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ハザマ真理教編
ハザマ真理教編 二
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「雪乃様、ご覧下さい」
雪乃と呼ばれた上官とおまわしき女性は渋い表情で遺体を見渡す。
逃走した実験台を追ったハザマ真理教の教団員五人が全員殺されていたのを確認したからだ。
藤村雪乃は上下黒いスーツを着て日本刀を持ち歩く若干十八歳の女性であるが、剣の達人として雇われた教団の幹部の一人である。
「教祖の作り上げた研究の結果がこれか。。」
雪乃は部下たちに五人の遺体の後始末を命じると踵を返して車へと乗り込んだ。
「逃げた実験台の行方はまだわからないのか?」
「目下全力を挙げて捜索中ですが、森の中で消息が途絶えております。何者かに連れ去られた可能性もありますが」
車の中で雪乃に高圧的に問いかけるのはハザマ真理教の教祖狭間法元であった。
「あれはまだ実験段階のもの。未完成のまま逃げ出されるとは何たる失態。何がなんでも捕らえよ」
「はい」
雪乃は無表情でそう返事を返し頭を下げた。
南町ではハザマ真理教という奇妙な教団が台頭していた。
ハザマ真理教は教祖狭間法元が作り上げた教団で、表向きは一代で築き上げた大企業ハザマの組織下である慈善事業団体による弱者救済を謳い文句に信者を増やしている。
だが、その裏では怪しげな実験を繰り返し、人間を怪物に変えて兵器として利用する事を目的とする研究を行っていた。
狭間法元は齢七十歳になる老人だが、老人とは思えないほど若々しく気力に満ちあるれていた。
怪物じみた老人で、ご老公とも呼ばれる教団の支配者である。
狭間法元は一代で小売業から大企業に成長したハザマ商会の会長兼社長であった。
定年で会社の経営を息子に譲渡したあとで、このハザマ真理教を作り上げた。
初めは会社を定年で息子に譲った法元が、会社の側近や社員たちを毎週日曜日に呼び出して自分に対する忠誠心を確認するための集会活動であった。
それがだんだんとエスカレートしていき、法元の私物の競売や来ていた服から作ったお守りを強制的に買わせるなどの行為となっていく。
そして法元は世の中にたくさんいる社会弱者を救済するという名目で宗教法人を立ち上げた。
無論、表向きはである。
だが真の目的は金儲けと自らの若返りであった。
法元に逆らえば地獄に落ちると恐怖で信者を拘束する一方で、自分に忠誠と服従を誓う者には年齢、性別関係なくいきなり側近に抜擢するという極端なやり方を好んだ。
会社の会長時代から口先だけで威勢のいい事を言う人間を好んで側近にしていたが、教団でもこれは継続された。
無理難題を信者に押し付けて出来るか出来ないかを問い、出来ると答えた人間には側近と優雅な生活が保障される一方で、常識的に考えて無理だと答えた人間は下級信者から上にいく事はなかった。
この出来る、出来ないかは法元への忠誠心を見るためのもので、出来ると答えたからと言って実際には実行しなくても良かった。
ようするに問われた事に対してイエスと答えるイエスマンを手元に置きたがる法元の性格であり、それを知る者たちがイエスと答えて側近となっていったのである。
⭐︎⭐︎⭐︎
蓮香は孤児で、ハザマ真理教の経営する福祉施設に通う院生だ。
両親は日本人の父と中国人の母で名前が蓮香という事だけが唯一わかっている事であった。
私もいつかここを出て、社会人として働いて出来れば結婚もして。。
そんな事を考えているうちに十七歳となっていた。
周りを見渡しても蓮香が一番歳上で、他の院生たちの世話を見るお姉さん的存在となっていた。
蓮香のいる施設は「ハザマ学園」という名称で下は十歳から一番上が十七歳まで、約百人が在籍している。
最も一番上の十七歳は蓮香一人だけだが。
ハザマ真理教の経営するこの学園は関東に五ヶ所あり、南地区は一番大きな施設であった。
