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第三十五回 桃理《とうり》

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 朔《さく》の大臣志斎《しさい》から、
 霊丹水《れいたんすい》を配ったのが、
 灰混仙《かいこんせん》だと聞いた。

「その灰混仙《かいこんせん》とは何者なんですか」

「わかりません。ただ旅の仙人さまだとしか)

「そいつの風貌は」

 紅《こう》が聞く。

「確か、銀髪の男だとか、それがなにか?」

(やはり......)

 僕たちは灰混仙《かいこんせん》のことを、
 志斎《しさい》大臣に伝えると驚いている。

「なんと......香花仙《こうかせん》さまを殺し、
 曇斑疫《どんはんえき》に関わっているかもですと......
 確かにその仙人さまの霊丹水《れいたんすい》で、
 この国は疫病から守られたのですが......」

「ほんとにそうかな?」

「どういうこと紅《こう》?」

「ここが曇斑疫《どんはんえき》で守られたのは確かだが、
 お陰でここが作ったんじゃねえかと疑われてもいるだろ」

 紅《こう》がそういうと、
 志斎《しさい》大臣は困惑した表情を見せる。

「むう、それならば、わざとここでの流行を抑えたと......
 この国の評判を落とすために......」

「とりあえず命炎仙《みょうえんせん》さまに会わせてください。
 何かご存知かもしれませんし」

「そうですな」

 そういって足を早める。

 王宮奥につくと、大きな扉の前にきた。

「志斎《しさい》です。命炎仙《みょうえんせん》さま。
 仙人さまがお会いしたいと参っております」

「入って、志斎《しさい》」

 中から、若い女の声がした。

(女の子の声......)

 志斎《しさい》大臣は扉を開き中へとはいる。

 真ん中の寝具の台に、桃色の髪の一人の女の子が座っている。

「これは桃理《とうり》さま。
 命炎仙《みょうえんせん》さまはいずこか」

 志斎《しさい》大臣は桃理《とうり》という女の子に聞いた。

「わからないわ。修行から帰ったらもういなかったのよ。
 で、その二人は仙人なのね」

「ええ、僕は三咲《みさき》こちらは紅花《こうか》
 命炎仙《みょうえんせん》さまにお話を聞きに来たのですが......
 あなたは......」

「私は命炎仙《みょうえんせん》の弟子、桃理《とうり》
 我が師、命炎仙《みょうえんせん》になにようかしら」

「実は......」

 僕たちは知りうることを伝えた。

「ふーん、あの灰混仙《かいこんせん》を探しているのね。
 確かに、怪しいかったもんね」

「知ってるんですか?」

「命炎仙《みょうえんせん》さまの命で探っていたのよ。
 あの銀髪、顔はまあまあだったわね。私の趣味じゃないけど」

 そんな風に思い出すようにして話をしている。

「それで何者ですか?」 

「目的はわからないけど、霊丹水《れいたんすい》を作り、
 この国に配布していたわ。
 そして曇斑疫《どんはんえき》が流行る前に姿を消した......」 

「こいつが曇斑疫《どんはんえき》に関わってることは、
 間違いないな。ここに罪を擦り付けようとしたのかもしれん」

「ああ、でも犯人だとして、
 なんのために疫病なんか広めているんだろう?」

「まあ、なんだっていいわ。
 命炎仙《みょうえんせん》さまに仇なす、 
 不埒《ふらち》なものは許せない!
 あんたたち、ついてらっしゃい」 

 そういって桃理《とうり》は立ち上がり、
 僕と紅《こう》は顔を見合わせる。

「えっ?ついてこいって?」

「灰混仙《かいこんせん》を見つけ出して、
 事実を吐かせるに決まってるでしょ!さあ、行くわよ!」

 そういって懐から一枚の葉っぱを出す。
 大きくなったその葉に飛び乗り窓から飛び出した。

「あれは仙術か、どうする紅《こう》?」

「なにかあてがあるのかもしれんな。
 ついていってみるか」

 僕たちは桃理《とうり》について外にでた。

 空を飛び追い付く。

「ふーん、あなたたち、引障《いんしょう》を使えるのね。
 そっちは道士ね」
 
「お前も道士だろ」

 紅《こう》が答えた。

「違うわ。私は道士でいるだけ、
 陰陽の気で仙術も扱えるから仙人と同じよ」

「だったら何で道士のままなんだよ」
 
「仙人になると名前に仙《せん》ってついて呼ばれるからいやなの。
 私は桃理《とうり》って名前が気に入ってるの」

「......そんなことで仙人になってないの?」

「そんなことって何よ!!
 私の名前は服や髪飾りより大切なの!」

 そうむきになって僕に怒った。

「僕は仙人だけど三咲仙《みさきせん》は呼ばれないよ」

「それは、誰も知らないからでしょ、
 あんたと違って、私はこの国では有名なのよ」

 そういって胸に手を当て胸を張る。

「まあ、そんなことはどうでもいい」

「どうでもいいってなによ!!」

 そういって紅《こう》をにらむ。

「......それより、あてはあるのか灰混仙《かいこんせん》に」

「ふふん、まあね。命炎仙《みょうえんせん》さまに、
 探るよういわれたから調べてたら、
 あいつ目の前から消えたの。多分仙術ね」

「逃がしたの?」

「べ、べつに逃がしたわけじゃないわ。
 もう追う必要がなかっただけ、
 だって、あいつに目印をつけたからね」

 そういうと、指先に炎を出した。

「これは炎追印《えんついいん》
 あいつのいる方向に向かって教えてくれるわ。
 多分、世凰《せおう》があった方ね。
 あいつ、そんななまりがあったし......」

「世凰《せおう》?」

「東にあった古くからある小国だ。
 何年か前に王都が一夜にして失くなったっていうな。
 仙人に滅ぼされたんじゃないかって言われている」

「滅ぼされた......それどういうこと?」

「ああ、一夜にして町を滅ぼせる力を持つのは仙人ぐらいだからな。
 そうか、そこの生き残りなのか」

「......その生き残りだとして、
 それでなんで疫病なんか流行らせるのよ?」

 桃理《とうり》は首をかしげる。

「仙人の国である朔《さく》が疫病の被害がなければ、
 おのずと仙人への敵意や憎悪がふえる。
 世界に排仙党みたいな人たちを産み出せるからかも」

 僕がいうと、眉をひそめ桃理《とうり》は考え込んだ。

「確かに......十二大仙人に武力で勝てるわけないものね。
 可能性はあるか......」

「多くの犠牲者を出してまでか......」
 
 紅《こう》は首をひねる。

「まあ、会ってみて本人に聞くしかないね」 

 僕たちは世凰《せおう》に向かった。
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