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第一章 エトランゼ
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無邪気な声が空から降り注ぐ。
眼下に転がる異形達の死骸は、とっくに百を越えている。
人間の力は凄まじい。最後の抵抗には目を見張るものがあった。
彼等はその統率と、武力で見事に数多くの異形達を切り倒し、彼女の元まで戦線を押し上げた。
そしてその先頭に立つのは少女が一人。
重すぎる期待を両肩に乗せて、カナタは目の前に浮かぶ自分よりももっと幼い少女を見上げた。
「うふふっ」
少女は笑う。
幾千もの死の中心で。
薄紫色の極光をその身に纏いながら。
「ようやく、ようやく会えたわ。ねぇ、ずっとあなたに会いたかったの! 判るでしょう? 判るわよね? 判らない? うーん、不思議。とっても不思議、思わず声を掛けてしまったけど、どうしてなのかしら?」
ウァラゼルの姿が目の前に現れて、その指先がカナタの額をつついた。
「こうして触れてみても、あなたは人間ね。御使いではないわ。ウァラゼルは不思議でならないの。どうして、単なる人間であるあなたが、セレスティアルを使えるの? あれは御使いだけに許された絶対なる執行権限、この世界を制御する鍵の内の一つなのに。あ、そう言えばあなた、名前はなんて言うのかしら? もなかとか、そんな感じだったと思うのだけれど」
「カナタだよ、カナタ!」
「そう。カナタね。覚えたわ。印象が薄かったけど、もう忘れないと思うの」
ウァラゼルの口が、三日月を描く。
「馬鹿野郎! 避けろ!」
「うえぇ?」
来る。
そう思ったときには既に、ヴェスターによってカナタの身体は遥か後方にまで投げ飛ばされていた。
間抜けにも地面を転がるカナタには一瞥もくれず、ヴェスターはウァラゼルの背後から伸びたセレスティアルをその魔剣で叩き落とし、彼女に斬撃を打ち込む。
伸ばした片手でそれを受け止めながら、ウァラゼルは不機嫌そうな顔をしていた。
「その剣、とっても嫌な気配がするわ。あなたは失礼な人、この間もそうだけど、そんなものを御使いに振るうなんて不敬にもほどがあるわ! まったく、ウァラゼルじゃなかったらすぐに殺していたわ!」
「はっ、生憎と神様に払う礼儀は持ってないもんでな!」
何度も何度も叩き込まれるヴェスターの斬撃を、ウァラゼルは極光を纏った腕で弾いていく。
「質の悪い、混ぜ物の金属に気持ち悪くなるぐらいの呪詛。あなた、それに殺された人間の魂がどうなるか判っているのかしら?」
「知らねぇよ、そんなの!」
「ああ、いや。いやいやいや! 汚い、汚らわしい、あなたは悪性ですらないわ、単なる獣よ、ウァラゼルが一番嫌いな獣ね!」
「うるせぇ、死ね!」
ヴェスターの剣がウァラゼルの両腕を跳ね上げる。
そのまま首筋に何の迷いもなく振りきられた魔剣は、小さな手ごたえを残して彼女の極光を切り裂くことはできない。
「死ぬのはあなた。あなたはお人形ですらないわ! ウァラゼルの嫌いな、獣よ! 汚いし、ヨハンを連れていってしまうし、本当に、どうしようもないわ!」
ウァラゼルの周囲からセレスティアルが伸びる。
最初はそれを剣で打ち払っていたヴェスターだが、その数はやがて十から二十に、二十から後は、数え切れないほどの数へと増えていく。
「うおおぉ!?」
一本が身体に突き刺さり、残るセレスティアルがその全身を討ち抜く。遠くに飛ばされたヴェスターの身体は、更なる追撃を受けてあっという間に見えなくなっていった。
「ヴェスターさん!」
「あんなのはいいの、いいのよ、カナタ! それよりもウァラゼルはあなたと遊びたい! ずっとずっと待っていたのだもの、ウァラゼルと遊んでも壊れない人形を!」
無数の薄紫の極光が、翼のように彼女の背から伸びる。
「セレスティアル、壁に!」
全方位に壁を張るような形でカナタが展開したセレスティアルがそれを遮断する。
「あはっ、凄い!」
左右から来る!
