おこもり魔王の子守り人

曇天

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第二十九話

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「今日は実技か」

「ああ、武器を使った戦闘術と魔法だな」

 学園の広い校庭に集まると、ガルムたちと話す。

「まあ、僕たちは得意だよね」

「わ、私は苦手」

 ラクレイに橘さんが話している。

「橘さんは魔力を使えば大丈夫だ」

「そうかな......」

 橘さんは不安そうだがうなづく。

「ヴァライアは見学なのか」     

 俺が探すと実技担当の教師の隣でノーパソを持ってみている。

「当然だろ。 教師より遥かに強いんだからな。 覚えることなんてないだろ」

 ガルムが準備運動しながら答えた。

「まあ、確かに......」 

(あのノーパソはアディエルエか、あいつは当然のごとく見学か...... アニメや特撮の真似をするときは気持ち悪いぐらいぬるぬる動けるけど、普段はすぐ息切れしているからな。 あれ? あいつは魔力が高いんだから魔力を身体強化に使えばいいんじゃないのか......) 

「魔法の授業は王立魔術師隊の副隊長、私バレーヌが魔法を担当しますね」

 そう紫色の長い髪の女性、バレーヌ先生がそういった。

「では、取りあえず、壁に魔法を当ててみてください」

(ん? 壁? 学園の壁か)

 ーー岩よ隆起して大地を隔てよーー

「ロックウォール」

 そうバレーヌ先生がいうと少し前に地面から高い石の壁がせりあがる。

「おお!」

 生徒たちから驚きの声が上がった。

「やはり、王立魔術師隊の副長だな。 かなり高度な魔法を使う」

 俺が隣のガルムにいう。

「そうだな。 魔力は八魔将ほどじゃないけどな」

「多分、魔力の操作能力が高いから、魔力のロスが少ないんだよ。 だから少ない魔力でも効率よく使えるんだ」

 ラクレイがそういうと橘さんがうなづく。

「私はコントロールできないから、すごく無駄が多いの」 

(確かに、俺も無駄に使ってる感じはしているな。 燃費が悪い。 まあ、アディエルエやセレンティナさんの魔法が強力すぎるんだけど)

 横並びの次々と生徒が魔法を放つ、炎や氷、風などさまざまな魔法が放たれるが、壁はびくともしない。

「かなり強い魔法をみんな使うな」

「貴族だからね。 魔力は元々強いのさ、とはいえあの壁はかなりの厚みと固さだ。 壊すのは容易じゃないね」  

 隣のルシールはそういった。

「いや、壊せるよ」

「あれを? 冗談だろ」

「見てろよ」

 ガルム、ラクレイ、橘さんが次々と魔法を放つ、すると風や岩で壁が大きく破壊されたり、土に戻ったりした。 生徒たちが息をのんだ。

「なっ!?」

 ルシールは驚いて声をあげる。

「なっ」

「驚いたな...... ここまでとは、僕の番か」

 ルシールは水の魔法を放つと、水流が壁を穿つ。
 
(かなり強い魔法を使うな)

「素晴らしいですねルシール、ではマモルもお願いします」

 そうバレーヌ先生が促した。 

(......まずいな、俺は威力は落とせないんだよな。 でも仕方ない)

 俺の放った光の玉が壁に当たると壁全体がくだけ散った。 先生を含め生徒たちがこっちを驚きの目でみている。

「なんだあの威力......」

「高等魔法じゃないか!?」

「なんで外の世界の人でしょ!」

 みんなは驚いているようだ。     

「......すさまじい威力だな」

 ルシールは信じられないという風にいう。

「いや、単に威力を落とせないから......」  

(やはり、魔王や、魔王側近の魔法は強力なんだな)

