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第1章:ステータス貸与・追放編
第2話 貸与者の規律
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路地裏は、耳鳴りがするほどの静寂に包まれていた。
つい数秒前まで渦巻いていた下卑た笑い声も、暴力の気配も、跡形もなく消え失せている。
瓦礫の山と化した石畳の中央で、少女――ミィナは、折れた木剣を握りしめたまま石像のように立ち尽くしていた。
「あ、あの……貴方は……。わ、私……何か、取り返しのつかないことを……」
視線の先には、防壁に突き刺さった男たちと、無残にひび割れた石壁。
レベル3の少女が、訓練用の木切れ一本で引き起こしたとは、誰が信じるだろうか。
「気にするな。ただ、少し貸しすぎただけだ」
俺は淡々と言う。
「……あるいは、お前の『器』が思った以上に空っぽだったせいかもしれないな。空っぽだからこそ、よく染みた」
彼女の細い肩から手を離した、その瞬間だった。
ミィナの膝がガクガクと震え、身体が崩れ落ちそうになる。
「ひゃ……っ!? からだが、急に……重く……!」
過剰な力が引いた反動。
アドレナリンが切れ、万能感の残滓が剥がれ落ち、本来の自分だけが残される。
「それがお前の本来の重さだ。立てるか?」
遠くで衛兵の警笛が鳴った。
俺は彼女の腕を掴み、半ば引きずるようにして路地を抜ける。
「自分の足で歩くことが、返済の第一歩だ。ここはすぐに騒がしくなる」
背後で上がる驚愕の声を無視し、振り返ることなく人混みに紛れ込んだ。
*
王都外れの安宿は、薄汚れたレンガ造りだった。
軋む階段、カビ臭い空気、染みだらけのベッドと歪んだテーブル。それだけの部屋。
だが、今はそれでいい。
俺は月明かりの下、テーブルに銀貨を一枚置いた。
具のほとんどない温かいスープを、ミィナは両手で抱えるようにして啜っている。
「……さっきの力、何だったんですか。自分が、自分じゃないみたいで……」
「俺の固有スキルだ」
ミィナの掌を見る視線を追いながら続ける。
「お前に貸した力は、消えていない。今は休眠しているだけだ。火種として、お前の根源に残っている」
彼女の瞳の奥で、黄金の残り火が揺らめいているのが見えた。
「……消えない、んですか。私みたいなのには、過ぎた力です」
「ああ。だからこそ、規律がある」
俺は椅子に深く腰掛ける。
「貸した力は、必ず世界を歪ませる。借りた側が『成果』を成し遂げるまで、俺の意思でも完全には引き剥がせない」
ミィナが息を呑んだ。
「お前はもう、傍観者には戻れない」
「……一生、このままなんですか?」
「力に溺れて壊れるか。成果を出して、利息を払い続けるか。道は二つだ」
俺は銀貨を指で弾いた。
青白い光を放ちながら回転し、再び掌に戻る。
「俺は聖者じゃない。お前を助けたのは善意じゃない。“投資”だ。――俺の名前はソラだ。お前の価値を買い取った、最初の『貸主』の名前だ。覚えておけ」
彼女は震えながらも、拳を強く握った。
「……いいです。どうせ、失うものなんてありません」
そして、まっすぐ俺を見る。
「変わりたい。ソラ様の投資に、応えられる自分に……なります」
「……いい目だ。アラスたちよりは、な」
窓の外、王都中央の豪華な宿屋を見やる。
借り物の力を自分の実力だと信じた者たちの末路が、そこにある。
「明日から特訓だ。その折れた木剣で、俺の服に触れてみろ」
「えっ!? そ、それは……!」
「心配するな。お前が俺に傷をつけられるなら、世界が先に壊れる」
その時、視界に青い火花が散った。
『――新規契約者:ミィナ』
『第一期利息の徴収を完了』
『適応率:0.02%』
『【幸運値】の貸与枠を解放』
『対象:破滅の予兆ある者』
詳細を教える必要はない。
彼女が強くなるたび、その一部は確実に俺へ流れ込む。
そして【幸運】。
脳裏に浮かぶのは、破滅寸前の一人の令嬢。