残りの四ヶ所は横浜、埼玉、八王子、多摩である。
院生と呼ぶのは学校ではなく教団の施設という形式からである。
一つの施設は二十人ずつ五つのクラスに分かれていて、甲乙丙丁戊の名前がついている。
蓮香は甲組に所属している。
そんなある日、学園に教会の教祖である狭間法元が来院するという事で、教員たちはてんてこ舞いであった。
教祖への挨拶の練習、百人いる生徒たちを整列させて、おじぎの練習をみっちり三十分はおこなったであろうか。
さらに院生代表として乙組の生駒舞美(いこままいみ)が歓迎の挨拶を行う事となった。
舞美は蓮香の一つ歳下で十六歳であった。
原稿を手渡されて教員室から出て来た舞美は取り巻きたちに囲まれて施設に入室してくる狭間法元を目にした。
「あれが、教祖。。」
口にこそ出さなかったが、妖怪じみた容姿に感情の通っていないかのような冷たい目。
身長は一六五センチほどの小太りした老人。
ただの年寄りで、威光もなければ貫禄もない。周りが持ち上げて貫禄があるように見せているだけ。
それが初めて見た狭間法元に対する感想であった。
舞美は別にハザマ真理教を信心しているわけではなく、元々は両親が熱心な信者でそれに付き合わされているだけであった。
その両親が交通事故で亡くなって身寄りがない舞美はこの施設に入る事となったのだ。
その関係もあって、世話になっている都合上表向きは信心しているように振る舞っているが、実際には興味がないと言ってよかった。
当然ながら法元に対しても普通の年寄りという印象しかもたない。
他の信者から見れば神のような存在だとしても舞美にはそんなオーラも人徳も感じる事は出来なかったのだ。
とは言え、役目として言われてしまった以上、嫌でもやるしかない。
舞美は気乗りしない気持ちを抑えて用意された原稿を読み上げた。
「教祖様、本日は当施設にお越し頂き誠にありがとうございます。私たちは教祖様のご恩恵により、こうして施設で暮らす事が出来て幸せでございます。
私たちはこの施設で生きている事に感謝の念と人の役に立てる喜びを日々学んでおります。
これからも愛とご慈悲を持ちまして私たちを見守り下さい」
いかにも用意された台本をただ読まされているだけとわかる挨拶言葉であった。
それを見る狭間法元の表情はにこりともせず、終始無表情であった。
「滑稽な安物喜劇を演じさせられたような気分」
舞美は一応大役を果たした事になるが、やれやれ終わったという感想しか持たなかった。
一方の蓮香も何度か見た狭間法元の相変わらずの無愛想な表情にため息をつく。
「多分あの人、私たちを何とも思っていなんだね。あの人にとっては私たちは金儲けの道具か金づると言ったところかしら」
そんな独り言を言っていたところを背後から急に声をかけられた。
「何しているの?」
突然の背後からの声に蓮香は驚いて振り向くと、そこには蓮香より少し年上と思われる女性が立っていた。
「あなたは?」
「私は陽神美夕(ひかみみゆ)。今日からこの施設で職員として働く事になったんだ。あなたはここの院生? よろしくね」
「あ。。蓮香と言います。よろしくお願いします」
美夕は身長は一七〇センチほどはあろうかという、背の高い女性だ。
髪はセミロングほどの長さであったが、ポニーテールに結んでいて、眼鏡をかけ薄化粧でどこか印象の薄い感じがする女性である。
「あの。。もしかして今の聞いてました?」
「何の事? よく聞こえなかったけど。ま、たとえ聞こえたとしても私は教祖にいちいち報告なんてしないから安心して」
そう言うと美夕は手を振って蓮香の元を去って行った。
「やっぱり聞こえてたんだ。。でもなんか、不思議な先生。地味だし」
そこまで言って蓮香はすぐに気がついた。
「そうか、施設とはいえ教員なわけで、教員がそんな派手な化粧や洋服を着て来るわけがないか」
若い女の先生が来てくれたと知ったら特に男の子の院生は大喜びだろうな。
蓮香はそんな事を考えていた。