伸びてきたセレスティアルを同じく極光の刃で斬り払い、接近するべく前進する。
しかし、ウァラゼルの攻撃は全く留まるところを知らず、今度は上から、それが捌かれれば再び左右からとカナタを差し貫くために何度でも伸びてくる。
「こ、の……! 無尽蔵ってわけじゃないだろうけど」
「そうね、そうよ、そうなの! ずっとセレスティアルを使っているのはとっても疲れるわ! 遊び過ぎれば眠くなってしまうもの、でもね、でも!」
正面からレーザーとなって光が伸び、カナタは極光の盾でそれを防ぐ。
カナタを飲み込まんとする光の奔流を、全力で盾を押し付けることでどうにか相殺した。
安堵する暇もなく、今度は上空から弾丸のような大きさの極光が、絨毯爆撃の如く地面に降り注ぐ。
壁で防ぐには威力があり過ぎる。だからといって狭い盾でどうにかできるものではない。
全力で走り、時には転がって直撃を避けるも、数発はカナタの身体を掠め、鉄の塊をぶつけられるような苦痛に顔を顰めた。
「カナタと遊ぶだけの体力は残しているの! ううん、それだけじゃないわ。カナタの後はヨハンとも遊びたいもの! 遊びの続きをするの、それで、今度はウァラゼルの勝ちって言って、オイタのお仕置きをしなくちゃ!」
怖気が走るほどに無邪気で、残酷な笑みを彼女は浮かべる。
ウァラゼルにとっては人の命などその程度のもの。少し苛立ったから、人形に八つ当たりをするぐらいの感覚で彼女は人の命を奪う。
恐ろしいが、同時に怒りも沸き上がる。
そんなことはさせてなるものかと、カナタはその感情で自らを奮い立たせる。
「でも今はカナタと遊んであげる! とっても楽しいもの!」
「ボクは……全っ然楽しくないけどね!」
「そうなの? 残念。でももうちょっとすれば楽しくなるんじゃないかな? ほら、少しずつだけどセレスティアルを上手に使えるようになって来てるでしょ?」
ウァラゼルの攻撃を避けるために盾に。かと思えば今度は二刀流の剣に一瞬変化させ、広範囲を覆う拡散するレーザーには壁にして対処する。
彼女の言葉の通り、戦いながらカナタはセレスティアルの使い方が上達していった。ヴェスターと戦っていた時よりも遥かに早く。
まるで、お互いのセレスティアル同士が共鳴し、もっと力を引きださせようとしているかのように。
「……今なら!」
目には目を、遠距離には遠距離を。
意識を集中し、掌に極光を集める。
そしてそれを光線状して撃ち出す姿を想像し、気合いと共に手を前に突きだした。
「はああぁぁぁぁ!」
「……なにしてるの?」
何も起こらなかった。
ウァラゼルも余りに意味のない動きに呆気に取られたのか、目を丸くしている。
掌に極光は集まっているが、それがそこから伸びる気配は全くない。むしろ最初の頃のように掌サイズの塊になって、ぽとりと地面に落ちてから霧散した。
「い、今のなし!」
「変なの! でも面白かったからいいわ!」
これ見よがしに拡散するレーザーを放ち、カナタを攻撃しながら周囲の兵達が近付けないように、戦いの領域を作りだすウァラゼル。
「……ちょっと格好いいからやってみたかったのに」
小声で、誰にも聞こえないように呟きながら壁を張ってそれを防ぐ。
細いレーザーがまるでカッターのように地面を、周囲の異形諸共に切り裂いていく。
「カナタ、もっと遊びましょう! 逃げてばかりじゃつまらないわ!」
「だったらもうちょっと弾幕を弱めてよ! ボクは近付かないと攻撃できないのにズルい!」
「そんなの未熟な、弱いカナタが悪いんじゃない」
