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第三十四話

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「さて帰ってきたか」

 それから一週間後、アブリオ王と貴族たちが国へと帰ってきた。

「なぜ歓迎の出迎えがない! 王の帰還だぞ!」

 そうアブリオが大声をだしわめいている。 民衆はみなしらけている。

「アブリオさま。 何故逃げられましたか」

 セレネは前にたちそう問いただした。

「なっ! 逃げ、違う! 逃げたのではない! これは...... そう戦略的撤退だ!」

「左様ですか...... しかし、もはや民たちはあなた方を歓迎しません」

「なんだと! 貴様、家臣の分際で! 王位を簒奪《さんだつ》するつもりか! それが勇者の末裔の所業か!」

 周りの貴族たちも罵詈雑言をはいた。

「いいえ、もはや私は家臣でもありません。 あなたが解任したでしょう」

「ぐぬぬっ、ならば隣国に要請してこの国を取り返すまで、このような王もいない小さな国、この財を差し出せばすぐに討伐隊をだしてくれるわ!」

「それには及びません。 王ならばいらっしゃいます」

「そうだアブリオ」

「なに!! 貴様は!」

 民衆がかしづき立派な正装のアデル王が騎士団たちをしたがえ、前へと進み出た。

「アブリオよ。 私がこの国の王だ。 民が貴様にひざまずくことはもうない」

「なんだと!! 騎士達よ! このものを捕らえよ!」

 騎士達はその場を動かない。

「貴様たちは民を見捨てて逃げた。 そのような者たちを誰も認めぬ」

「なにを!! 私は王だ!」 

「王や貴族は民の富と命を守ることで、その地位をえている。 己が命を時として捨てるゆえだ。 ただ奪い偉ぶるためにその地位は与えられるわけではない!」

「ぐっ......」

「捕らえよ」

 アデル王の命で暴れるアブリオや貴族たちが次々と捕らえられた。


 その夜、民も参加する宴が新王を祝う宴開かれた。 民に財産を分配したため、その会は質素なものだったが、民たちが持ちよった食材により、とても美味しい料理がたくさん並ぶ。

「うまいな」

「うむ、あとでレシピをきこう。 レパートリーを増やすのだ」

 ディンはそういって嬉しそうに料理をほうばる。

「......お二人には本当にお世話になりました」

 そうセレネが頭を下げる。

「別に大したことはしてない」

「そうだ気にするな」

「いえ、気になることがあります」

 セレネは真剣な眼差しでこちらをみた。

(まあ、そうだよな)


「なっ、魔王ディンプルディ...... 異世界人」

 セレネが言葉をうしなう。 俺たちは自分達のことを話した。
 
「まあ、そういうことだ」

「そんな、おかしいとは思っていたが、まさかディンプルディ...... そうか、だからグラナードをつれてこれたのですね」

「脅かして悪かったな。 やつは悪さはせぬよ」

 ディンはそう食べながら、ハムスターみたいにほほを膨らませていった。

「ディンプルディどの! 我が祖セレスの行いと人間の罪! 誠に申し訳ありません」

 セレネは席を立ち片ひざをつきディンに頭を下げる。

「......よい。 それはもはやすんだこと人間にも理由かあったのであろう。 お主が謝ることではない頭を上げよ」

「しかし......」 

「くどいぞ。 余にはそんなことより、セレネが余に引け目を感じることの方が怖い。 それとせっかく作られたこの料理も冷えてだいなしになることがな」

 そうにっと笑顔で答える。

「ありがとう......」

 そうセレネは目を潤ませ笑顔で返した。


「騎士団に戻らなくていいのか。 王は戻るよう頼んだんだろ」

 そうセレネに聞いた

「ええ王はそうおっしゃいました。 ですが私は国、騎士や勇者の末裔など、さまざまなものにがんじがらめにされていた。 いや自分でしていたのでしょう。 こたびで自分の幼さがよくわかりました。 ですのであなた方と共に行動しようとおもいます」

 大きな袋をかついで、セレネはそういう。

 ガッ! 

「あっ!」 

 セレネが石につまづき、大きな袋をおとすと、中からかわいい動物のぬいぐるみが何体かころがった。

「ぬいぐるみか」  

「ち、ちがいます! これは! これは! 私が作った...... あっ!」

 顔を真っ赤にして袋にぬいぐるみをつめた。

「へえ、セレネはぬいぐるみが作れるのか」

 ディンにいわれてセレネは顔を抑えている。

「別にかまわないだろ。 ぬいぐるみぐらい。 ディンもへそくりで買って押し入れに隠してるぞ」 

「なっ! なぜそれを!!」

 ディンは顔を真っ赤にしている。

「なにが恥ずかしいんだ?」

「もう! いいでしょ!」
 
 セレネは珍しく感情をだす。

「そうだ! そういうとこだぞもてないのは!」

「関係ないだろ! もてないのは!」

「そういうとこです! もてないのは!」

「なんでセレネまでいうんだ!!」

 そう俺たちは騒ぎながら帰途についた。

 
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