レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ

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第1章:ステータス貸与・追放編

第3話 勇者の落日と、少女の産声

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訓練を始めて三日。王都の喧騒を離れた荒野の空き地に、鋭い破砕音が響いた。 
乾いた空気を裂き、岩が砕け散る。

「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」

ミィナが踏み込む。その小さな身体からは想像できない速度と質量を伴って、折れた木剣が振り下ろされた。足元の土が爆ぜ、不可視の衝撃波が枯れ木を揺らす。俺が彼女に貸与している出力は、全体の十万分の一。それでも制御を誤れば、街一つが消し飛ぶ劇薬だ。

「遅い。動きが硬い。筋肉の収縮が、脳の伝達に追いついていない」

指先一つで受け流す。直接触れる必要すらない。微量の魔圧で空気の層を歪め、ミィナの全力を滑らせる。

「くっ……もう一回! もう一回です、ソラ様!」

一瞬、剣を握る指が震えた。だが、その瞳に絶望はない。あるのは、俺という壁を削ろうとする、純粋で頑なな意志だけだ。

「自分の身体を借り物だと思うな。貸したのは力であって、主導権じゃない。主人はお前だ。そのエネルギーを、魂でねじ伏せろ」

言葉と同時に、ミィナの動きが変わる。 
無駄が抜け、全身の力が一本の線となって剣へ収束した。

「はああぁっ!」

鋭い縦一閃。俺の鼻先数ミリを、木切れが掠める。 
直後、凄まじい風圧が通り抜け、背後の大岩が――音もなく、真っ二つに割れた。

「……ふん。少しはマシだ」

「や、やった……! 今、当たりそうに……っ!」

ミィナがその場に座り込み、荒い呼吸を吐く。 
その瞬間、彼女の木剣が黄金色に脈動した。一瞬、視界に幾何学的な紋様が浮かび、すぐに消える。

(……記録媒体か? いや、権限の依代か)

ただの木切れで済む話ではない。この投資、想定以上の「おまけ」が付いている。

「一時間休憩。その後、冒険者ギルドへ行く。装備も新調だ」

「ギルドに……? でも、私みたいな獣人が行っても……」

「お前はもう、ゴミ捨て場で震えていた娘じゃない。俺の最初の契約者だ。胸を張れ」

「……はい!」

           *

昼下がりの冒険者ギルドは、異様な熱気に包まれていた。 
中心にいるのは、昨日まで『人類の希望』だった勇者パーティ。

「ふざけるな! 鑑定ミスだ! この俺の聖剣が、なまくらなわけがあるか!」

アラスの怒号が天井に反響する。机の上に置かれた『聖剣グラム』は、錆び、刃こぼれた鉄の棒だった。鑑定士が「魔力反応ゼロ、粗悪な模造品です」と告げるたび、アラスの顔は醜く歪んでいく。

英雄の転落。それは周囲の冒険者にとって最高の娯楽だった。

「……醜いな」

俺は扉を開け、静かに中へ入る。隣にはミィナ。

「ソラ! てめえ、何をした! 俺の力を返せ!」

「何もしてない。借り物を返しただけだ」

「死ね! その女に渡した力を、俺に――」

アラスが剣に手を伸ばすより早く、ミィナが動いた。一歩。音もなく。 
折れた木剣の鞘が、アラスの喉元に突きつけられる。

「……侮辱はやめてください。次は、鞘のままではありません」

凍りつく空気。 
アラスは歯を鳴らし、床に崩れ落ちた。

「行くぞ。時間の無駄だ」

俺がカードを差し出すと、異質な音とともに発光する。

「……え、数値が……エラー……?」

「適当に更新しておいてくれ」

掲示板の隅の依頼書を引き剥がす。 
『ゴールディング商会:不条理な不運により積荷全損』

破滅寸前の令嬢――エリーゼ・ヴァン・ゴールディング。 
視界に、青い火花が散った。

『――ミィナの適合率が上昇』 
『適応率:0.1%』 
『【幸運値】貸与枠、解放』 
『対象:破滅の予兆ある者』

「次の投資先は、面白くなりそうだ」

「ソラ様が行くなら、どこへでも」

利息は順調。新たな契約候補も確定。 
救われる者と、返済不能に沈む者を、等しく選別しながら。

俺の活動は、ここから本格的に加速する。
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