レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ

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第1章:ステータス貸与・追放編

第1話 貸した力は全回収

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「ゴミは、ゴミ捨て場へ。当然の理屈だよな、ソラ」

――それが、 三年間すべてを貸し与えた俺への、最終通告だった。

床に叩きつけられた数枚の銀貨が、安っぽい光を放ちながら転がる。 
カラン、と虚しく響く金属音。 
静まり返った室内では、その音だけが異様に大きく聞こえた。

俺はそれを拾わない。 
ただ、感情の動かない瞳で見下ろしていた。

ここは王都最高級の宿屋、その最上階。 
勇者パーティ『聖光の剣』が貸し切る、豪奢なスイートルームだ。 
金糸のタペストリーに、窓の外に広がる宝石のような夜景。最高級の香香が漂う、本来なら優雅であるはずの空間。 
だが、ここにいる人間の心根は、ドブネズミ以下だった。

「レベル1の無能をここまで連れてきてやったんだ。感謝してほしいくらいだぜ。お前みたいな荷物持ちが、英雄と同じ空気を吸ってること自体、許されないんだからな」

ソファに深く腰掛け、リーダーのアラスが俺を見下ろす。 
彼の腰に下がる『聖剣グラム』は、昨日俺が夜を徹して手入れしたばかりの剣だ。かつては錆びた鉄屑同然だったそれが、今は神々しい光を放っている。

――俺が『研いだ』からじゃない。 
俺が、自分の力を貸していたからだ。

「顔を見るだけで吐き気がするわ。寄生虫が私たちの格を落としているのよ」

――彼女はそう吐き捨てた。魔導師のリナだ。 
優雅にワインを傾けるその指には、数千万ゴルド級の魔導指輪が嵌められていた。魔力増幅、魔力自動回復。彼女が「天才」と呼ばれていた理由を、彼女は自分の才能だと信じ切っている。

「足手まといだった自覚はあるか? 荷物運びなら馬車で十分なんだよ」

重戦士ガルトが、巨大な戦斧を弄びながら不快そうに鼻を鳴らす。 
魔王討伐という大義を前に、不確定要素は要らない。三人の顔にあるのは、選ばれし強者の傲慢。そして、支えてきた者への剥き出しの嫌悪だった。

三年前―― まだ彼らが、王都の片隅で震える駆け出しだった頃。 
死にものぐるいで魔物に囲まれ、俺に泣きついてきた。 
以来、俺は「荷物持ち」を名乗り、陰で肉体を強化し、魔力を補填し、運命すら捻じ曲げて、彼らを底上げしてきた。

その答えが、これだ。

「……わかった。抜けるよ」

俺が言うと、アラスは鼻で笑った。

「聞き分けだけはいいな。 
 外に出たらすぐ魔物に食われるだろ。 
 その銀貨で、最後の晩餐でも楽しめ」

彼は知らない。 
自分がレベル80という領域にいる理由を。 
仲間が化け物じみた出力を出せていた理由を。

「抜ける前に、一つだけ」

俺は静かに言った。

「君たちに貸していたステータス、すべて返してもらうよ」

「……は?」

アラスが嘲笑する。
 貸してた? 何を? 
お前の持ち物なんて、予備のポーションとカビた食料くらいだろ。

三人が下品に笑う。 
俺は静かに目を閉じた。 
意識の奥、三年間複雑に絡み合ってきた『契約』の紐に触れる。

スキル名―― 【至高の貸与(アルティメット・ローン)】。 
世界で最も忌み嫌われ、そして、最も誠実なスキルだ。

(契約解除。返還開始)

――瞬間。 
空間そのものが、悲鳴を上げた。

「な……っ!? なんだ、この重圧は!」

「魔力が……私の魔力が、消えていく……ッ!」

「身体が、動かねえ……! クソ、何が起きてやがる!」

眩い光が三人の身体から溢れ出し、濁流となって俺へと流れ込む。 
本来の実力であるレベル15へと転落し、贅沢なカーペットに這いつくばる元英雄たち。

視界が、白で埋まった。

『――全ステータスの回収を完了』 
『延滞利息を加算:全能力値を統合』 
『再計算終了。現在値:レベル9999に到達』

万能感。 だが、酔いはない。

使い古した道具を、あるべき場所に戻しただけだ。

「呪いか!? 卑怯な真似を!」

「違うよ。ただの『回収』だ。 
 貸したものを持ち主が返してもらうのは、当然だろ」

俺は床の銀貨を拾い、腰のポーチに収める。

「君たちの勇者ごっこは、ここで終わりだ」

背後の絶叫を聞き流し、俺は黄金の扉を開けた。

           *

外の冷気が心地いい。 
三年間の鉛の枷が、ようやく外れた。

隠居でもするか―― そう思った時、細い震える声が聞こえた。

「……殺せ。……さっさと、殺せ……ッ」

ゴミ捨て場の陰。 
囲まれる獣人の少女。 
真っ二つに折れた練習用の木剣。

「へへ、才能なしのゴミが。生きてる価値がねえんだよ」

振り上げられる剣。 
少女は絶望に瞳を閉じながらも、その拳を強く握りしめていた。

――ああ。 三年前のあいつらとは、決定的に違う目だ。

「……おい」

俺は少女の前に立った。 
恐怖に震える彼女の肩に、そっと手を置く。

「……試してみるか? 
 君を縛る、その不条理な運命を変える力を」

「え……? でも、私、才能なんて……」

「関係ない。その折れた木剣を振れ。それだけでいい」

俺は全能力のうち、ほんの『0.001%』を彼女に紐付けた。

「貸した分は、後でたっぷり『利息』を付けて返してもらうけど……いいな?」

「……はい! お願いします! 私、変わりたいんです!」

襲いかかる男たち。 
少女が叫び、むちゃくちゃに木剣を振り抜いた。

――ズドォォォォォンッ!

衝撃波だけで路地の壁が剥がれ落ち、男たちは夜空の彼方へ消えた。

「……え?」

呆然とする少女。 
その手にある木切れは、今や聖剣をも凌駕する熱を帯びている。

「……うん。ちょっと、貸しすぎたかな」

俺は頭を掻いた。 
どうやら、静かな隠居生活は当分お預けになりそうだ。

――貸与者としての仕事が、また始まったらしい。
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