「いや、それはそうだけど。ボクはまだ初心者だもん!」
「あはっ、やっぱりカナタって面白い!」
ウァラゼルはカナタを苛立たせるためか、いたぶるように遠距離からのレーザー攻撃に切り替えた。
一発一発は細く防ぐのは容易いが、その弾幕の厚さから何処に動いても避けることはできない。勿論、セレスティアルを解いて受ければ一発でその身体を貫くだけの威力はある。
「このっ……! 羨ましくないし……! じゃなくて、今チャンスかも」
壁を展開したまま、一歩を踏み込む。
そのままじりじりと距離を詰めるが、それを許すウァラゼルではない。
「駄目よ。カナタはそこでウァラゼルに嬲られるのがお似合い!」
セレスティアルの柱が正面から、カナタを突き刺すために伸びてくる。
壁を解き、極光の形を変化させる。
防ぐための盾ではなく、剣へ。
「逸らした……!」
受け止めるのではなく、弾くことで軌道を逸らす。幾らかの反動はあったが、それでも防御するよりは隙を晒さず、すぐに次の動作へと移行することに成功した。
小さなセレスティアルを短剣状にして投擲する。
カナタの未熟な技術でも、どうにか真っ直ぐに飛んでいったそれは、ウァラゼルが自らの周囲に張る障壁に突き刺さり、干渉していく。
「とっても素敵! でも、でもそれは駄目よカナタ!」
「たあああぁぁぁぁぁぁ!」
左右から襲いくるセレスティアルの刃を半ば無意識で斬り払う。例え二方向からでも、ヴェスターの斬撃よりも遥かに遅い。
「これで……!」
まず、一太刀目がその身体に纏う極光へと干渉して、風に吹かれた煙のように吹き散らす。
「ウァラゼルのセレスティアルを……引き裂いた?」
驚愕に歪むウァラゼルへと、もう一撃を叩き込む。
振り抜いた右手の剣を消して、今度は左手に。
身体を今とは逆の方向に回転させるように、横に薙ぎ払う。
その光の刃は、ウァラゼルが咄嗟に回避行動を取ったことで浅い当たりとなったが、確実に何かを斬った手応えが残った。
「あはっ」
頬から血を流しながら、悪性が笑う。
果たして傷を受けたのなど、何年ぶりのことだろうかと。
「もう一撃……!」
「遊びましょう、カナタ。これは遊びなのよ、彼も誤解していたわ。人間というのは愚かなものなのよね。少しでも力を得れば、勘違いしてしまうの。ウァラゼル達がしているのは、遊びなのよ」
これまでの彼女よりも低い声。
そこに込められた怒りの感情に晒されるだけで、カナタは怯え、竦み上がってしまいそうなほどに恐怖した。
「オイタは駄目よ、カナタ」
「なっ……!」
ウァラゼルが回転する。
その背中から生えた一本の極光が、大地を薙ぎ払うほどの長さとなって、カナタの身体を横殴りにする。
辛うじて展開したセレスティアルの盾は一撃で半分が叩き割られ、そこに更なる追撃の極光が数十本単位で殺到する。
身体を射抜かれ、地面に叩きつけられ、そこから降り注がれる。
泣き叫びたいほどの痛みが続き、次第にそれすらも判らなくなってくる。
無様に、哀れに地面転がってようやく身体の動きが止まる頃には、カナタの全身は血塗れになってそこにあった。
「ウァラゼルはずっと言っているわ。遊びましょうってね。だから、オイタをしては駄目なのよ、カナタ?」
ふわりと、ウァラゼルの身体が目の前に着地する。
眼下に転がる異形達の死骸は、とっくに百を越えている。
人間の力は凄まじい。最後の抵抗には目を見張るものがあった。
彼等はその統率と、武力で見事に数多くの異形達を切り倒し、彼女の元まで戦線を押し上げた。