 俺はそう思った。


「私はディヒル、実技担当の教師だ。 王立騎士団の団員をしている。 これから実技は私が行う」

 次の授業がはじまり大柄な男性ディヒル先生がそういった。

「体つきからして剣もなかなか強そうだ」

「だね」

 ガルムとラクレイの二人がそういっている。

「では、取りあえず実力を知るため、それぞれで戦ってもらおうか、魔法は使うな。 魔力は使ってもかまわない」

 そういわれて俺たちは囲むように円になって立つ。

 一人一人呼ばれ、その円のなかで木剣で戦う。

「この世界に生きてるからか、さすがに剣の使い方はみんなうまいな」

「うん、女子でも...... 私剣とか使ったことないんで大丈夫かな」

 不安そうに橘さんがいった。

「魔力は通していいんだから、相手の剣を受けて、そのまま体に魔力を流して叩けばいいと思うぞ」

「なるほど! あっ、はい!」

 橘さんが呼ばれて、女子アステオネと戦う。 

「相手は剣を学んでいるな......」

「だいたい、この学校に通ってるのは貴族だからね。 剣は子供の頃から習っているよ。 正直ユウナは剣の素人だ。 勝つのは難しいと思うね」

 そうルシールが俺のそばに近づいていった。

「いいや、多分勝てるよ」

「ほう...... それは願望かな」
 
「よくみてればわかる」
  
 橘さんは剣を防ぐのでいっぱいだった。  

「ほらね。 何とか防いではいるけど、時間の問題だよ」

 相手の剣が振りかぶると、橘さんはその剣に向かって剣をぶつけた。 すると相手の剣が砕ける。

「なっ! あれは!?」

 ルシールは驚いている。

「橘さんは魔力がすげーんだよ。 魔力を常に放出して身体の強化を無意識にやってる。 それを意識的にやればかなりの力を出せる」

「それで剣を砕いたのか...... すごいな。 次はガルムか、ただ相手は学年でもトップクラスの剣の使い手ギリアンだぞ。 マモルはどうみる?」

 確かに相手の少年はかなりの剣の使い手のようで、ガルムに連続で攻撃している。

「確かに動きからみて剣の技量はギリアンのほうが上だろうな。 でもガルムが勝つな。 剣が型にはまりすぎて予想しやすい」 

(モンスターは予測できない行動に対処しないといけないから、型にはまった剣じゃガルムには通じない)

 俺の思ったとおり、簡単にギリアンの攻撃をかわしたガルムは圧勝した。

「なるほど、まったく歯が立たないか......」

 ルシールは考え込む。

「次はラクレイか、これも相手はクラスで一番大きい獣人のマエスラだ。 どうみる」

 身長差から来る威力のある攻撃をラクレイは防いでいる。

「ラクレイが勝つ、ラクレイはその筋力を魔力で強化すると、ガルムでさえその攻撃を防げない。 マエスラの力では押しきれない。 慎重な性格だから、今は様子見してるだけだ」

 ラクレイはガルムの振り下ろした剣を弾きとばし、その巨体を倒した。
 
「ふむ...... あの身長差で、獣人の力をはねのけるのか、すごいな」

 ルシールはそう感心している。

「では、マモルとルシール前へでろ」

 俺とルシールが呼ばれ対峙する。
 
(ルシールのかまえからみて、ただの素人じゃないな。 剣術を習っているか...... そして貴族だから魔力も高い)

 ルシールは一気に近づいて攻撃してきた。

(なるほど、さっきのギリアンとは違い、変則的にきりこんでくる。 実践的な剣術だな。 剣術はルシールのほうが上、腕力は俺が上か、多分俺たち以外で一番強いな......) 

 息もつかせぬ連続攻撃で攻め立ててくる。

(本人も攻めきらないと負けると判断しているな。 実力差を感じ取っている。 自分の力を計れるやつは強い...... だが)

 俺の剣はルシールの剣を絡めとりはねあげた。

「あっ!」

 ルシールはそう驚いた飛んだ剣は俺の手におさまった。

「よし! そこまで!」

 ルシールは握手をもとめてきて握手をした。

「やはり、かなわないか...... 四人ともさすが冒険者だな。 いやそれとも魔王の元で修行でもしているからか」

 そういうと爽やかな笑顔で離れた。

(まだ実力全てを見せてない感じだな)

 俺は視線に気付きみると、ヴァライアが俺を睨み付けていた。

(ま、まずい、今の試合なんか気に入らなかったのか...... はあ、これは後の稽古でかなりしぼられるな)

 予想通り、帰ると稽古でたてなくなるまでしぼられた。
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