霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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最終章 最後の戦い

最終回 それぞれの道

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戦いから一夜明けて、それぞれの別れの時がやって来た。

「これで全ては終わった。童子(どうこ)、今までありがとう。これでお別れよ」

舞美がそう言うとハザマ幼虫童子は蓮香の術によって体内から出された。
童子は自分が存在してはならない事を悟ったかのように自ら舞美の腕から飛び出してそのまま自爆するように燃えて灰となり消えてしまった。
舞美は童子との別れに涙を流した。

「確かにハザマ幼虫はこの世から排除しなければならないものだけど。。童子は私と一心同体だったんだよね」

「この世の人間がみんな舞美みたいに幼虫を制御出来る精神力があればハザマ幼虫も何かの役には立つと思うが、それは別の話。
舞美、今まで大変だったろう。これからの君の人生に私たちが助けられる事があれば何でもするから遠慮なく言ってくれ」

雪乃の言葉に舞美は礼を言う。
舞美は十五年間仮死の術で眠っていたため、十六歳のままであった。
今から高校、大学に行く事も可能だしそのための資金はすべて藤村家が援助してくれるという。

「雪乃さん、ありがとうございます。でも私は今さら高校に行く気はありません。出来れば蓮香と一緒に働きたいんです」

「私は自分のこの力を世の中の人々を助けるために使いたいと思ってね。医師になろうと思っていたんだ。舞美が手伝ってくれるなら大いに助かるけど、それでいいの?」

「もちろん。十五年遅れて高校に行っても今の若い子たちには馴染めないと思うから。それなら蓮香と一緒に働きたいなと思ってたんだ」

「舞美がそれでいいなら私に異存はないよ」

「そうか。舞美がそう決めたなら自分のやりたい事をやればいい。私たちも応援するよ」

それから舞美は聖菜の元に歩み寄ると「聖菜さん、お願いがあります」と言って持っていた聖剣「烈火剣」を聖菜に差し出す。

「この剣ですけど、私にはもう必要ありません。刀根神社に奉納して頂けますか?」

狭間法元を倒し、舞美は幼虫の力から解除された。
もう戦う事もないし、この聖剣を自分が持つ必要もない。
であれば、この剣は再び次の持ち主が必要とする時が来るまで奉納しておいてほしい。
舞美の依頼に聖菜は丁重に剣を受け取った。