そしてその先頭に立つのは少女が一人。
重すぎる期待を両肩に乗せて、カナタは目の前に浮かぶ自分よりももっと幼い少女を見上げた。
「うふふっ」
少女は笑う。
幾千もの死の中心で。
薄紫色の極光をその身に纏いながら。
「ようやく、ようやく会えたわ。ねぇ、ずっとあなたに会いたかったの! 判るでしょう? 判るわよね? 判らない? うーん、不思議。とっても不思議、思わず声を掛けてしまったけど、どうしてなのかしら?」
ウァラゼルの姿が目の前に現れて、その指先がカナタの額をつついた。
「こうして触れてみても、あなたは人間ね。御使いではないわ。ウァラゼルは不思議でならないの。どうして、単なる人間であるあなたが、セレスティアルを使えるの? あれは御使いだけに許された絶対なる執行権限、この世界を制御する鍵の内の一つなのに。あ、そう言えばあなた、名前はなんて言うのかしら? もなかとか、そんな感じだったと思うのだけれど」
「カナタだよ、カナタ!」
「そう。カナタね。覚えたわ。印象が薄かったけど、もう忘れないと思うの」
ウァラゼルの口が、三日月を描く。
「馬鹿野郎! 避けろ!」
「うえぇ?」
来る。
そう思ったときには既に、ヴェスターによってカナタの身体は遥か後方にまで投げ飛ばされていた。
間抜けにも地面を転がるカナタには一瞥もくれず、ヴェスターはウァラゼルの背後から伸びたセレスティアルをその魔剣で叩き落とし、彼女に斬撃を打ち込む。
伸ばした片手でそれを受け止めながら、ウァラゼルは不機嫌そうな顔をしていた。
「その剣、とっても嫌な気配がするわ。あなたは失礼な人、この間もそうだけど、そんなものを御使いに振るうなんて不敬にもほどがあるわ! まったく、ウァラゼルじゃなかったらすぐに殺していたわ!」
「はっ、生憎と神様に払う礼儀は持ってないもんでな!」
何度も何度も叩き込まれるヴェスターの斬撃を、ウァラゼルは極光を纏った腕で弾いていく。
「質の悪い、混ぜ物の金属に気持ち悪くなるぐらいの呪詛。あなた、それに殺された人間の魂がどうなるか判っているのかしら?」
「知らねぇよ、そんなの!」
「ああ、いや。いやいやいや! 汚い、汚らわしい、あなたは悪性ですらないわ、単なる獣よ、ウァラゼルが一番嫌いな獣ね!」
「うるせぇ、死ね!」
ヴェスターの剣がウァラゼルの両腕を跳ね上げる。
そのまま首筋に何の迷いもなく振りきられた魔剣は、小さな手ごたえを残して彼女の極光を切り裂くことはできない。
「死ぬのはあなた。あなたはお人形ですらないわ! ウァラゼルの嫌いな、獣よ! 汚いし、ヨハンを連れていってしまうし、本当に、どうしようもないわ!」
ウァラゼルの周囲からセレスティアルが伸びる。
最初はそれを剣で打ち払っていたヴェスターだが、その数はやがて十から二十に、二十から後は、数え切れないほどの数へと増えていく。
「うおおぉ!?」
一本が身体に突き刺さり、残るセレスティアルがその全身を討ち抜く。遠くに飛ばされたヴェスターの身体は、更なる追撃を受けてあっという間に見えなくなっていった。
「ヴェスターさん!」
「あんなのはいいの、いいのよ、カナタ! それよりもウァラゼルはあなたと遊びたい! ずっとずっと待っていたのだもの、ウァラゼルと遊んでも壊れない人形を!」
無数の薄紫の極光が、翼のように彼女の背から伸びる。
「セレスティアル、壁に!」
全方位に壁を張るような形でカナタが展開したセレスティアルがそれを遮断する。
「あはっ、凄い!」
左右から来る!