「さあ、取り立てを始めようか」
夜の闇の中、俺は静かに笑った。
それは救済者の微笑ではない。
――世界の不当な負債を管理し、刈り取る者の顔だった。
つい数秒前まで渦巻いていた下卑た笑い声も、暴力の気配も、跡形もなく消え失せている。
瓦礫の山と化した石畳の中央で、少女――ミィナは、折れた木剣を握りしめたまま石像のように立ち尽くしていた。
「あ、あの……貴方は……。わ、私……何か、取り返しのつかないことを……」
視線の先には、防壁に突き刺さった男たちと、無残にひび割れた石壁。
レベル3の少女が、訓練用の木切れ一本で引き起こしたとは、誰が信じるだろうか。
「気にするな。ただ、少し貸しすぎただけだ」
俺は淡々と言う。
「……あるいは、お前の『器』が思った以上に空っぽだったせいかもしれないな。空っぽだからこそ、よく染みた」
彼女の細い肩から手を離した、その瞬間だった。
ミィナの膝がガクガクと震え、身体が崩れ落ちそうになる。
「ひゃ……っ!? からだが、急に……重く……!」
過剰な力が引いた反動。
アドレナリンが切れ、万能感の残滓が剥がれ落ち、本来の自分だけが残される。
「それがお前の本来の重さだ。立てるか?」
遠くで衛兵の警笛が鳴った。
俺は彼女の腕を掴み、半ば引きずるようにして路地を抜ける。
「自分の足で歩くことが、返済の第一歩だ。ここはすぐに騒がしくなる」
背後で上がる驚愕の声を無視し、振り返ることなく人混みに紛れ込んだ。
*
王都外れの安宿は、薄汚れたレンガ造りだった。
軋む階段、カビ臭い空気、染みだらけのベッドと歪んだテーブル。それだけの部屋。
だが、今はそれでいい。
俺は月明かりの下、テーブルに銀貨を一枚置いた。
具のほとんどない温かいスープを、ミィナは両手で抱えるようにして啜っている。
「……さっきの力、何だったんですか。自分が、自分じゃないみたいで……」
「俺の固有スキルだ」
ミィナの掌を見る視線を追いながら続ける。
「お前に貸した力は、消えていない。今は休眠しているだけだ。火種として、お前の根源に残っている」
彼女の瞳の奥で、黄金の残り火が揺らめいているのが見えた。
「……消えない、んですか。私みたいなのには、過ぎた力です」
「ああ。だからこそ、規律がある」
俺は椅子に深く腰掛ける。
「貸した力は、必ず世界を歪ませる。借りた側が『成果』を成し遂げるまで、俺の意思でも完全には引き剥がせない」
ミィナが息を呑んだ。
「お前はもう、傍観者には戻れない」
「……一生、このままなんですか?」
「力に溺れて壊れるか。成果を出して、利息を払い続けるか。道は二つだ」
俺は銀貨を指で弾いた。
青白い光を放ちながら回転し、再び掌に戻る。
「俺は聖者じゃない。お前を助けたのは善意じゃない。“投資”だ。――俺の名前はソラだ。お前の価値を買い取った、最初の『貸主』の名前だ。覚えておけ」
彼女は震えながらも、拳を強く握った。
「……いいです。どうせ、失うものなんてありません」
そして、まっすぐ俺を見る。
「変わりたい。ソラ様の投資に、応えられる自分に……なります」
「……いい目だ。アラスたちよりは、な」
窓の外、王都中央の豪華な宿屋を見やる。
借り物の力を自分の実力だと信じた者たちの末路が、そこにある。
「明日から特訓だ。その折れた木剣で、俺の服に触れてみろ」
「えっ!? そ、それは……!」
「心配するな。お前が俺に傷をつけられるなら、世界が先に壊れる」
その時、視界に青い火花が散った。
『――新規契約者:ミィナ』
『第一期利息の徴収を完了』
『適応率:0.02%』
『【幸運値】の貸与枠を解放』
『対象:破滅の予兆ある者』
詳細を教える必要はない。
彼女が強くなるたび、その一部は確実に俺へ流れ込む。
そして【幸運】。
脳裏に浮かぶのは、破滅寸前の一人の令嬢。
「さあ、取り立てを始めようか」
夜の闇の中、俺は静かに笑った。
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