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第二章 魔法使いの追憶
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「アデル。怪我はないか?」
瓦礫を押し退けどうにか地上に這いだしながら、隣でローブの裾を掴んでいるアーデルハイトを気に掛ける。
ヨハンの少し後ろに続いて地上に出てきた彼女にも、幸いにして怪我はなさそうだった。
「問題ないわ。今の結界、凄いわね」
「カナタの極光を再現しようとしたんだがな。実際は別物だし、魔力を最大にまで充電しても一日一回しか発動できない。緊急回避用だ」
ローブに仕込まれた術式を、興味深げにアーデルハイトが指でなぞる。
既にこちらに来てからこれに助けられること三度目だが、今はその原理や改良点を詳しく説明している時間はない。
「二人とも、無事だったでござるか!」
その太った身体に似合わぬ俊敏な動きで近付いてきたのは、アツキだった。見れば腕と足が、魔物の部位へと変化している。
「カナタを見なかったか?」
「小生は見てないでござる。と、言うことはこの近辺に生き埋めでござるか?」
「……恐らくはな」
「ならばカナタちゃんを助けるのは小生に任せるでござる! お礼はほっぺにちゅうでよろしくと伝えておいてくれればいいでござるよ! ……で、そちらにはあれの相手をお願いするでござるよ!」
言い残して、アツキはカナタを探すためにヨハン達の元を離れていく。
遠目に見えるのは、獣の下半身に子供の上半身が接続されたキメラ。それは以前、エトランゼ街で戦ったキメラ達の統率者と同じ個体だろう。
その咆哮は恐らく地下に保存されていた全てのキメラを呼び覚ましたらしく、今も次々と瓦礫を破壊し、付き従うようにキメラの数は増えていく。
そしてそれらを従えた怪物、シノは学院内には目もくれず、その壁を破壊して何故か外側へと向かっていた。
「街に向かってる!」
「その前に足を止める!」
ショートバレルを構えて、ありったけの弾丸を打ち込む。
しかし、その前に殺到してきたキメラの群れが、まるでシノを護るように盾になり、反転してこちらに向かって襲い掛かってくる。
驚くべきはそれだけではなかった。
シノは腕を伸ばし、銃撃によって倒れたキメラを掴むと、その身体に生えた口の一つに持って行き、咀嚼して飲み込んでいく。
飲み込まれたのは人型の、大きな鉤爪を持ったキメラ。
シノの肉体、野太い腕の先がぼこぼこと隆起し、そこにその鉤爪が生えていく。
「……そんな馬鹿な……! キメラにあんな能力があるというのか……!」
幾ら魔法を使って縫合しているとしても、キメラはあくまでの生物の範疇にある。果たしてどんな生き物を組み合わせれば、喰らった生き物を即座に吸収して己の力にできるというのか。
「考察は後。囲まれてる」
アーデルハイトに袖を引かれて、ヨハンは状況を改めて把握した。
シノは既に壁を破壊し、夜の闇の中にその身体を躍らせている。視界の先で人の悲鳴と、破壊音が次々と響き渡る。
ヨハン達の目の前には足止めをするかの如く立ち向かってくるキメラの群れ。数は十に満たないが、一気に殲滅できるだけの火力はない。
アーデルハイトを庇いながら、牽制代わりに銃弾を打ち込みつつ、後退。
ショートバレルでは威力が足りない。強力な弾丸を持ってこなかったことを後悔しながら、どうにか彼女だけは生かそうとキメラ達と距離を取る。
こちらを警戒しながらも、大きな抵抗がないことに気が付いて、キメラ達はゆっくりとではあるが強気に距離を詰めてくる。
一歩、更にもう一歩と下がったところで、アーデルハイトがヨハンの身体を小さく押し退けた。
「アデル?」
「さっさと片付けて、街への被害を抑えないといけない」
