追放置き去り婚約破棄されたので拾われ溺愛狙います

つるぎ

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第一章

4.ところで王子が来たようです

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「……?」

 まだしばらく夢想に浸っていたかったが、嵐に隠れて屋敷に誰かが侵入するのを感知し、メイベルは部屋の入り口を見遣った。

 背後を警戒したが、ほかに気配はない。

 侵入者の気配は三つだった。

 一つは初めて読み取るのかまったく不明で、一つは既出だが気配の正体を暴けず、一つは見知ったもの。となれば、メイベルには心当たりがあった。

 忍び足でやってくるのは相手の悪癖だ。特技ともいう。
 気配は近くまで来ると、一つだけになってメイベルが居る部屋の前に佇まった。

「入ってもいいだろうか」

 メイベルはずぶ濡れの絨毯を一瞥し、その一瞬の間で魔法を出した。メイベル自身と、部屋に滲み込んだ雨水が浮き上がり、窓の外へと追い出される。

 と同時に窓が閉まった。

 ランプの火がともる。薄暗くも、部屋がわずかばかり明るくなった。

 そうして最低限、客人を迎え入れられるようにすると、メイベルは姿勢を改め目を伏せた。

「どうぞ」

 扉が開かれ、気配が中に入ってくる。

「……楽にしてくれ」

 気持ち沈んだ声だった。
 メイベルは顔を上げ、相手を見遣る。

「お久しゅうございます。王子殿下」

 廊下は明かるかった。光を背に、王子は立っている。

 メイベルも満月の光を背にしているので、お互い逆光で表情が見えづらいことだろう。部屋のランプは要らなかったかもしれない。

 彼はアヴァルランド王国、王位継承順位第二位に居た。やんごとなき御身分の御方である。

 年はメイベルの一つ上で十八才。ダークグリーンの黒髪に、輝く金色の瞳をしている。名を、オズワルド。オズワルド・アーサー・オーガスタスと言う。

 メイベルの、元婚約者である。

「ご帰還にはまだ早かったように思うのですが、もしや、わたくしのことがあったからでしょうか」
「……ああ」

 相手は不本意そうな声で答えた。たぶん、顔を顰めている。

「婚約が解消されたと聞いて、どういうことかと」

 そうだろう、とメイベルは内心で頷いた。

 婚約破棄の時、オズワルドは王都に居なかった。本人の立場がどうあれ、大神官なら理由さえあれば婚約を解消可能だ。

 メイベルは、婚約破棄された時のことを思い出して笑ってしまった。

「ふふ。理由はもちろん、お聞きになっているんでしょう?」
「信じられない話だったな。……だが、俺には反証できる材料がない」

 オズワルドのそれは、本心を窺えない淡々とした声音だった。メイベルは微笑する。

「王子は敏くていらっしゃいます」

 今度こそ、王子が顔を歪めたのが分かった。

「……今は二人だけだ」
「御冗談を。バーナードが控えていないはずがありません。もう一人のお方は? こちらは初めての気配です」

「召し上げたばかりの騎士だ。後で紹介する」

「いいえ、御遠慮申し上げます。わたくしは悪女と噂されておりますのに、どうして王子の護衛とお会いできましょう。わたくし、実家からも勘当された身ですので。このうらぶれた屋敷に一人でいては、寂しくて寂しくて、縋ってしまいましょう」

 メイベルはこれでもかと言うので、オズワルドは苦笑した。
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