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第十回 仙術

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 僕と陸依《りくい》さんたちは、羅現《らげん》を出て、
 隣の隣、紫水《しすい》という国に入った。
 ここは人が住む国の中心地に近く多くの国の人が行き交う。
 そこに土地と店を建てようと考えた。

「ここで薬店を立てれば、疫病を拡げずにすむ!」

 陸依《りくい》さんはそういって喜んだ。

(土地と店の建設で八万貴、当面の運営に四万ほどか......
 僕の十二万で足りるな......)

 そうして店ができるまで、
 陸依《りくい》さんに仙人のことを聞いた。

「これでいいですか」

「なるほど......確かに凄い気の量ですね......
 さすが仙人さまだ......」

 気を使うよういわれ、水如杖《すいにょじょう》を使い、
 水のように気を出して見せると、
 陸依《りくい》さんは驚いてそういった。
 
「それで、仙人というのは何なのですか?」

「そうですね。気を使い様々な術を使い、そして道理を知り、
 陰陽《いんよう》を極めて不老不死となり、
 真人《しんじん》を目指す者のことです」

「真人《しんじん》......」

「まあ、仙人の一番偉い方ということですかね」

(不老不死にも、特に興味はないが......仙術には興味あるな)

「では仙術とは?」

「ええと、気は練ると、
 使う者の意思で様々なことをおこさせることが出きるのですよ。
 それを仙術といいます。そして強くなれば超常の力である。
 飛行、不老、遠視、変化、分身等が使えるのです」

「陸依《りくい》さんも」

「いえ私には、とても、とても......私ができるのは、
 気を体内で薬にする内丹術《ないたんじゅつ》だけです」

「そんな気の薬で病気がよくなるんですか?
 少し信じがたいですが」

「いいえ、内丹術《ないたんじゅつ》の薬は、
 病にそのものに効くものではなく、
 本人の気に作用し高めることで病を押し退けるもの。
 私はその内丹術《ないたんじゅつ》で作った気の薬に、
 薬草など病に効く薬を作り、それを混ぜているのです」  

「なるほど、薬に気を混ぜてるのですね」

「ええ、その病の正体がわからないと、
 気を高めるしかできませんから......
 鳴那《めいな》の村を襲った疫病も正体がわからなかったので、
 内丹術《ないたんじゅつ》で軽減するしかなかった......
 あくまで罹《かか》ることの予防のための薬なのです」

「そうか、効く薬がないと治せないんですね」

「ええ、ですから、あの疫病を治すことはできません。
 何故か効きはしましたが......今も多くの患者がいるでしょう......
 ですので予防のため、できるだけ多くの人に薬を渡したいのです」

「それで仙人を装って」

「......まあ、それでもお金が欲しかったことは事実でして」

 陸依《りくい》さんは自重ぎみに頭をかいた。
 
「それでその疫病ってどんなものなのですか?」

「え、ええ曇斑疫《どんはんえき》と名付けられていて、
 身体に空の黒雲のように灰色の斑が拡がっていき、
 いずれ死に至るという恐ろしい病です。
 私の内丹術《ないたんじゅつ》の薬でかなり軽減はできますが、
 根治は本人の気の強さによるのでしょうな」

(曇斑疫《どんはんえき》か...... 
 聞いただけなら黒死《ペスト》じゃないかな......
 とも思ったけど、そんな症状聞いたこともないな。 
 この仙境だけの病気なのかな)

「では、三咲《みさき》さま。仙術を知りうる限りお伝えしますね」

(さまはやめて欲しいっていったのに、
 仙人さまだからって......公尚《こうしょう》さんといい、
 仙人ってそんな偉いのかな?)

「まず、
 気には【内気】《ないき》と【外気】《がいき》があります。
 気はそれぞれ各自全く異なります。同じ気を持つものはいません。  
 内気《ないき》は体内に気を巡らせる気、
 私が使う内丹術《ないたんじゅつ》も内気です。
 これで身体の能力を高めます」

「そうか僕が強くなったのは内気《ないき》を使ったからか......」

「ええ、内気《ないき》を使うと、筋力などを高めますからね。
 そしてもう一つは外気《がいき》外に放つ気です。
 まあ、みててください」

 そういって、陸依《りくい》さんは両手を前に出すと、
 目をつぶる。すると陸依《りくい》さんの両手の間に、
 気の光が集まった。そしてその光は小さな炎となった。

「わっ! 気が炎に!?」

「ふう、はいそうです。気を練り、その性質を変化させました。
 これを【理】《り》と呼びます。そして......火よ蛇となれ!」

 そう陸依《りくい》さんが言うと、
 手の間の炎は姿を変え小さな火の蛇のようになった。

「こうやって動きや形を与えることを【道】《どう》と呼びます。
 つまり、
 外気《がいき》は二つで【道理】《どうり》となるわけです」

「外気《がいき》形や動きで道《どう》性質で理《り》
 二つで【道理】《どうり》か......」
 
「では、まず気を練るところから始めましょう」

 それから僕は陸依《りくい》さん......
 いや陸依《りくい》先生に、気の使い方を教えてもらい始めた。

 
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