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第二章
星空と、馬鹿と、密談と
しおりを挟む外の風に当たれる展望デッキに出る。追手の来る様子はなかった。
「おまえ、何故半分残した?」
宝珠は二つの星が並んでくっついたような形をしていた。だが今は、ひとつの星型だけになって展示室にある。
「人間が一人消えて、乗ってないはずのダークエルフが増えていたら問題になるだろ?あれくらいなら朝までには人間に戻る。全部食べてたら…ちょっと自信なかった。」
始めはひとくちのつもりだったんだが…とぶつぶつ言っているアイザック。ダークエルフが増えて居たら、か。それもそうだ。……それにしても。
「あんな石が、美味かったか?」
「うん。」
へにゃっと子どもみたいに笑う。それはいたずらに成功した子供の顔。食欲に忠実な彼を、マオは好ましく思う。
「そうか。」
「バカなのかい君。」
ハロがやってきた。魔力の流れを感じたような気がして、幽霊の姿で警備をすり抜けてきたのだ。
「うん、バカみたいだね。」
否定しないアイザックの横に立って、星空を見るハロ。
「おいしかった?」
「うん、おいしかった。」
「僕の魔力供給よりも?」
「もちろん。」
何を当たり前のことを、と言いたげだが、それがハロには悔しい。自分だって生きていればあの姫ごときに負けない魔力量を持つ自信があるのに。今の自分は人並み以下の魔力量なのだ。
「あいざっくぅ……どこぉ?」
眠そうな声がデッキに響く。
「……ジュアンか?」
ふらふらと近づいて抱き着くジュアン。ああ、アイザックの匂いだ、とむにゃむにゃ言っている。薬とアイザックの体臭の混じった落ち着く匂いに、ぐりぐりと頭を擦りつけるジュアン。
小さな子供みたいだ。……いや、魔族的には子供だったか。
「あーあー、全員揃っちゃったよ。……眠くないのか?」
「眠いー……。でも、誰もいないんだもん。」
「悪かったな。部屋に戻ろう。」
アイザックがジュアンを引きはがす。夜風が気持ちよかった。
「なんでアイザック、ダークエルフに戻ってるのぉ。」
「それはねー。」
ばらしかけたハロのことばを遮って、アイザックが笑う。
「君の夢だからだよ。」
アイザックは眠くてたまらないジュアンを背負い、部屋に戻る。着く頃には、ジュアンはまた眠っていた。
「ハロ、あのやり方には心当たりがあるだろう?」
部屋に入る前、マオとハロは声を潜めて認識のすり合わせを行う。
「君も気が付いたんだね。心当たりどころか、確信を持って言えるよ。ミッシェル姫を攫って魔水晶に閉じ込めた……あるいはそうさせたのは、お師匠様だ。彼女が資金繰りでよくやる手さ。」
魔力の高い人物を、魔力を吸いやすい鉱物に閉じ込めて、魔力のストックにする禁術。並みの術者なら中の生き物の原型などとどめないが、災厄の魔女の手にかかれば、美しい芸術品に変わる。
魔力の高い人間は往々にして美人であるため、透明度の高い水晶に入れれば魔力の貯蓄物資としてだけでなく、観賞用で高値が付くのだ。今回は勇者たちによって助け出され、水晶を美しく削るだけにとどまったが。
「また大きな騒ぎを起こすだろうな。」
「ふふ、楽しみだよ。状況次第ではパーティー抜けるけど、それまではここで楽しむさ。」
「うむ、心得た。我が城にミッシェルを持ち込んだ馬鹿はすでに父上に粛清されたが、情報はいるか?」
「うーん、いいや。それじゃ、おやすみぃ。」
「おやすみ。」
翌日元に戻ったアイザックたちは、全員が対象の荷物検査は受けたものの、まったく疑われることなく飛空艇を降りたのだった。
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