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第V部:視聴率の地獄
第27章 「誰のために命令してるの?」
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看守削減から一夜が明けた。
ホール中央には、昨日の溶解処刑で使用された巨大な槽がまだ残っている。槽の底には斑鳩凌と鳴海瑠璃の骨と神経の残骸が沈んでいた。その光景を見るたびに、俺は自分の立場の危うさを思い知らされる。
午前9時。
配信画面に表示される視聴者数は250万人。昨日の看守処刑により、視聴者の関心は最高潮に達していた。
残る参加者は7名。看守は俺と五十嵐龍之介の2名のみ。囚人は5名。
俺は看守席から囚人たちを見下ろした。雪村颯汰、宝生朱音、白鷺小夜、安堂圭吾、宍戸昴。彼らは昨日の看守処刑に動揺し、恐怖と混乱の中にいた。
五十嵐龍之介は血まみれの指で壁に「ごめんなさい」を書き続けていた。昨日の投票で2位になった彼は、完全に人間性を放棄したことで視聴者から高評価を得ている。
「人間をやめたので、もう迷いません」五十嵐が呟いた。「感情も良心も捨てました。純粋な娯楽装置として機能します」
コメント欄が反応した。
『#08の変貌完璧』
『もう戻れないレベル』
『これぞ真の看守』
『#07と#08の対比面白い』
機械音声が響いた。
「2名体制による新たな命令システムを開始します。各看守は1日に3回まで命令を出すことができます。より集中的で効果的な支配を実現してください」
俺は複雑な気持ちでいた。看守が2名になったことで、一人当たりの責任と負担が大幅に増加している。そして、視聴者の期待も同様に高まっている。
「緋村さん」五十嵐龍之介が振り返った。血まみれの手を止めて、冷たい目で俺を見つめる。「どちらが先に命令を出しますか?」
俺は囚人たちを観察した。彼らの表情には、昨日までとは違う何かがあった。看守の処刑を目撃したことで、権力の脆さを理解したのだ。
「雪村颯汰」俺は立ち上がって言った。「お前は元看守だったな。他の囚人に向かって、なぜ自分が看守から落ちたのか、詳細に説明しろ」
雪村颯汰の顔が歪んだ。「そんな…恥を晒せというのか…」
「命令だ」
雪村颯汰は震えながら立ち上がった。そして、囚人たちに向かって話し始めた。
「僕は…僕は視聴者に嫌われたんです。優し過ぎて、命令が甘過ぎて…だから選挙で落とされて…」
彼の声は震えていた。元看守としての屈辱を公開させられる苦痛が表情に現れている。
「続けろ」俺は冷静に命じた。「どんな気持ちで囚人に落ちたのか、具体的に語れ」
コメント欄が興奮した。
『元看守の屈辱最高』
『#07の心理戦えぐい』
『#04かわいそうだけど面白い』
五十嵐龍之介が血文字を書きながら言った。
「素晴らしい命令ですね。元権力者の屈辱ほど美しいものはありません」
その時、意外な声が上がった。
「やめろよ」
宍戸昴が立ち上がった。密閉装置のPTSDで震えながらも、勇気を振り絞って声を上げた。
「雪村さんは…雪村さんは僕たちを守ろうとしてくれたんだ。それなのに…こんな仕打ちは酷すぎる」
ホール内が静まり返った。
俺は宍戸昴を見つめた。密閉装置の恐怖を乗り越えて、仲間を庇おうとしている。
「宍戸昴」俺は冷静に言った。「お前が庇っても、雪村の立場は変わらない。むしろお前自身が危険になるだけだ」
「それでも!」宍戸昴が叫んだ。「僕たちは人間だ!尊厳がある!」
コメント欄が分裂した。
『#14勇気ある』
『でも無駄だよね』
『感動する』
『現実見ろよ』
五十嵐龍之介が興味深そうに見つめていた。
「人間…ですか」五十嵐が血まみれの手を止めた。「僕はもう人間をやめたので、そういう感情はありません。でも面白い観察材料ですね」
そして、五十嵐が立ち上がった。
「宍戸昴。あなたの勇気は素晴らしい。でも無意味です。では、あなたに命令を出しましょう」
五十嵐の目が冷たく光った。
「雪村颯汰の代わりに、あなたが屈辱を味わってください。みんなの前で、自分が最も恥ずかしいと思う秘密を告白しなさい」
宍戸昴の顔が青ざめた。「そんな…」
「人間をやめたので、遠慮はしません」五十嵐が血まみれの指で新たに文字を書きながら言った。「これが娯楽です」
