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第一章 エトランゼ
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今度は全力だ。
ヨシツグの剣が、盾が、全身が太陽の輝きで眩く照らされる。
あれに触れればただでは済まない。剣の一振りもなく、エレオノーラの身体は灰にされてしまうことだろう。
一歩進むヨシツグの元に、銃弾が降り注ぐ。
先程吹き飛ばしたヨハンが、頭から瓶の中の薬品を被りながら、ショートバレルを構えて立っていた。
「ヨハン殿!」
「下がってください」
「で、できぬ! 妾はまだその男に言うことがある」
「今更何を……!」
「ヨシツグ、投降するのだ! そうすればそなたの命は保証し、その主張も聞き届けられよう。共に手を取りあい、お互いの……うわっ!」
ヨハンがエレオノーラの身体を引いて、強制的に後ろに下がらせる。
それから一拍遅れて、彼女が立っていた場所を光の剣が通過していった。
「俺はお前達には従わない。従ってたまるものか!」
「姫様。後はこちらに」
「しかしヨハン殿! 妾はあの男を、この世界を忌み嫌う彼に声を掛けなばならぬ。それをせねば、誰がその悲しみを、この世界に来てしまった痛みを取り除けるというのだ!」
ヨハンは答えない。
エレオノーラには出せないその回答は、もう既にヨハンの中にあったが、それを彼女の前で口に出すことは憚られた。
しかし、言わずとも伝わっただろう。エレオノーラはそれを察して口を噤む。
「……下がってください」
「……すまぬ」
ぽんと胸板に一度頭を寄せて、エレオノーラは後ろに下がる。
言いたいことも全て言い切っただろう。
ヨシツグに聞かせるべき言葉も、もう聞かせ終わった。
それでも彼は変わらない。エレオノーラの命を賭けた言葉を聞いてもその考え方を変えようとしないのなら、取れる手段はもう一つしかない。
「君じゃあ俺には勝てない。ギフトを失った君では」
「失ったわけじゃない。俺が持つ武器が、道具が、全てが形を変えた今の俺のギフトだ。他人に与えられるだけ、以前のものよりも気に入っている」
「強がりだな。あれだけの力を失って、後悔がないはずがない」
「後悔はしているさ」
ギフトを失ったことではない。
あの旅をやめなかったこと。
多くの犠牲を出してしまったこと。
生き方を変えてくれた、かけがえのない人を傷つけてしまったことを。
「ここにあるのはただの残骸だ。かつてはお前のように理想を語り、その為に邁進したこともある」
「だから、今の俺がやっていることが馬鹿げているとでも言うのか?」
「違う。長い旅の末にあらゆるものを失って、気が付いた。ギフトのあるなしじゃなくて、もっと単純なことに」
「なんだと?」
「向いていなかったんだよ。俺には」
大勢の期待を背負い、彼等の心を束ねて前に進む。
正道を、真っ直ぐな道を進み続けることは苦しかった。
だからあの時も。
幾らでも方法なんてあったのに。彼女とその仲間達は、あくまでも犠牲を出さずに正攻法で進むことをよしとした。
その結果が、これだ。
「武器を使ってお前とやりあって、お互いに判ることがあるかも知れないと思ったが、どうやらそれも無理そうだ。何よりも、お前は俺の主を傷つけた」
「あんな理想を語るだけの少女が主とは、最強のエトランゼも形無しだな」
「理想を語る、か。だがそれはいつか辿り付く道だ。俺はその手伝いをする。お前の妄想とは違う、確たる未来の」
「……言ったな!」
ショートバレルから放たれた弾丸が、ヨシツグの上方で破裂して、ふわふわと落ちてくる粒子を撒き散らす。
そこに次を装填して放つと、お互いに反応しあって巨大な爆炎が生み出された。
「ぐ、おおおぉぉぉぉぉおお!」
太陽の光に護られたヨシツグは、それでも倒れない。
一気にこちらとの距離を詰め、太陽の輝きを振るう。
