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神宮寺稀過去編
神宮寺稀が誕生するまで 最終話
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稀は定期的に店の地下に作った修業部屋で霊力を高める修行を欠かさずに行っていた。
恐山での修行はあくまでも入門のようなもの。
継続的に力を蓄えてさらにレベルアップするには日々修行していくしかない。
そんなある日の事であった。
いつものように夜中に修行のため店の地下修業部屋で禅を組んでいると誰もいるはずのない部屋に何かがいる気配を感じた。
「誰? ここには誰も入れないはずだけど」
稀が声を上げると目の前に薄らと人影が現れる。
だんだんとはっきりその姿が見えるようになると稀は見覚えのある姿に驚いた。
「聖菜さん?」
目の前に現れた女性は聖菜にそっくりであった。
だが、聖菜は自分と同じ十八歳。
目の前の女性はそれよりも年上に見えた。
「いえ、聖菜さんは私と同い年。あなたはそれよりもう少し年上に見えますけど、誰なのですか?」
「聖菜は私に似てきたの? さすが我が娘なだけあるわね」
「娘? ではあなたは聖菜さんのお母さんですか? でもお母さんは確か亡くなったって聞きましたけど」
「そうよ。だから今あなたが見えているのは私の魂」
そう聞いても和花は不思議と怖いと思わなかった。
むしろとても暖かい不思議な感覚であった。
「初めまして和花さん。聖菜と友達になってくれてありがとう」
美里の霊はそう言って稀に頭を下げた。
「とんでもない。お礼を言うのは私の方です。いつも一人でいた私に話をしてくれて友達になってくれて。私は聖菜さんと出会って人生が変わったんです」
二人はしばらく談話をかわしたが、美里がここに来た本題を告げる。
「今日私がここに来たのは、あなたには私の秘技を教えるため」
和花は美里の言葉に驚いた。
「どうして私に? 聖菜さんがいるのに」
「もちろん、聖菜にもその時とそれだけの力を付けたら教えるつもりだけど、今の時点では和花さんの方が聖菜よりも霊力を一気に高めて放出する能力が上。法元が目覚めた時では遅い。だから今のうちに教えられる人に教えておきたいの」
この時、聖菜は黒澤真美に出会い修行をつけてもらっていた最中であった。
無論、美里の霊もその事は知っていた。
だが、それでも今の時点では稀の方が上だと判断したのだ。
「和花さんと聖菜は持っている霊力にほとんど差はないわ。そうなると霊力の放出のやり方次第という事になるわね」
「私が聖菜さんと同じ力? そんな事あるはずが。。」
「和花さんは修業で眠っていた力が目覚めた。あなたには元々そういう素質があったのね」
美里はそう言うと部屋全体に結界を張り、技の威力が結界の外に及ばないようにする。
「この技は我が刀祢家を継ぐ者が代々受け継ぐもので、一度使うと体力と霊力をほとんど使い果たしてしまう命がけのものよ。法元との戦い以外では決して使用をしない事。一度の使用でもあなたの命が保障出来ないわ」
それを聞いて和花は身体に震えが来た。
武者震いなのか恐怖なのか自分でもわからなかった。
「まずは見ていなさい」
美里が印を切り右手を上に掲げると地面に五芒星が描かれて、上空の雲が渦を撒き始める。
「これは。。」
あまりの光景に和花は唖然と見ているしかなかった。
「滅天悪(メテオ)」
空の渦から直径二メートルはある火の玉が弾丸のような速度で落下して五芒星の中に吸い込まれていった。
「はあ。。はあ。。」
その場に倒れて肩で息をする美里を見てようやく和花はハッと気がつき美里にかけ寄る。
「美里さん、大丈夫ですか?」
「何とか。。生身の身体ならどうだったかわからないけど、今はこの通り霊魂だから。それでもこの技は気力も相当削られるわね」
「こんな技。。とても私には」
「今の和花さんから出来る。法元を倒すにはこれしかないの。とは言っても私もせいぜい十数年結界に閉じ込めておくだけが限界だった。けれど、今はレベルアップした私の仲間たちに聖菜がいる。今度は彼女たちの持つ聖剣で結界に閉じ込めた法元に確実にとどめをさせる」
「狭間法元とはそれほどまでに恐ろしいのですか?」
「法元を甘くみてはだめ。十三年前、私は今の聖菜や和花さんよりも霊力の高かった仲間たちと四人がかりで戦っても倒す事ができなかった。最後の手段として滅天悪の結界に封じ込めたの。代償として自分の命を差し出した訳だけとね」
それを聞いて稀は息をのんだ。
恐山にいる時に蓮香にも話を聞いていたが、それほどまでに強い相手とは想像していなかったのだ。