伸びてきたセレスティアルを同じく極光の刃で斬り払い、接近するべく前進する。
しかし、ウァラゼルの攻撃は全く留まるところを知らず、今度は上から、それが捌かれれば再び左右からとカナタを差し貫くために何度でも伸びてくる。
「こ、の……! 無尽蔵ってわけじゃないだろうけど」
「そうね、そうよ、そうなの! ずっとセレスティアルを使っているのはとっても疲れるわ! 遊び過ぎれば眠くなってしまうもの、でもね、でも!」
正面からレーザーとなって光が伸び、カナタは極光の盾でそれを防ぐ。
カナタを飲み込まんとする光の奔流を、全力で盾を押し付けることでどうにか相殺した。
安堵する暇もなく、今度は上空から弾丸のような大きさの極光が、絨毯爆撃の如く地面に降り注ぐ。
壁で防ぐには威力があり過ぎる。だからといって狭い盾でどうにかできるものではない。
全力で走り、時には転がって直撃を避けるも、数発はカナタの身体を掠め、鉄の塊をぶつけられるような苦痛に顔を顰めた。
「カナタと遊ぶだけの体力は残しているの! ううん、それだけじゃないわ。カナタの後はヨハンとも遊びたいもの! 遊びの続きをするの、それで、今度はウァラゼルの勝ちって言って、オイタのお仕置きをしなくちゃ!」
怖気が走るほどに無邪気で、残酷な笑みを彼女は浮かべる。
ウァラゼルにとっては人の命などその程度のもの。少し苛立ったから、人形に八つ当たりをするぐらいの感覚で彼女は人の命を奪う。
恐ろしいが、同時に怒りも沸き上がる。
そんなことはさせてなるものかと、カナタはその感情で自らを奮い立たせる。
「でも今はカナタと遊んであげる! とっても楽しいもの!」
「ボクは……全っ然楽しくないけどね!」
「そうなの? 残念。でももうちょっとすれば楽しくなるんじゃないかな? ほら、少しずつだけどセレスティアルを上手に使えるようになって来てるでしょ?」
ウァラゼルの攻撃を避けるために盾に。かと思えば今度は二刀流の剣に一瞬変化させ、広範囲を覆う拡散するレーザーには壁にして対処する。
彼女の言葉の通り、戦いながらカナタはセレスティアルの使い方が上達していった。ヴェスターと戦っていた時よりも遥かに早く。
まるで、お互いのセレスティアル同士が共鳴し、もっと力を引きださせようとしているかのように。
「……今なら!」
目には目を、遠距離には遠距離を。
意識を集中し、掌に極光を集める。
そしてそれを光線状して撃ち出す姿を想像し、気合いと共に手を前に突きだした。
「はああぁぁぁぁ!」
「……なにしてるの?」
何も起こらなかった。
ウァラゼルも余りに意味のない動きに呆気に取られたのか、目を丸くしている。
掌に極光は集まっているが、それがそこから伸びる気配は全くない。むしろ最初の頃のように掌サイズの塊になって、ぽとりと地面に落ちてから霧散した。
「い、今のなし!」
「変なの! でも面白かったからいいわ!」
これ見よがしに拡散するレーザーを放ち、カナタを攻撃しながら周囲の兵達が近付けないように、戦いの領域を作りだすウァラゼル。
「……ちょっと格好いいからやってみたかったのに」
小声で、誰にも聞こえないように呟きながら壁を張ってそれを防ぐ。
細いレーザーがまるでカッターのように地面を、周囲の異形諸共に切り裂いていく。
「カナタ、もっと遊びましょう! 逃げてばかりじゃつまらないわ!」
「だったらもうちょっと弾幕を弱めてよ! ボクは近付かないと攻撃できないのにズルい!」