この時、蓮香はまったく気づいていなかった。
ここの教員であれば全員法元を「教祖様」と呼ぶはずだが、美夕は「教祖」と言っていた事に。
雪乃と呼ばれた上官とおまわしき女性は渋い表情で遺体を見渡す。
逃走した実験台を追ったハザマ真理教の教団員五人が全員殺されていたのを確認したからだ。
藤村雪乃は上下黒いスーツを着て日本刀を持ち歩く若干十八歳の女性であるが、剣の達人として雇われた教団の幹部の一人である。
「教祖の作り上げた研究の結果がこれか。。」
雪乃は部下たちに五人の遺体の後始末を命じると踵を返して車へと乗り込んだ。
「逃げた実験台の行方はまだわからないのか?」
「目下全力を挙げて捜索中ですが、森の中で消息が途絶えております。何者かに連れ去られた可能性もありますが」
車の中で雪乃に高圧的に問いかけるのはハザマ真理教の教祖狭間法元であった。
「あれはまだ実験段階のもの。未完成のまま逃げ出されるとは何たる失態。何がなんでも捕らえよ」
「はい」
雪乃は無表情でそう返事を返し頭を下げた。
南町ではハザマ真理教という奇妙な教団が台頭していた。
ハザマ真理教は教祖狭間法元が作り上げた教団で、表向きは一代で築き上げた大企業ハザマの組織下である慈善事業団体による弱者救済を謳い文句に信者を増やしている。
だが、その裏では怪しげな実験を繰り返し、人間を怪物に変えて兵器として利用する事を目的とする研究を行っていた。
狭間法元は齢七十歳になる老人だが、老人とは思えないほど若々しく気力に満ちあるれていた。
怪物じみた老人で、ご老公とも呼ばれる教団の支配者である。
狭間法元は一代で小売業から大企業に成長したハザマ商会の会長兼社長であった。
定年で会社の経営を息子に譲渡したあとで、このハザマ真理教を作り上げた。
初めは会社を定年で息子に譲った法元が、会社の側近や社員たちを毎週日曜日に呼び出して自分に対する忠誠心を確認するための集会活動であった。
それがだんだんとエスカレートしていき、法元の私物の競売や来ていた服から作ったお守りを強制的に買わせるなどの行為となっていく。
そして法元は世の中にたくさんいる社会弱者を救済するという名目で宗教法人を立ち上げた。
無論、表向きはである。
だが真の目的は金儲けと自らの若返りであった。
法元に逆らえば地獄に落ちると恐怖で信者を拘束する一方で、自分に忠誠と服従を誓う者には年齢、性別関係なくいきなり側近に抜擢するという極端なやり方を好んだ。
会社の会長時代から口先だけで威勢のいい事を言う人間を好んで側近にしていたが、教団でもこれは継続された。
無理難題を信者に押し付けて出来るか出来ないかを問い、出来ると答えた人間には側近と優雅な生活が保障される一方で、常識的に考えて無理だと答えた人間は下級信者から上にいく事はなかった。
この出来る、出来ないかは法元への忠誠心を見るためのもので、出来ると答えたからと言って実際には実行しなくても良かった。
ようするに問われた事に対してイエスと答えるイエスマンを手元に置きたがる法元の性格であり、それを知る者たちがイエスと答えて側近となっていったのである。
⭐︎⭐︎⭐︎
蓮香は孤児で、ハザマ真理教の経営する福祉施設に通う院生だ。
両親は日本人の父と中国人の母で名前が蓮香という事だけが唯一わかっている事であった。
私もいつかここを出て、社会人として働いて出来れば結婚もして。。
そんな事を考えているうちに十七歳となっていた。
周りを見渡しても蓮香が一番歳上で、他の院生たちの世話を見るお姉さん的存在となっていた。
蓮香のいる施設は「ハザマ学園」という名称で下は十歳から一番上が十七歳まで、約百人が在籍している。
最も一番上の十七歳は蓮香一人だけだが。
ハザマ真理教の経営するこの学園は関東に五ヶ所あり、南地区は一番大きな施設であった。
残りの四ヶ所は横浜、埼玉、八王子、多摩である。
院生と呼ぶのは学校ではなく教団の施設という形式からである。