懐から放り投げた六本の短剣が、それぞれ異なる軌道を描いて宙を舞う。
それらは一旦制止し、その切っ先をヨシツグに向けた。先程、盾で殴られた際に鎧に描いておいた印に向けて、一斉に動きだす。
「こ、これは……?」
「元から正攻法で勝つつもりはない。出し惜しみはなしだ。全部持って行け」
集団で狩りをし狙った獲物を絶対に仕留めると言われている、遥か北に住む狂狼の牙と血を使って作られた呪いの刃は、それぞれが独立して動き、印を描かれた相手を仕留めるために前後左右から襲い掛かる。
その姿は獲物を仕留めるための猟犬そのものだった。
六本の刃を斬り払い、何とかこちらに攻撃を向けようとするヨシツグだが、その合間にヨハンは絶妙なタイミングで銃弾を打ち込みその動きを鈍らせる。
「俺はエトランゼの国を創る! この世界に飛ばされた奴等が、訳も分からないまま翻弄されないための国を!」
一発、それは剣で斬り払われる。
「お前だって判ってるはずだ! 俺のやっていることは正しいと、エトランゼを本当の意味で救済するにはそれしかないと!」
二発目、盾による防御を貫けない。
「なんで理不尽に悲しまなければならない? どうして無残に奪われる命がなければならない? 俺達は……、俺達は普通に生きていただけなのに!」
三発目。
「だから俺は救済する。この世界に迷えるエトランゼ達を、そして彼等と共に、ここをもう一つの故郷にしてやるんだ!」
ヨシツグが斬り払った弾丸から、彼に向けて毒々しい煙が吹きあがる。
「……お前は姫の手を振り払った」
「当たり前だろうが……。どうしてこの国の、王族なんかに従えるんだ? 彼等に従うってことは、永遠にその下に付かされることだろう」
「いい加減に気付け。救済と支配は違う」
「そんなこと……!」
「お前は力が欲しいだけだ。甘い言葉の中に自分の欲望を隠して、それを果たしたいだけの馬鹿な奴だ」
「貴様ぁ!」
そこに含まれた神経性の毒は効果時間こそ短いが即効性は抜群で、相手の動きを確実に鈍らせる。
本命の一撃を避けきることができなかったヨシツグは、咄嗟に口を覆うこともできずにそれを吸い込んでしまう。
そこに、容赦なく猟犬の刃が襲い掛かる。
手を貫き、足を縫い止め、身体を抉り。
獲物の山分けをするかの如く、猟犬達は容赦なくその牙を突き立てた。
「く、そ……! 負けない、負けるか……。俺が負けたらエトランゼの未来はどうなる? 何のために、俺はあんな奴に屈したんだ? 俺は、俺は!」
「エトランゼを救うには、オルタリアを滅ぼすしかないなどと、そこに同じように苦難し生きている人間を踏み躙っての救済など、俺は認めない」
「俺達はずっと理不尽に晒されてたんだ! そのぐらいの権利があるだろう! ぬくぬくと蹲る者達に、その報いを受けさせないと……!」
「……そんな理屈が通るか……!」
これまでにないほどの輝きがヨシツグを覆う。
彼の姿はまるで太陽の化身。圧倒的な力を宿した巨大なエネルギーの塊にすらも見える。
六本の刃に身体を刺されながらも、ヨシツグは最後の力を振り絞り立ち上がった。
「俺は負けない。お前のような卑怯者に負けてたまるか。自分の理想も持たずに、他人の言葉に縋って生きている、お前に!」
「……そうだな。まったく、その通りだ」
最後の弾丸を装填する。
弾倉一つで一発限りの、今のところの最強の威力を持つ札を。
「もう一つの切り札だ。その愚かな理想と一緒に持って逝け!」
「エトランゼのために、ナナエのために!」
引き金を引くと膨大な反動と共にその銃口から弾丸が放たれる。ヨハンもどうにか倒れないようにとその場で両足に力を込める。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
光の盾とその弾丸はぶつかりあい、黒い稲妻を放ちながらその内部に侵入すべく、浸蝕を開始した。
光が砕け、弾丸がその内部へと入り込む。
