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藤村桐子 前編
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朝、病室の窓に差し込む陽の光で藤村桐子は目を覚ます。
意識が回復してすぐに警察の事情聴取が入り、犯人の特徴やら様子に、何故あのアパートに行ったのか根掘り葉掘り聞かれてぐったりであった。
医者からまだ病み上がりだから無理させないようにと言われて刑事たちは一日だけで切り上げたが、それでも午後一時から夕食の配膳される六時まで五時間近くの聴取に終わったあとは疲労感で食事を取るのも面倒なほど睡魔に襲われた。
アパートに行ったのは特に理由はないのだが、まるっきりないというわけでもなかった。
あの男がニュースで見た連続殺人犯ではないかとおおよその推測はついていた。
だから自分からSNSで釣り糸を垂らしたのだ。
「自殺を手伝ってくれる方募集中」と。
そこにあの男が釣られたというわけだ。
人間をバラバラにするのが趣味の人物ともしかしたら嗜好が合うかもしれない。
そんな浅い考えからだった。
だが、切り刻む行為と血を見る趣味は違うものだった。
結局私は自分が生きている感覚を得たかったから血を見て安心していたんだろうな。
桐子はそんな事を考えていた。
桐子は身体がまだ思うように動かせなかった。
胸の傷はそれほど深くない。
肺や心臓も無事だし、外傷もそれだけで他に特に怪我もない。
ただ、離脱した幽体が切られてしまったためか、自分の心と身体が一致しない感覚に襲われていた。
「自分の身体が自分のものじゃないみたい」
桐子は爪切りで自分の人差し指を切ってみるが、痛みとともに流れ出る血を見てももう何とも思わない。
何の感情もない。
「私の中のもう一人の人格は消えていなくなったみたいね」
担当医の話では、しばらくはリハビリで入院という事だ。
退院して通院では手間だし面倒でしょうというリハビリ担当からの話もあり、桐子もしばらく一人になりたいのもあってそうする事にした。
桐子の部屋は個室で広い部屋を一人で使える。
凄惨な事件の被害者という病院の配慮と実家の資産でそうなった。
桐子の実家である藤村家は屋敷を構えるかなり大きな家だ。
明治維新で活躍した維新志士だったという祖先の稼いだ遺産がそこそこあり、父親は地元の議員でもあった。
「一ヶ月くらい入院しても構わないでしょう」
桐子がそういうと両親はあっさり許可してくれた。
両親はあまりこの娘とは関わりたくないようだった。
桐子には二つ上の兄がいる。
藤村家を継ぐのは兄だし、おそらくは父の後を継いで議員になるだろう。
もう一人、一番上に姉がいたのだが、事情があって今は藤村の家から出ている。
結婚したわけではない。
仕事のために家を出ていったのだ。
一番桐子を可愛がってくれた姉がいなくなって、その喪失感も彼女が病む原因となっていた。
自分は藤村家にいなくても問題ない存在。
そう思っていた。
「そう言えばあの女の子。不思議な力を持っていたわね」
ふと桐子は聖菜の事が頭に浮かんだ。
「もしかしたら私は彼女に救われたのかも。余計な事をしてくれたものね」
そう言いながらもあのまま自分の「心の闇」の部分が暴走していたらどうなっていたか。
おそらく歯止めが効かなくなり制御不能なまま血を見る事に執着してしまったと思う。
もう少し時間が経てば素直に彼女に感謝出来るだろう。
もっとも彼女がお礼の言葉なんて求めているとは思えないけど。
意識が回復してこの数日間、桐子には今まで見えなかったものが見えるようになっていた。
人魂?白い光?