俺は五十嵐龍之介を見つめていた。彼の変貌は完全だった。もはや躊躇も迷いもない。純粋な娯楽装置として機能している。
そして、俺自身はどうなのか。
俺は確かに命令を出している。雪村颯汰に屈辱を味わわせ、視聴者を満足させている。だが、心の奥では何かが引っかかっている。
これは誰のための命令なのか。
視聴者のためか。自分の生存のためか。それとも、単なる権力の行使なのか。
宍戸昴が震えながら答えた。
「僕は…僕は昔、友達を裏切ったことがあります…お金のために…友達の秘密を売ったんです…」
彼の告白が続く中、俺は複雑な感情に襲われていた。
これが正しいことなのか。これが俺の求めていた生存なのか。
コメント欄は狂騒していた。
『告白キター』
『#14の過去えぐい』
『人間の闇』
『もっと聞きたい』
視聴者数は300万人を突破していた。
五十嵐龍之介が満足そうに血文字を書き続けた。「素晴らしい。人間の醜さが露呈されました。これが真の娯楽です」
俺は深い疑問を抱いていた。
俺たちは誰のために命令を出しているのか。
視聴者の娯楽のため。自分の生存のため。権力を維持するため。
だが、その先に何があるのか。
俺たちが人間性を完全に失った時、何が残るのか。
宍戸昴の告白が終わった後、ホール内に重い沈黙が流れた。
「次は誰に命令しますか?」五十嵐龍之介が俺に向かって言った。「僕はもう人間ではないので、遠慮なく楽しめます」
俺は看守席に座り直した。
残り3回の命令。5名の囚人。300万人の視聴者。
そして、人間性を完全に放棄した相棒。
俺は自分自身に問いかけていた。
この先、俺は何になるのか。
五十嵐龍之介のように、完全に人間性を捨てるのか。
それとも、最後まで僅かな良心を抱き続けるのか。
どちらの道も、地獄への道だった。
「緋村さん」五十嵐が血文字を書きながら言った。「迷いは人間の証拠です。でも、この場所に人間はいりません」
俺は複雑な表情で彼を見つめた。
彼の言葉は正しいのかもしれない。
この人気投票の檻で生き残るためには、人間であることを完全に放棄しなければならないのかもしれない。
だが、それでも俺は躊躇していた。
まだ完全には、人間をやめられずにいた。
そして、その躊躇こそが、俺の最大の弱点になるのかもしれない。
ホール中央には、昨日の溶解処刑で使用された巨大な槽がまだ残っている。槽の底には斑鳩凌と鳴海瑠璃の骨と神経の残骸が沈んでいた。その光景を見るたびに、俺は自分の立場の危うさを思い知らされる。
午前9時。
配信画面に表示される視聴者数は250万人。昨日の看守処刑により、視聴者の関心は最高潮に達していた。
残る参加者は7名。看守は俺と五十嵐龍之介の2名のみ。囚人は5名。
俺は看守席から囚人たちを見下ろした。雪村颯汰、宝生朱音、白鷺小夜、安堂圭吾、宍戸昴。彼らは昨日の看守処刑に動揺し、恐怖と混乱の中にいた。
五十嵐龍之介は血まみれの指で壁に「ごめんなさい」を書き続けていた。昨日の投票で2位になった彼は、完全に人間性を放棄したことで視聴者から高評価を得ている。
「人間をやめたので、もう迷いません」五十嵐が呟いた。「感情も良心も捨てました。純粋な娯楽装置として機能します」
コメント欄が反応した。
『#08の変貌完璧』
『もう戻れないレベル』
『これぞ真の看守』
『#07と#08の対比面白い』
機械音声が響いた。
「2名体制による新たな命令システムを開始します。各看守は1日に3回まで命令を出すことができます。より集中的で効果的な支配を実現してください」
俺は複雑な気持ちでいた。看守が2名になったことで、一人当たりの責任と負担が大幅に増加している。そして、視聴者の期待も同様に高まっている。
「緋村さん」五十嵐龍之介が振り返った。血まみれの手を止めて、冷たい目で俺を見つめる。「どちらが先に命令を出しますか?」
俺は囚人たちを観察した。彼らの表情には、昨日までとは違う何かがあった。看守の処刑を目撃したことで、権力の脆さを理解したのだ。
「雪村颯汰」俺は立ち上がって言った。「お前は元看守だったな。他の囚人に向かって、なぜ自分が看守から落ちたのか、詳細に説明しろ」
雪村颯汰の顔が歪んだ。「そんな…恥を晒せというのか…」
「命令だ」