勢いは殺せず、ヨシツグの鎧を貫通して、禍々しい雷光を纏った弾丸。昔の旅の途中で討伐した、竜の牙を用いたそれが身体の内部へと埋没する。
「ぐ、ああああああぁぁぁぁぁあぁぁあああああああぁあぁ!」
想像を絶する苦痛がヨシツグを襲っているだろう。人を殺すための毒性を持った牙は、より残酷な形に加工されることで、人を殺すには充分すぎるほどに凶悪な弾丸と化している。
御使いには通じないが、人には効果抜群。ヨシツグとの戦いを見越して持って来たその切り札は、見事に彼を討ち抜いた。
手に持った盾が、地面に落ちる。
鎧の装甲が剥がれて、耳障りな音と共に壊れていく。
立ったまま死んでしまったかのようにヨシツグの悲鳴が途絶えて、動きが停止する。
それから、どれぐらいの時間が経っただろうか。
「…れは……負けない」
彼は生きていた。
「……なんだと?」
最早、妄念だけで動く亡霊のように。
「信念を持たない、全てが虚像に過ぎないお前如きに!」
駆け出したその身体が目の前に迫る。
虚ろな目に、内部から破壊されてぼろぼろの身体。一撃でも入れられればそのまま倒れそうなほどに、生死の境に彼は立っている。
もう殆ど残されていない力で、両手に持った剣を高く振りかぶった。
「――すまない」
ヨシツグの剣を受けた掌には、小さな宝石が一つ。
それは彼の力を受けて砕けると、そこから光る蔦のようなものを伸ばしてその全身を絡め捕る。
ほぼ全身を拘束したそれは、そのまま容赦なく破裂した。
全身に骨が砕けるほどの衝撃を受けて、その身体はついに支えを失ったかのようにゆっくりと揺らぎ、地面へと吸い込まれていく。
「お前に語ってやれることは大してないが、一つだけ言わせてくれ」
誰かが抱いたその理想に、いいも悪いもない。
エレオノーラのやっていることも、いつかは悪しきものと断罪される時が来るのかも知れない。もし全てが失敗したら、それは遠い未来の話ではないだろう。
「ウァラゼルに降った時点で、お前の理想は折れた。歪んでしまったのだとしたら、それはきっと叶えてはならないものだ」
もう聞こえてはいないだろう。
少し遅れて、ヨシツグが地面に倒れ伏す音が、やけに大きく戦場に響き渡った。
ヨシツグの剣が、盾が、全身が太陽の輝きで眩く照らされる。
あれに触れればただでは済まない。剣の一振りもなく、エレオノーラの身体は灰にされてしまうことだろう。
一歩進むヨシツグの元に、銃弾が降り注ぐ。
先程吹き飛ばしたヨハンが、頭から瓶の中の薬品を被りながら、ショートバレルを構えて立っていた。
「ヨハン殿!」
「下がってください」
「で、できぬ! 妾はまだその男に言うことがある」
「今更何を……!」
「ヨシツグ、投降するのだ! そうすればそなたの命は保証し、その主張も聞き届けられよう。共に手を取りあい、お互いの……うわっ!」
ヨハンがエレオノーラの身体を引いて、強制的に後ろに下がらせる。
それから一拍遅れて、彼女が立っていた場所を光の剣が通過していった。
「俺はお前達には従わない。従ってたまるものか!」
「姫様。後はこちらに」
「しかしヨハン殿! 妾はあの男を、この世界を忌み嫌う彼に声を掛けなばならぬ。それをせねば、誰がその悲しみを、この世界に来てしまった痛みを取り除けるというのだ!」
ヨハンは答えない。
エレオノーラには出せないその回答は、もう既にヨハンの中にあったが、それを彼女の前で口に出すことは憚られた。
しかし、言わずとも伝わっただろう。エレオノーラはそれを察して口を噤む。
「……下がってください」
「……すまぬ」
ぽんと胸板に一度頭を寄せて、エレオノーラは後ろに下がる。
言いたいことも全て言い切っただろう。
ヨシツグに聞かせるべき言葉も、もう聞かせ終わった。
それでも彼は変わらない。エレオノーラの命を賭けた言葉を聞いてもその考え方を変えようとしないのなら、取れる手段はもう一つしかない。
「君じゃあ俺には勝てない。ギフトを失った君では」