「わかりました。もうこの剣を使うような事が二度とない事を祈って奉納させて頂きます」

「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」

こうして烈火剣は再び主となる人物の手を離れて刀根神社に奉納される事となった。

「凛はどうするの?」

蓮香の問いに凛はしばらく考えていた。

「うーん。。とりあえずは働かないと。実家の神社は兄貴が継いでいるから私は他の仕事を探さなきゃ。いつまでも雪乃の世話になるわけにもいかないし」

「ならば父が運営している警備会社でガードマンをやらないか? 凛なら十分に務まるよ」

「雪乃いいのか? 助かるよ」

「なんだ、結局は雪乃さんの世話になってるじゃない」

蓮香にそう突っ込まれて「恩恵を断ったら失礼だろう」と反論するが笑われるだけであった。
雪乃に誘われて凛は藤村警備会社に勤める事となった。

そして聖菜は雪乃たちに別れの挨拶とお礼を伝える。

「みなさん、本当にありがとうございました。おかげさまで母の仇を討てました。母もきっと喜んでくれているでしょう」

「お礼を言うのはこちらです。私たちは美里さんに命を救われて今日こうして生きていられるのです。美里さんに救われたこの命で出来る事をこれからやっていくつもりです」

雪乃の言葉が凛、蓮香、舞美たちの代弁であった。

「それにしても舞美さん羨ましいなあ。十五年間歳を取らないなんて。。和花、そんな術何か知らない?」

聖菜が冗談半分に稀に聞くが、予想通りの答えが返って来る。

「そんな術があったら私が真っ先にかけてますわ」

「それなら蓮香に仮死の術をかけてもらえば。。」

舞美がそう言うと蓮香が手をバツにする。

「そんなのダメに決まっているじゃない。舞美は特別処置としてそうしたの。これをやるには定期的に術をかけ続けないといけなくて、私自身大変なんだからさあ」

そして雪乃は妹の桐子に少し恥ずかしそうな表情で話しかける。

「桐子、お前も今後は真美と一緒に私の仕事を手伝ってくれるか?」

尊敬する姉からの突然の申し出に驚きと嬉しさが同時に込み上げて来たが、すぐに頭をよぎるのは父親の存在であった。
桐子は父親から自分があまりよく思われていないのを知っているだけに喜びよりも不安が先にあった。

「私は構いませんけど、お父様が何て言われるか。。」

「親父の事は心配しなくていい。私が藤村家の当主になる事はすでに了承してくれている。私の新しい当主としての最初の願いで桐子にも一緒に手伝って欲しいんだ」

歳が離れていて尊敬する姉の雪乃にそう言われて桐子は嬉しかった。
今まで藤村家に身の置き所がないと思っていたが、雪乃は自分を必要としてくれている。
そう思っただけで心が満たされるのだった。

「お姉様。。わかりました。微力ながらお手伝いさせてもらいます」

そして西巻明日香。

「明日香はこれからどうする? って明日香は会社員だったね」

桐子がそう言うと明日香はすでに決意していた事を話し始める。

「私は西巻家の霊媒師を復活させるつもりよ。この白鵬剣と自分の力をまだ使い切れていないのを今回思いしらされた。今は聖菜や他のみんなと出会ってこんな人たちがいるんだと感激しているところ。
だから、会社員は続けながら私の剣と力で救える人たちを救いたい。それが私の償い」

かつて怨念による霊体騒動で何人かの人間を手にかけてしまった明日香はその後悔といつか償いをせねばという事に悩んでいた。
だが、この仲間たちとな出会いで決心がついた。
祖父以来の霊媒師を自分が引き継ぐと。
自分にその力があるのなら人を助ける仕事に従事したいとみんなの前で表明した。

「そうか。明日香も霊媒師になるのか。この南町の霊体は一人残らず駆除されそうだな」

桐子がそう言って笑う。
話は尽きなかったが、雪乃が「そろそろ行こうか」と声を掛けると最後に全員が手を合わせて別れの握手をする。

「聖菜、元気でね。あなたはもう完全に私なんか超えてる。霊媒巫女としてこらからもたくさんの人を助けていって」

「真美さん、色々とありがとうございました。このスーツ姿、歳をとって似合わなくなるまで続けますから」

「スーツもいいけど、たまには可愛い服でも着てみたら。案外似合うと思うよ」

「案外は余計です」

聖菜と真美は笑いながら抱擁し、お互いの健闘を祈って別れを告げた。

「真美さん、お元気で」

「聖菜も」

こうして仲間たちはそれぞれの道へと別れていった。
聖菜が雪乃たちと会うのはこの日が最後になったが、彼女たちの事を生涯忘れる事はなかった。

ーエピローグー

名残惜しみながらみんなと別れたあと、最後に聖菜と稀の二人と瑠奈、莉乃が残った。

「和花、あなたのおかげで助かった。本当にありがとう」

「私が恐山で修行したのも、神宮寺稀として呪い屋をやっていたのも、全ては聖菜さんを助けるため。今日この日のためにやって来てたんです。そして、全てが終わった今、恨み晴らし屋、神宮寺稀も今日で終わりです。私は元の佐々木和花に戻ります」

「そうか。和花がそう決めたなら私は何も言う事はないよ」

元々、神宮寺稀というキャラを演じていたのも聖菜を助けるためだったので、その役目を終えたと言ったところだろう。

「瑠奈、莉乃。私の勝手でごめんね」

「いえ、稀様がそう決めたのであれば私たちはそれに従うだけです」

「今まで本当にありがとうございました」

瑠奈と莉乃が二人揃って頭を下げてお礼を言う。

「二人にはあらためてお願いしたい事があるんだけど」

これで稀と別れだと思っていた二人は意外な言葉に思わず身を乗り出す。

「何でしょうか?」

「何なりとお申し付け下さい」

「実は恨み晴らし屋を閉める代わりに喫茶店をオープンさせようと思っていてね。私がオーナーをやるから二人は店長としてお店を運営してもらいたいんだけど、いいかしら?」

瑠奈と莉乃は予想外の申し出に互いに顔を見合わせたが、もう答えは決まっていたようであった。

「ぜひ、やらせて下さい」

「それから、ちょっと遅くなっちゃったけど大学に行こうと思っていてね。聖菜さん、後輩になりますけどまた友人になってもらえますか?」

和花の言葉に聖菜はにこりと微笑んで答える。

「こちらこそよろしくね」



ー それから一年後 ー


「いらっしゃいませ、ご主人様!」

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

和花がオーナーで瑠奈と莉乃が経営するメイドカフェ「ルノー」(瑠奈の瑠と莉乃の乃を取って付けた名前)は二人の可愛さもあって大繁盛であった。
普通の喫茶店を運営するつもりでいた和花は参ったといった表情で店を眺める。

「私、こんな形態の喫茶店作る予定じゃなかったんだけどな。。」

和花が頭を抱えているのを見て聖菜は笑う。

「いいじゃない。お店は繁盛しているみたいだし、あの二人には似合ってるよ」

「オーナー! 聖菜様! お帰りなさいませ」

瑠奈と莉乃に声をかけられながら二人は店に入る。

「ショートケーキとコーヒーのセットを二つね。お代は私に付けておいて」

「かしこまりました! ご主人様」

聖菜と和花はコーヒーを飲み、ケーキを食べながら談話をしていたが、やがて聖菜が姿勢を正して和花にある依頼を頼み込む。

「和花、お願いがあるんだけど。。和花の力を私に貸してくれないかな。。霊媒巫女として除霊や霊体の浄化に和花が手伝ってくれると凄く助かるんだけど、どうかな?」

聖菜のこの依頼に和花が驚くが、すぐに笑顔で答える。

「もちろんオッケーです。私の力が聖菜さんのお役に立てるなら喜んで」

「ありがとう。それからもう一つ、私と一緒に仕事をする時だけ『神宮寺稀』を復活させてみない? 私、和花のあの姿が好きなんだよね」

「ええ? 聖菜さんあれが好きなんですか。それならば喜んで」

聖菜に好きと言われては和花も異論はなかった。

そして、聖菜に霊媒巫女としての仕事が入った二日後の夜。

「一年ぶりに神宮寺稀の復活ですわ」

佐々木和花はそう言うと久しぶりに紫式部を手にして紫色のアラビアン衣装を身を包んだ。

「霊媒巫女と恨み晴らし屋のコンビだね。和花のその姿が似合いすぎてて私が地味に見えちゃう」

聖菜はいつもの黒いスーツ姿である。

「聖菜さんのそのスーツ姿もよくお似合いですわ。お互いの仕事着ですからね」

夜の帳が下りる頃、人の恨み辛みが怨念となり霊体となって現れる。
本人の深層に眠っている怒りを吐き出すために。
聖菜と稀は夜な夜なそんな人たちから霊体を浄化させる。

「出てきたわね霊体」

聖菜は神楽を、稀は紫式部を構える。
赤と紫の閃光がほどばしり、霊体は悲鳴をあげて浄化されていく。

中学生の時に出会い、友人となった刀祢聖菜と佐々木和花。
二人の友情は後年結婚して家族や子供が出来てからも変わることはなかった。


ー 完結 ー
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