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第十一回 薬屋開店

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「水よ!その身を球とせよ!水玉《すいぎよく》!!」

 僕がそういうと、目の前に大きな水の球体ができた。

「ふう、どうですか?」

 そう僕が言うと、
 陸依《りくい》先生はあんぐりと口をあけている。

「......い、いや驚いた。まだ三ヶ月というところなのに......  
 私が少しの外気《がいき》を使えるようになるまで、
 十年はかかりましたよ......」

「陸依《りくい》先生の教え方がいいからですよ。
 やはり言葉にする方が形にしやすいですね」

「ええ、本当は頭で考えるだけでいいのですが、
 明確にするには自身の言葉にした方がより正確になります」

「でも、飛行とか分身とかは無理ですね」

「そういうのは、
 誰かに教えてもらわないと無理ではないですかね......
 私の師である道士は使えましたが、私は全く......」 

 そんな話をしていると、大工の棟梁がやって来た。

「三咲《みさき》さん、陸依《りくい》先生、
 店の方の仕事終わりましたよ。みてくんなさい」

「ほんとですか?」

「じゃあいってみましょう陸依《りくい》先生」

 僕たちは店の方に向かった。店は立派でかなり大きな店だった。

「こりゃ、立派だ。たいした店ですね。ねえ三咲《みさき》さま」

「他人事みたいですけど、陸依《りくい》先生が、
 この店の店主ですよ」

「いや!そうだった......
 こんな大きな店本当にお客さんくるのかな......」

 とたんに自信をなくしたようにそういった。

「大丈夫ですよ。さあ、調剤室もあるし、
 さっそく薬を調合をしてみてくださいませんか」

「は、はい、そうですね!」

 それから陸依《りくい》先生は調剤室で、
 販売用の薬を調合し始める。
 
 一週間後、【安薬堂】《あんやくどう》と名乗り、
 店は開店したが、人は来るもののそれほど売れはせず、
 陸依《りくい》先生は焦っていた。

「やはり......お客が来てくれません......
 私が作ってるからでしょうか?」

「そんなことはないですよ。
 効果はあるのです。使ってもらえばすぐお客は来ます」

「そうでしょうか......」

 自信を失いつつあるようだった。

(まずいな。薬の効能は確かなのに......
 知名度がないと薬は使ってもらえないからな。
 それともう一つは自信......前のことがあるからか......)

「よし!」

 あることを思い付いて、この町の口いれ屋に行く。

 依頼の束を探す。

「この魔獣、これは......」

「えっ!?その魔獣ですか!?
 それはもう十年も放置されている依頼ですが......
 お止めになった方が」

 依頼書を見せると、口いれ屋の受付の男性がそういって止めた。

「大丈夫、これじゃないと」

 場所を聞いてさっそく向かった。野を飛ぶように移動する。

「実際、飛ぶことまでは無理だけど、
 高速で移動ぐらいはできるようになった」

 陸依《りくい》先生によると、
 これは【翔地】《しょうち》という外気《がいき》の術らしい
 半日ほどかけてその場所へ着いた。

「前なら一週間はかかっただろうな。 
 ここが傲峩沙《ごがしゃ》か......」

 見渡す限りの砂ばかり、そこは砂漠だった。

 僕は集中して気を探る。
 陸依《りくい》先生との修行で、気の使い方を教わることで、
 遠くまで気を放ち、生物の探知ができるようになっていた。
 
「驚きました......私の気では遠くに放つほどありませんから」

「そう陸依《りくい》先生がいってたっけ?」

 そう思っていると、地中に反応があった。

「大きい気だ......魔獣だな」

「砂よ!突き上げろ!砂突楼《しゃとつろう》!!」

 気を地面に流す。すると地面が揺れ大量の砂がもち上がる。

 その中に青い二つの尾を持つサソリがいる。

「結構でかいな......これが双尾蠍《そうびかつ》」 
 
 サソリは二つの尾をもたげて突進してくる。
 そして一つの尾から青い毒液を噴射してくる。 

「よし!」

 その毒液を腕にくらう。

「ぐっ!熱っ!!」
 
 もう一本の針が迫ってくる。

「せい!」

 水如杖《すいにょじょう》で気を矛のように変え、
 迫ってくる尾を切り落とした。サソリは砂に戻ろうとする。

「逃がさない!水よ!重ねて集まり!地を穿《うが》て!
 水凝槍雨《すいぎょうそうう》!!」

 空に気で巨大な水球を作ると、分散させ固め、
 地面に槍のようにして降らせた。

 降り注ぐ固い雨の槍は、
 砂に潜ろうとしたサソリの身体に深々と貫き、
 魔獣は動かなくなった。

「くっ......毒が強い......早く帰ろう......」

 すぐにサソリを水如杖《すいにょじょう》で、
 縛ると引きずりながら、町へと戻る。

(毒が回りきる前に早く帰らないと......)

 町まで何とか帰り、口いれ屋に入る。

「なっ! あれは双尾蠍《そうびかつ》!!?」

「あれを倒すなんて、何者だ!?」

「すげえ毒を持ってるんだろ......信じられん」

 周囲のものたちが口々にそう言っている。

「大丈夫ですか!」

 受付の男性が駆け寄ってくる。

「なんとか倒したけど、毒を受けて......すみませんが、
【安薬堂】《あんやくどう》の陸依《りくい》先生に、
 双尾蠍《そうびかつ》の毒にやられたと伝えてください......
 彼の薬なら治ります......」

 そう言うと意識がもうろうとし始め、
 ゆっくり視界がぼやけて暗くなっていった。
 
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