「失ったわけじゃない。俺が持つ武器が、道具が、全てが形を変えた今の俺のギフトだ。他人に与えられるだけ、以前のものよりも気に入っている」
「強がりだな。あれだけの力を失って、後悔がないはずがない」
「後悔はしているさ」
ギフトを失ったことではない。
あの旅をやめなかったこと。
多くの犠牲を出してしまったこと。
生き方を変えてくれた、かけがえのない人を傷つけてしまったことを。
「ここにあるのはただの残骸だ。かつてはお前のように理想を語り、その為に邁進したこともある」
「だから、今の俺がやっていることが馬鹿げているとでも言うのか?」
「違う。長い旅の末にあらゆるものを失って、気が付いた。ギフトのあるなしじゃなくて、もっと単純なことに」
「なんだと?」
「向いていなかったんだよ。俺には」
大勢の期待を背負い、彼等の心を束ねて前に進む。
正道を、真っ直ぐな道を進み続けることは苦しかった。
だからあの時も。
幾らでも方法なんてあったのに。彼女とその仲間達は、あくまでも犠牲を出さずに正攻法で進むことをよしとした。
その結果が、これだ。
「武器を使ってお前とやりあって、お互いに判ることがあるかも知れないと思ったが、どうやらそれも無理そうだ。何よりも、お前は俺の主を傷つけた」
「あんな理想を語るだけの少女が主とは、最強のエトランゼも形無しだな」
「理想を語る、か。だがそれはいつか辿り付く道だ。俺はその手伝いをする。お前の妄想とは違う、確たる未来の」
「……言ったな!」
ショートバレルから放たれた弾丸が、ヨシツグの上方で破裂して、ふわふわと落ちてくる粒子を撒き散らす。
そこに次を装填して放つと、お互いに反応しあって巨大な爆炎が生み出された。
「ぐ、おおおぉぉぉぉぉおお!」
太陽の光に護られたヨシツグは、それでも倒れない。
一気にこちらとの距離を詰め、太陽の輝きを振るう。
懐から放り投げた六本の短剣が、それぞれ異なる軌道を描いて宙を舞う。
それらは一旦制止し、その切っ先をヨシツグに向けた。先程、盾で殴られた際に鎧に描いておいた印に向けて、一斉に動きだす。
「こ、これは……?」
「元から正攻法で勝つつもりはない。出し惜しみはなしだ。全部持って行け」
集団で狩りをし狙った獲物を絶対に仕留めると言われている、遥か北に住む狂狼の牙と血を使って作られた呪いの刃は、それぞれが独立して動き、印を描かれた相手を仕留めるために前後左右から襲い掛かる。
その姿は獲物を仕留めるための猟犬そのものだった。
六本の刃を斬り払い、何とかこちらに攻撃を向けようとするヨシツグだが、その合間にヨハンは絶妙なタイミングで銃弾を打ち込みその動きを鈍らせる。
「俺はエトランゼの国を創る! この世界に飛ばされた奴等が、訳も分からないまま翻弄されないための国を!」
一発、それは剣で斬り払われる。
「お前だって判ってるはずだ! 俺のやっていることは正しいと、エトランゼを本当の意味で救済するにはそれしかないと!」
二発目、盾による防御を貫けない。
「なんで理不尽に悲しまなければならない? どうして無残に奪われる命がなければならない? 俺達は……、俺達は普通に生きていただけなのに!」
三発目。
「だから俺は救済する。この世界に迷えるエトランゼ達を、そして彼等と共に、ここをもう一つの故郷にしてやるんだ!」
ヨシツグが斬り払った弾丸から、彼に向けて毒々しい煙が吹きあがる。
「……お前は姫の手を振り払った」
「当たり前だろうが……。どうしてこの国の、王族なんかに従えるんだ? 彼等に従うってことは、永遠にその下に付かされることだろう」
「いい加減に気付け。救済と支配は違う」
「そんなこと……!」
「お前は力が欲しいだけだ。甘い言葉の中に自分の欲望を隠して、それを果たしたいだけの馬鹿な奴だ」
「貴様ぁ!」
そこに含まれた神経性の毒は効果時間こそ短いが即効性は抜群で、相手の動きを確実に鈍らせる。
本命の一撃を避けきることができなかったヨシツグは、咄嗟に口を覆うこともできずにそれを吸い込んでしまう。
