を維持する安堵感。
これらの感情が、確実に俺の中で育っている。
俺は囚人エリアにいる雪村颯汰を見た。
昨日まで同じ看守席に座っていた彼が、今は床に座らされている。
その光景は、権力の脆さと残酷さを物語っていた。
そして明日からは、俺たち4名の看守が8名の囚人を支配することになる。
より少ない看守で、より多くの囚人を。
より効率的に、より創造的に。
配信は続き、視聴者たちは俺たちの新たな権力構造を楽しみにしている。
俺は明日への戦略を練り始めた。
4名体制での新しい支配方法を。
そして、元同僚だった雪村颯汰をどう扱うかを。
権力を手にした者の責任として。
この狂った世界で生き残るために。
俺たち看守は特別な会議室に召集されていた。昨夜から設置されたこの部屋は、囚人たちからは隔離されており、看守だけが使用できる空間だった。
機械音声が告げる。
「看守の皆様へ重要な発表があります。明日の第5回投票より、看守選出方式を変更いたします」
俺たちは身を乗り出した。
「従来の上位5名自動選出から、『看守立候補制』に変更いたします。立候補者の中から視聴者投票により5名を選出します」
会議室内がざわめいた。
斑鳩凌が険しい表情で言った。
「立候補制だと?それは何を意味する?」
「看守に立候補しなかった者は、自動的に囚人となります。また、立候補したが選出されなかった者も囚人となります」
鳴海瑠璃が冷静に分析した。
「つまり、看守でいたければ自ら立候補し、かつ視聴者に選ばれなければならないということね」
「その通りです。なお、立候補の際は『看守としての抱負』を視聴者に向けて発表していただきます」
真鍋天馬が震え声で言った。
「でも…僕たちは今まで看守として活動してきたのに…」
「過去の実績は参考程度です。視聴者は新鮮な刺激を求めています」
雪村颯汰が苦悩の表情を見せた。
「つまり、僕たちの中にも囚人に落ちる可能性がある人が出るということですか?」
「可能性ではありません。確実に発生いたします」
俺は冷静に状況を分析していた。
これは明らかに看守間の分裂を狙ったシステム変更だ。俺たちに競争を強要し、互いを蹴落とし合わせるための仕組み。
配信画面には既に視聴者のコメントが流れていた。
『看守選挙面白そう』
『誰が落選するかな』
『#15は確実に落ちる』
『#07は安泰でしょ』
『投票権あるの嬉しい』
斑鳩凌が立ち上がった。
「分かった。俺は当然立候補する。これまでの実績を見れば、選ばれないはずがない」
鳴海瑠璃も同調した。
「私もよ。視聴者は私の冷徹さを評価している」
真鍋天馬は明らかに動揺していた。
「僕は…僕の命令は視聴者に不評だった…」
雪村颯汰も同様だった。
「僕もです…このままじゃ囚人に落ちる…」
俺は黙って彼らの反応を観察していた。
恐怖。それが今、看守たちを支配している感情だった。
権力を失う恐怖。囚人に落ちる恐怖。死の恐怖。
機械音声が続ける。
「立候補受付は本日午後2時より開始いたします。抱負発表は午後4時からライブ配信にて実施いたします」
会議室を出ると、俺たちは個別に戦略を練り始めた。
午前10時。俺は一人で現在の囚人たちの様子を観察していた。
彼らは看守選出方式の変更をまだ知らない。だが、何らかの変化があることは感じ取っているようだった。
五十嵐龍之介は相変わらず気力を失っていた。相楽翠の死から三日が経っても、彼の罪悪感は深まるばかりだった。
早乙女千景と宝生朱音は互いを避け続けていた。秘密を暴露された傷は、まだ癒えていない。
安堂圭吾は偽善を暴かれたことで、自分の正義感に確信を持てずにいた。
白鷺小夜は恐怖で思考停止状態。
葛城翼は怒りを内に秘めながら、脱出の可能性を模索していた。
宍戸昴だけは、相変わらず状況を楽しんでいるようだった。
午後1時。昼食時間中に、真鍋天馬が俺に近づいてきた。
「#07…僕たち、もう終わりなんでしょうか」
俺は彼を見つめた。
「何がだ?」
「看守選挙…僕と雪村さんは確実に落選する。視聴者からの評価が低すぎる」
俺は冷静に答えた。
「それは抱負発表の内容次第だ」
「でも…僕たちにはもう、過激な命令を出すことはできない…」
「過激さだけが評価基準じゃない」
