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第二章
監禁
しおりを挟む【イーヴォルの町】
「せっかくだし、寄ってくか、ジュアン。」
「え!いいの!?」
「初の単独での討伐依頼の成功、報告してきなよ。」
「家族への報告は大事だ。………我もしばらく呼び出しに答えていない。イーヴォルの町へは三人で行ってくれぬか。一度父上の様子を見てくる。」
「そう?じゃあマオも気を付けて。」
マオの頭を撫でる。じっとりとジュアンがそれを見ていた。
めでたい!と、案の定パインリブ家では宴が始まった。しばらく泊まっていけとも言われた、その夜。アイザックはジュアンに部屋に呼ばれた。見せたいものでもあるのか、友達を部屋に呼んでみたいのか。入って入って~と背中を押され、中に入った。
そこから、記憶がない。
目が覚めると両腕に手錠がかけられていた。その手錠はベッドに繋がっている。
可能な範囲で顔を動かすと、間接照明で薄暗い室内が見える。物が少し散らかっていて、一目で高級と分かる家具。意識を失う前に見た部屋だ。窓の外が暗いのは変わっていない。扉が開いた。見慣れた小柄な体、栗毛の髪。
「……ジュア、ン?」
「ああ、起きてたんだぁ。ごはんあげるね。」
「ジュアン、何を。」
ジュアンはスープをスプーンで口に流し込んでくる。熱すぎない適温の、おいしいスープ。質問しようと口を開くと、休む間もなく口に運ばれる。
やっと飲み切る頃には怒る気力はなくなっていて、ジュアンの様子がいつもと違うことに気が付く。
刺激しないように、静かに尋ねることにした。
「この手錠は、ジュアンがやったの?」
「そうだよ。」
のそのそとベッドに上がってくる。頭をベッドに押さえつけられて、くちゅりと口づけが落とされる。
「ねえ、ここで暮らそうよ。」
「は、何を、」
「前に言ったことあるよね。僕アイザックが他の人とチューしたり、他の人とぎゅーしたりしてるの嫌なんだ。」
その表情はいつもの快活な彼とは異なる。
「おまえ、あのなあ。こんなこと、いくら俺相手でもやっちゃいけないんだよ。」
「知ってるよ。でもね、」
ジャキッと、目の前で銃弾が装填される。金の装丁がされた二丁拳銃の片方が、アイザックの眉間に向けられる。
「アイザックだって、僕と生きていきたいでしょ?そうだよね?」
ああ、こいつなら、今のジュアンなら撃つだろう。表情の読めない見開かれた瞳と、笑みの浮かぶ口。正常じゃない。
「………分かった。」
おまえに従う、と。アイザックは体の力を抜いた。数日あれば彼も落ち着くだろうと、問題を先送りにする。そのままアイザックはジュアンのキスを受け入れた。
三日以上が立った。薬で眠らされているのか、毎度目が覚めるのは外も室内も暗い時間だけ。もう、おそらくでしか時間の経過が分からない。状況は益々悪化していた。
「は……はぁっ…ジュアン……」
「いつでも言ってね?ごはんかな?トイレかな?」
「…ちがっ。」
「じゃあお水かな?それともお薬作る?」
「………。」
「ちゃんと言わないと分からないよ?ねえ。」
ああ、よだれが止まらない。空腹に腹が鳴る。衰弱した体が動かない。
「ねえ。」
ああ、食べたい。
「言ってよ。僕が欲しいって。僕がいいって。」
人間の食事はしていた。しっかり熱を通したスープにパン。しかしそれでは体を維持するための魔力は補えなかった。アイザックは、化け物なのだ。
「ジュアン……おまえの、おまえを。」
食べたい。
そう言ってしまえばすべてが終わる気がした。今までの楽しい思い出も、まともで、無垢な振舞いのジュアンも、きっと過去のものになる。
「…………。」
「……やっぱり、僕じゃダメなの?」
必死に食欲を抑えて黙れば、ぼろぼろと涙をこぼすジュアン。それはどう見ても大切なものを無くした子供のようで、胸が締め付けられる。
「おいで。ジュアン。」
こくりとうなづき、素直にベッドに寄るジュアン。
「手錠はそのままでいいから、ベッドから外して。」
「どこにもいかない?」
「うん。今はね。」
長く逡巡したが、アイザックが大人しくジュアンを見つめれば、手錠を外してくれた。
「あい、ざっ……く?」
繋がれた両手のまま、上から腕を下ろしてジュアンを抱きしめる。少なからず動揺しているようだ。
「僕は確かにおなかがすいているし、ジュアンが必要だ。」
「アイザック…!」
「でも、そうじゃない。それが理由じゃないんだ。……おまえと、ジュアンたちと楽しく旅をするのが好きなんだ。」
「……そ、っか。」
「もう少し世界を回って、ジュアンとたくさん笑って、ハロの呪術を見て、マオの成長を見届けて。まだ、四人で旅を続けたい。」
「…………でも。」
「ジュアンは、あの旅は苦痛だったか?」
腕を解いて、ジュアンの目を見つめる。うるうるとジュアンの目に涙が溜まっていき、堰を切るようにして流れ出す。泣きながら首を横にぶんぶんと振るジュアンにはもう、狂気の色はなかった。
「ごめんっ、ごめんねぇ!!」
大泣きするジュアンに、アイザックはそっと抱きしめて、背中をさする。
「俺も、ジュアンの思いに気づかなくて、ごめん。」
「へへ……ふられちゃったや。」
「……恋人以外とは、もう、キスしない。」
「へへ……そっかそっか……恋人、かぁ。」
「もう、俺と旅するのがつらいなら、」
「ううん。ついていかせて。……こんなことした僕が一緒で、アイザックこそ嫌じゃないの?」
「……もう、同じ目に遭うのは、ちょっと困るけど。」
「わかった。もうやらない。……ね、アイザック。」
「なあに?」
「恋人じゃなくても、一緒に、いていい?」
「うん。ジュアンが嫌になるまで、ずっと。」
涙でぐちゃぐちゃの顔が、笑顔に変わった。
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