病院内にいくつもの白い光が行き来しているのが見えていた。
「私、あの子に斬られてからおかしくなっちゃったのかな。。今まで見えなかったものが見えるようになった。気のせいかも知れないけど」
そんある日、桐子は今までとは違う病院が異様な何かに包まれているような雰囲気を感じていた。
⭐︎⭐︎⭐︎
「この病院、なんか異様ね」
聖菜は偶然にも桐子が入院している病院の下にいた。
いつもの見回りを兼ねた散歩の途中で異様な雰囲気のこの病院にたどり着いたのだ。
「病院の中で何かが起こっている」
病院内の一室に老人が寝ているベッドに近寄る影。
点滴と酸素注入の処置がなされているが、意識の回復は見込めそうもない患者であった。
影は老人に忍び寄ると、酸素注入器を外した。
そして点滴の針を腕から外し、その場を立ち去った。
翌日、遺体となって発見される患者。
この病院では連日このような事件が発生していたが、病院側が原因究明のために情報を統制して、この件はまだ明るみには出ていなかった。
「ねえ、聞いた?二〇八号室の患者さん、昨夜亡くなったらしいよ」
いつもリハビリ室で一緒になる四十代の女性がそんな話をしてきた。
この女性は事故で骨折して入院で、筋肉が落ちないようにリハビリしているという事だ。
話好きらしく、入院生活が退屈な事もあって会うたびに気軽に話しかけてくる。
「この病院、ちょくちょく亡くなる人が出てるのよね。何か医療ミスでもあるんじゃないかと不安なんだけどさ。私は担当医も看護師も別に何もないし良い人なんだけど、全体ではどうなんだろうね」
「私も特に問題ないように思いますが」
桐子はそう答えたが、この数日病院内で感じる異様な空気と何か関連があるように思えた。
「まあ、亡くなったのはもう助からないと言われていた患者だったから単に自然死で考えすぎかもしれないけどね」
その夜、桐子は寝付けなくてふと目を覚ますと、病室内を漂う白い光が見えた。
「またこれ?」
桐子はうんざりしかけたが、その光は何かを訴えているようであった。
「何?何か私に伝えたいの?」
桐子がそう問いかけると白い光はまるで案内か誘導でもするかのように部屋から連れ出す。
「ついて来いって事ね」
意識が回復してすぐに警察の事情聴取が入り、犯人の特徴やら様子に、何故あのアパートに行ったのか根掘り葉掘り聞かれてぐったりであった。
医者からまだ病み上がりだから無理させないようにと言われて刑事たちは一日だけで切り上げたが、それでも午後一時から夕食の配膳される六時まで五時間近くの聴取に終わったあとは疲労感で食事を取るのも面倒なほど睡魔に襲われた。
アパートに行ったのは特に理由はないのだが、まるっきりないというわけでもなかった。
あの男がニュースで見た連続殺人犯ではないかとおおよその推測はついていた。
だから自分からSNSで釣り糸を垂らしたのだ。
「自殺を手伝ってくれる方募集中」と。
そこにあの男が釣られたというわけだ。
人間をバラバラにするのが趣味の人物ともしかしたら嗜好が合うかもしれない。
そんな浅い考えからだった。
だが、切り刻む行為と血を見る趣味は違うものだった。
結局私は自分が生きている感覚を得たかったから血を見て安心していたんだろうな。
桐子はそんな事を考えていた。
桐子は身体がまだ思うように動かせなかった。
胸の傷はそれほど深くない。
肺や心臓も無事だし、外傷もそれだけで他に特に怪我もない。
ただ、離脱した幽体が切られてしまったためか、自分の心と身体が一致しない感覚に襲われていた。
「自分の身体が自分のものじゃないみたい」
桐子は爪切りで自分の人差し指を切ってみるが、痛みとともに流れ出る血を見てももう何とも思わない。
何の感情もない。
「私の中のもう一人の人格は消えていなくなったみたいね」
担当医の話では、しばらくはリハビリで入院という事だ。
退院して通院では手間だし面倒でしょうというリハビリ担当からの話もあり、桐子もしばらく一人になりたいのもあってそうする事にした。