そこに、容赦なく猟犬の刃が襲い掛かる。
手を貫き、足を縫い止め、身体を抉り。
獲物の山分けをするかの如く、猟犬達は容赦なくその牙を突き立てた。
「く、そ……! 負けない、負けるか……。俺が負けたらエトランゼの未来はどうなる? 何のために、俺はあんな奴に屈したんだ? 俺は、俺は!」
「エトランゼを救うには、オルタリアを滅ぼすしかないなどと、そこに同じように苦難し生きている人間を踏み躙っての救済など、俺は認めない」
「俺達はずっと理不尽に晒されてたんだ! そのぐらいの権利があるだろう! ぬくぬくと蹲る者達に、その報いを受けさせないと……!」
「……そんな理屈が通るか……!」
これまでにないほどの輝きがヨシツグを覆う。
彼の姿はまるで太陽の化身。圧倒的な力を宿した巨大なエネルギーの塊にすらも見える。
六本の刃に身体を刺されながらも、ヨシツグは最後の力を振り絞り立ち上がった。
「俺は負けない。お前のような卑怯者に負けてたまるか。自分の理想も持たずに、他人の言葉に縋って生きている、お前に!」
「……そうだな。まったく、その通りだ」
最後の弾丸を装填する。
弾倉一つで一発限りの、今のところの最強の威力を持つ札を。
「もう一つの切り札だ。その愚かな理想と一緒に持って逝け!」
「エトランゼのために、ナナエのために!」
引き金を引くと膨大な反動と共にその銃口から弾丸が放たれる。ヨハンもどうにか倒れないようにとその場で両足に力を込める。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
光の盾とその弾丸はぶつかりあい、黒い稲妻を放ちながらその内部に侵入すべく、浸蝕を開始した。
光が砕け、弾丸がその内部へと入り込む。
勢いは殺せず、ヨシツグの鎧を貫通して、禍々しい雷光を纏った弾丸。昔の旅の途中で討伐した、竜の牙を用いたそれが身体の内部へと埋没する。
「ぐ、ああああああぁぁぁぁぁあぁぁあああああああぁあぁ!」
想像を絶する苦痛がヨシツグを襲っているだろう。人を殺すための毒性を持った牙は、より残酷な形に加工されることで、人を殺すには充分すぎるほどに凶悪な弾丸と化している。
御使いには通じないが、人には効果抜群。ヨシツグとの戦いを見越して持って来たその切り札は、見事に彼を討ち抜いた。
手に持った盾が、地面に落ちる。
鎧の装甲が剥がれて、耳障りな音と共に壊れていく。
立ったまま死んでしまったかのようにヨシツグの悲鳴が途絶えて、動きが停止する。
それから、どれぐらいの時間が経っただろうか。
「…れは……負けない」
彼は生きていた。
「……なんだと?」
最早、妄念だけで動く亡霊のように。
「信念を持たない、全てが虚像に過ぎないお前如きに!」
駆け出したその身体が目の前に迫る。
虚ろな目に、内部から破壊されてぼろぼろの身体。一撃でも入れられればそのまま倒れそうなほどに、生死の境に彼は立っている。
もう殆ど残されていない力で、両手に持った剣を高く振りかぶった。
「――すまない」
ヨシツグの剣を受けた掌には、小さな宝石が一つ。
それは彼の力を受けて砕けると、そこから光る蔦のようなものを伸ばしてその全身を絡め捕る。
ほぼ全身を拘束したそれは、そのまま容赦なく破裂した。
全身に骨が砕けるほどの衝撃を受けて、その身体はついに支えを失ったかのようにゆっくりと揺らぎ、地面へと吸い込まれていく。
「お前に語ってやれることは大してないが、一つだけ言わせてくれ」
誰かが抱いたその理想に、いいも悪いもない。
エレオノーラのやっていることも、いつかは悪しきものと断罪される時が来るのかも知れない。もし全てが失敗したら、それは遠い未来の話ではないだろう。
「ウァラゼルに降った時点で、お前の理想は折れた。歪んでしまったのだとしたら、それはきっと叶えてはならないものだ」
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