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第十五回 至落宮《しらくきゅう》

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 陸依《りくい》先生に教団の神殿であったことを話した。

「なるほど、そういうことが......
 実は、私の方も【神薬】を調べたんですが......」

「特効薬つくれそうですか!」

「......いえ、あの薬、特効薬などではありませんでした」 

 陸依《りくい》先生は眉をひそめ言った。

「特効薬ではない?」

「ええ、あれは普通の水に、
 内丹術《ないたんじゅつ》を込めただけのものです」

「ですが、幾人かに処方して軽減は確認しましたが......」

「はい、問題はそこなんです。
 私は前から不思議に思っていたのです。
 何故か病の原因がわからないのに、
 私の内丹術《ないたんじゅつ》で作った薬で、
 大きな効果があるのかと、
 あくまで内丹術《ないたんじゅつ》で作った薬は、
 内服した本人の気を高め病を退けるだけのはず......」

「それはどういうことですか?」

 理解できず、聞き返した。 

「......前に陰陽《いんよう》の気の話をしましたよね」

「ええ、陽《よう》の気が生命や創造を司り、
 陰《いん》の気が死や破壊を司る......」

「そうです。
 内丹術《ないたんじゅつ》は陽《よう》の気で作ります。
 陽は陰《いん》の気を相殺する......」
 
「それって......まさか!?」 

「ええ、率直に申せば、
 この病は陰《いん》の気で作られたものということです......」

「......曇斑疫《どんはんえき》が誰かに作られたもの」

 僕がそういうと、厳しい顔で先生はうなづく。

「ですが、よきこともありました。
 私は紫水《しすい》の国にこの事を伝えていますので、
 各国に伝えられるでしょう。おそらく各国の薬師にも、
 内丹術《ないたんじゅつ》を使えるものがおりますから、
 すぐに配布されると思います」 

 そう笑顔で先生は答える。

「そうですか、だとしたらこれ以上の被害はなくせますね。
 でも、薬を一応増やしておいてください。
 僕は彼らの教祖陀円《だえん》を探ります」

「わかりました。くれぐれもお気をつけて」

 そうして陀円《だえん》を探して、
 本部のあるという雅楽《がらく》へと向かう。
 
「ここが雅楽《がらく》の王都、西源《さいげん》か」

 二日程走り、王都、西源《さいげん》に着いた。
 そこは大きな建物が整然と並び、
 かなりの多くの人で賑わっていた。
 身に付けていた物や身なりからみな裕福そうにみえた。
 
「ここまで来た村や町は貧しかったのに、
 ここだけ豊かな者たちが多いな」
 
 歩いていると壁にか囲まれた巨大な建物がみえた。

「あれは王宮か......」

「違う。あれ下天教《げてんきょう》の本部、
 至落宮《しらくきゅう》だ」

 僕の独り言に行商らしき人が答えてくれた。

「あれが、教団の......」

「ああ、あの教団は集めた金を高官たちにばらまいて、
 この国に入り込んでるのさ。
 本来、王都は認可あるものか、高い身分の者しか住めないが、
 認可を神薬と金で買ったってもっぱらの噂だ」

 そう行商人は顔をしかめながら言った。

「ですが、薬は本物でしょう」

「まあな......だが、他の国じゃ、
 道士や仙人が作った薬でも効果があるって話だからな......
 この国の大勢の人間が、
 浄財と称して金を取られて破産しちまっているのさ」

 そう吐き捨てるように行商人は去っていった。

(どうやら、他の国も気づいているようだ。
 だとしたら、この国にもいずれ話は伝わるから、
 教団に疑いの目は向くだろうが......
 この国の高官に取り入ってるなら、
 揉み消されることもあるかも知れないけど......)

 僕は至落宮《しらくきゅう》に近づく、
 正面は大きな門が構えられており、周囲を高い壁が囲んでいて、
 そこに武装した信徒らしき衛兵が十人いた。

(前のように夜までまって忍び込もう......
 何か曇斑疫《どんはんえき》について知っているかもしれない)

 そして夜を待った。

 
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