不完全なる世界にて、契約魔王と怠惰の徒は歩む

曇天

文字の大きさ
23 / 58

第二十三話『騎士の剣は、おれじゃなく民のために』──そしておれは、また面倒ごとに巻き込まれる。

しおりを挟む
「なぜ、我がいかねばならん! いやじゃ!」

「うるさい! お前だけだらけやがって! うらやましい!」

「二人ともなにいってるですわ! みっともないですわ!」

 暴れるディムリアを見えない腕で背負い、元副騎士団ルードリヒの勧誘へと連れ出す。

「我がなにもしておらぬと思ったか!」

「お前はなにもしていない! 食っちゃねして屁をこいていただけだ!」

「魔王は屁などこかぬ! 失礼を申すな!」 

「お下品な話はやめるですわ!」

「我は魔法を使うため魔力の回復と記憶を取り戻しておったのじゃ!」

「記憶?」
 
「そうじゃ! 眠っておるうち記憶と魔法の多くを忘れておる! お前たちのために思い出そうとしておったのじゃぞ!」

「なるほど、そういうことですわ」

「わかったか、なればはなせ!」

「それはそれ、これはこれだ! 俺が働いてるのに、お前が働かんのは腹が立つ!」

「なんじゃ! そのへんな理由は! わかった! いくからおろせ!」

「......ほんと、おバカな人たちですわ」

 ミリアはため息をついた。

 
「それで、私の元に......」

 ルードリヒはそういって考え込んだ。 おれたちは山奥の小屋で暮らすルードリヒに会いに来ていた。

「おい、こやつが元副騎士団長か...... 若い女ではないか」 
 
 ディムリアがそばでいった。 確かにルードリヒはとても若い凛とした女性だった。

「ふむ、おれも男だと思い込んでいたな。 こんな美人だと緊張する」

「ふざけるな。 我には緊張しないではないか!」

「そうですわ! 私たちと扱いが違うですわ!」

「するわけないだろ。 お前みたいなガキと物理的に小さいやつ、おれは年上で普通サイズがこのみなんだよ」

「なんだと!!」 

「なんですわ!!」

「君たち......」

「ああ、すまない。 それで冒険者になってくれないか」

「......すまないが、私はうけられん」

「なんでだ? 騎士団の副団長までになるなら相当の剣の使い手だろ。 モンスター討伐なんかで人手がたりないんだ力を貸してくれ」

「騎士なら人のためにたたかうですわ」

「そうじゃな。 こんな山の小屋で生涯を過ごすつもりか。 それではあまりにも人生を無為に過ごすことになろう。 怠惰なことじゃ」
 
(食っちゃねしてるお前がいうな)

「それは......」

「ふむ、なにか理由があるようじゃの。 はなしてみるがよい」

「............」

 しばらく沈黙したが、ルードリヒはすこしずつ話し始めた。

「私の家系は昔から公国貴族だ。 祖父も父も騎士だった。 だから私も騎士になることはきまっていた......」

「それがいやだったのですわ?」

「いいや、私は剣が好きだったし、騎士は誇りでもあった。 だからその道にすすむことは特に不満もなかった」

「なればなぜやめた?」

「......それは」

 口を閉ざす。

(公国でなにか起こってるのか? ミリアのはなしだと確か公国は隣の国だったな。 古代より続く国家で、小さな国だ)

 おれとミリアが目を合わせる。

「公国がいやになることでもあったのか?」

「......ああ、しかしこれ以上は」

「忠誠心ですわ?」

「わが家が代々つかえた国に弓をひくなどできまい......」

「しかし、人としてまもるべきものはあろう」

「それは......」

 ルードリヒは考え込むように沈黙した。

「......もしおれたちに害があるなら、このまま放置はできない。 それに調べもするぞ」

「私たちはラーク卿と知り合いですわ」

「ラーク卿...... 確か大貴族の。 そうか、なれば隠しては...... 、これはあくまでも私がしった範囲だ。 この件があなたたちの害になるかはわからない......」

「それでいい話してくれ」

「半年ほどまえ騎士団にモンスター討伐命令がくだった。 それは見たことがなく、かなりの強さで騎士団の幾人かが犠牲となった。 特に町などに被害もないため、なんのための討伐かと不審に思い理由を調べた......」

「それで」

「そのモンスターは我が国でつくられたものだった......」

「モンスターを作った!?」

「ああ、最近国に雇われた錬金術師がその指揮をとっていたのだ。 国をまもる為に騎士団にはいったが、この国でそのようなおぞましいことが行われていた。 私はそれをうけいれられなかったのだ......」

「ふむ、それで騎士団をやめた、そういうわけじゃな」

「......ああ」

「モンスターをつくる...... まあ、どうせろくなことに使わないですわ」

「だろうな。 それは国が主導してるってことか」

「ああ、国が雇ったものだし、そこはかなりの設備だった。 とても個人ではまかなえまい。 とはいえ女王がご存知かはわからん......」

「どうしてだ?」 

「......女王はまだ即位して一年、まだ12歳だ」

「なるほど、だったら周りが先導してるのですわ」

「......女王にどの程度の権限があるかは正確にはわからん。 しかし在位が短く、幼いため権限をもたれてるとは思えん」

「ふむ、傀儡か」

「......ああ、おそらくな」

「それであんたはそのままにしておくのか。 騎士なのに主君が操り人形でいるってのに」

「わたしは! だが、国の決定にどうやってあらがう......」

「もう騎士でもなんでもないだろ」

(こういっておけば、仲間にできるかもしれん)

「......確かに、もはや騎士でもなんでもない」 

「そうだ。 あんたが本当に人々のためを思うならおれたちとともにモンスターから人々をまもろ......」

「そうじゃ! 国の不義をただすのも騎士のつとめであろう! 我らも力を貸そう!」

「そうですわ! ほうっておいたら、きっと大変なことが起こるですわ!」

「えっ?」

「あなたたちが......」

「そうじゃなシュン!」

「ですわシュンさん!」

「えっ!? う、うん! そうだ、 力をかそう!」

(あおって仲間にしようとしただけなんだけど...... まあさすがに国と戦うなんてしないよな)

「確かに私は何を迷っていたのだ...... わかった! 国をただすためこの剣をとろう! 私に力を貸してくれ!」

「えええ!!」

 なぜだか、おれの思惑とはちがい、国をただす方にむかってしまった。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...