雪村颯汰は震えながら立ち上がった。そして、囚人たちに向かって話し始めた。
「僕は…僕は視聴者に嫌われたんです。優し過ぎて、命令が甘過ぎて…だから選挙で落とされて…」
彼の声は震えていた。元看守としての屈辱を公開させられる苦痛が表情に現れている。
「続けろ」俺は冷静に命じた。「どんな気持ちで囚人に落ちたのか、具体的に語れ」
コメント欄が興奮した。
『元看守の屈辱最高』
『#07の心理戦えぐい』
『#04かわいそうだけど面白い』
五十嵐龍之介が血文字を書きながら言った。
「素晴らしい命令ですね。元権力者の屈辱ほど美しいものはありません」
その時、意外な声が上がった。
「やめろよ」
宍戸昴が立ち上がった。密閉装置のPTSDで震えながらも、勇気を振り絞って声を上げた。
「雪村さんは…雪村さんは僕たちを守ろうとしてくれたんだ。それなのに…こんな仕打ちは酷すぎる」
ホール内が静まり返った。
俺は宍戸昴を見つめた。密閉装置の恐怖を乗り越えて、仲間を庇おうとしている。
「宍戸昴」俺は冷静に言った。「お前が庇っても、雪村の立場は変わらない。むしろお前自身が危険になるだけだ」
「それでも!」宍戸昴が叫んだ。「僕たちは人間だ!尊厳がある!」
コメント欄が分裂した。
『#14勇気ある』
『でも無駄だよね』
『感動する』
『現実見ろよ』
五十嵐龍之介が興味深そうに見つめていた。
「人間…ですか」五十嵐が血まみれの手を止めた。「僕はもう人間をやめたので、そういう感情はありません。でも面白い観察材料ですね」
そして、五十嵐が立ち上がった。
「宍戸昴。あなたの勇気は素晴らしい。でも無意味です。では、あなたに命令を出しましょう」
五十嵐の目が冷たく光った。
「雪村颯汰の代わりに、あなたが屈辱を味わってください。みんなの前で、自分が最も恥ずかしいと思う秘密を告白しなさい」
宍戸昴の顔が青ざめた。「そんな…」
「人間をやめたので、遠慮はしません」五十嵐が血まみれの指で新たに文字を書きながら言った。「これが娯楽です」
俺は五十嵐龍之介を見つめていた。彼の変貌は完全だった。もはや躊躇も迷いもない。純粋な娯楽装置として機能している。
そして、俺自身はどうなのか。
俺は確かに命令を出している。雪村颯汰に屈辱を味わわせ、視聴者を満足させている。だが、心の奥では何かが引っかかっている。
これは誰のための命令なのか。
視聴者のためか。自分の生存のためか。それとも、単なる権力の行使なのか。
宍戸昴が震えながら答えた。
「僕は…僕は昔、友達を裏切ったことがあります…お金のために…友達の秘密を売ったんです…」
彼の告白が続く中、俺は複雑な感情に襲われていた。
これが正しいことなのか。これが俺の求めていた生存なのか。
コメント欄は狂騒していた。
『告白キター』
『#14の過去えぐい』
『人間の闇』
『もっと聞きたい』
視聴者数は300万人を突破していた。
五十嵐龍之介が満足そうに血文字を書き続けた。「素晴らしい。人間の醜さが露呈されました。これが真の娯楽です」
俺は深い疑問を抱いていた。
俺たちは誰のために命令を出しているのか。
視聴者の娯楽のため。自分の生存のため。権力を維持するため。
だが、その先に何があるのか。
俺たちが人間性を完全に失った時、何が残るのか。
宍戸昴の告白が終わった後、ホール内に重い沈黙が流れた。
「次は誰に命令しますか?」五十嵐龍之介が俺に向かって言った。「僕はもう人間ではないので、遠慮なく楽しめます」
俺は看守席に座り直した。
残り3回の命令。5名の囚人。300万人の視聴者。
そして、人間性を完全に放棄した相棒。
俺は自分自身に問いかけていた。
この先、俺は何になるのか。
五十嵐龍之介のように、完全に人間性を捨てるのか。
それとも、最後まで僅かな良心を抱き続けるのか。
どちらの道も、地獄への道だった。
「緋村さん」五十嵐が血文字を書きながら言った。「迷いは人間の証拠です。でも、この場所に人間はいりません」
俺は複雑な表情で彼を見つめた。
彼の言葉は正しいのかもしれない。
この人気投票の檻で生き残るためには、人間であることを完全に放棄しなければならないのかもしれない。
だが、それでも俺は躊躇していた。
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