17 / 59
第一章
囚われの姫君と呪われ薬師
しおりを挟む魔王城最下層の下水道にプディリンはいた。そりゃあもう、いた。ぶよぶよとしたその見た目は、初見では吐き気を催すレベルだ。簡単に説明するなら、色合いがプリンで、ぶよぶよした巨大ゴブリンである。必要となるのはその目玉。通常魔物は死すると自壊して解けて消えるものがほとんどだ。そのため特殊な粉をかけることで形を維持させ、採取していく。
ジュアンは二丁拳銃で撃ち抜き、ハロは水晶を用いて無力化の呪術をかける。マオは中立、どちらの敵でもないということで、優雅に椅子を召喚して戦闘を見ている。アイザックは倒れた魔物に片っ端から粉をかけまくり、素材採集だ。
薬の生成自体は、夜キャンプ地に戻って行った。
あとは一晩寝かせて、完成。
一息ついたところで、アイザックのいるテントの外が騒がしいことに気が付いた。
出て行くと、こちらに走ってくるブロンドの長髪を結った、麗しい少女と目が合った。アイザックのよく知る、そしてアイザックをよく知る人物。アイザックを人間にしたのは、この少女、ミッシェル姫だ。
彼女はアイザックに気が付いて目の前で立ち尽くし、かける言葉に困っているようだった。だから、
「初めまして。」
彼女の顔に悲しみが浮かぶ。
「だって、そうでしょ?初めて、僕の魅了に溺れていない貴女に会った。」
彼女をうながし、皆の元へ。
説明しなければならない。
アイザックたちがプディリンを狩っていた昼の間。
勇者たちは魔王城に連れ去られた、ミッシェル姫奪還のため派遣されていた。中層階にて、水晶に閉じ込められた彼女を発見する。妙なのは、まるで最近運び込まれたような印象を受けたことだが……。とにかく、姫の無事を確保するのが最優先。水晶をキャンプに持ち帰り、やっとのことで水晶から開放できたのは、夕方、アイザックがテントから出てくる数分前のことだった。
「アイザックは?」
眠りから解放された彼女が、一番に口にしたのがアイザックのことだった。
こうして今に至る。ミッシェルをはじめ、興奮している者もいたが、全員をひとまず焚火の周りに座らせた。静かになると、アイザックは炎を見ながら語り始める。
「……ちょうど、10年前かな。」
7才のアイザックは、生きているのがやっとの状態で、森の中を彷徨っていた。自分のものでない血が服にこびりつき、異臭を放つ。持っていた戦闘方法は、魔、女に押し付けられた魅了という禁術のみ。殺し合いの中から出てきたばかりの、手負いの獣だったアイザックの前に突如何かが飛び出したのだ。
少年だったアイザックは恐怖した。
殺される。
アイザックは全力で、命がけの魅了を行った。それが、その相手が、城を抜け出していたミッシェル姫だったのだ。その魅了の効果は、10年かけても解けることはなかった。
そしてあの事件が起きたのだ。アイザックをはじめとした、ウィルの町のエルフたちの人間化と衰弱。
「でも今は魅了、落ち着いてるみたいだね。僕が今、人間だからかな。」
「わからないの。頭はとても冷静で、記憶もしっかりしてるわ。だから、あなたのことを変わらず好きよ。そしかしたらそれが魅了の名残なのかもしれないけれど。」
「少なくとも、こうしてまともに会話が成立したのは初めてだ。勇者様、彼女を助けていただいてありがとうございます。」
事故とはいえ、禁術である魅了をかけてしまった。その責任を感じてずっと、町ではともに過ごして世話を焼いてきた。恋人にはならないが、付き合いの長い友人だとは思っている。
「うん。姫様を魔王城から助け出したし、僕ら勇者パーティーも、しばらくお役御免だ。魔王が進軍してこない限りは……いや、アイザックの頼みがあったね。」
「何を頼んだ。」
マオの殺気。大嫌いな勇者と慣れあうのが心底嫌なのだ。
「落ち着いて、落ち着いて。薬を完成させた後のことを頼んだんだ。」
アイザックがなだめ、どうどうとジュアンがマオの頭に登り、髪を撫でる。
「クリスさん、明日には薬が完成します。解呪の後、よろしくお願いします。」
「……戻っちゃうの?」
ミッシェルは残念そうだ。一体誰のせいで、と腹が立つ。だが相手は一国の姫君だ。
「俺以外にも苦しむ人を、ミッシェルも見ただろ。」
「………そうね。」
「それに俺の心は変わらない。分かってくれ。」
「ええ……ごめんなさい。」
クリスにミッシェルは向き直る。
「私からも解呪のお手伝いをお願いします。私のせいなんです。」
「……かしこまりました、姫様。」
うやうやしくクリスは応じた。
10
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
路頭に迷う超絶美形を拾ったら無自覚な懐かれ方が凄すぎて義賊の頭領の心臓が持ちません! ~初恋の難易度がカンストしてる件について~
たら昆布
BL
義賊のツンデレ頭領が気まぐれで生き倒れた美青年を拾う話
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
生贄傷物令息は竜人の寵愛で甘く蕩ける
てんつぶ
BL
「僕を食べてもらっても構わない。だからどうか――」
庶子として育ったカラヒは母の死後、引き取られた伯爵家でメイドにすら嗤われる下働き以下の生活を強いられていた。その上義兄からは火傷を負わされるほどの異常な執着を示される。
そんなある日、義母である伯爵夫人はカラヒを神竜の生贄に捧げると言いだして――?
「カラヒ。おれの番いは嫌か」
助けてくれた神竜・エヴィルはカラヒを愛を囁くものの、カラヒは彼の秘密を知ってしまった。
どうして初対面のカラヒを愛する「フリ」をするのか。
どうして竜が言葉を話せるのか。
所詮偽りの番いだとカラヒは分かってしまった。それでも――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる