霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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最終章 最後の戦い

法元の復活

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西暦二〇X X年。
刀祢美里が滅天悪(メテオ)で張っていた結界がついに破れる時が来た。

十五年前に美里が自らの命と引き換えに狭間法元を閉じ込めた滅天悪の結界にヒビが入りパリパリと音を立てて崩れていく。

中には見た目二十歳前後の若い男が眠っている。
若者の正体は狭間真理教の教祖、狭間法元であった。
十五年前に聖菜の母、美里を殺した相手でもある。

ゆっくりと近づいていくのは草刈愛梨。
ハザマ真理教教祖代理として法元が不在の間教会を束ねていた人物である。

目を開いた法元に愛梨が平伏する。

「教祖様、お久しぶりでございます」

「愛梨か?」

「この日が来るのを十五年間一日千秋の思いでお待ちしておりました。教祖様不在の教会は不肖ながら私がまとめておりました」

「俺は十五年も眠っていたのか。。あの小娘め、よくもこんな目に」

「教祖様をこの結果に閉じ込めた刀祢美里は力尽きて命を落としました」

愛梨の報告に法元は舌打ちした。

「俺がこの手で始末してやろうと思っていたが、残念だな」

「教祖様がお目覚めになられた際の準備は全て整ってございます。まだお体がご自由に動けないでございましょう。教祖様専用部屋をご用してございますので、そちらでお休み下さい」

法元は愛梨が説明しているすぐ横で平伏している見かけない女に目をやった。

「愛梨、隣にいるのは誰だ? 見かけない顔だが」

「これは。。申し遅れて申し訳ございません。志穂、教祖様にご挨拶を」

「初めまして。私は草刈愛梨様の元で修行をしております霊媒師の志穂と申します。元は真理教の信者の一人でございましたが、愛梨様のお目がねに叶いましてこうして側近として側に置かせていただいております」

「志穂は強力な霊力の持ち主で、教祖様のお力になれると思い私が雇用したのです。今後も教祖様の側近の一人に加えて頂けるとありがたいのですが」

深々とお辞儀をする志穂を見て法元は目を細める。
この男は自分に忠誠を誓う者に対しては極度に甘いところがある。

「よかろう。俺のいない間に色々と役に立ってくれたようだしな。それから愛梨、お前の忠誠心を高く評価し、以後は今まで通り教祖代行として教会を取り仕切る役を与えてやろう」

「ありがたき幸せ」

二人はほぼ同時に同じ返事を返した。

「さて、俺を結界に閉じ込めた刀祢美里はすでに死んだという事だが、他にも仲間がいた筈だ。まずはそいつらを探し出して一人ずつ始末していく。それぞれの身元はわかっておろうな」

「それが。。藤村雪乃、宗像凛、蓮香、生駒舞美の四人でございますが、そのうち蓮香と生駒舞美の二人は教祖様が結界に閉じ込められた日から今日まで行方がわかっておりません。現状で居場所が特定出来ているのは雪乃と凛の二人だけでございます」

「二人だけか、まあよい。雪乃と凛ならば寝起きの準備運動にはちょうどよかろう。あとの二人は雑魚のようなもの。出てきたら叩けばよい」

「かしこまりました」

法元はそれだけ言うと愛梨の用意した自室へと向かった。

「寝起きの準備運動くらいはせねばなるまい」

そうひと言いながら。


☆☆☆

聖菜はいつも通り刀祢神社で巫女をやりながら修行をしていた。
祖父である太蔵に霊力の使い方を主に教わっている。
神楽を使っての戦いは黒澤真美に師事したので聖菜は一人で修行出来るが、霊力となるとまだまだであった。

太蔵は年齢的な衰えはあるものの、霊力は聖菜よりもはるかに強い。
というわけで霊力を高めるために聖菜は毎月五の付く日。五日、十五日、二十五日は食事を抜いて空腹の状態にして精神を研ぎ澄ませる。

その修行が終わったあと、ふと思った事があり、聖菜は太蔵に問いかける。

「思ったんだけど、お母さんの封印が破られるというのなら、その前に法元を倒せばいいんじゃないの? なぜ出来ないの?」

「それにはます滅天悪を解除しなければならぬのだが、美里の作った滅天悪の結界は美里本人にしか解除出来ん。わかりやすく言えば結界を作り上げるプログラムのようなものがあってな。

