霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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恨み晴らし屋 後編

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高校を卒業して呪術師となった稀が力試しに行ったのは自分の両親に対しての呪いであった。
父親は家庭を顧みず、母親を捨てて他の女と一緒になり、残された母と和花は安いアパートに二人暮らしであった。

母はパートで何とか生活費を払っている有様で、稀はこんな生活をしているのは自分たちを捨てた父親のせいだと考えていた。

稀の父親は別の女と結婚して家庭を持ち、一男一女の四人家族で暮らしていた。
大きな家に高級車を乗り回し、妻となった女性は高級服と宝石で着飾り、子供たちはなに不自由ない裕福な暮らしをしている。
それは稀の目から見たら怒りを増幅させるのに十分過ぎる光景であった。

「最初に呪うのは佐々木賢治。お前はお母さんと私を捨てて逃げた。その報いを受けるがいい」

呪いの藁人形に念を込めて稀は人形の首と両足部分をハサミで切り落とした。
賢治は翌日、駅構内で電車に飛び込んで自殺した。
発見された遺体には首と両足がなかったという。

稀は初めての呪いの実験成功と自分の力をあらためて確認する。

「私の力は人の命も人生も意のままに操れる」

こうして神宮寺稀と言う名前で裏稼業とも言うべき恨み晴らし屋を始めた和花。
無論、恨みを晴らすだけでなく、病気を治療したり恋や受験の成就をおこなったりもしている。
だが、圧倒的なニーズを誇るのが恨み晴らしであった。

わずか二年ちょっとの間で神宮寺稀は裏の世界では一躍有名人となっていた。
独特のお嬢様言葉も神宮寺稀というキャラクター設定のために和花が考えてやっている。

「聖菜さんと私は考え方が違っていた。私は人に認められたかった。いえ、認めさせたかった。そのための力を手に入れたかった。昔の事ね。。」

⭐︎⭐︎⭐︎

まさか、あの時の女の子がそんな恨み晴らし業をやるなんて、人はわからないものだね。

「恨み晴らし屋なんて裏稼業が存在するのは、それだけこの世の中が住みにくくなっているって事。悲しみや憎しみがなければそんなもの必要ないもの」

聖菜の言葉に那由多は疑問を投げる。

「聖菜は生きづらいと思ってる?」

「そうね。私が知っているこの世の中は窮屈な世界。もっと広い場所があるのかもしれないけど私は知らないわ」

物心ついた頃からこの能力のせいで他の人が見えないものが見える。
それゆえに悪霊との戦いを強いられる。
こんな能力はない方がいいに決まっている。

聖菜はそう思っていたが、一方で和花はそうは思っていなかった。
こんな能力が欲しかった。
偶然か、運命か。同じ能力を持っていた二人はいつしか違う道へ進んでいたのだ。



「神宮寺先生、言われた通り刀祢聖菜に先生の話しを聞かせて来ました」

稀はアシスタントを一人雇っていた。
彼女は以前、稀に自分を振った彼氏に恨みを晴らして欲しいと依頼して成就した事があり、その力に感激して弟子入り志願した。
しかし、稀は彼女には霊能力がないと見て弟子入りは無理だが、アシスタントならと雇ったのだ。

「ご苦労様。聖菜さんは何か言ってた?」

「いえ、特には。私の話しをいかにも興味深いといった表情で聞いていましたが」

「それは聖菜さんの職業柄ね。私がお客さんの話しを親身になって聞くのと同じ。そうやって相手の心を開かせて話を聞き出すのよ」

「先生、この後はどうすれば?」

「ここまででいいわ。後は私と聖菜さんの二人きりで話すから。それに、万一悪霊との戦いになったらあなたに危険が及ぶ事になる。彼女は常に悪霊との戦いを宿命付けられている人だから」

「かしこまりました」

神宮寺稀はアシスタントを使ってあえて自分の情報を聖菜に伝えさせたのだ。


それから三日後、稀は新たな依頼者に相談を受けていた。
今度の依頼者は男性で会社での陰湿なパワハラに悩まされていた。
何かを発言すれば権力を傘にかけて潰してくる。
新しい技術を開発すれば、あれがダメ、これが足りないと文句を付けてくる。

