88 / 178
第二章 魔法使いの追憶
2‐32
しおりを挟む
夜の闇の中。
風に身を預けながらヨハン達は学院を閉じる門の、その上に立っていた。
現在修理中となっているその個所は以前アツキが壊したもので、補修用の足場が掛けてあるために昇るのは随分と楽だった。
「随分とがばがば警備でござるなぁ。もっとこう、侵入者探知センサーとかあるものだと思っていたでござる」
「そういった装置が作れないこともないが、この壁全体に行き渡らせるには予算が掛かり過ぎるんだろうな。もっと重要な個所に重点的に仕掛けてあるだろう」
「ふむ。なるほどなるほど。それでは小生達は囮、陽動をやるということでよろしいかな? 小生こう見えてもスニーキングミッションの心得はゲームで学んでいたでござるよ」
「段ボールを被るやつか? あんな風にスマートにできるのが一番だが、生憎と俺はその道のプロじゃない」
「おほぅ! ヨハン殿もプレイしたことがあったでござるか! 小生、これは後でシリーズについて語り合う必要が出てきたでござるな!」
「おうおう、お二人さんよ! 何の話してるか知らねえが、こんなところでゆっくりしてる場合じゃねえんじゃねえのか? 早くしないとあのチビッ子が危険なんだろ?」
そう勢いよく質問してくるのはグレンだった。その眼下、壁の下には彼の部下である超銀河伝説紅蓮無敵団の面々が控えている。
「契約の方もよろしく頼むぜぇ、大将! これが済んだら俺達超銀河伝説紅蓮無敵団をイシュトナル自治区のお抱えにしてくれるんだろぉ?」
「成功したらな」
「……勝手にそんなことして、エレオノーラ様怒らないかなぁ?」
そう疑問を口にしたのは、腰かけて学院内を見渡しているカナタだった。
「人手不足なのは事実だからな。事後承諾で何とかしてもらう」
「……ゼクスさんの件といい、ボクにはどうにもヨハンさんが自分で踏むための地雷を巻いてるようにしか思えないんだけど……」
誰に言うまでもなく呟いて、ぴょいとカナタが壁の上に立つ。
「ま、ヨハンさんが乙女心を判らないのはいつものことか。ボクがしっかりサポートしてあげないと」
何処か嬉しそうにカナタは言った。
「時間だな」
時計塔の長針が頂点に来る。
「打ち合わせ通りに頼む」
「おうよ! アツキ、俺達が行く場所、判ってるな?」
「勿論でござる! 女子寮の洗濯物置き場でござるな?」
「違げえよ!」
「……うわー」
カナタがアツキと距離を取った。
「中にあるもんをぶんどりゃ金になる。しかも連中は絶対にそれを外に出したくない。しかもこれから大将達が潜入する研究棟からは遠い場所。……倉庫よ」
世間一般ではそれを強盗と呼ぶのだが、今はそれに対して咎めることもない。
「そっちは任せた。俺達はもう行く」
「それじゃあ、グレンさん、アツキさん。また後で」
ヨハンとカナタが並んで飛び降りる。
それを見送ってから、グレンは下にいる仲間達に向けて縄梯子を投げおろした。
「あー!」
「な、なんでい!」
「今思い出した! カナタちゃんの師匠、全然クールビューティじゃないじゃないでござるか! 騙されたでござる!」
「そいつは酷でえな! こりゃ何としても生きて帰えって文句言わねえと! なんだっけか、あれだよあれ、慰謝料を請求だな!」
「そうでござるな! ……グレン殿、本当によかったでござるか?」
これまでのテンションの上がりようから打って変わって、アツキの声が沈み込む。
「魔法学院に喧嘩を売るって相当やばいでござるよ? 下手したら死んでしまうかも知れないでござる」
「はっ、かもな! だがよ、だったらお前は許せるのかよ? 俺達の家が、国に居場所を奪われたエトランゼ達が暮らすあの場所が襲われたんだぜ?」
「……それは、そうかも知れませぬが。それはあくまでも小生達エトランゼだけの話。グレン殿には口を噤む選択肢もあったはず」
アツキが元居た世界ならば、大抵の場合はそうする。
布団に潜って明日の朝日を待てば、大抵のことは何とかなる世界だから。
だが、この世界は違う。動かなければ状況は刻一刻と悪くなる。だからアツキは動いた。超銀河伝説紅蓮無敵団に所属して、少しでも自分なりに状況をよくしようと足掻いた。
「おいおい、ふざけんなよアツキ! 俺を誰だと思ってんだ? 悪を挫き弱きを助ける、超銀河伝説紅蓮無敵団の団長だぜ?」
彼は、エトランゼであるアツキが行き倒れているところを助けた。
彼は、エトランゼではないゼクスが行き倒れているところを助けた。
結局のところ、どっちでもいいのだ、グレンにとっては。
そんな人間だから、粗暴な人柄と奇抜なモヒカンにも関わらず彼を慕う人は少なくない。
「よし! 野郎ども……突っ込むぜ! アツキ、こういう時はなんて言うんだっけ? 俺、この戦いが終わったら結婚……」
「ストーップ! それは言っちゃ駄目でござる!」
ロープを下ろして、次々と壁から降りていく。
目指す場所は倉庫。できる限り人的被害を出さず、適当に暴れたら撤退してもいいと言われている。
ついでに金目のものを奪おうという算段もあるが。
暗闇の中に、超銀河伝説紅蓮無敵団のメンバー合計二十名はその身を躍らせていく。