「……だが、生憎ともう弾切れが近い。一応まだ幾つか武器はあるが」
「だったらそれは大物に取っておいて。わたしが何とかする」
「お前は魔力が……」
「足手纏いになるつもりはないの。……そう、絶対にならない。そう誓ったんだから」
決意を込めた言葉と共に彼女が取り出したのは、見覚えのある小瓶だった。
「それは……!」
以前、カナタに渡した魔法道具の鞄の中に入っていた、魔法力を回復させる薬。
効果のほどは判っている。
確かにそれを飲めば魔法力は回復するが。
「副作用でしょう? 判ってるわ」
「この状況で使うのは危険すぎる。体調を悪くするどころじゃない。下手をしたら動けなくなって、キメラに狙い撃ちされるぞ」
「……大丈夫。上から全部片付けて見せるから」
これ以上の問答をするつもりはないと言わんばかりに、アーデルハイトは小瓶の蓋を開けて、その中にある青い液体を一気に飲み干す。
「……もうちょっと、味にも気を遣って欲しいかも」
苦い顔をしながら、彼女は箒を取り出す。
手を振れずとも彼女に操られた箒は、横になってアーデルハイトの足元辺りに浮かんでいた。
そこに足を掛けて、両足で棒の部分をしっかりと踏みしめ、そのまま浮かび上がった。
「っと。練習していたけれど、なかなか難しい」
そう言いながらもバランスを取り、少しずつ高度を上げていく。
「全力で爆撃するわ。多分、力を使い果たしてしまうと思うけど……」
ふいと、アーデルハイトの視線は街へと向けられる。
既にそこにはシノの行進に吸い寄せられるように何匹ものキメラが集まり、逃げ回る人々で混沌の坩堝と化している。
「そうしたら受け止めて。……カナタにしたみたいに」
そう言って、空へと舞い上がる。
アーデルハイトがいなくなったことによってヨハンに狙いを定めた目の前にキメラ達は、天空から降り注いだ稲妻によって貫かれ、全てが灰同然の姿となって息絶えた。
そしてそのまま、箒に乗った少女は加速していく。
瓦礫を押し退けどうにか地上に這いだしながら、隣でローブの裾を掴んでいるアーデルハイトを気に掛ける。
ヨハンの少し後ろに続いて地上に出てきた彼女にも、幸いにして怪我はなさそうだった。
「問題ないわ。今の結界、凄いわね」
「カナタの極光を再現しようとしたんだがな。実際は別物だし、魔力を最大にまで充電しても一日一回しか発動できない。緊急回避用だ」
ローブに仕込まれた術式を、興味深げにアーデルハイトが指でなぞる。
既にこちらに来てからこれに助けられること三度目だが、今はその原理や改良点を詳しく説明している時間はない。
「二人とも、無事だったでござるか!」
その太った身体に似合わぬ俊敏な動きで近付いてきたのは、アツキだった。見れば腕と足が、魔物の部位へと変化している。
「カナタを見なかったか?」
「小生は見てないでござる。と、言うことはこの近辺に生き埋めでござるか?」
「……恐らくはな」
「ならばカナタちゃんを助けるのは小生に任せるでござる! お礼はほっぺにちゅうでよろしくと伝えておいてくれればいいでござるよ! ……で、そちらにはあれの相手をお願いするでござるよ!」
言い残して、アツキはカナタを探すためにヨハン達の元を離れていく。
遠目に見えるのは、獣の下半身に子供の上半身が接続されたキメラ。それは以前、エトランゼ街で戦ったキメラ達の統率者と同じ個体だろう。
その咆哮は恐らく地下に保存されていた全てのキメラを呼び覚ましたらしく、今も次々と瓦礫を破壊し、付き従うようにキメラの数は増えていく。
そしてそれらを従えた怪物、シノは学院内には目もくれず、その壁を破壊して何故か外側へと向かっていた。
「街に向かってる!」
「その前に足を止める!」
ショートバレルを構えて、ありったけの弾丸を打ち込む。
しかし、その前に殺到してきたキメラの群れが、まるでシノを護るように盾になり、反転してこちらに向かって襲い掛かってくる。
驚くべきはそれだけではなかった。
シノは腕を伸ばし、銃撃によって倒れたキメラを掴むと、その身体に生えた口の一つに持って行き、咀嚼して飲み込んでいく。
飲み込まれたのは人型の、大きな鉤爪を持ったキメラ。
シノの肉体、野太い腕の先がぼこぼこと隆起し、そこにその鉤爪が生えていく。
「……そんな馬鹿な……! キメラにあんな能力があるというのか……!」
幾ら魔法を使って縫合しているとしても、キメラはあくまでの生物の範疇にある。果たしてどんな生き物を組み合わせれば、喰らった生き物を即座に吸収して己の力にできるというのか。
「考察は後。囲まれてる」
アーデルハイトに袖を引かれて、ヨハンは状況を改めて把握した。
シノは既に壁を破壊し、夜の闇の中にその身体を躍らせている。視界の先で人の悲鳴と、破壊音が次々と響き渡る。
ヨハン達の目の前には足止めをするかの如く立ち向かってくるキメラの群れ。数は十に満たないが、一気に殲滅できるだけの火力はない。
アーデルハイトを庇いながら、牽制代わりに銃弾を打ち込みつつ、後退。
ショートバレルでは威力が足りない。強力な弾丸を持ってこなかったことを後悔しながら、どうにか彼女だけは生かそうとキメラ達と距離を取る。
こちらを警戒しながらも、大きな抵抗がないことに気が付いて、キメラ達はゆっくりとではあるが強気に距離を詰めてくる。
一歩、更にもう一歩と下がったところで、アーデルハイトがヨハンの身体を小さく押し退けた。
「アデル?」
「さっさと片付けて、街への被害を抑えないといけない」
「……だが、生憎ともう弾切れが近い。一応まだ幾つか武器はあるが」
「だったらそれは大物に取っておいて。わたしが何とかする」
「お前は魔力が……」
「足手纏いになるつもりはないの。……そう、絶対にならない。そう誓ったんだから」
決意を込めた言葉と共に彼女が取り出したのは、見覚えのある小瓶だった。
「それは……!」
以前、カナタに渡した魔法道具の鞄の中に入っていた、魔法力を回復させる薬。
効果のほどは判っている。
確かにそれを飲めば魔法力は回復するが。
「副作用でしょう? 判ってるわ」
「この状況で使うのは危険すぎる。体調を悪くするどころじゃない。下手をしたら動けなくなって、キメラに狙い撃ちされるぞ」
「……大丈夫。上から全部片付けて見せるから」
これ以上の問答をするつもりはないと言わんばかりに、アーデルハイトは小瓶の蓋を開けて、その中にある青い液体を一気に飲み干す。
「……もうちょっと、味にも気を遣って欲しいかも」
苦い顔をしながら、彼女は箒を取り出す。
手を振れずとも彼女に操られた箒は、横になってアーデルハイトの足元辺りに浮かんでいた。
そこに足を掛けて、両足で棒の部分をしっかりと踏みしめ、そのまま浮かび上がった。
「っと。練習していたけれど、なかなか難しい」
そう言いながらもバランスを取り、少しずつ高度を上げていく。
「全力で爆撃するわ。多分、力を使い果たしてしまうと思うけど……」
ふいと、アーデルハイトの視線は街へと向けられる。
既にそこにはシノの行進に吸い寄せられるように何匹ものキメラが集まり、逃げ回る人々で混沌の坩堝と化している。
「そうしたら受け止めて。……カナタにしたみたいに」
そう言って、空へと舞い上がる。
アーデルハイトがいなくなったことによってヨハンに狙いを定めた目の前にキメラ達は、天空から降り注いだ稲妻によって貫かれ、全てが灰同然の姿となって息絶えた。
そしてそのまま、箒に乗った少女は加速していく。
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