新技術の特許を申請しようとしたら、ろくに中身も見ずに却下されて、さすがに忍耐に限界が来たと言う。
この上司がしばらく病気か怪我で仕事に戻れないようにして欲しいとの依頼であった。
会社は厳しく、しばらく復帰出来ないとなれば解雇処分となるであろう。
それで十分だとの話であった。

「わかりました。あなたのお恨み、この神宮寺稀が晴らして差し上げますわ」

そう言って依頼者が帰ったあと、稀は藁人形を用意しながら聖菜が来るとしたら今夜あたりと睨んでいた。

「久しぶりに会えるわね。聖菜さん」


その夜、稀は南町では刀祢神社に次ぐ歴史を誇る春日井神社に居た。
前回と違い、毒蟲のケースに放り込むのではなく、丑三つ時と言われる時間に神社の境内で木に藁人形の胸の部分を釘で打ち付けた。
依頼者の願いは病気でしばらく仕事に出て来れなくする事であったからだ。

その時、背後から気配がして稀は素早く持っていた金づちを投げつける。
投げた金づちを剣で弾き返す音と共に人影が視界に入って来た。
それは見覚えのある懐かしい顔であった。

「聖菜さん、やっぱり来たのね」

「やっぱりあなただったのね。神宮寺稀。いえ、佐々木和花(ささきのどか)」

「私の邪魔をする気ですか?私はあなたの邪魔をした事はないし、するつもりもないんですけどね。まあいいですわ。もう呪いは大方済んでいましたから」

冷ややかな目で稀を見る聖菜と不敵な笑顔で聖菜を見る稀。
表面上はまったく真逆の表情である。

「和花、五年ぶりかしら?中学生の時は大人しくておどおどしていたあなたが、こんなに堂々としているなんて。人間、力と自信をつけると自然に態度も変わるものなのね」

「その名前で呼ばれたのは久しぶり。やっぱり名前で呼ばれるのって嬉しいものね。私がここまでなれたのは聖菜さんのおかけよ。聖菜さんに出会って人生が変わった。私にとって聖菜さんは初めての友達でもあるし恩人でもある。だから、一緒に組んでくれると嬉しいんだけど」

「呪術を使った恨み晴らし屋。私は別にあなたを止めようとは思わないし、それ自体を否定も肯定もするつもりもない。だけど私とあなたは相容れないと思うわ」

「そうですか。私は今でも聖菜さんを友達だと思っているんですけどね」

「友達と思えばこそ、私は和花にこの仕事から足を洗ってもらいたんだけど」

「それは出来ないわね。私は今、たくさんの人たちに感謝されてとっても充実した毎日を送っているんですもの。今が人生で一番幸せな時。この日々を無くしたくはない」

人の恨みが霊体となって現れ暴走したのを食い止める聖菜。
人の恨みを晴らす事を商売にし、場合によっては霊体を誘発する行為を助長する稀。
二人は似ているようで異なる。

「そう、ならばこれ以上は何も言わないわ。私たちは互いに似ているようで非なる違う道を選んだ。だからお互い干渉はしないって事でいいかしら」

「今日のところは無理なようね。でも聖菜さん、私の力を必要な時にはいつでも言ってきて下さいね。私はあなたに恩を返したいと思っているんですから」

「恩返しなんていらないわ。それに私は和花の力を借りる事もないし、逆に私が和花を助ける事もない」

「変わってないわね聖菜さん。でもね、聖菜さんはいずれ私の力を必要とするときが来る。そう遠くないうちに必ず」

意味深な言葉を残して神宮寺稀はその場を去って行った。

「どういう事なのかしら。和花は昔からありもしない事を言ったり嘘をつく子じゃなかった。私一人の手には負えないような何がが起こるという事なのかな」

聖菜は何もせずに帰って行った稀を見て、もしかして私に会うためにあえて目立つ行動を取ったのだろうかと推測した。
高校卒業から二年経った今、何故彼女が突然自分の前に姿を現したのか。
この時の聖菜には知るよしもなかった。
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