風に身を預けながらヨハン達は学院を閉じる門の、その上に立っていた。
現在修理中となっているその個所は以前アツキが壊したもので、補修用の足場が掛けてあるために昇るのは随分と楽だった。
「随分とがばがば警備でござるなぁ。もっとこう、侵入者探知センサーとかあるものだと思っていたでござる」
「そういった装置が作れないこともないが、この壁全体に行き渡らせるには予算が掛かり過ぎるんだろうな。もっと重要な個所に重点的に仕掛けてあるだろう」
「ふむ。なるほどなるほど。それでは小生達は囮、陽動をやるということでよろしいかな? 小生こう見えてもスニーキングミッションの心得はゲームで学んでいたでござるよ」
「段ボールを被るやつか? あんな風にスマートにできるのが一番だが、生憎と俺はその道のプロじゃない」
「おほぅ! ヨハン殿もプレイしたことがあったでござるか! 小生、これは後でシリーズについて語り合う必要が出てきたでござるな!」
「おうおう、お二人さんよ! 何の話してるか知らねえが、こんなところでゆっくりしてる場合じゃねえんじゃねえのか? 早くしないとあのチビッ子が危険なんだろ?」
そう勢いよく質問してくるのはグレンだった。その眼下、壁の下には彼の部下である超銀河伝説紅蓮無敵団の面々が控えている。
「契約の方もよろしく頼むぜぇ、大将! これが済んだら俺達超銀河伝説紅蓮無敵団をイシュトナル自治区のお抱えにしてくれるんだろぉ?」
「成功したらな」
「……勝手にそんなことして、エレオノーラ様怒らないかなぁ?」
そう疑問を口にしたのは、腰かけて学院内を見渡しているカナタだった。
「人手不足なのは事実だからな。事後承諾で何とかしてもらう」
「……ゼクスさんの件といい、ボクにはどうにもヨハンさんが自分で踏むための地雷を巻いてるようにしか思えないんだけど……」
誰に言うまでもなく呟いて、ぴょいとカナタが壁の上に立つ。
「ま、ヨハンさんが乙女心を判らないのはいつものことか。ボクがしっかりサポートしてあげないと」
何処か嬉しそうにカナタは言った。
「時間だな」
時計塔の長針が頂点に来る。
「打ち合わせ通りに頼む」
「おうよ! アツキ、俺達が行く場所、判ってるな?」
「勿論でござる! 女子寮の洗濯物置き場でござるな?」
「違げえよ!」
「……うわー」
カナタがアツキと距離を取った。
「中にあるもんをぶんどりゃ金になる。しかも連中は絶対にそれを外に出したくない。しかもこれから大将達が潜入する研究棟からは遠い場所。……倉庫よ」
世間一般ではそれを強盗と呼ぶのだが、今はそれに対して咎めることもない。
「そっちは任せた。俺達はもう行く」
「それじゃあ、グレンさん、アツキさん。また後で」
ヨハンとカナタが並んで飛び降りる。
それを見送ってから、グレンは下にいる仲間達に向けて縄梯子を投げおろした。
「あー!」
「な、なんでい!」
「今思い出した! カナタちゃんの師匠、全然クールビューティじゃないじゃないでござるか! 騙されたでござる!」
「そいつは酷でえな! こりゃ何としても生きて帰えって文句言わねえと! なんだっけか、あれだよあれ、慰謝料を請求だな!」
「そうでござるな! ……グレン殿、本当によかったでござるか?」
これまでのテンションの上がりようから打って変わって、アツキの声が沈み込む。
「魔法学院に喧嘩を売るって相当やばいでござるよ? 下手したら死んでしまうかも知れないでござる」
「はっ、かもな! だがよ、だったらお前は許せるのかよ? 俺達の家が、国に居場所を奪われたエトランゼ達が暮らすあの場所が襲われたんだぜ?」
「……それは、そうかも知れませぬが。それはあくまでも小生達エトランゼだけの話。グレン殿には口を噤む選択肢もあったはず」
アツキが元居た世界ならば、大抵の場合はそうする。
布団に潜って明日の朝日を待てば、大抵のことは何とかなる世界だから。
だが、この世界は違う。動かなければ状況は刻一刻と悪くなる。だからアツキは動いた。超銀河伝説紅蓮無敵団に所属して、少しでも自分なりに状況をよくしようと足掻いた。
「おいおい、ふざけんなよアツキ! 俺を誰だと思ってんだ? 悪を挫き弱きを助ける、超銀河伝説紅蓮無敵団の団長だぜ?」
彼は、エトランゼであるアツキが行き倒れているところを助けた。
彼は、エトランゼではないゼクスが行き倒れているところを助けた。
結局のところ、どっちでもいいのだ、グレンにとっては。
そんな人間だから、粗暴な人柄と奇抜なモヒカンにも関わらず彼を慕う人は少なくない。
「よし! 野郎ども……突っ込むぜ! アツキ、こういう時はなんて言うんだっけ? 俺、この戦いが終わったら結婚……」
「ストーップ! それは言っちゃ駄目でござる!」
ロープを下ろして、次々と壁から降りていく。
目指す場所は倉庫。できる限り人的被害を出さず、適当に暴れたら撤退してもいいと言われている。
ついでに金目のものを奪おうという算段もあるが。
暗闇の中に、超銀河伝説紅蓮無敵団のメンバー合計二十名はその身を躍らせていく。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる