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第四章 空と大地の交差
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階段を駆け上がり外に飛び出してきたカナタとベアトリスを出迎えたのは、傷ついた海賊達とそれを庇うように敵と対峙するジャック達。
それに彼等と相対する、一匹の魔物の姿だった。
その姿の異様さにカナタは一瞬、息を呑んだ。
一言で言えば、足の生えた巨大な魚だった。
白を基調として所々に青いラインが入った流線型の身体に、各所から生えた刃のように鋭いヒレ。しかし、普通の魚と違う点は、その顔の先端には本来あるべき目と口がない。
陶磁器のような肌に、のっぺりとしたその姿は魚を模して作られたロボットのようにも見える。
その魚は無理矢理取りつけられたような足で持って地面を動き回り、鋸のようにギザギザした刃を持ったヒレで、周囲の物を斬りつけていた。
「なんだか妙な奴が出てきたね……!」
「船長! こいつ、剣も矢も効きやしねえ!」
その証明に海賊の一人がボウガンで矢を放つが、その魚が展開する光の壁に突き刺さり、その身体には届かない。
反撃とばかりにその輝きは光線となって海賊達を薙ぎ払い、彼等は慌てて林の奥にまで撤退していく。
「あれ……!」
カナタは一目見て理解した。
その輝きに覚えがある。忘れるわけもない。
カナタもその担い手であり、そしてその光を操る相手と戦ったこともあるのだから。
「セレスティアルだ……。でも!」
カナタがベアトリスの横から飛び出していく。
海賊達を追撃しようとする魚を、横合いからセレスティアルの剣で斬りつけた。
「カナタ!」
「光の壁はボクが何とかします!」
カナタの極光は同じくその魚の極光に阻まれたものの、出力ではこちらが勝っていたようで、光の壁をじわじわと浸蝕し切り裂く。
かつて御使いと戦った時がそうであったように、切り裂かれたセレスティアルは消滅しほんの僅かな時間の隙を作る。
「今なら!」
「任せときな!」
カナタに向けて迫りくる刃のヒレを、ベアトリスが力任せのカトラスで弾く。
相手の身体がよろめいた隙に、その頭部に銃口を突き付けて容赦なく発砲した。
硝煙が上がり魚の身体がぐらつくが、それでもまだ動きを止めることはない。
地面に踏ん張るように持ちなおし、カナタとベアトリスを吹き飛ばすように身を奮わせる。
そして復活したセレスティアルを身体に纏うと、大地を蹴り上げて跳躍。そのまま二人に向けて躍りかかった。
「相殺できれば!」
両手で剣を握る形を作り、そこにセレスティアルの大剣を生み出す。
ラニーニャとの戦いで編み出したその新しい力で、上から迫りくるその魚に対して斬りつけた。
「重い……けど!」
何かが砕ける音がして、魚の纏うセレスティアルが破壊される。
そしてカナタの大剣はその魚の頭部に食い込んでいく。
血は流れず、固い金属を断つような感触と共に刃がその白い身体を切り裂いていく。
しかし、魚とてまだ力尽きてはいないようで、体重を掛けてカナタを地面に押し倒し、その手から離れたセレスティアルの剣が消滅した。
それから頭部を勢いよく振り上げて、カナタに止めを刺すべく一気に振り下ろす。
「この化け物……! 舐めんじゃないよ!」
そこに、横合いからベアトリスの蹴りが炸裂した。
年老いたその身体の何処にそんな力が隠されているのだろうか、ベアトリスの蹴りは優に人間の二倍はある大きさの魚を地面へと転がす。
「行けるかい!」
カナタは立ち上がり、剣を作る。
ベアトリスも同時にカトラスを両手で握る。
頭部と腹、その両方に二人は同時に剣を突き立てた。
絶叫の声一つなく、その魚は身体を痙攣させ、地面をのたうつ。
やがて力尽きたのか、少しずつ動きは鈍くなり、ついには完全に動かなくなった。
「……やったのかい?」
「……多分、ですけど」
カナタが言うのとほぼ同時に、魚の全身に罅が入る。
ぼろぼろとその身体は崩れ、やがては砂になり、最初からそこには何もなかったかのように消滅してしまった。
「船長! ご無事ですか!?」
「なぁにがご無事ですかだ! お前等は遠くから見てただけの癖に。まったく情けないね!」
ばつが悪そうに駆け寄ってきた海賊達の、ちょうど先頭を歩いていたジャックの頭を容赦なくしばくベアトリス。
「痛てぇ! だって仕方ねえじゃないかよ。俺達じゃ攻撃しても全く通じないんだから」
「そこはカナタがいてよかったよな。船長、この子やっぱりいい海賊になりますよ。あたいが保証しますって」
女性の海賊がそんな調子のいいことを言って、カナタの肩に腕を回す。
「……ああ。だろうね」
「ほらー、カナタもあたい等と一緒に世界中を回ってみたいだろ? 海賊はいいよー、良い男と出会ってもすぐ別れなきゃならないのが欠点だけどさ」
「無駄話ばっかりしてないで船に戻るよ! またあの化け物が出てこないとも限らないんだ!」
ベアトリスのその言葉を受けて、海賊達はすぐさま撤収の準備を整える。
宝は一つも見つからなかったが、遺跡を発見し、そこで見たこともない怪物と戦ったという土産話を得た海賊達は、さして気落ちした様子もなかった。
彼等が楽しそうに魚との立ち回りを振り返りながら歩いていくその最後尾で、カナタは一人考え事をしながら歩いていた。
どうしてこんな気の良い人達が、海賊なんかをやっているのだろうか。
もしも冒険者として一緒に戦えるのならば、きっと楽しい日々が待っているはずなのに。
それに彼等と相対する、一匹の魔物の姿だった。
その姿の異様さにカナタは一瞬、息を呑んだ。
一言で言えば、足の生えた巨大な魚だった。
白を基調として所々に青いラインが入った流線型の身体に、各所から生えた刃のように鋭いヒレ。しかし、普通の魚と違う点は、その顔の先端には本来あるべき目と口がない。
陶磁器のような肌に、のっぺりとしたその姿は魚を模して作られたロボットのようにも見える。
その魚は無理矢理取りつけられたような足で持って地面を動き回り、鋸のようにギザギザした刃を持ったヒレで、周囲の物を斬りつけていた。
「なんだか妙な奴が出てきたね……!」
「船長! こいつ、剣も矢も効きやしねえ!」
その証明に海賊の一人がボウガンで矢を放つが、その魚が展開する光の壁に突き刺さり、その身体には届かない。
反撃とばかりにその輝きは光線となって海賊達を薙ぎ払い、彼等は慌てて林の奥にまで撤退していく。
「あれ……!」
カナタは一目見て理解した。
その輝きに覚えがある。忘れるわけもない。
カナタもその担い手であり、そしてその光を操る相手と戦ったこともあるのだから。
「セレスティアルだ……。でも!」
カナタがベアトリスの横から飛び出していく。
海賊達を追撃しようとする魚を、横合いからセレスティアルの剣で斬りつけた。
「カナタ!」
「光の壁はボクが何とかします!」
カナタの極光は同じくその魚の極光に阻まれたものの、出力ではこちらが勝っていたようで、光の壁をじわじわと浸蝕し切り裂く。
かつて御使いと戦った時がそうであったように、切り裂かれたセレスティアルは消滅しほんの僅かな時間の隙を作る。
「今なら!」
「任せときな!」
カナタに向けて迫りくる刃のヒレを、ベアトリスが力任せのカトラスで弾く。
相手の身体がよろめいた隙に、その頭部に銃口を突き付けて容赦なく発砲した。
硝煙が上がり魚の身体がぐらつくが、それでもまだ動きを止めることはない。
地面に踏ん張るように持ちなおし、カナタとベアトリスを吹き飛ばすように身を奮わせる。
そして復活したセレスティアルを身体に纏うと、大地を蹴り上げて跳躍。そのまま二人に向けて躍りかかった。
「相殺できれば!」
両手で剣を握る形を作り、そこにセレスティアルの大剣を生み出す。
ラニーニャとの戦いで編み出したその新しい力で、上から迫りくるその魚に対して斬りつけた。
「重い……けど!」
何かが砕ける音がして、魚の纏うセレスティアルが破壊される。
そしてカナタの大剣はその魚の頭部に食い込んでいく。
血は流れず、固い金属を断つような感触と共に刃がその白い身体を切り裂いていく。
しかし、魚とてまだ力尽きてはいないようで、体重を掛けてカナタを地面に押し倒し、その手から離れたセレスティアルの剣が消滅した。
それから頭部を勢いよく振り上げて、カナタに止めを刺すべく一気に振り下ろす。
「この化け物……! 舐めんじゃないよ!」
そこに、横合いからベアトリスの蹴りが炸裂した。
年老いたその身体の何処にそんな力が隠されているのだろうか、ベアトリスの蹴りは優に人間の二倍はある大きさの魚を地面へと転がす。
「行けるかい!」
カナタは立ち上がり、剣を作る。
ベアトリスも同時にカトラスを両手で握る。
頭部と腹、その両方に二人は同時に剣を突き立てた。
絶叫の声一つなく、その魚は身体を痙攣させ、地面をのたうつ。
やがて力尽きたのか、少しずつ動きは鈍くなり、ついには完全に動かなくなった。
「……やったのかい?」
「……多分、ですけど」
カナタが言うのとほぼ同時に、魚の全身に罅が入る。
ぼろぼろとその身体は崩れ、やがては砂になり、最初からそこには何もなかったかのように消滅してしまった。
「船長! ご無事ですか!?」
「なぁにがご無事ですかだ! お前等は遠くから見てただけの癖に。まったく情けないね!」
ばつが悪そうに駆け寄ってきた海賊達の、ちょうど先頭を歩いていたジャックの頭を容赦なくしばくベアトリス。
「痛てぇ! だって仕方ねえじゃないかよ。俺達じゃ攻撃しても全く通じないんだから」
「そこはカナタがいてよかったよな。船長、この子やっぱりいい海賊になりますよ。あたいが保証しますって」
女性の海賊がそんな調子のいいことを言って、カナタの肩に腕を回す。
「……ああ。だろうね」
「ほらー、カナタもあたい等と一緒に世界中を回ってみたいだろ? 海賊はいいよー、良い男と出会ってもすぐ別れなきゃならないのが欠点だけどさ」
「無駄話ばっかりしてないで船に戻るよ! またあの化け物が出てこないとも限らないんだ!」
ベアトリスのその言葉を受けて、海賊達はすぐさま撤収の準備を整える。
宝は一つも見つからなかったが、遺跡を発見し、そこで見たこともない怪物と戦ったという土産話を得た海賊達は、さして気落ちした様子もなかった。
彼等が楽しそうに魚との立ち回りを振り返りながら歩いていくその最後尾で、カナタは一人考え事をしながら歩いていた。
どうしてこんな気の良い人達が、海賊なんかをやっているのだろうか。
もしも冒険者として一緒に戦えるのならば、きっと楽しい日々が待っているはずなのに。
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