彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

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第二章 魔法使いの追憶

2‐32

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 夜の闇の中。

 風に身を預けながらヨハン達は学院を閉じる門の、その上に立っていた。

 現在修理中となっているその個所は以前アツキが壊したもので、補修用の足場が掛けてあるために昇るのは随分と楽だった。


「随分とがばがば警備でござるなぁ。もっとこう、侵入者探知センサーとかあるものだと思っていたでござる」

「そういった装置が作れないこともないが、この壁全体に行き渡らせるには予算が掛かり過ぎるんだろうな。もっと重要な個所に重点的に仕掛けてあるだろう」

「ふむ。なるほどなるほど。それでは小生達は囮、陽動をやるということでよろしいかな? 小生こう見えてもスニーキングミッションの心得はゲームで学んでいたでござるよ」

「段ボールを被るやつか? あんな風にスマートにできるのが一番だが、生憎と俺はその道のプロじゃない」

「おほぅ! ヨハン殿もプレイしたことがあったでござるか! 小生、これは後でシリーズについて語り合う必要が出てきたでござるな!」

「おうおう、お二人さんよ! 何の話してるか知らねえが、こんなところでゆっくりしてる場合じゃねえんじゃねえのか? 早くしないとあのチビッ子が危険なんだろ?」


 そう勢いよく質問してくるのはグレンだった。その眼下、壁の下には彼の部下である超銀河伝説紅蓮無敵団の面々が控えている。


「契約の方もよろしく頼むぜぇ、大将! これが済んだら俺達超銀河伝説紅蓮無敵団をイシュトナル自治区のお抱えにしてくれるんだろぉ?」

「成功したらな」

「……勝手にそんなことして、エレオノーラ様怒らないかなぁ?」


 そう疑問を口にしたのは、腰かけて学院内を見渡しているカナタだった。


「人手不足なのは事実だからな。事後承諾で何とかしてもらう」

「……ゼクスさんの件といい、ボクにはどうにもヨハンさんが自分で踏むための地雷を巻いてるようにしか思えないんだけど……」


 誰に言うまでもなく呟いて、ぴょいとカナタが壁の上に立つ。


「ま、ヨハンさんが乙女心を判らないのはいつものことか。ボクがしっかりサポートしてあげないと」


 何処か嬉しそうにカナタは言った。


「時間だな」


 時計塔の長針が頂点に来る。


「打ち合わせ通りに頼む」

「おうよ! アツキ、俺達が行く場所、判ってるな?」

「勿論でござる! 女子寮の洗濯物置き場でござるな?」

「違げえよ!」

「……うわー」


 カナタがアツキと距離を取った。


「中にあるもんをぶんどりゃ金になる。しかも連中は絶対にそれを外に出したくない。しかもこれから大将達が潜入する研究棟からは遠い場所。……倉庫よ」


 世間一般ではそれを強盗と呼ぶのだが、今はそれに対して咎めることもない。


「そっちは任せた。俺達はもう行く」

「それじゃあ、グレンさん、アツキさん。また後で」


 ヨハンとカナタが並んで飛び降りる。

 それを見送ってから、グレンは下にいる仲間達に向けて縄梯子を投げおろした。


「あー!」

「な、なんでい!」

「今思い出した! カナタちゃんの師匠、全然クールビューティじゃないじゃないでござるか! 騙されたでござる!」

「そいつは酷でえな! こりゃ何としても生きて帰えって文句言わねえと! なんだっけか、あれだよあれ、慰謝料を請求だな!」

「そうでござるな! ……グレン殿、本当によかったでござるか?」


 これまでのテンションの上がりようから打って変わって、アツキの声が沈み込む。


「魔法学院に喧嘩を売るって相当やばいでござるよ? 下手したら死んでしまうかも知れないでござる」

「はっ、かもな! だがよ、だったらお前は許せるのかよ? 俺達の家が、国に居場所を奪われたエトランゼ達が暮らすあの場所が襲われたんだぜ?」

「……それは、そうかも知れませぬが。それはあくまでも小生達エトランゼだけの話。グレン殿には口を噤む選択肢もあったはず」


 アツキが元居た世界ならば、大抵の場合はそうする。

 布団に潜って明日の朝日を待てば、大抵のことは何とかなる世界だから。

 だが、この世界は違う。動かなければ状況は刻一刻と悪くなる。だからアツキは動いた。超銀河伝説紅蓮無敵団に所属して、少しでも自分なりに状況をよくしようと足掻いた。


「おいおい、ふざけんなよアツキ! 俺を誰だと思ってんだ? 悪を挫き弱きを助ける、超銀河伝説紅蓮無敵団の団長だぜ?」


 彼は、エトランゼであるアツキが行き倒れているところを助けた。

 彼は、エトランゼではないゼクスが行き倒れているところを助けた。

 結局のところ、どっちでもいいのだ、グレンにとっては。

 そんな人間だから、粗暴な人柄と奇抜なモヒカンにも関わらず彼を慕う人は少なくない。


「よし! 野郎ども……突っ込むぜ! アツキ、こういう時はなんて言うんだっけ? 俺、この戦いが終わったら結婚……」

「ストーップ! それは言っちゃ駄目でござる!」


 ロープを下ろして、次々と壁から降りていく。

 目指す場所は倉庫。できる限り人的被害を出さず、適当に暴れたら撤退してもいいと言われている。

 ついでに金目のものを奪おうという算段もあるが。

 暗闇の中に、超銀河伝説紅蓮無敵団のメンバー合計二十名はその身を躍らせていく。
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