「美里さんが命がけで教えてくれるのに私が怖気ずくわけにはいかない。今の私に出来る全てをぶつけます」
それから和花の特訓が始まった。
まずは霊力を極限にまで高めるところから初めて、技を放つための気を溜める。
次に周囲を巻き込まないように五芒星の結界を張り、最後に溜め込んだ気を放出して火球を作り出す。
何度も気を失ったが、美里の回復霊術によって体力が半分ほど回復するので、命を失うような危険はなかった。
それでも和花にとってはとてつもない体力と気力を使う技である。
一日に一回発動するのが限度。
発動後は美里に回復させてもらい、半分だけ回復したら後は食事を取り、ゆっくり休んで一日かけて全快させる。
これを繰り返していくうちに体力と霊力がついていった。
そして修行開始から三ヶ月後。
稀は五芒星の結界を張り、天から小さな滅天悪を落下させる事に成功した。
とはいえ、まだ威力は美里のものと比較してもいいところ五分の一程度であろう。
だが一度技の発動に成功すればコツは掴める。
後は威力を上げていくだけだ。
いかに霊力を一点に集中するかが鍵になる。
「やったわ! 和花さん、これで滅天悪はあなたの意思で発動させる事が出来る」
「私が。。今の技を?」
稀は自分でも不思議な感覚であった。
体力の消耗は激しかったが、充実感に満ちていた。
「最初に言ったようにこの技は一度の使用であなたの霊力を限界まで使い果たす。法元との戦い以外では使わないようにしてね」
「わかりました。お約束します」
「これで私も一つ肩の荷が降りた。あとは聖菜がこの技を会得してくれるまでこっちに居たいけど、天界から許された期限が来ちゃってね。あなたに教えるだけで精一杯だった。正直言ってよそ様の娘さんにこんな事を頼むのは筋違いなのはわかっている。。
だけど法元が蘇れば聖菜に関わるものを全て排除しに来るでしょう。遅かれ早かれあなたにも魔の手は迫って来る。ならば先に教えられる人から教えておこうと思って。迷惑な話だったでしょうけどよくついてきてくれたわ。感謝してる」
「迷惑なんて飛んでもない。私は聖菜さんが助けられるならどんな事でも喜んで引き受けます。本当にありがとうございました」
こうして美里の霊は天界に帰って行った。
「聖菜さん、とても素敵なお母様でした。さすがあなたのお母様です。私は聖菜さんだけでなくお母様にまで恩を貰い受けて幸せです」
稀は自分にこの技を授けてくれた美里に感謝した。
この時点で狭間法元が目覚めるまで残された時間は数週間であった。
恐山での修行はあくまでも入門のようなもの。
継続的に力を蓄えてさらにレベルアップするには日々修行していくしかない。
そんなある日の事であった。
いつものように夜中に修行のため店の地下修業部屋で禅を組んでいると誰もいるはずのない部屋に何かがいる気配を感じた。
「誰? ここには誰も入れないはずだけど」
稀が声を上げると目の前に薄らと人影が現れる。
だんだんとはっきりその姿が見えるようになると稀は見覚えのある姿に驚いた。
「聖菜さん?」
目の前に現れた女性は聖菜にそっくりであった。
だが、聖菜は自分と同じ十八歳。
目の前の女性はそれよりも年上に見えた。
「いえ、聖菜さんは私と同い年。あなたはそれよりもう少し年上に見えますけど、誰なのですか?」
「聖菜は私に似てきたの? さすが我が娘なだけあるわね」
「娘? ではあなたは聖菜さんのお母さんですか? でもお母さんは確か亡くなったって聞きましたけど」
「そうよ。だから今あなたが見えているのは私の魂」
そう聞いても和花は不思議と怖いと思わなかった。
むしろとても暖かい不思議な感覚であった。
「初めまして和花さん。聖菜と友達になってくれてありがとう」
美里の霊はそう言って稀に頭を下げた。
「とんでもない。お礼を言うのは私の方です。いつも一人でいた私に話をしてくれて友達になってくれて。私は聖菜さんと出会って人生が変わったんです」
二人はしばらく談話をかわしたが、美里がここに来た本題を告げる。
「今日私がここに来たのは、あなたには私の秘技を教えるため」
和花は美里の言葉に驚いた。
「どうして私に? 聖菜さんがいるのに」
「もちろん、聖菜にもその時とそれだけの力を付けたら教えるつもりだけど、今の時点では和花さんの方が聖菜よりも霊力を一気に高めて放出する能力が上。法元が目覚めた時では遅い。だから今のうちに教えられる人に教えておきたいの」
この時、聖菜は黒澤真美に出会い修行をつけてもらっていた最中であった。
無論、美里の霊もその事は知っていた。
だが、それでも今の時点では稀の方が上だと判断したのだ。