真鍋天馬は希望を込めて俺を見た。
「本当ですか?」
「視聴者が求めているのはエンタメだ。過激さはその一つの要素でしかない。創造性、意外性、心理的な駆け引き。方法はいくらでもある」
真鍋天馬は少し表情を明るくした。
「#07…ありがとうございます」
だが俺は内心で思っていた。
真鍋天馬の優しさは、このゲームでは致命的な弱点だ。彼が看守に残る可能性は低い。
雪村颯汰も同様。彼らの人道主義は、視聴者には退屈に映る。
午後2時。立候補受付が開始された。
最初に斑鳩凌が立候補した。
「俺は引き続き看守として、厳格な規律維持に努める」
続いて鳴海瑠璃。
「冷静な判断で、効果的な命令を実行いたします」
俺も当然立候補した。
「戦略的かつ創造的な手法で、視聴者の期待に応えます」
真鍋天馬は迷いながらも立候補した。
「人間らしさを保ちながら、建設的な活動を目指します」
雪村颯汰も震え声で立候補した。
「協調性を重視し、全員の幸福を追求します」
5名全員が立候補。つまり、この5人の中から選ばれなかった者が囚人に落ちる。
午後4時。抱負発表の時間が来た。
中央ホールに全参加者が集められ、ライブ配信が開始された。視聴者数は既に8万人を超えていた。
機械音声が告げる。
「看守立候補者による抱負発表を開始いたします。発表順は現在の人気順位によります」
つまり、俺が最初だった。
俺は看守席から立ち上がり、カメラに向かって話し始めた。
「視聴者の皆様、私は#07緋村陸翔として、引き続き看守を務めさせていただきたいと思います」
配信のコメント欄が反応した。
『#07きたああ』
『安定感抜群』
『期待してる』
「私の方針は一貫しています。冷静な分析に基づく戦略的な命令実行。そして、視聴者の皆様に最高のエンタメを提供すること」
俺は少し間を置いた。
「これまでの私の命令を振り返ってください。五十嵐龍之介の優しさを封じた心理戦。安堂圭吾に建設的思考を促した知的なアプローチ。そして昨日の、追悼という美名の下での精神的追い詰め」
コメント欄が盛り上がった。
『#07の命令分析神』
『心理戦の教科書』
『だから面白い』
「私は約束します。看守に選ばれれば、これまで以上に創造的で効果的な命令を実行いたします。表面的な過激さではなく、深層心理に働きかける真の心理戦を」
俺は深く頭を下げた。
「視聴者の皆様の一票を、どうかお願いいたします」
配信のコメント欄は俺への支持で溢れた。
『#07確定』
『他の候補者可哀想』
『圧倒的すぎる』
『課金決定』
続いて斑鳩凌が発表した。
「俺は#01斑鳩凌だ。これまで看守として、厳格な規律維持に努めてきた」
彼は力強く語った。
「俺の方針は明確だ。甘えを許さず、違反者には容赦なく処罰を科す。それが真の秩序維持だ」
『#01も安定』
『厳格路線支持』
『でも#07より格下』
「俺は約束する。看守に選ばれれば、さらに厳しい規律で臨む。囚人どもの甘えを完全に排除してやる」
鳴海瑠璃の発表。
「私は#10鳴海瑠璃です。冷静な判断力が私の武器です」
彼女は淡々と語った。
「感情に流されることなく、最も効果的な命令を選択してきました。この冷徹さこそが、このゲームで求められる資質です」
『#10も確実』
『冷血女王』
『トップ3安泰』
真鍋天馬の番になった。彼は明らかに緊張していた。
「僕は#15真鍋天馬です…その…」
彼は震え声で話した。
「僕の方針は…人間らしさを保つことです。残酷な命令ではなく、建設的な活動を通じて…」
コメント欄の反応は冷たかった。
『つまらん』
『甘すぎ』
『退場確定』
『時間の無駄』
「でも…でも僕は信じています。人間らしさを失わずにも、このゲームで意味のある活動ができると…」
真鍋天馬の発表は、明らかに失敗だった。
最後に雪村颯汰。
「僕は#04雪村颯汰です。協調性を重視した活動を目指します」
彼も緊張していた。
「みんなが協力し合えば、きっと全員で生き残る方法が…」
コメント欄は容赦なかった。
『現実見ろよ』
『全員生存とか無理』
『こいつも退場』
『下位2名確定』
「僕は…僕は最後まで希望を捨てません…」
雪村颯汰の発表も、予想通り不評だった。
