7 / 60
第一章
その家、沼の中に建つ
しおりを挟む【ダンジョン:ダークフォレスト】
このダンジョンは、弦や枝の多い、沼地の上に存在する鬱蒼とした森である。言わずもがな、足場も湿度も進みやすさも最悪なわけで。道はもはや沼と化している。一番最初に我慢ならなくなったのはマオだった。
「ああああもうじゃかあしい!!業火でも隕石でも落として更地にしてやろうぞこんな沼!!!」
「やめて。」
「僕らもぺちゃんこだよお。」
一歩進めば泥に足が沈み、場所が悪ければ、腰まで浸かる。ジュアンもアイザックもへとへとのベトベトである。
「アイザック顔色悪いよー。」
「さっき拾い食いしたからかな。」
「駄目でしょそれ。」
イライラとしていたマオが、突然ぴたりと動きを止める。
「……我は用事ができた。少し外すぞ。」
「え。」
「ちょっ。」
何かを受信したらしいマオは、次の瞬間には掻き消えていた。転移魔法だ。上級魔法のひとつで、使える人間はめったにいない。
「ずーるーいー!!」
「勝手だなあほんと」
左右にそびえ、立ち並ぶ太い木の幹は触手めいていて、色もどこか紫色だ。面倒でもこんな森、迂回すればよかったと今更後悔する。
「あっ!」
「なに。」
「アイテムのさ、脱出の玉。あれ使えば僕らも転移できるよ!」
「それ森のスタートに戻るぞ。」
「駄目かあ。」
非戦闘員のアイザックはもう返事もしたくないほど参っているし、ジュアンもアイザックを背負えるほどの体力は残っていない。せめて休める場所でもあればいいが、ダンジョン内である。そうそう休める場所など……
「あっ。」
「なに。」
汗の垂れる頬で笑顔を作り、ジュアンが指さした先には、
「………家?」
屋敷があった。
~Side マオ~
「全く父上も我遣いが荒い。」
マオは当代魔王である父に呼び出されていた。連絡の行き違いがあったようで、すぐに用事は片付いた。父とはいえ相手は当代の魔王なので、着替えて謁見していたのだ。
ぷんすこと怒りつつ、冒険者の服に着替えるマオ。
この人間ごっこにすっかりはまっているので、言われたとおりに角も隠す。
何よりあの男だ。魔族の少年を平然と引き連れ、彼自身はこの我でも解読不可能なほどの禁術に蝕まれている。それでいて、あの欲深さの垣間見える目と、冷静なふるまいの同居する、生き物としての不自然さ。
アイザックの過去を知りたい。
それはきっと、この道中で明らかになるだろう。あの男ならいつか話す。そんな確信が、いや、魔王の勘があった。幸い父上は元気なことこの上ないし、世代交代まで数世紀は暇を持て余すのだ。こんなに楽しい余興を逃してなるものか。
………本当は自分に媚びへつらわぬ二人を大切に思っているマオなのだが、若き魔王は気が付いていない。
「しかしあの森に戻るのは面倒だな。……ん?あいつの引っ越した場所、たしか……。」
思い出す。何十年か前に引っ越しの連絡が来ていた。古い手紙を取り出してみれば、やはり、よりにもよってあんな森の中にだった。
「ハロに挨拶していくか。あいつらはそのあとに森の外ででも待とう。」
その計画は、良くも悪くも、すぐに崩れることになる。
マオが引っ越した友人の家の中に直接転移してみれば、全裸にひん剥かれたジュアンとアイザックが捕まっていた。友人の魔術師であるハロは、アイザックの左右の頬を、手袋をした両手でつかんで覗き込んでいる。ハロへの挨拶も、二人との合流も完了しそうだ。
「ハロ、そいつら、殺すなよ。我のだ。」
「招かざる客の随分多い日だよ、今日は。よりにもよって君の知り合いかい?この侵入者ふたり。」
ふわりふわりと濃紺のローブのフードを目深にかぶった亡霊がふわりと浮き上がり、近づいてくる。フードををかぶっていないと姿を現せないほど、弱体化していたとは。
二人ともぴくりとも動かないが、透視魔法を使って体を診てみれば、心臓は動いていた。心を壊されていなければよいが。
「お友達ができたんだねえ、魔王ジュニア。」
「今の偽名はマオだ!」
「偽名って言わないほうがいいね、きっとね。」
「こいつらは、我の旅の連れだ。」
ぱーてぃとやらに加わった。だからこの表現で間違いあるまい、とマオは思う。
「面白いやつが迷い込んできたからねえ。調べさせてもらおうと思ったんだけど、誤解させちゃったみたいでさあ。」
それで戦闘開始か。確かに不気味なハロが、暗闇から笑顔で飛び出して来たら、我であってもうっかり殴りそうだ。
ハロはとっくに死んでおり、亡霊、いや、悪霊である。ジュアンの格闘攻撃は一切通らず、アイザックは非戦闘員。あっさり捕まって、おもちゃにされていたのだろう。
「元気そうで何よりである、ハロ。とりあえずこいつらを起こせ。」
「そっちのちびすけは任せるよ。僕はこっちの男を起こすから。」
己の好奇心が最優先で、呪術の研究にいたく熱心なだけ。悪い奴ではない。それがマオの抱くハロの印象である。ジュアンを抱え上げ、水でもかけようと浴室に向かった。
10
あなたにおすすめの小説
落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした
444
BL
『醜い顔…汚らしい』
幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。
だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。
その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話
暴力表現があるところには※をつけております
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
傷跡傭兵の強制結婚-実子かどうかはどうでもいいので義理の息子を溺愛します-
同軸
BL
前の世界で凄惨な死を迎えた傭兵であった自分、シラー・イーグルズアイは神の使徒として異世界に転移してしまう。
現地の法令の元、有力貴族であるロアイト公爵との結婚を強引にも取り付けられ急な結婚生活が始まるが、傷んだ食事を出されたり冷遇されたりと歓迎されていない様子。でも誰も殺そうとしてこないし良いか。
義理の息子が成人するまではしっかり面倒をみてその後に家を出ようと画策するが、ロアイト公爵の様子がどうにもおかしくなってきて……?
牙を以て牙を制す
makase
BL
王位継承権すら持てず、孤独に生きてきた王子は、ある日兄の罪を擦り付けられ、異国に貢物として献上されてしまう。ところが受け取りを拒否され、下働きを始めることに。一方、日夜執務に追われていた一人の男はは、夜食を求め食堂へと足を運んでいた――
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。
ivy
BL
⭐︎毎朝更新⭐︎
兄の身代わりで望まれぬ結婚を押しつけられたライネル。
冷たく「帰れ」と言われても、帰る家なんてない!
仕方なく寂れた村をもらい受け、前世の記憶を活かして“投資”で村おこしに挑戦することに。
宝石をぽりぽり食べるマスコット少年や、クセの強い職人たちに囲まれて、にぎやかな日々が始まる。
一方、彼を追い出したはずの旦那様は、いつの間にかライネルのがんばりに心を奪われていき──?
「村おこしと恋愛、どっちも想定外!?」
コミカルだけど甘い、投資×BLラブコメディ。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる