レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ

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第1章:銀河創生編

第16話 神域の抵当権

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白磁の世界に走る亀裂から、黄金の因果が溢れ出す。
俺の放った鎖に縛り上げられ、虚空に吊るされた『管理人』は、天秤の瞳を激しく明滅させていた。

『――エラー。因果の優先順位が逆転。個体名:ソラによる、世界根源へのルートアクセスを確認』

「停止しろ、バグ。あんたの仕事は終わった。これからは俺がこの帳簿を管理する」

『……傲慢なり、貸与者。貴殿は知らぬ。不確実性こそが生命の輝き。数式で測れぬ感情こそが、世界の駆動輪であることを。貴殿の秩序は、世界をただの死んだ記録へと変える』

管理人の瞳が、最後の抵抗として純白の閃光を放つ。
システムが提示する正論。計算できない「心」こそが世界の美しさであるという、神の理だ。

「心? 生命の輝き? 笑わせるな」

俺は管理人の瞳を、正面から見据える。

「あんたが守ろうとしたその不確実性のせいで、どれだけの負債が積み上がった? 感情という名の高リスク資産を無担保で貸し出し、破綻させたのはどっちだ。……俺の秩序を死と呼ぶなら、あんたの混沌はただの『怠慢』だ」

俺は右手を伸ばし、激しく抵抗する天秤の瞳に直接触れた。

「不確実性などいらない。世界に必要なのは、正確な貸借対照表(バランスシート)だけだ」

瞬間、俺の漆黒の帳簿が世界の根源システムと同期し、膨大な情報が脳内を駆け巡る。

『――世界システム:管理権限の譲渡を開始』
『譲渡率:10%……50%……90%……。判定。個体名:ソラを「代行管理人」として暫定承認』

視界が、一気に切り替わった。
俺の目には、王都の瓦礫が単なる石ころではなく、「再利用可能なリソース」の文字列に見えた。
倒れている負債者たちは「再配置待ちの人的資産」。
そして、この世界を覆う大気そのものが「変換効率の悪いエネルギー」だ。

「……ミィナ、エリーゼ。見ていろ。これが本当の『再建(リストラ)』だ」

俺は一度、目を閉じる。

吹き荒れていた因果の嵐が、嘘のように止んだ。
風も、音も、熱さえもが消えた、絶対的な「静寂」。
読まれるのを待つ白紙の頁のように、世界が俺の次の一言を待っていた。

俺は、指をパチンと鳴らす。

白磁の世界が砕け散り、俺たちは再び王都の中央へと戻った。
だが、そこはもはや三分前までの廃墟ではない。

地面から黄金の柱が噴き出し、崩れた外壁が逆再生のように組み上がっていく。
泥水は澄んだ清流へと書き換えられ、立ち込めていた死臭は、新緑の香りに上書きされた。
魔法による修復ではない。
世界の「座標」と「物質情報」を直接編集し、最も効率的な都市へと再定義したのだ。

わずか数秒。
そこには、かつての王都を遥かに凌駕する、機能美の極致とも言える「管理都市」が誕生していた。

「……信じられません。一瞬で、街が作り直された……?」

エリーゼが、新しく出現した白亜の官邸を見上げ、震える声で呟く。

「……ソラ様。世界が、あなたの色に染まっていく。空の向こうまで、全部」

ミィナは空を見上げていた。雲の形さえもが、俺の意志を反映するように整然とした円を描いている。

『――都市再編:完了。リソース消費率:0.002%』
『警告。代行権限の使用には、相応の「因果」を消費します。現在の保有残高で維持可能な期間――永久』

「永久、か。悪くない」

俺は再び、傍らで拘束されたままの管理人に視線を戻す。
管理人の瞳からは先ほどの威圧感は消え、今はただ、主権を奪われた「担保」としてそこに浮かんでいた。

「管理人。あんたはクビだ。……だが、処分はしない。俺の帳簿の隅で、せいぜい世界の端数計算でも手伝っていろ」

『……肯定。代行管理者の裁定を、システムの一部として受け入れます』

管理人の姿が縮小し、俺の漆黒の帳簿の表紙へと吸い込まれていく。そこに、新たな装飾として「天秤の瞳」が刻まれた。

世界は今、一人の「貸与者」の私有財産となった。

俺は新しく造り替えられた王都の執行官の席へと腰を下ろす。窓の外に広がる完璧な都市を見据え、俺は新たな世界の理を告げた。

「――返せない借りは、作るな」

俺の声が、書き換えられた世界の理となって、地平線の彼方まで響き渡った。
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