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第三章
その愛はリンゴの木の下に
しおりを挟む【ウィルの町】
ウィルの町の北の方。かつて滅んだダークエルフの村があった場所に少し近い平地。あまり薄暗くほとんど風は吹かないが、うららかな春の陽気で、墓場とは思えないのどかさを感じられる。
そんな墓場の、端のリンゴの木の近くにアイザックの師、ウェイド・スティールは眠っている。
近くのリンゴの木は一度も実ったことはないが、ウェイド師匠はアップルパイが好きだったことを、見るたびに思い出させられる。
掃除を終えて、手を合わせて。
ほうきを持ったまま、ジュアンが問う。
「どんな、人だった?」
リンゴの木を見上げたまま、アイザックが答える。
「お人よし、かな。他人の血でベトベトの、ダークエルフの子供を保護して、その子が生きるために魔物の薬としての実用化を完成させちゃうような人。」
「……すごいね。優しい上に、天才なんだ。」
「天才より、執念の秀才かな。俺の味覚で魔力の多い部位を選別して、効能を片っ端から全部試して、すべての記録を詳細に残して。できる遠回りを全部やって、それで、人間が服用できるものに変える方法を見つけたんだ。」
「愛だね。」
「愛なのかな?あとは薬の作り方、お客さんとの話し方、お金の計算のやり方や家事や料理。研究の合間に、ちゃんとそういうことも全部教えてくれた。」
「いいお父さんだね。」
「うん。最後は、老衰だったと思う。ウィルの町の人たちが毎日、代わる代わるお見舞いに来てくれて、さみしくはなかった。」
「……子爵家の、家族は?」
「市井で、人助けのために薬師をやるのを嫌がったんだって。悪いうわさが立つから戸籍からは抜かれてないんだけど、援助も連絡もなし。師匠も一回は手紙を送ったけど、俺からは死ぬまで連絡しないでほしいって。」
「…………そっか。」
「……亡くなった後、連絡したんだ、何度も。返事はなくて、最後には子爵家の門の前まで行ったけど、話もさせてもらえなかった。平民だからなんだけど、ほんとに、何も聞いてもらえなくって。」
「はあ~あ。皆殺しにしちゃう?子爵家。」
「あははっ、いいよ、やめて?」
帰る前にもう一度、手を合わせる。
師匠、おかげで俺、人間と生きていられるよ。
俺の正体や性格を知っても、すんなり受け入れる変な仲間たちもできた。
師匠の残してくれた登録証のおかげで一人前にやれるまでになった。
だから、また来るよ、師匠。ちゃんと俺の名前の登録証ができたら、また見せに帰ってくるからね。
「ハロが待ってる。うちに帰ろうか。」
「あいあい!またこよー。」
「そうだね。お手伝いありがとう。」
「どういたしましてー!」
墓場を出て少しのところで、アイザックの家で待っていたはずのハロの姿が見える。
隣には、久しぶりのマオの姿が。
「マオ!!」
「マオじゃん!げんきー?」
「相も変わらずやかましいぞ、ジュアン。アイザックも、その、…………。」
近くに寄って、言葉を待つ。
「…………連絡の一つもせず、すまない。」
「いいよ。会えてうれしい。」
抱き着きたい衝動をこらえるアイザックに、ハロが話しかける。
「君の家で待ってたんだけどね。マオが帰ってきたし、早く会いたいかなと思って。あと、子爵家の使いと思われる人間が村の入り口でうろついていた。アイザックに言われた荷物だけ持って出てきたよ。」
「よかった、数日遅れてたらダメだったね。」
「町の人たちにはもう別れを告げてあるんだろう?だから、イーヴォルに向かう道中で、全部話そう。マオのこともね。」
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