「和花さんと聖菜は持っている霊力にほとんど差はないわ。そうなると霊力の放出のやり方次第という事になるわね」
「私が聖菜さんと同じ力? そんな事あるはずが。。」
「和花さんは修業で眠っていた力が目覚めた。あなたには元々そういう素質があったのね」
美里はそう言うと部屋全体に結界を張り、技の威力が結界の外に及ばないようにする。
「この技は我が刀祢家を継ぐ者が代々受け継ぐもので、一度使うと体力と霊力をほとんど使い果たしてしまう命がけのものよ。法元との戦い以外では決して使用をしない事。一度の使用でもあなたの命が保障出来ないわ」
それを聞いて和花は身体に震えが来た。
武者震いなのか恐怖なのか自分でもわからなかった。
「まずは見ていなさい」
美里が印を切り右手を上に掲げると地面に五芒星が描かれて、上空の雲が渦を撒き始める。
「これは。。」
あまりの光景に和花は唖然と見ているしかなかった。
「滅天悪(メテオ)」
空の渦から直径二メートルはある火の玉が弾丸のような速度で落下して五芒星の中に吸い込まれていった。
「はあ。。はあ。。」
その場に倒れて肩で息をする美里を見てようやく和花はハッと気がつき美里にかけ寄る。
「美里さん、大丈夫ですか?」
「何とか。。生身の身体ならどうだったかわからないけど、今はこの通り霊魂だから。それでもこの技は気力も相当削られるわね」
「こんな技。。とても私には」
「今の和花さんから出来る。法元を倒すにはこれしかないの。とは言っても私もせいぜい十数年結界に閉じ込めておくだけが限界だった。けれど、今はレベルアップした私の仲間たちに聖菜がいる。今度は彼女たちの持つ聖剣で結界に閉じ込めた法元に確実にとどめをさせる」
「狭間法元とはそれほどまでに恐ろしいのですか?」
「法元を甘くみてはだめ。十三年前、私は今の聖菜や和花さんよりも霊力の高かった仲間たちと四人がかりで戦っても倒す事ができなかった。最後の手段として滅天悪の結界に封じ込めたの。代償として自分の命を差し出した訳だけとね」
それを聞いて稀は息をのんだ。
恐山にいる時に蓮香にも話を聞いていたが、それほどまでに強い相手とは想像していなかったのだ。
「美里さんが命がけで教えてくれるのに私が怖気ずくわけにはいかない。今の私に出来る全てをぶつけます」
それから和花の特訓が始まった。
まずは霊力を極限にまで高めるところから初めて、技を放つための気を溜める。
次に周囲を巻き込まないように五芒星の結界を張り、最後に溜め込んだ気を放出して火球を作り出す。
何度も気を失ったが、美里の回復霊術によって体力が半分ほど回復するので、命を失うような危険はなかった。
それでも和花にとってはとてつもない体力と気力を使う技である。
一日に一回発動するのが限度。
発動後は美里に回復させてもらい、半分だけ回復したら後は食事を取り、ゆっくり休んで一日かけて全快させる。
これを繰り返していくうちに体力と霊力がついていった。
そして修行開始から三ヶ月後。
稀は五芒星の結界を張り、天から小さな滅天悪を落下させる事に成功した。
とはいえ、まだ威力は美里のものと比較してもいいところ五分の一程度であろう。
だが一度技の発動に成功すればコツは掴める。
後は威力を上げていくだけだ。
いかに霊力を一点に集中するかが鍵になる。
「やったわ! 和花さん、これで滅天悪はあなたの意思で発動させる事が出来る」
「私が。。今の技を?」
稀は自分でも不思議な感覚であった。
体力の消耗は激しかったが、充実感に満ちていた。
「最初に言ったようにこの技は一度の使用であなたの霊力を限界まで使い果たす。法元との戦い以外では使わないようにしてね」
「わかりました。お約束します」
「これで私も一つ肩の荷が降りた。あとは聖菜がこの技を会得してくれるまでこっちに居たいけど、天界から許された期限が来ちゃってね。あなたに教えるだけで精一杯だった。正直言ってよそ様の娘さんにこんな事を頼むのは筋違いなのはわかっている。。
だけど法元が蘇れば聖菜に関わるものを全て排除しに来るでしょう。遅かれ早かれあなたにも魔の手は迫って来る。ならば先に教えられる人から教えておこうと思って。迷惑な話だったでしょうけどよくついてきてくれたわ。感謝してる」
「迷惑なんて飛んでもない。私は聖菜さんが助けられるならどんな事でも喜んで引き受けます。本当にありがとうございました」
こうして美里の霊は天界に帰って行った。
「聖菜さん、とても素敵なお母様でした。さすがあなたのお母様です。私は聖菜さんだけでなくお母様にまで恩を貰い受けて幸せです」
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