それを解析してなおかつ解除するには暗号が必要なのだが、それは作った本人しかわからんからじゃ。美里はお前に似て少々ひねくれておったからな。自分の名前や誕生日を暗号に使う事はまずないだろう」

「私に似てひねくれているってどういう事? 私は純情可憐な乙女なんだけど」

「自分の誕生日やお前の誕生日をパスワードにするような性格じゃないという事だよ。聖菜も自分の誕生日をパスワードにせんじゃろう」

「まあ、確かにそうだけどさ。私は純情可憐な。。」

「美里も聖菜も純粋にひねくれているというだけじゃな。ま、母娘の血は争えんというわけじゃ」

「人を何だと思ってるの、このクソジジイ」

「その台詞も美里によく言われたよ、このクソ親父ってな」

太蔵にそう言われてそれ以上言葉が出ない聖菜であった。
不思議に怒りは起きなかった。
むしろほっとするような気分であった。

「私はやっぱりお母さんに似てるんだ。。」

五歳の時に別れたのが最後で親子らしい会話もした記憶のない聖菜にとって美里に似ていると言われるのは何となく嬉しい褒め言葉のようであった。

☆☆☆

「教祖様、お呼びでございましょうか?」

「愛梨、この前俺が眠っている間に十五年前に俺に楯突いた奴らの身辺を調べていると言っていたな」

「はい。ですが居場所を転々と変えているようで容易に姿をあらわしません。只今信者を使って徹底的に捜査させております」

「その必要はない」

「。。と、おっしゃいますと?」

愛梨は一瞬我が耳を疑った。
まさか法元が自分の命を狙っている者を見逃すとは思えず、その真意を必死で探ろうとする。

「奴らは俺が目覚めるであろう事は知っているんだろう。であれば俺が目覚めた事を知らしめてやれば良い。あとは俺の「気」に釣られてホイホイと寄ってくるであろうからな」

「なるほど、さすがは教祖様。奴らがご自身を狙っているのを逆手に取るのでございますね」

「釣られて来たところをまとめて始末する。手間が省けてよかろう」

「まさに目から鱗ものの発想でございます」

愛梨におだてられて法元は気分を良くした。
厳密に言えば愛梨もおだてたわけではなく、単純に信仰している人物の言う事はすべて金言と思って感激しているだけなのだが、それははた目からみれば滑稽に映るであろう。

正直言って志穂の目にもそう映った。
見た目こそ若いがまるで年寄りとそれに懐く孫娘である。
だが、あえて何も言わなかった。
これは自分が選んだ道であり、自分の選んだ上司であるからだ。

二人を冷ややな感情で見ながら表面上はそれを出さずに志穂はゆっくりと二人に歩み寄る。

「教祖様、愛梨様。一つお願いがございます」

志穂の存在に気がついた法元がその言葉に耳を傾ける。

「何だ? 言ってみろ」

法元の言葉に志穂は恐縮しながら自身の願いを伝える。

「実は、私には仇を討つべき相手がおります。今回の件が法元様復活の記念すべき祝祭になるのであれば、その祝砲として私に仇討ちの機会をお与え下さい」

「ほう、仇討ちのう」

愛梨が横から問いかける。

「そう言えば私と最初に会った時にもそんな事を言っていたな。それがお前が真理教に入信したきっかけになったと」

「はい。わたしとってそいつは殺しても殺し足りないほど憎い人間でございます。どうか、単独行動で仇討ちする事をお許し頂けますでしょうか」

法元は顎を手で二、三度撫で回して考えていたが、「よかろう」と許可を出した。

「今どき仇討ちとは面白いではないか。相手がどこの誰だかは知らぬが俺の復活祭の余興としては楽しめそうだ。行って見事に仇打ちを果たしてくるがいい」

「ありがたき幸せ。法元様のご寛容に感謝致します」

志穂はそう言うと一礼し、踵を返して立ち去って行った。

「法元様、確か志穂は父親が謎の事故死を遂げて一家が離散して相当な苦労をしたと聞いております。もしかしたら仇打ちの相手というのは父親の事故死に何か関連があるのかも知れません」

「彼奴の仇打ちなど俺には関係のない事だ。やりたいというのならやらせてやっても良かろう」

法元の興味無さげな返答に愛梨も「はい」とうなずくしかなかった。
一方の志穂は法元の許しを得て「仇打ち」に執念を燃やしていた。



「教祖様のお許しが出た。私の幸せな時間を奪った女、神宮寺稀。。あいつだけはこの手で必ず殺す」
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