一つの施設は二十人ずつ五つのクラスに分かれていて、甲乙丙丁戊の名前がついている。
蓮香は甲組に所属している。
そんなある日、学園に教会の教祖である狭間法元が来院するという事で、教員たちはてんてこ舞いであった。
教祖への挨拶の練習、百人いる生徒たちを整列させて、おじぎの練習をみっちり三十分はおこなったであろうか。
さらに院生代表として乙組の生駒舞美(いこままいみ)が歓迎の挨拶を行う事となった。
舞美は蓮香の一つ歳下で十六歳であった。
原稿を手渡されて教員室から出て来た舞美は取り巻きたちに囲まれて施設に入室してくる狭間法元を目にした。
「あれが、教祖。。」
口にこそ出さなかったが、妖怪じみた容姿に感情の通っていないかのような冷たい目。
身長は一六五センチほどの小太りした老人。
ただの年寄りで、威光もなければ貫禄もない。周りが持ち上げて貫禄があるように見せているだけ。
それが初めて見た狭間法元に対する感想であった。
舞美は別にハザマ真理教を信心しているわけではなく、元々は両親が熱心な信者でそれに付き合わされているだけであった。
その両親が交通事故で亡くなって身寄りがない舞美はこの施設に入る事となったのだ。
その関係もあって、世話になっている都合上表向きは信心しているように振る舞っているが、実際には興味がないと言ってよかった。
当然ながら法元に対しても普通の年寄りという印象しかもたない。
他の信者から見れば神のような存在だとしても舞美にはそんなオーラも人徳も感じる事は出来なかったのだ。
とは言え、役目として言われてしまった以上、嫌でもやるしかない。
舞美は気乗りしない気持ちを抑えて用意された原稿を読み上げた。
「教祖様、本日は当施設にお越し頂き誠にありがとうございます。私たちは教祖様のご恩恵により、こうして施設で暮らす事が出来て幸せでございます。
私たちはこの施設で生きている事に感謝の念と人の役に立てる喜びを日々学んでおります。
これからも愛とご慈悲を持ちまして私たちを見守り下さい」
いかにも用意された台本をただ読まされているだけとわかる挨拶言葉であった。
それを見る狭間法元の表情はにこりともせず、終始無表情であった。
「滑稽な安物喜劇を演じさせられたような気分」
舞美は一応大役を果たした事になるが、やれやれ終わったという感想しか持たなかった。
一方の蓮香も何度か見た狭間法元の相変わらずの無愛想な表情にため息をつく。
「多分あの人、私たちを何とも思っていなんだね。あの人にとっては私たちは金儲けの道具か金づると言ったところかしら」
そんな独り言を言っていたところを背後から急に声をかけられた。
「何しているの?」
突然の背後からの声に蓮香は驚いて振り向くと、そこには蓮香より少し年上と思われる女性が立っていた。
「あなたは?」
「私は陽神美夕(ひかみみゆ)。今日からこの施設で職員として働く事になったんだ。あなたはここの院生? よろしくね」
「あ。。蓮香と言います。よろしくお願いします」
美夕は身長は一七〇センチほどはあろうかという、背の高い女性だ。
髪はセミロングほどの長さであったが、ポニーテールに結んでいて、眼鏡をかけ薄化粧でどこか印象の薄い感じがする女性である。
「あの。。もしかして今の聞いてました?」
「何の事? よく聞こえなかったけど。ま、たとえ聞こえたとしても私は教祖にいちいち報告なんてしないから安心して」
そう言うと美夕は手を振って蓮香の元を去って行った。
「やっぱり聞こえてたんだ。。でもなんか、不思議な先生。地味だし」
そこまで言って蓮香はすぐに気がついた。
「そうか、施設とはいえ教員なわけで、教員がそんな派手な化粧や洋服を着て来るわけがないか」
若い女の先生が来てくれたと知ったら特に男の子の院生は大喜びだろうな。
蓮香はそんな事を考えていた。
この時、蓮香はまったく気づいていなかった。
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