「そんなの未熟な、弱いカナタが悪いんじゃない」
「いや、それはそうだけど。ボクはまだ初心者だもん!」
「あはっ、やっぱりカナタって面白い!」
ウァラゼルはカナタを苛立たせるためか、いたぶるように遠距離からのレーザー攻撃に切り替えた。
一発一発は細く防ぐのは容易いが、その弾幕の厚さから何処に動いても避けることはできない。勿論、セレスティアルを解いて受ければ一発でその身体を貫くだけの威力はある。
「このっ……! 羨ましくないし……! じゃなくて、今チャンスかも」
壁を展開したまま、一歩を踏み込む。
そのままじりじりと距離を詰めるが、それを許すウァラゼルではない。
「駄目よ。カナタはそこでウァラゼルに嬲られるのがお似合い!」
セレスティアルの柱が正面から、カナタを突き刺すために伸びてくる。
壁を解き、極光の形を変化させる。
防ぐための盾ではなく、剣へ。
「逸らした……!」
受け止めるのではなく、弾くことで軌道を逸らす。幾らかの反動はあったが、それでも防御するよりは隙を晒さず、すぐに次の動作へと移行することに成功した。
小さなセレスティアルを短剣状にして投擲する。
カナタの未熟な技術でも、どうにか真っ直ぐに飛んでいったそれは、ウァラゼルが自らの周囲に張る障壁に突き刺さり、干渉していく。
「とっても素敵! でも、でもそれは駄目よカナタ!」
「たあああぁぁぁぁぁぁ!」
左右から襲いくるセレスティアルの刃を半ば無意識で斬り払う。例え二方向からでも、ヴェスターの斬撃よりも遥かに遅い。
「これで……!」
まず、一太刀目がその身体に纏う極光へと干渉して、風に吹かれた煙のように吹き散らす。
「ウァラゼルのセレスティアルを……引き裂いた?」
驚愕に歪むウァラゼルへと、もう一撃を叩き込む。
振り抜いた右手の剣を消して、今度は左手に。
身体を今とは逆の方向に回転させるように、横に薙ぎ払う。
その光の刃は、ウァラゼルが咄嗟に回避行動を取ったことで浅い当たりとなったが、確実に何かを斬った手応えが残った。
「あはっ」
頬から血を流しながら、悪性が笑う。
果たして傷を受けたのなど、何年ぶりのことだろうかと。
「もう一撃……!」
「遊びましょう、カナタ。これは遊びなのよ、彼も誤解していたわ。人間というのは愚かなものなのよね。少しでも力を得れば、勘違いしてしまうの。ウァラゼル達がしているのは、遊びなのよ」
これまでの彼女よりも低い声。
そこに込められた怒りの感情に晒されるだけで、カナタは怯え、竦み上がってしまいそうなほどに恐怖した。
「オイタは駄目よ、カナタ」
「なっ……!」
ウァラゼルが回転する。
その背中から生えた一本の極光が、大地を薙ぎ払うほどの長さとなって、カナタの身体を横殴りにする。
辛うじて展開したセレスティアルの盾は一撃で半分が叩き割られ、そこに更なる追撃の極光が数十本単位で殺到する。
身体を射抜かれ、地面に叩きつけられ、そこから降り注がれる。
泣き叫びたいほどの痛みが続き、次第にそれすらも判らなくなってくる。
無様に、哀れに地面転がってようやく身体の動きが止まる頃には、カナタの全身は血塗れになってそこにあった。
「ウァラゼルはずっと言っているわ。遊びましょうってね。だから、オイタをしては駄目なのよ、カナタ?」
ふわりと、ウァラゼルの身体が目の前に着地する。
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