来る気がなかった俺の異世界冒険記 ~転生させた女神が承認欲求モンスターだった~

曇天

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第五十八話

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「まさかそこまでするとはな......」

 ベルアイユ大臣はそのシワをいっそう深くして答えた。 俺たちは教団の話を聞くべく大臣に事情を話していた。

「それで教団のことを詳しく知りたいのですが」

「ふむ、魔法の宝石を奪っていったか...... あのサクラスとかいうものも関わっているなら、覚悟をきめるときかもしれんな...... いいだろう」

 大臣は机から書類をとりだし前においた。

「これがやつらの情報だ。 本部は北のゴルス山脈にある。 そこに潜入してやつらの悪事の証拠をつかんでくれ、それでやつらを壊滅させる」

「わかりました。 では」

 部屋を出ると、こちらに声をかけて来るものがいた。

「至高の女神と最強の精霊刀《ディーヴァブレイド》か。 ずいぶん人気だそうだな」

 嫌みをいうようにいう、それは貴族風の長身の若い男だった。

「......ええ、あなたは」

「私はサマエル」

 そう冷たく見据える男はそういった。

(こいつが大臣か、大分若いな)
 
「ベルアイユ大臣に入れ知恵でもされたか。 あまり派手に動かない方がいい。 また神殿がやかれ、今度は信者が殺されかねんぞ」

「なんやと!」

「やめろリヴァ。 ご心配はいりませんよ。 今度はそううまくはいかない」

「............」

 俺がそういうと、無言でこちらをいちべつして去っていった。

「あのもの......」
  
「なんだティティ」

「いえ、なにか妙な感じがしたので」 

「そんなんどうでもええわ。 なんかいけすかん! はよ教団潰してあいつの鼻をあかそうや」

「ですね」

 リリオンがそう拳を握る。

(サマエル...... あいつが何かしてくるかもしれない。 気をつけないと)

 俺たちは教団本部にむかった。


「さっぶぅ!!」

「寒い寒い!」

「寒いですぅ......」

 三人はくっついている。 俺たちは教団のあるというゴルス山脈にきた。 そこは豪雪地帯で吹雪が視界をうばうほどだ。

(確かに...... この寒さと悪路。 なんでこんなところに教団があるんだ)

「ティティ、視界が悪い魔力で探知できるか!」

「ええ、私は至高ですが? なにか」

「そんなことは聞いてない! 魔力で探知できるか」 
 
「ウチ、もちろんかわいいけど、急にいわれたらてれるやん!」

「そんなことはいってない! ティティ探知だ!」

「私はエッチではありません! 女神になんということをいうのですか!」

「エッチじゃない! 探知だ!! だめだ吹雪でうまく伝わらん!」

 とりあえず、近くにある洞窟にはいり、暖をとる。

「ふぅ、やっと落ち着いたな」

「なんでこないなところに教団があんねん! アホちゃうか!」
  
「やはり修行とかでしょうか」

 リリオンがそういった。

「まあ、大抵、局地か危険なところなんかに宗教的なものはあるな。 その方が神秘的だからだろ」

「なんや演出かい。 信者獲得も簡単やないな」

「私たちももっと別の場所に移転したほうがいいんですかね」

「あそこもモンスターの出る森だ。 十分だろ」

「もっと信者を集めないと、私の真なる力を取り戻すことはできません」

 そういいつつ、ティティは持ってきた食料をむさぼっていた。

「その前に神としての威厳をとりもどせ。 それより魔力探知でしらべられないのか」

「なにか阻害するものがあるらしく、おぼろげにしかわかりません。 ただこの先になにかあるようです」

「よし、そこにいってみよう」

 俺たちは休憩を終えると先へと進む。

「これは」

 しばらく進むと大きな町がみえてきた。 そこに一歩踏みいると、嘘のように吹雪がやんだ。

「なんやねん。 これは......」

「雪が降ってない」

「どうやら、魔法の力でこの町をまもってあるようですね」

 その町はすべての建物が左右対称で真っ白だった。 とおりにはローブを来たものたちが歩いている。 ちらほら普通の服のものもいた。 

「行商ですかね。 お陰で浮かなくてすみます」

「町もめっちゃきれいやな」

「そうですね。 キレイでごみひとつ落ちてませんけど、なにか違和感もあります」

 リリオンが眉をひそめる。

「確かに完璧すぎて気味が悪いな。 人も多いが誰も話してさえいない。 それに白い服をきたのはこの町の住人か。 みんな若いというか、上でも俺たちぐらいの年齢だ」  

 俺たちは宿を探し泊まることにした。

「ええ、ある程度の年齢になると他の町に布教にいきます」

 そう若い宿屋の主人はいった。

「さみしないんか?」

「さみしい...... いえ、ここでは当たり前です。 神への信仰があれば他のものは必要ありません」

 主人は若く丁寧だが、淡々とはなし表情に乏しい。

「俺たちがきてもいいのか?」

「ええ、みていって完全な規律があるアルコーン教の素晴らしさを確認してください。 ただ神殿には近づかぬようお願いしますね」
 
「神殿?」
 
「ええ、この中央にある卵のような建物です」
  
 窓からその建物が見える。 

「そこは一握りの信者しかはいれません。 この町のものは誰も近づきませんが、外の人はしりませんから」

「ふぅん、兄ちゃん この町、町長とかおんのか」

「いいえ、ここは教団の最高司祭【ヤルダバオト】さまが、統治しています」

「ヤルダバオト、最高司祭か」 

 部屋にとおされた。

「変なとこやな。 ほんまにここにサクラスがおるんか? あいつは感情あったやろ」

「ああ、ただ嘘くさいというか。 張り付けた笑顔というか。 何を考えているかはわからない感じだったな」

「とはいえこの教団の悪事の証拠をどうやって見つけますか?」

「それですが、この町の地下に力を感じます...... 町にはいってから鮮明に......」

 リリオンにティティが緊張した顔でいった。

「それって......」

「まさか」

 リリオンとリヴァが顔を見合わせる。

「魔王か」

「......おそらく」 

 一瞬沈黙があった。

「証拠どころかだな」

「ええやん! 証拠のついでや魔王ぶっとばしたろうや!」

「今の我々で戦えるでしょうか」

「......わかりませんが、それほどの力を感じません。 おそらく元の力はないはず、あるいは今ならば......」

「倒せるか。 なら力を戻すまえにやるしかないな」

 俺たちは覚悟を決め、夜、神殿に忍び込むことにした。
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