霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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神宮寺稀過去編

神宮寺稀が誕生するまで 三

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一年ちょっとぶりに南町に戻った和花は母親の元に顔を出して無事を報告すると、しばらく働く事を伝える。
母は修行にも反対していたが、娘の決意が堅いとわかると最後は送り出してくれた。

母一人、子一人の二人暮らし。
これ以上心配は掛けられないとは思いつつもこれからの事を考えるといずれは家を出る事になるだろう。
それまではここで親孝行でもしなきゃと思うのであった。

それから和花は聖菜と顔を合わせないように一つ隣の北町でアルバイトをしながらお金を貯めていった。
とはいえ、月に十数万円の稼ぎでは商売を始めるための軍資金などいつ貯まるかわかったものではない。

そんな時であった。
和花はアルバイトの帰宅中に偶然にも父親である佐々木賢治を見かけたのだ。
恐山で見たのは紫式部が見せた幻影だったが、今度は本物である。

賢治は母を捨てて別の女と結婚して家庭を持ち、一男一女の四人家族で暮らしていた。
この日も妻となった女性に子供二人をつれてベンツから降りて来た賢治は高級宝石店へと入っていく。

妻となった女性は高級服と宝石で着飾り、まだ高校生くらいと思われる娘までブランド品のバッグに靴を履いている。
息子の方は中学生くらいだが、腕につけている時計は少なくとも数十万円はするであろう年齢不相応なものであった。
賢治は元々不動産業を営んでいたのでこれだけの金を稼ぎ出すのは容易かった。

それは和花の目から見たら怒りを増幅させるのに十分過ぎる光景であった。
そして自分の中にあの男の血が流れているのかと思うと身体中の血液を捨ててしまいたい衝動に駆られた。

「女に騙されたのか、あの男が浮気して母を捨てたのかはこの際どうでもいい。ただ、私とお母さんが日々をどうにか暮らしているような生活をしているのを無視して自分たちは贅沢三昧。。」

賢治が母と離婚した時、最低限の慰謝料は支払われたので、和花は高校に行く事が出来たが養育費の支払いも高校卒業までであった。
後は知らぬとばかり仕送りも止まり、裁判を起こすお金もない母は泣き寝入りするしかなかった。
和花はこの時ある考えが頭の中に浮かんでいた。

「呪術。私の力は狙った相手を呪いにかける事も出来る。ちょうどいい機会だわ。最初に呪うのは佐々木賢治。お前はお母さんと私を捨てて逃げた。その報いを受けるがいい」

和花の霊力は防御も強いが、相手を攻撃する力も優れていた。
これを利用すれば狙った相手を望んだ形で不幸に陥れる事が出来る。
和花の中で一つの決断が下された。


その日の夜、早速呪いの藁人形に念を込めた和和は手始めに人形の腕をへし折った。
次に両足をハサミで切り落とし、最後に首を切り落とした。

「これで良し。佐々木賢治、お前の罪は万死に値する。少しでも母を助けてくれたのならまだ命まで取ろうとは思わなかった。だけど今日の姿を見て決断した。お前には生きている価値はない。成金のあの母娘にも私たち母娘と同じ苦しみを味わってもらう」


翌日、賢治は出張のために最寄り駅から電車に乗ろうとしていた。
この駅は各駅しか停車しないので特急の通過待ちをしているところであった。
通過電車のランプが灯り、特急列車が駅のホームに入線してきた。

ここは加速区間のため、列車は時速百キロを超える速度で通過しようとしていた。
賢治は突然右腕に異変を感じと思った途端、あらぬ方向に折れ曲がった。

「ぐわあああ」

激痛に悲鳴をあげたが、今度は足が勝手に動き出した。
そして駅のホームに設置されているホームドアを飛び越えて通過する特急列車にそのまま飛び込んだのだ。

列車の車輪の下で発見された賢治の遺体には首と両足がなかったという。
そして賢治の死後、彼は今の妻とは別にまた女がいた事が発覚した。

妻は相手の女と裁判沙汰になり、佐々木の姓を捨てて子供二人を置いて蒸発した。
残された子供はそれまで贅沢な暮らしをしていたのが、突然身の回りの金品を差し押さえられ、無一文に近い状態で家から出されて保護施設に預けられた。

稀は初めての呪いの実験成功と自分の力をあらためて確認する。

「私の力は人の命も人生も意のままに操れる」

この力を私のように恨みをかかえていても力がなくて晴らせない人たちのために使ってみてはどうか。
ただ、殺しまでやるのは余程の場合のみ。
実際に賢治の命を取ってみて恨みは晴らせたがあまり気分のいい物ではなかった。

そうと決めたら早速始める事にした。
お店はまだないけど、今はインターネット時代。
ホームページを作成してお客を募り、仕事をやっていきながらお金を貯めて店を構えてもいいだろうと考えた。


「恨み晴らし屋。。名前はどうしようかな」

そのまま佐々木和花ではいくら何でもまずい。
こういった裏稼業は正体が判明しないようにしなくてはと和花はまず名前から変える事にした。

「名字は一度聞いたらすぐ覚えられるような変わったものがいいかな」

色々とネットで検索して候補名を拾い上げていくうちに「神宮寺」という名字を見つけてこれだ! と直感でこれがいいと感じた。
そして名前は稀有な存在という言葉から取って稀(まれ)にした。

「神宮寺稀(しんぐうじまれ)。これだけ珍しい名前なら誰が聞いてもすぐわかるし覚えられるわね」

こうして神宮寺稀と言う名前で裏稼業とも言うべき恨み晴らし屋を始めた和花。

さらに「神宮寺稀」というキャラクターを作るためにお嬢様言葉を使う事も決めた。
佐々木和花とは完全に別の人間を演じる。
それは聖菜が霊媒巫女をやっている時と普段の女子高生としての自分を使い分けていた時の事を思い出してそうしたのだ。

口上も自分で全て考えて、恨み晴らし屋神宮寺稀は始動した。
それから一年で自分の店を構えられるまで稼ぐ事になるのだが、それは別の話となる。
彼女は話し上手、聞き上手であり商売人として向いている性格であった。

学生の頃、あと一歩みんなと話せる勇気があればまた違った人生があったかも知れない。
だが、そのおかげで聖菜と知り合えたのだ。
稀は恨み晴らし屋を続けながら聖菜の動向を探っていた。

聖菜がまだ狭間法元の事を知らないと知ると、稀は「その時」が来るまでは陰で聖菜を見守る事にした。
霊媒巫女と恨み晴らし屋。表向きは対立するような形になってしまう事もあるが、稀は聖菜の邪魔をするつもりもなく、自分は自分の領域において責務を果たし来るべき場合に備える事に従事した。
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