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第一章
【背徳gluttony ダークエルフのアイザック】
しおりを挟む「ところで」
渦中の人物、アイザックが口を開いた。
「久々の食事をしてもいいでしょうか?」
恍惚を隠し切れない笑顔で。先程の発言もあって、勇者の頬がひきつった。
キャンプ地から少し離れる。勇者一味も後について来ていた。
「ハロ、この辺りで今発情期な魔物はいるかい?」
「巨大猪がそろそろその時期だよ。」
「猪か……」
よだれがあふれてくる。巨大なら腹も膨れるだろう。
「本来の姿に戻ったから、俺も戦闘ができる。みんなは手を出さないで。危ないから。」
俺もまだ未熟だからね、と笑う彼は、容姿は大きく変われど、アイザックの笑みだった。背中に背負い続けていた、大きいだけのナイフを取り出す。
「ようやくそれを使うんだね。楽しみだよ。」
「魔道具か何かですか?」
「いや?ただの特注の、でかいだけのバターナイフだよ。……それが大事なんだけど。」
森の中央に向き直る。
「魅了」
しばらくすると、大地を揺るがし、5メートルを優に超える巨大猪が現れた。酷く混乱しているが、その注意はアイザックに向いている。
巨大猪は本来、討伐パーティーに10人は集って、やっとのことで倒せるしぶとい魔物だ。気性が荒く、人間などはその牙で一撃。かなりの重量級で、魔法を使った遠距離での戦闘が推奨されている。………つまり、復活したてのアイザックが独りで立ち向かうのはあまりに無謀な相手。例え勇者であっても、単身では生きて帰れるかどうか。
しかしアイザックは極上の笑みを絶やさない。
「いただきます♡」
跳んだ。魔法で強化した脚力で巨大猪の頭上に跳躍し、背丈ほどもあるバターナイフを翻す。その刃全体に一瞬で強化がかけられたのを、ハロは魔法によるスキャンで確認する。そのまま重力と共に振り下ろされた大きなバターナイフは、巨大猪の首を一刀両断した。ごろりと大首が転がる。
あとは、一行は呆けたようにアイザックが巨大猪の生肉を、つまみ食いしながら解体していくのを見ているしかなかった。
「食べる?」
「いらなぁい。」
生肉を、骨を、脳髄を。その場でひとしきり堪能したアイザックは、今度はキャンプ地から離れたところで焼き肉に興じていた。あれだけ大きかった猪も、あと5分の1も残っていない。一口は小さく、上品に食べているのだが、常に食べ続けているからだ。
「そういえば僕たちの戦力が分かるって、おいしそうってこと?」
「ああ。魔力が強いほど美味そうに見える。」
「ブライアン兄ちゃんの角、食われるところだったんだ!?」
ハロが近づいてくる。
「君の体を再スキャンさせてもらったよ。」
「そう。結果は?」
「人間の時とは違って、常に顎と内臓が大幅に強化されているね。あとは戦闘中、脚やバターナイフを使う時にも強化魔法が見られた。」
さすが、と血の滴る口をぬぐう。
「そうだよ。僕は魅了魔法と強化魔法しか使えない。強化できるのも、自分の体と触れている武器のみだ。」
ハロはというと、面白そうに、先程まで骨すら噛み砕いていたアイザックの顎を撫でる。
「逆に言えば、特化しすぎているともいえる。十年も解けない魅了魔法なんて異常だとは思ってたんだ。強化魔法も通常の息を抜きんでている。」
ふたりして、にこりと笑う。
「もちろんこれから話すけど、俺の複雑な呪いは分かった?」
「予想に過ぎないが…アイザック、君は。」
一呼吸置く。
「蟲毒の儀式の生き残りだね?」
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