抱負発表が終わると、即座に視聴者投票が開始された。
結果は30分後に発表される。
その間、俺たちは看守会議室で結果を待った。
斑鳩凌が俺に言った。
「#07、お前の発表は完璧だった。さすがだ」
鳴海瑠璃も同調した。
「私たち3人は確実に選ばれるわね」
真鍋天馬と雪村颯汰は、絶望的な表情で座っていた。
真鍋天馬が震え声で言った。
「僕たち…もう終わりですね…」
雪村颯汰も諦めの表情だった。
「囚人になったら…きっと最初の投票で…」
俺は彼らを見つめた。
確かに、彼らの落選は確実だ。そして囚人に落ちれば、死の確率は大幅に上がる。
だが、それがこのゲームのルールだった。
午後4時30分。結果発表の時間が来た。
全参加者が中央ホールに集められ、モニターに結果が表示された。
『看守選挙結果発表』
『1位:#07 緋村陸翔 4,234票』
『2位:#01 斑鳩凌 3,567票』
『3位:#10 鳴海瑠璃 3,123票』
『4位:#15 真鍋天馬 1,234票』
『5位:#04 雪村颯汰 892票』
結果は意外だった。
真鍋天馬が4位で滑り込み、雪村颯汰が落選したのだ。
雪村颯汰の顔が蒼白になった。
「僕が…僕が最下位…」
機械音声が告げる。
「新看守として、1位から4位までの4名を任命いたします。#04雪村颯汰は囚人となります」
看守が4名に減った。そして雪村颯汰は囚人に落ちた。
真鍋天馬が驚いた表情で言った。
「僕が…選ばれた?」
配信のコメント欄を見ると、その理由が分かった。
『#15の人間性に同情票』
『あまりに可哀想だった』
『最後の良心として残そう』
『でも#04は無理』
視聴者の一部が、真鍋天馬の人間性に同情票を入れたのだ。一方で雪村颯汰は、単純に魅力に欠けると判断された。
雪村颯汰は看守席から立ち上がり、囚人エリアに移動した。
彼の目には、深い絶望が宿っていた。
そして俺は理解した。
これが権力争いの現実だ。昨日まで仲間だった者が、今日は競争相手になる。そして敗者は容赦なく排除される。
斑鳩凌が満足そうに言った。
「これで甘い看守は排除された。より効率的な運営ができる」
鳴海瑠璃も同調した。
「感情的な判断をする者がいなくなって良かったわ」
真鍋天馬は複雑な表情を見せていた。
「でも…雪村さんは良い人だったのに…」
俺は冷静に状況を分析していた。
看守が4名に減ったことで、1人当たりの権力が増した。一方で囚人は8名に増え、競争はさらに激化する。
そして雪村颯汰という温厚な人間が囚人に落ちたことで、囚人たちにとっては数少ない理解者を失ったことになる。
機械音声が告げた。
「明日より新体制での活動を開始いたします。看守4名は、より創造的で効果的な命令実行を期待いたします」
配信のコメント欄は新体制への期待で溢れていた。
『4名体制面白そう』
『#04が囚人とか胸熱』
『明日の命令楽しみ』
『看守減って一人当たりの権力増加』
夜になると、俺は一人で今日の出来事を振り返っていた。
看守選挙。それは看守間の分裂を決定的にした。
俺、斑鳩凌、鳴海瑠璃は勝ち組として残り、真鍋天馬は同情票で辛うじて生き残り、雪村颯汰は敗者として囚人に落ちた。
この結果、看守の中で最も冷徹な3名が残り、人道主義者は大幅に力を失った。
そして俺自身も、この権力争いに勝利したことで、奇妙な満足感を覚えていた。
競争に勝つ快感。他者を蹴落とす優越感。権力を維持する安堵感。
これらの感情が、確実に俺の中で育っている。
俺は囚人エリアにいる雪村颯汰を見た。
昨日まで同じ看守席に座っていた彼が、今は床に座らされている。
その光景は、権力の脆さと残酷さを物語っていた。
そして明日からは、俺たち4名の看守が8名の囚人を支配することになる。
より少ない看守で、より多くの囚人を。
より効率的に、より創造的に。
配信は続き、視聴者たちは俺たちの新たな権力構造を楽しみにしている。
俺は明日への戦略を練り始めた。
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権力を手にした者の責任として。
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