霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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ハザマ真理教編

ハザマ真理教編 十三

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黒澤真美は体調が回復されるまで入院となり、退院後はしばらく藤村家に預けられる事となった。

一方、藤村雪乃が裏切り、研究所を襲って幼虫のデータを全て破壊したと報告を受けた法元は表向きは冷静にその報告を受けていた。
だが、内心は怒りが沸騰していた。

「雪乃め。可愛がってやった恩を仇で返しおったな」

法元という人物は自分に忠誠を誓う者には犬猫を可愛がるような対応をする一方で、裏切ったり逆らう者は徹底的に排除する性格であった。

「目標を変更だ。まずは藤村雪乃を始末する。俺がこの手で自らな」

ついに法元が自ら立ち上がった。

⭐︎⭐︎⭐︎

「雪乃さん、無事でよかった」

雪乃からの連絡を受けて蓮香はホッとひと安心する。

「雪乃さんがハザマ幼虫のデータを全て破壊してくれたそうです。これでもうハザマ幼虫は生み出せません。舞美や黒澤さんのように苦しむ子もなくなるでしょう」

蓮香の報告に美里たちも安堵の表情を浮かべる。

「ただし、教祖法元自ら私たちを始末しに来るという事でもあります。雪乃さんの話では法元は最強の幼虫を埋め込んでいるとの事。草刈愛梨よりもさらに手強い相手になるでしょう」

蓮香の報告が終わると美里が一つ提案を上げる。

「法元はハザマ真理教に居るんでしょ。どのみち私たちを狙ってくるならこっちから会いに行かない?」

この美里の提案に凛も同意した。

「そうか。法元自ら私たちを狙ってくるならこちらから乗り込んで行った方が関係ない人たちを巻き添えにしなくて済む」

これに対して蓮香は少し不安な表情を浮かべた。

「危険じゃないですか? 相手のアジトに乗り込むんですよ」

「法元が強敵であるならどこで戦っても危険は変わらないと思うわ。ならばこちらから出向いた方が早く片付く」

「それはそうですが。。」

「舞美はどう思う?」

美里に問われて舞美も複雑な心境であった。

「美里さんたちの言う事も一理あるし、危険だと危惧している蓮香の言う事もわかる。私にはどちらとも言えません。。」

美里はまずかったかなと後悔した。
自分は二十代中盤をちょっと越えたところであるが、他の子たちはまだ十代なのだ。

命がかかるような重大な案件を簡単に決められるだけの経験も年齢も積んでいない彼女たちに酷な事を聞いてしまったと内心反省した。

「みんな、ごめん。。私一人で気が早まってしまった。そうよね、みんなはまだ十代。これからという年齢なのにそんな命の危険を晒す場所に行く決断はつかないよね。ここは私が一人で真理教に乗り込む」

その言葉を他の三人はただ聞いているしか出来なかった。
美里が法元との戦いに行こうと一歩踏み出した時、突然手を握られて驚いて振り向くと、まだ五歳である聖菜であった。

「聖菜、どうしたの?」

「お母さん、行っちゃダメ。。」

聖菜には何か嫌な予感があったのであろうか。
子供ながらに必死に母親を止めようとしていた。

「大丈夫よ。いつもの霊媒巫女としての仕事に行くだけ。すぐに帰ってくるから」

美里はそう言うと聖菜の頭を撫でて踵を返すように前を向き、ハザマ真理教の本部へ向かった。

聖菜にとって、それが母を見た最後となった。



「このまま美里さん一人を行かせてしまっていいのか?」

凛がそう言うが、蓮香と舞美はまだ決断がつかないでいた。

「わかったよ。なら私一人だけでも美里さんについて行く。同じ聖剣を持っている家柄同士。私だって悪霊との戦いで命を落とすかも知れないという覚悟は出来ている」

凛はそれだけ言うと美里の後を追った。

「蓮香、私たちも行こう」

「舞美?」

「私は幼虫を埋め込まれた時、一度死んだ人間。どっちにしろ法元は私たちを狙ってくる。嫌でも戦わざるを得ないなら私も美里さんたちについて行く」

舞美の言葉を聞いて蓮香もようやく決心がついた。

「わかった。私も一緒に行く。みんなに戦わせて私一人だけ安全な場所で待っているなんて出来ないからね」

そうと決めたら急ごうと、二人は美里と凛の後を追った。

⭐︎⭐︎⭐︎

ハザマ真理教本部。
元々は横浜を本拠地としていたが、幼虫の研究施設がある千葉に拠点を移したのが一年前。
そしてこの一年の間に世間では知られていない事件を裏で巻き起こしてきた。

そのいざこざも今日で終わらせる。
そう決めて美里たちよりひと足早く教団に乗り込んだのは藤村雪乃であった。

「教祖様、藤村雪乃が乗り込んで来ました」

「こちらから出向いてやろうと思っていたところに飛んで火に入る夏の虫とはこの事だな」

法元は自身の左手の平に右の拳を当てる。

「虫は虫らしく叩き潰してやる」




教団の警備員が必死で止めようとするが、雪乃はすばやく動き、余計な戦闘をしないよう警備員の間を上手くすり抜け、走ってはフェイントをかけて相手の突撃をかわす。
まるでサッカーのドリブル突破のように鮮やかにすり抜けていく。

一年間、法元の側近として教団に出入りしていた雪乃にとって警備員の追撃をかわして法元のいる三階の教祖室まで行くなど造作もない事であった。
そして教祖室のドアを蹴り開けるとそこには二十代前半くらいと思われる男が椅子に座っていた。

「役立たずどもめが。こいつは俺が始末する。お前たちは警察が入って来ないように出入り口を固めておけ」

法元は警備員たちにそう恫喝すると、警備員たちは畏怖して命令に従う。

「法元か?」

雪乃の問いに法元は答えず椅子に座り、腕を組んでにやりと笑みを浮かべるだけであった。
初めて見る二十代に若返った法元に内心の驚きを隠すのが精一杯であった。

「驚いたわ。まさか本当に若返りなんてものが現実に起こるなんて」

「金の力よ。金さえあればこういう事も出来ると俺が自ら証明した訳だ」

「金、金、金。お前の頭の中は四六時中、金の事しかなかったものね。

「何も悪い事であるまい。お前にもその分け前を与えてやろうと思っていた矢先に裏切りおって。俺の見る目が違っていたという事か」

「裏切りというのは忠誠を誓っておいて手の平を返す事。私は初めからお前に忠誠など誓ってないから裏切りじゃなく化けの皮を剥がしたってところね。

それに見る目を言うなら坂松や昭夫のようなクズを側近に置いている時点であなたの目は節穴どころか耄碌(もうろく)しているってところよ。もっともその二人もいなくなったようだけど」

「あの程度とわかっていた愚か者どもがいなくなったところで消しゴムの消しカスを捨てた程度にしか感じぬわ。お前の裏切りの方が許せぬ大罪よ」

「カルト教団を背景にハザマ幼虫なんてものを作り上げて人を実験台に使っていたお前の方がよほど許せぬ大罪よ」

「よかろう。ならば死ぬがいい」

傀に変化した法元の拳を雪乃はギリギリでかわすと居合い抜きで法元の腕を斬り落とす。
だが、怪物と化した法元の腕はすぐに元に戻り、再び雪乃に襲い掛かる。

異様なうなりをあげて飛んでくる拳と蹴りをかわしつつ剣で斬りかかる雪乃だが、斬ってもすぐに再生し、回復する無尽蔵の体力に手を焼いた。

「予想はしていたけど、これほど回復が早いとは」

法元の回復は黒澤真美よりも遥かに早く、斬り落としたと同時に再生するという驚異的な力であった。
このままでは雪乃の体力が先に尽きてやられてしまう。

「どうした雪乃。動きが鈍ってきているぞ」

法元の言う通り、雪乃は少しずつ体力を削られて体が重くなって来ていた。

「俺に逆らった事を後悔して死ぬがいい」

法元の拳が雪乃をとらえようとした瞬間であった。
左右から二本の刀が交差するように出て来て法元の拳を止めた。

「何だ、貴様らは?」

「危なかったわね」

「助太刀するよ」

美里と凛が雪乃の助けに入った。

「宗像凛、それにあなたは刀祢美里さん。その剣は。。」

「聖剣神楽」

「同じく聖剣雷神剣」

「私の霧氷剣と同じ聖剣が三本揃うなんて初めて見た」

「雪乃さんといったわね。いくらなんでも一人で乗り込むなんて無茶よ。ここは私たちも戦う」
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