桐子の部屋は個室で広い部屋を一人で使える。
凄惨な事件の被害者という病院の配慮と実家の資産でそうなった。
桐子の実家である藤村家は屋敷を構えるかなり大きな家だ。
明治維新で活躍した維新志士だったという祖先の稼いだ遺産がそこそこあり、父親は地元の議員でもあった。
「一ヶ月くらい入院しても構わないでしょう」
桐子がそういうと両親はあっさり許可してくれた。
両親はあまりこの娘とは関わりたくないようだった。
桐子には二つ上の兄がいる。
藤村家を継ぐのは兄だし、おそらくは父の後を継いで議員になるだろう。
もう一人、一番上に姉がいたのだが、事情があって今は藤村の家から出ている。
結婚したわけではない。
仕事のために家を出ていったのだ。
一番桐子を可愛がってくれた姉がいなくなって、その喪失感も彼女が病む原因となっていた。
自分は藤村家にいなくても問題ない存在。
そう思っていた。
「そう言えばあの女の子。不思議な力を持っていたわね」
ふと桐子は聖菜の事が頭に浮かんだ。
「もしかしたら私は彼女に救われたのかも。余計な事をしてくれたものね」
そう言いながらもあのまま自分の「心の闇」の部分が暴走していたらどうなっていたか。
おそらく歯止めが効かなくなり制御不能なまま血を見る事に執着してしまったと思う。
もう少し時間が経てば素直に彼女に感謝出来るだろう。
もっとも彼女がお礼の言葉なんて求めているとは思えないけど。
意識が回復してこの数日間、桐子には今まで見えなかったものが見えるようになっていた。
人魂?白い光?
病院内にいくつもの白い光が行き来しているのが見えていた。
「私、あの子に斬られてからおかしくなっちゃったのかな。。今まで見えなかったものが見えるようになった。気のせいかも知れないけど」
そんある日、桐子は今までとは違う病院が異様な何かに包まれているような雰囲気を感じていた。
⭐︎⭐︎⭐︎
「この病院、なんか異様ね」
聖菜は偶然にも桐子が入院している病院の下にいた。
いつもの見回りを兼ねた散歩の途中で異様な雰囲気のこの病院にたどり着いたのだ。
「病院の中で何かが起こっている」
病院内の一室に老人が寝ているベッドに近寄る影。
点滴と酸素注入の処置がなされているが、意識の回復は見込めそうもない患者であった。
影は老人に忍び寄ると、酸素注入器を外した。
そして点滴の針を腕から外し、その場を立ち去った。
翌日、遺体となって発見される患者。
この病院では連日このような事件が発生していたが、病院側が原因究明のために情報を統制して、この件はまだ明るみには出ていなかった。
「ねえ、聞いた?二〇八号室の患者さん、昨夜亡くなったらしいよ」
いつもリハビリ室で一緒になる四十代の女性がそんな話をしてきた。
この女性は事故で骨折して入院で、筋肉が落ちないようにリハビリしているという事だ。
話好きらしく、入院生活が退屈な事もあって会うたびに気軽に話しかけてくる。
「この病院、ちょくちょく亡くなる人が出てるのよね。何か医療ミスでもあるんじゃないかと不安なんだけどさ。私は担当医も看護師も別に何もないし良い人なんだけど、全体ではどうなんだろうね」
「私も特に問題ないように思いますが」
桐子はそう答えたが、この数日病院内で感じる異様な空気と何か関連があるように思えた。
「まあ、亡くなったのはもう助からないと言われていた患者だったから単に自然死で考えすぎかもしれないけどね」
その夜、桐子は寝付けなくてふと目を覚ますと、病室内を漂う白い光が見えた。
「またこれ?」
桐子はうんざりしかけたが、その光は何かを訴えているようであった。
「何?何か私に伝えたいの?」
桐子がそう問いかけると白い光はまるで案内か誘導でもするかのように部屋から連れ出す。
「ついて来いって事ね」
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